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黎明期

第1話 異なり

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結論から先に言おう。

僕は“転生者”だ。

ただし、前世の記憶は10年に亘って失われていた。

いや、〝封印されていた〟というのが正しいみたいだ。

いろいろと思い出して、次第に旧友たちとの再会を果たした僕は、危険な異世界で生き抜くためにも協力体制を布いている。

ただ、ここに至るまでは紆余曲折あった。

まぁ、今も、し悪しは別として、何かしら巻き起こっているのだけれど…。

取り敢えず、僕が7歳だった時に話しをさかのぼらせよう――。



僕の名前は、ラルーシファ=イズモ。

[ダイワ王国]の第二王子だ。

僕には、5つ上の兄と、3つ上の姉に、5つ下の妹がいる。

ただし、僕と妹は、兄と姉とは“異母兄弟”だ。

兄上と姉上の母君がやまい崩御ほうぎょなされたあと、暫くしてから、王である父上が再婚なされた。

この女性が、僕と妹の母にあたる。

言い方を変えれば、現王妃だ。

さて……。

王城で何不自由なく育てられた僕は、7歳になった暁に、いろいろと学ぶ事になった。

兄上や姉上と同じように、数人の教育係が付けられる運びとなったのだ。

主に【魔法】と【スキル】に関しての指導を受けたり[勉学]に励むことになっている。



ある日の朝。

お城の庭の片隅に、大木を切ったり削ったりして作られた人形…、と言うか、模型が二つ設置されていた。

どちらも高さは170㎝らしい。

「よろしいですかな? ラルーシファ殿下。」

僕に話しかけてきたのは、瞳が青い70代前半の男性だ。

長い髪とヒゲや眉は白い。

右手に持っているのは、鉄製で長めの[魔法の杖]だ。

先端には“緑色のクリスタル”が付属している。

[王宮魔術師]であり[言語学博士はくし]でもある彼は“レオディン・セル―ロ”という名前だ。

ちなみに、僕は、標準的な長さの金髪が“ゆるふわ巻き毛”で、瞳は青い。

……、それはさて置き。

「まず、“能力開示”と仰ってみてください。」

レオディンに促されるまま、

「のうりょくかいじ。」

こう呟いたところ、脳内に幾つかの文字が浮かんだので、

「なにこれ?!」

僕は驚いてしまった。

「それが、現時点における殿下の能力でございます。」
「なお、“終了”と言えば、勝手に閉じますので、ご安心を。」
「あと…、これらは口に出さなくても行なえますので、今度お試しください。」

そうした説明を受けて、

「うん、わかった。」

承知した僕に、

「して??」
「殿下は、どのような能力をお持ちでしょうか?」

レオディンが尋ねる。

「えぇ―っと……、“しんぽう”に“あくうかんしゅうのう”と“かいどく”て、かいてあるけど??」

僕が答えたら、

「は?!」
「“神法”ですと!??」

ビックリされてしまった。

更に、レオディンは、

「……………………。」

呆然としたまま、固まっている。

「あの…、レオディン?」

僕が心配したところ、〝ハッ〟と正気に戻ったレオディンが、

「これは申し訳ございません。」

頭を下げた。

「それで??」
「“しんぽう”って、なに?」
「わるいことなの??」

不安に駆られた僕に対して、

「いえいえいえいえいえ!!」
「寧ろ、凄い事・・・なのですよ、ラルーシファ殿下!」

レオディンが目を輝かせる。

この流れで、

「そもそも、魔法には詠唱が必要不可欠です。」
「魔物や魔獣のなかには、何も唱えずに魔法みたいな現象を起こせる存在もおりますが……、これはスキル・・・たぐいとされています。」
そうしたスキル・・・・・・は、例外もありますが、基本的には魔法に比べて性能が劣るものが多めです。」
「ところが!!」
「神法は、無詠唱で発動できるうえに、魔法よりも威力が高いとされています!」
「これは使えたのは〝ダイワ王国の初代陛下と、その近衛衆このえしゅうのみだった〟と記録に残されているのです。」
「しかも、〝かれこれ500年以上に亘って扱える者がいなくなった〟とも伝えられております。」

興奮を抑えられなくなるレオディンだった。

なんだか理解できず首を傾げる僕に、

「魔法には、低級、中級、高級、ごく級、といった4つがございます。」
「神法も同様の筈ですが…?」

レオディンが窺ってくる。

「んん―っとねぇ、……、“ていきゅう”てなってるよ。」

そう教えたら、レオディンが〝ふむ〟と頷いて、

「それでは、もともとの予定どおり、低級魔法をお見せしましょう。」

[魔法の杖]を“木製人形”へと向けた。

息を〝すぅ〟と吸ったレオディンが、

彼処かしこ揺蕩たゆたう力よ、我がもとに集まりて、敵をるべし。」

このように唱えたところ、直径50㎝くらいで“ブルーホワイト青白”の魔法陣が構築された。

そして…、

「ウィンド・アロー!!」

50発ほどの【風の矢】が放たれる。

これらが当たった一体の“木製人形”が、前後に揺れた。

どうやら、50個の穴ぼこ・・・が生じているみたいだ。

「おぉ~、すごいねぇ!」

初めて見た魔法に喜ぶ僕に、

「次は殿下の番です。」
「ただ……、神法については、儂も詳しいことは知りません。」
「なので、一つ、試させてください。」

レオディンが難しそうな顔つきになる。

そこからは、レオディンの推測に従った…。

無傷な方の“木製人形”へと、僕は右のてのひらを突き出す。

さっきレオディンが飛ばした[風]を回想したところ、右手の先に“サークル”が現れた。

直径は50㎝ぐらいだったけど、色が違っている。

僕のは“ホワイトゴールド白金”だ。

「おぉおッ!!」
「まさに、文献にあった通りじゃ!」
「さぁ、殿下!!」

明らかにテンションが上がったレオディンに催促されて、

「ウィンド・アロー!」

こう口にすると、僕からもまた50発の【風の矢】が放たれた。

レオディンの倍あたりの速度で飛んだ【ウィンド・アロー】に貫かれて、蜂の巣状態になった“木製人形”が、向こう側へと倒れる。

この光景に戸惑う僕の左斜め後ろで、

「うっ…ひょお――――いッ!!!!」
「まごう事なき、本物の神法じゃっひゃあ――ぃッ!!」

我を忘れて小躍りする老体だった―。
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