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黎明期
第11話 交錯するもの②
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朝食後に、僕とリーシア姉上は、庭でエルーザと遊んであげている。
この日は誰も鍛錬などがないので自由だ。
まぁ、遊びと言っても、革製のボールを、妹に合わせて軽めに投げたり蹴ったりしていた。
大きさはバスケットボールくらいだろう。
近くには、僕ら三人の“お世話係たち”が待機している。
なお、その全員が“獣人”だ。
ちなみに、ラダン兄上も誘ったのだけれど、「一人で修行を積みたい」との事で断られていた……。
暫くして、疲れた僕と姉上は、外廊下に腰掛けて涼んでいる。
体力が有り余っている妹は、僕とリーシア姉上の代わりに、自分の“お世話係たち”に相手をしてもらっていた。
それを横目にしつつ、
「姉上は気づいていらっしゃったのですか?」
「僕が命を狙われるって。」
なんとなく尋ねてみたところ、
「ん??」
首を傾げられてしまったのだ。
「数日前、僕に〝堂々としてなさい〟〝何ひとつとして悪くないんだから〟と仰っていたので…。」
こう伝えたら、
「あぁー。」
「いえ、まさか、ラル君を暗殺しようとするだなんて、思いもよらなかったわ。」
「私が危惧したのは〝ラダン兄上との関係が悪くなるかもしれない〟ってことよ。」
「ラル君は、神法を使えるだけでなく、ムラクモを抜いてしまったんだから、嫡男の兄上としては複雑な心境でしょうからね。」
「それに、ラダン兄上……、というよりは、宰相の派閥を警戒している人たちが、ラル君を国王に即位させようと画策しだすかもしれないでしょ?」
「そうなれば、これをきっかけに内乱が起きかねない。」
「でも、それらはラル君の所為じゃないんだから〝気にするな〟ていう意味だったんだけど…。」
そのように説明する姉上だった。
本人は、おてんば気質でありながらも、かなり頭が良い。
また、[中級]の攻撃魔法と光魔法に闇魔法を扱える。
リーシア姉上は“天才肌”のようで、教育係たちも舌を巻いているのだそうだ。
ただし、未だに悪戯を繰り出す事があるので、簡単には認めてもらえていないらしい。
ともあれ。
姉上の考えを補足していこう。
まず、“ラノワマ・タリーフカ宰相”の所は、先祖のときに[侯爵位]を授与されていた。
こうした宰相には娘と息子がいる。
その令嬢と、ラダン兄上は、婚約関係にあった。
いわゆる“フィアンセ”は、リーシア姉上と同い年だったと記憶している。
兄上が二十歳となった際に“婚礼の儀”を執り行なう予定なのだそうだ。
これは、つまり、王位継承権第一位のラダン兄上と、ラノワマ宰相が、義理の親子になってしまうことを示す。
そうなれば、宰相の発言力と影響力が一層に増していきかねない。
これを嫌う貴族や軍人が少なくないのだと、以前、レオディンが語っていた……。
▽
あれから二週間ほどが経っている。
その日の朝に、僕は【剣術】の稽古に取り組んでいた。
ひと息ついたところへ、
「励んでおられるようですなぁ。」
こう声をかけてきたのは、ラノワマ宰相だ。
「これは宰相殿。」
「如何なされました??」
いささか警戒するかのような表情になった“片目のベルーグ”に、
「いや、これといった用がある訳ではない。」
「評定に赴く途中、ラルーシファ殿下をお目に掛けたので、ご挨拶に伺ったまでだ。」
宰相が穏やかに述べる。
そして、自身の左胸に右手を添えたラノワマ宰相が、
「恐れながら…。」
「現在、大臣と兵士らは三つに分かれております。」
「それは、かねてよりラダン殿下の後ろ盾となっている私どもや、ここにきて〝ラルーシファ殿下を次の国王に〟と推すようになった者たち、他には、少数ながらも中立を保つ人々です。」
「やがて、両殿下の派閥が対立を深め、争いが激化した場合、全土に飛び火しかねません。」
「ともなれば、血で血を洗う内戦に突入する事でしょう。」
「これでは多くの惨劇が生じてしまいます。」
「私は、そうならいよう未然に防ぎたいのです。」
「……、どうか、くれぐれも、佞言で惑わそうとする輩どもにご注意ください。」
「ま、ラルーシファ殿下の傍にいる面々はしっかりしているので、そうした連中を近づけないでしょうから、あまり心配はいりませんが…。」
長いこと喋って、お辞儀した。
物腰こそ柔らかい印象だったけれど、僕と“教育係”や“お世話係”を牽制したのだろう。
〝王になろうなどという野心は抱くなよ〟と……。
「それでは、これにて失礼します。」
優しげに微笑んで、再び会釈した宰相は、踵を返していく途中で何かに気づき、
「危ない!!」
僕の前に素早く移動した。
次の瞬間、
「うッ!」
低く呻きながら、背中を丸めたラノワマ宰相が、
「がはッ!!」
血を吐いて、右膝を着く。
割と離れた位置には、弓を持った“黒ずくめの不審者”が佇んでいる。
宰相は、左手で腹部を押さえているようだ。
〝ぐッぬぅ~ッ〟と苦しみながらも、
「いかん。」
「意識が朦朧とする。」
「矢に毒が塗られていたかもしれん。」
ラノワマ宰相が冷静に状況を告げた。
こうした最中、“弓の襲撃者”に近い距離で、お城の角を曲がってきた“別の黒ずくめ達”が、僕らへと走って来る。
その四人は、各自が[短剣]を握っていた。
おもいっきり〝すぅ――――ッ〟と息を吸い込んで、
「緊急事態だぁあ!!!!」
「急ぎ駆け付けろぉ――ッ!!!!」
城内に向かって叫び知らせたベルーグが、
「開け、亜空間収納。」
“縦40㎝×最大横幅20㎝”といった[楕円形で白銀色の渦]を出現させる。
その[アイテムボックス]は、小規模サイズだ。
これに右手を入れて、武器を掴み出すベルーグだった―。
この日は誰も鍛錬などがないので自由だ。
まぁ、遊びと言っても、革製のボールを、妹に合わせて軽めに投げたり蹴ったりしていた。
大きさはバスケットボールくらいだろう。
近くには、僕ら三人の“お世話係たち”が待機している。
なお、その全員が“獣人”だ。
ちなみに、ラダン兄上も誘ったのだけれど、「一人で修行を積みたい」との事で断られていた……。
暫くして、疲れた僕と姉上は、外廊下に腰掛けて涼んでいる。
体力が有り余っている妹は、僕とリーシア姉上の代わりに、自分の“お世話係たち”に相手をしてもらっていた。
それを横目にしつつ、
「姉上は気づいていらっしゃったのですか?」
「僕が命を狙われるって。」
なんとなく尋ねてみたところ、
「ん??」
首を傾げられてしまったのだ。
「数日前、僕に〝堂々としてなさい〟〝何ひとつとして悪くないんだから〟と仰っていたので…。」
こう伝えたら、
「あぁー。」
「いえ、まさか、ラル君を暗殺しようとするだなんて、思いもよらなかったわ。」
「私が危惧したのは〝ラダン兄上との関係が悪くなるかもしれない〟ってことよ。」
「ラル君は、神法を使えるだけでなく、ムラクモを抜いてしまったんだから、嫡男の兄上としては複雑な心境でしょうからね。」
「それに、ラダン兄上……、というよりは、宰相の派閥を警戒している人たちが、ラル君を国王に即位させようと画策しだすかもしれないでしょ?」
「そうなれば、これをきっかけに内乱が起きかねない。」
「でも、それらはラル君の所為じゃないんだから〝気にするな〟ていう意味だったんだけど…。」
そのように説明する姉上だった。
本人は、おてんば気質でありながらも、かなり頭が良い。
また、[中級]の攻撃魔法と光魔法に闇魔法を扱える。
リーシア姉上は“天才肌”のようで、教育係たちも舌を巻いているのだそうだ。
ただし、未だに悪戯を繰り出す事があるので、簡単には認めてもらえていないらしい。
ともあれ。
姉上の考えを補足していこう。
まず、“ラノワマ・タリーフカ宰相”の所は、先祖のときに[侯爵位]を授与されていた。
こうした宰相には娘と息子がいる。
その令嬢と、ラダン兄上は、婚約関係にあった。
いわゆる“フィアンセ”は、リーシア姉上と同い年だったと記憶している。
兄上が二十歳となった際に“婚礼の儀”を執り行なう予定なのだそうだ。
これは、つまり、王位継承権第一位のラダン兄上と、ラノワマ宰相が、義理の親子になってしまうことを示す。
そうなれば、宰相の発言力と影響力が一層に増していきかねない。
これを嫌う貴族や軍人が少なくないのだと、以前、レオディンが語っていた……。
▽
あれから二週間ほどが経っている。
その日の朝に、僕は【剣術】の稽古に取り組んでいた。
ひと息ついたところへ、
「励んでおられるようですなぁ。」
こう声をかけてきたのは、ラノワマ宰相だ。
「これは宰相殿。」
「如何なされました??」
いささか警戒するかのような表情になった“片目のベルーグ”に、
「いや、これといった用がある訳ではない。」
「評定に赴く途中、ラルーシファ殿下をお目に掛けたので、ご挨拶に伺ったまでだ。」
宰相が穏やかに述べる。
そして、自身の左胸に右手を添えたラノワマ宰相が、
「恐れながら…。」
「現在、大臣と兵士らは三つに分かれております。」
「それは、かねてよりラダン殿下の後ろ盾となっている私どもや、ここにきて〝ラルーシファ殿下を次の国王に〟と推すようになった者たち、他には、少数ながらも中立を保つ人々です。」
「やがて、両殿下の派閥が対立を深め、争いが激化した場合、全土に飛び火しかねません。」
「ともなれば、血で血を洗う内戦に突入する事でしょう。」
「これでは多くの惨劇が生じてしまいます。」
「私は、そうならいよう未然に防ぎたいのです。」
「……、どうか、くれぐれも、佞言で惑わそうとする輩どもにご注意ください。」
「ま、ラルーシファ殿下の傍にいる面々はしっかりしているので、そうした連中を近づけないでしょうから、あまり心配はいりませんが…。」
長いこと喋って、お辞儀した。
物腰こそ柔らかい印象だったけれど、僕と“教育係”や“お世話係”を牽制したのだろう。
〝王になろうなどという野心は抱くなよ〟と……。
「それでは、これにて失礼します。」
優しげに微笑んで、再び会釈した宰相は、踵を返していく途中で何かに気づき、
「危ない!!」
僕の前に素早く移動した。
次の瞬間、
「うッ!」
低く呻きながら、背中を丸めたラノワマ宰相が、
「がはッ!!」
血を吐いて、右膝を着く。
割と離れた位置には、弓を持った“黒ずくめの不審者”が佇んでいる。
宰相は、左手で腹部を押さえているようだ。
〝ぐッぬぅ~ッ〟と苦しみながらも、
「いかん。」
「意識が朦朧とする。」
「矢に毒が塗られていたかもしれん。」
ラノワマ宰相が冷静に状況を告げた。
こうした最中、“弓の襲撃者”に近い距離で、お城の角を曲がってきた“別の黒ずくめ達”が、僕らへと走って来る。
その四人は、各自が[短剣]を握っていた。
おもいっきり〝すぅ――――ッ〟と息を吸い込んで、
「緊急事態だぁあ!!!!」
「急ぎ駆け付けろぉ――ッ!!!!」
城内に向かって叫び知らせたベルーグが、
「開け、亜空間収納。」
“縦40㎝×最大横幅20㎝”といった[楕円形で白銀色の渦]を出現させる。
その[アイテムボックス]は、小規模サイズだ。
これに右手を入れて、武器を掴み出すベルーグだった―。
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