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黎明期

第15話 始まりの地

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二度目の襲撃があった翌日の夜。

ユーンの所に在る“余っていたベッド”が、僕の部屋へと移された。

〝これからは、お世話係が交代で寝泊まりします〟〝いつ現れるか分からない襲撃者どもに即座に対応すべく〟とのことだ。

まずは“リーダー格のユーン”が当番するらしく、赴いている。

そこへ、“王宮魔術師のレオディン”を伴った父上が、訪問なされた。

すぐに跪いたユーンを、

「よい。」
「ラクにせよ。」

父が許可する。

「それでは、失礼しまして…。」

ユーンが起立したところで、

「表向き〝ラルーシファたちの確認〟として赴いたのだが……、そなたらに申す事がある。」
「あれから宰相達と評定ひょうじょうを重ねた結果、お前を〝どこか安全な場所に匿ったが良いのでは?〟との意見が多く出た。」
「幾つか候補が挙がったのだが、誰が敵か分からん以上、内部から情報が洩れる心配がある。」
「そこで、先ほどレオディンと話し合い、ラルーシファと“教育係”に“お世話係”の計10名を、ある場所に逃がすことにした。」
「行き先については五日後の朝に知らせる故、余の執務室に集まるように。」
「この間に“着替え”や“装備品”などを揃えて、旅立つ準備を済ませておけ。」
「また、伴う者たちには、明日以降、そなたより伝えてくれ。」
「決して余を除いた家族にすら気づかれぬよう、くれぐれも内密にな。」

このように告げ、

「とりあえず、今日は、ゆっくり休め。」

優しく微笑んだ父上が、レオディンと去っていく…。



午前中の鍛錬や勉学の際にも、お世話係達が僕の近くで目を光らせるようになっている。

少し離れた位置では、数十人の城兵が、警護を固めていた。

そうしたなかで、父に指示された内容を、周りに聞かれないよう教育係にも語ってゆく僕だった……。



“約束の日時”になっている。

僕らは、[大執務室]に揃い踏みしていた。

ここには母上も足を運んでいる。

ラダン兄上は1人で修行しており、リーシア姉上は勉強中らしい。

妹のエルーザは、自身の“お世話係”と遊んでいるそうだ。

室内の静寂を破るかのように、

「さて…。」
「ラルーシファには“タケハヤしま”の中央都市に避難してもらう。」

そう述べる父上だった。



いつだったか、“細長眼鏡のマリー”が[歴史]の授業で講義してくれた事がある。

タケハヤ島は、もともと[レナンイセとう]といった名称だったらしい。

およそ五百年前、ここで生まれ育ったのが、後の“初代ラダーム陛下”と“150人の近衛衆このえしゅう”だ。

初代様は、昔から島長しまおさを務めてきた〝ジャルク家の血筋〟とのことだった。

そのため、もともとの名は“ラダーム・ジャルク”なのだそうだ。

少し脱線するけど、この世界には[四つの大陸]と[数百の大小様々な島]が存在しているらしい。

なかでも特殊なのは、[浮遊島ふゆうとう]だ。

世界の北側を、一年かけて、西から東へと巡っているとの話しだった。

ただし、年に一回は海に着水して、一ヶ月ほど貿易しているらしい。

まぁ、それはさて置き……。

大陸は“北東/南東/南西/北西”の計四つとなっている。

ダイワ王国が在るのは、[北東の大陸]の最南西・・・だ。

ここから更に、船で五日ぐらい進んだ所に位置しているのが[タケハヤしま]との事だった。

そこ・・は、北東と南東の大陸にとって“重要拠点”に成り得るため、いろんな国々から狙われてきたのだとか。

特に一番しつこかったのが[イクアド王国]らしい。

タケハヤ…、当時の[レナンイセとう]は防戦一方だったものの、大将の“ラダーム・ジャルク”を含めた151人が立ち上がった。

10代後半だった彼らは、中級の【神法しんぽう】を扱えたのだそうだ。

しかも、“ラダーム・ジャルク”は[神剣ムラクモ]までをも使いこなせていたらしい。

こうした面子が、[イクアド王国]に乗り込み、瞬く間に制圧したとのことだった。

そして、[ダイワ王国]と[タケハヤ島]に変えたり、“ラダーム=イズモ”と改名したのだそうだ。

ここからは、[北東の大陸]における国々との戦争に突入する。

基本的には〝売られた喧嘩を買ったまで〟らしい。

それでも20ヵ国の半数を統べるに至ったのだそうだ。

残りのうち、二つは同盟を結び、八つは従属したとの事だった。

やがて70歳を越えたラダーム様は、二代目に託して、[タケハヤ島]に帰郷したらしい。

このときに[近衛衆]も“お供”したけれど、50人くらいは既にやまいなどで亡くなっていたのだそうだ。

そこから十年が経ち、初代様が崩御ほうぎょなされた。

なお、この期間に、近衛衆の60人あたりも寿命を迎えていたらしい。

大陸側では、初代様をうしなった影響で、[ダイワ王国]が次第に衰退していく。

徐々にではあったけど、いくらかの国が独立していくなか、どうにか盛り返そうとした六代目が無茶な政策を取ってしまう。

これが決定打となり、謀反が相次いだ。

長年に亘って攻防を繰り広げた“イズモ王家”ではあったものの、十二代目のとき[旧イクアド王国]の範囲と[タケハヤ島]のみが領土となった。

ただ、[タケハヤしま]は、初代様が晩年を過ごしていた際に“自治領”と定められたので、ダイワ本土との関係は希薄になっている。

そんな[タケハヤ島]に、僕らは渡ることになったのだ……。



[王の大執務室]にて。

「レオディンが冒険者だった頃に、あの島に訪れた事があるらしい。」
「そこで、レオディンが得ている“瞬間移動”で赴いてもらう。」
「こちらで“黒幕”を捕らえたならば、すぐにみなを呼び戻す。」
「だが、上手くはかどらない場合は、ラルーシファの誕生日に一泊だけ帰省するのを認めよう。」
「マリーの母には、この件を余から知らせておく。」
「それから…。」
「ラルーシファや“お世話係”にレオディンの部屋と、リィバにベルーグの住まいは、こちらで管理する。」
「故に案ずるな。」

父上が全員に伝える。

僕を抱きしめた母上は、左の耳元で、

「あなたにさちあらんことを祈っていますよ。」

このように囁いた―。
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