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黎明期

第20話 巡り会い①

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僕たちは一階エントランスに【瞬間移動】した。

どうにか自力で立った僕だけれども、割りとフラついている。

心配したらしいユーンが片膝を着いて、

「ラルーシファ様、おんぶ致しましょうか?」

そのように窺ってきた。

「いや、一人で歩くよ。」

さすがに恥ずかしくて断ったところ、

「ひとまず、ここから最も近い“客間”に行きましょう。」

こう述べたルシム大公が、先導してくれる…。



靴を脱いだ僕は、レデイッシュブラウン赤茶色の[革製ソファ]で仰向けになった。

すぐ側のアンティークテーブルに、ベルーグが[神剣しんけんムラクモ]を置いてくれる。

「全員ぶんの飲み物を、侍女に運ばせよう。」

そのように告げた大公が退室していく……。



30分ほどが経ち、かなり体調が良くなってきた僕が起き上がったタイミングで、誰かが扉をノックする。

ドアを開け、

「失礼します。」

お辞儀したのは、あの執事さんだ。

その流れで入って来ると、僕に気づき、

「ご回復なされたのですね。」
「それはなりよりです。」

穏やかに微笑む。

「皆様のお部屋の用意ができたのですが…、御案内させていただいても問題ないでしょうか??」

こう尋ねてきた紳士に、

「じゃあ、よろしく。」

簡易的に返す僕だった。



それぞれに“個室”を準備してくれたみたいだ。

[ダイワ王城の僕の部屋]に比べると半分くらいの面積だろう。

いや、決して悪くはない。

あっち・・・が広すぎるのだ。

とりあえず。

椅子に腰かけた僕は、[アイテムボックス]から“ラダーム様の記録”を取り出した。

これは余談になるかもしれないけど、室内には[木製]の“丸テーブル1台”と“イス2脚”が備えられている。

他にも、ベッドやタンスなどが設けられていた。

ともあれ。

僕は、“初代様の本”を熟読していく……。



夕刻となり、僕達は、館の[食堂]に集まっている。

そこには、ある“親子”が居た。

「儂の“次男の家族”です。」

こう口を開いたルシム大公によって、3人が会釈する。

30代前半ほどの男性は“ライトブラウンのサラサラショートヘア”だ。

その人と大差ない年齢だろう女性は“赤髪ロングのクセ毛”だった。

僕と同じぐらいの歳らしき娘さんは“赤髪セミロングの三つ編み”だ。

「儂の長男は、統治や経済を学ばせるため“南方の港町”に赴任させております。」
「妻子ともども、いつか機会があれば挨拶させますので、ご了承の程を。」

軽く頭を下げた大公は、

「もともと、次男の嫁は料理人としてこの館に勤めておったのですが…。」
「息子が惚れ込みましてな。」
「彼女は〝結婚後も厨房に立たせてもらえるなら〟といった条件で承諾したのです。」
「そのため、今でも、たまにではありますが、腕を振るってくれております。」
「この2人の娘……、儂にとっては孫にあたる“アシャーリー”も、いつしか調理に興味を持つようになりましてな。」
「母親を手伝うようになっておったのです。」
「そのアシャーリーが、一ヶ月ほど前に10歳となった折に、料理が急激に上達しまして…、新しい品々を考案するようになりました。」
「いささか長くなってしまいましたが、此度はアシャーリーが作ったものを、ぜひ、ご堪能ください。」
「きっと殿下がたも満足なさるでしょうから。」

こう喋って、自身の手を〝パン!パン!〟と叩いた。

それによって給仕たちが配膳していく。

この途中で、

「え?!!」
「唐揚げ!?」

僕は驚いてしまった。

「おや??」
「殿下は御存知でしたか?」
「カラアゲを。」

そう聞いてきたルシム大公に、

「うん、まぁ。」

頷いた僕は、

「これを、君が??」

アシャーリーへと視線を送る。

「は、はい。」

彼女も少なからずビックリしているみたいだ。

お互いにフリーズしていたら、

「んん~?」
「なんですぅ??」
「ボクはそれなりに生きてますが、このような調理は初めてですけれど?」
「王子は、ダイワ城で食べたことがあるんですか??」

リィバが質問してきた。

「いや、そうじゃなく……。」

一瞬どう答えるべきか悩んだものの、意を決して、

「実は…。」
「僕は“転生者”なんだ。」

このように教える。

多くの者が〝は?〟と首を傾げるなか、

「王子様ですか??!」

そうした反応を示すアシャーリーだった。

「やっぱり、君も?」

確認する僕に、

「転生者とは、どういう事です??」

リィバが興味ありげに説明を求めてくる。

「あぁ、え~っと……。」
「信じてもらえないかもしれないけど、僕は、地球という惑星の日本といった国から、この世界に生まれ変わったんだ。」
「あと、ラダーム様や近衛衆このえしゅうも、そうらしい。」
「これは、初代様が書き残されておられたので、疑いようがない。」

僕が発言したところ、

「そうなんですね?!!」

またもアシャーリーがくいついた。

「うん。」
「ちなみに、僕は、高校の修学旅行中にバスの事故で亡くなったんだ。」

こう述べたら、

「私も一緒です!」

アシャーリーが前のめりになる。

〝偶然じゃないかもしれない〟と判断して、

「僕は前世で“日之永新ひのと・しん”っていう名前だったんだけれど。」

試しに告げてみた。

「…、えッ??!」
「委員長!!?」

目を丸くするアシャーリーに、

「そういう君は??」

反射的に返す。

「私、嶋川由美しまかわ・ゆみです!」

「……、あ!!」
「ご実家が“個人経営の喫茶店”の?!」

「はい!!」
「そうです!」

そのようなラリーを経て、

(おぉーッ!!)
(10年越しに、元クラスメイトに再会できたぁ~!)

僕が感動していたところ、

「申し訳ございませんが、もっと詳しく話していただけませんでしょうか??」

[眼鏡の真ん中]を“右の人差し指”で〝クイッ〟とするマリーだった。

こうした意見に、

「ああ、うん、そうだよね。」

僕は〝もっともだ〟と納得する。

しかし、ふと思い直して、

「でも、その前に…。」
「ご飯にしよう!!」
「温かいうちのほうが、より料理が美味しいから!」

皆に“嶋川さんの唐揚げ”を勧めるのだった―。
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