GOD SLAYER’S

ネコのうた

文字の大きさ
上 下
175 / 303
― 第四章・西陸行路 ―

第175話 打つ手

しおりを挟む
宿営地の至る所で、夕食の支度が行われている。

ミーノン軍の作戦本部として使われているテント(ゲル)では、利通としみちはもとより、主だった者らが8人ほど集まって、明日以降の方針を話し合っていた。

その中には、[武術マスター]の次男も見受けられる。

30代前半である彼は【弓術士】で、背中あたりまでの黒髪を後頭部で一つに束ねていた。

利通は、ヒッダーを復活させた後に、数年は自ら治め、ゆくゆくは次男に譲るつもりらしい。

また、ミーノンを長男に託し、隠居する意向のようだ。

ちなみに、武術マスターの子らは、長男・次男・長女の順番である。

この三人も、それぞれ子宝に恵まれているそうだ。

それはさて置き。

テントの外から、

「軍議中に失礼します!」
「北方領主様が、お見えになりました!!」

との声が聞こえ、

「……、入れ。」

武術マスターが促した。


ゲル内にて、北方領主が両膝を着き、背後に控える魔術士がならう。

おそらく、この魔術士による【瞬間移動】で渡って来たのだろう。

いずれにしろ、50代半ばの領主は【騎士】である。

とはいえ、いくさに馳せ参じたわけではないので甲冑は纏っておらず、貴族らしい服装であった。

肩あたりまでの長さがある“巻き毛”に、立派な髭は、ところどころ白い。

背丈は180㎝ありそうだ。

椅子から立った利通が、北方領主の正面へと移動し、

「その“包み”は?」

眉をひそめる。

黒布の結び目を、領主が解いたところ、ある男の首が露わになった。

「我が愚息にございます。」

こう伝えた北方領主が、

「誠に申し訳ございませんでした!」
「まさか、“成れの果て”を利用して謀反を企てておったとは…、気づかなかった私にも落ち度があり、北方を治める立場として、また、親としても、万死に値します!!」

地面に額を擦り付ける。

おもてを上げよ。」

「……、はッ。」

領主が、武術マスターに従う。

「辛い役目を押し付けて、すまなかったの。」

利通によるいたわりの言葉を受け、

「いえ、滅相もございません。」
「全ては私が教育を誤ったばかりに起きたことでありますれば、どうか、お気を遣わず。」
「それよりも、国主様の顔に泥を塗るような真似を仕出かした息子の責任を負うべく、死をもって償いますゆえ、一族の命だけは、何卒、お助けください。」

北方領主が再び頭を下げた。

「もう、よい。」
「此度の件は、これにて落着とする故に、今まで通り国に仕えよ。」

武術マスターの決断に、

「寛大なお裁き、有難き幸せ。」
「これまで以上の忠義忠節を、お誓い致します。」

領主が涙ぐむ。

「ときに…。」
「“闇商人”に関する情報は何か掴んでおらぬか??」

利通が尋ねたら、

「あの館で捕らえた幹部どもを拷問したところ、“西陸さいりく第八神国しんこ”の北側に在る最も大きな港町に、現在、元締めが身を潜めているとの事でございました。」

北方領主が、そのように答えたのである。

「ふむ。」
「ならば、こちらから秘かに隊を一つ送り込むとして……、そなたは軍艦で海を封鎖せよ。」
「船で脱出されんようにな。」
「日取りは、追って報せる。」

武術マスターの指示に、

「ははッ!」

会釈する領主であった―。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~

やみのよからす
ファンタジー
 病院で病死したはずの月島玲子二十五歳大学研究職。目を覚ますと、そこに広がるは広大な森林原野、後ろに控えるは赤いドラゴン(ニヤニヤ)、そんな自分は十歳の体に(材料が足りませんでした?!)。  時は、自分が死んでからなんと三千万年。舞台は太陽系から離れて二百二十五光年の一惑星。新しく作られた超科学なミラクルボディーに生前の記憶を再生され、地球で言うところの中世後半くらいの王国で生きていくことになりました。  べつに、言ってはいけないこと、やってはいけないことは決まっていません。ドラゴンからは、好きに生きて良いよとお墨付き。実現するのは、はたは理想の社会かデストピアか?。  月島玲子、自重はしません!。…とは思いつつ、小市民な私では、そんな世界でも暮らしていく内に周囲にいろいろ絆されていくわけで。スーパー玲子の明日はどっちだ? カクヨムにて一週間ほど先行投稿しています。 書き溜めは100話越えてます…

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった

ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。 しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。 リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。 現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!

処理中です...