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黎明期

第29話 会商①

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小休止後に、僕らは、[広間]に集まっている。

「では、相談していくとして…。」
「やはり、儂は、南の港町“スブキィ”に店を開くのが一番よいと思う。」

口火を切ったルシム大公に、

「まぁ、兄上が暮らしているので、何かと融通が利くでしょうね。」

アシャーリーの“父君”が同意した流れで、

「さしあたっての問題点は〝お店を誰に任せるのか〟と〝どのような食事を提供するのか〟といったところです。」

こう述べた。

「館の料理人は回せませんよ。」
「こちらの職務で手いっぱいなので。」

そのように伝えたのは、アシャーリーの“母君”だ。

これによって、全員が〝うぅ~ん〟と考え込む……。

「誰もが割と簡単に調理できそうなのって、なんですか??」

ふとリィバに尋ねられ、

「そうですねぇ…。」
「“から揚げ”や“フライドポテト”に“スクランブルエッグ”であれば、そこまで難しくないかと。」
「割と料理を経験している方々であれば、なおさらです。」

アシャーリーが答える。

「テイクアウト専門にすればコストを抑えられそうだね。」

そう僕が主張したところ、アシャーリー以外が〝ていくあうとぉ?〟〝こすとぉ??〟と首を傾げた。

「あぁー、……、“お持ち帰り”に“経費”だよ。」

僕が言い直したら、

「持って帰れるのですか?」
「ご飯を??」

ユーンがまぶたを〝パチクリ〟させる。

更には、

「んあ?」

天井を仰いだベルーグが、

「〝亜空間に収納する〟ってことか??」

独り呟く。

これによって、

「どのみち、油が染み出さない“包み紙”みたいなものが必要になってくるでしょう。」
「ただ…、そちらのほうが、経費がかさんできそうな気がします。」

アシャーリーが“テイクアウト”に関して指摘した。

「じゃあ、やっぱり、店舗を構えるのがいいか。」

方針を定めていく僕に、

「でしたら、パンとスープも一緒に出すのは如何です?」
「どちらも絶品なので。」

マリーが提案する。

褒められたアシャーリーは、

「ありがとうございます。」

照れながらも嬉しそうに会釈した。

僕が、

「……、いっそ、定食屋さんみたいにしてみる??」

なんとなく喋ったところ、

「そうしましょうか。」
「ですが…。」
「昨日も言いましたけど、調味料が足りないので、当分はメニューを増やすのは難しいでしょう。」

そうアシャーリーが返す。

これまた、それぞれが〝めにゅう?〟と首を捻ったので、

「“献立こんだて”だよ。」

優しく教える僕だった。

〝ふむ〟と理解を示したレオディンが、

「まぁ、取り敢えずは、それらの品々でも大丈夫ではありませんかな。」

そのように告げる。

「そうですか??」

いささか不安げな様子のアシャーリーに、

「どれも美味びみですからねぇ~。」
「きっと繁盛しますよ。」

リィバが〝ニッコリ〟した。

「それに……、本来の狙いは、お二人の〝前世の御友人がたに知ってもらう事〟ですので、献立の数が少なくても、あまり問題ないでしょう。」

こうマリーが意見すると、

「ならば、値段を設定していくか。」

大公が話しを進めだす。

「いや、それは早急ですよ、父上。」
「先に物件を探すべきでは?」

息子さんに止められて、

「む。」
「確かに、そうだな。」

納得した大公が、

「では、港町に赴くとするか。」

椅子から立ちあがった。

「え??」
「今すぐに?」

僕が目を丸くしたら、

「あそこで生活している我が長男と領主に説明して、協力してもらわないといけませんからな。」

そう大公が述べる。

「でも、お祖父じい様。」
「もうじき、お昼ですよ。」

アシャーリーが窺ったところ、

「だからこそ、じゃよ。」
「お前が作ったものを試食させれば、快諾するじゃろうからな!」
「カラアゲなどの評判が、島内はもとより、さまざまな国に広まれば、いたる所から客が押し寄せよう。」
「そうなれば、かなりの経済効果が見込める!!」
「あの者らも動かざるを得まい!」

大公が欲望に熱くなった。

軽く〝はぁ〟と溜息をいて、

「でしたら、館の料理人を二名ほど伴わせてください。」
「私どもだと人手不足ですので。」

このように申し出たのは、“アシャーリーの母”だ。

「うむ。」
「よかろう。」

許可した大公が、

「レオディン殿。」
「スブキィに訪れたことは??」

そう訊ねる。

「数十年前に一度だけございます。」

レオディンが答えたら、

「ならば、あの町の北門付近に“瞬間移動”してもらいたい。」

こう促す大公だった―。
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