87 / 300
― 第三章・南陸行路 ―
第87話 撫子と涼音の背景
しおりを挟む
道すがら、紫蓮らは、いろんな話しをした。
それぞれの生い立ちや現状などを……。
例えば、紫蓮と同じ年齢の撫子は、孤児なのだという。
七年ほど前に天涯孤独の身となったものの、イーガーの現国主夫妻に養女として引き取られたのだそうだ。
その頃は未だ、[忍者マスター]こと“成蔵”が国主だったらしいが…。
イーガーは“忍びの国”であるが故、任務で命を落とす者たちもいる。
彼ら彼女らの忘れ形見であり、親戚などの身寄りがない子供を引き取ってくれたのが、現国主の奥方なのだそうだ。
この国主夫婦には、実子が一人いて、それ以外に九人の養子が存在している。
撫子はそのなかの一人との事だ。
今から約一年前、“忍者マスター”が現役を退き、息子に国主の座を譲った際に、城から少し離れた別邸で暮らすようになり、二十人の忍が警備に選ばれた。
そのメンバーには、撫子であったり、現国主夫妻に育てられた子らの半数くらいが含まれている。
他の子どもは、まだ10歳前後なので、城で生活しているらしい。
二人の実の息子は18歳だが、跡継ぎなので、親元にいるそうだ。
しかし、此度の侵入事件を重く見て、逃走した犯人どもを捜すべく、彼もまた国を発ったとのことである。
[サッツゥー国]には、この子息が赴く予定だったが、〝次代の跡取りを危険にさらす訳にはいかない〟と撫子が主張して、再三に亘って説得し、役目を変わったらしい。
もし、あの侵入者らが、本当に“サッツゥーの忍”であった場合、これを放った棟梁に面会するなり殺されかねないので。
そこで、実子であれ、養子や養女であれ、我が孫として分け隔てなく接してくれていた成蔵が、撫子を案じて書状をしたため、かつての冒険仲間である[トゥーサーの大巫女]に協力を仰いだとの事だ。
まさか、断られるとは思いもよらなかったが……。
彼女としても、自分の身内を危ない目に遭わせたくなかったのだろう。
それでも、孫の一人である涼音を伴わせてくれたのだから、撫子にとっても文句はない。
更には、[ヒーゴンの侍王]に仕えていたという紫蓮にも出会えて、パーティーを組めたのは、嬉しい誤算である。
戦力が増えたのだから。
一方の涼音はというと…。
本人が12歳の頃に、[ヒューガー国]の要請を受けたトゥーサーの国主が、援軍を送ったことがある。
ヒューガー国を制圧すべく南下して来た[南陸第十二神国]を撃退すべく。
この時に、御宮からも、それなりの数を送り出した。
その部隊を率いたのが、涼音たち姉妹の母親の婿養子、すなわち、父親である。
だが、彼は、帰らぬ人になってしまったのだそうだ。
神に殺された事によって。
これ以来、涼音は、神々を討つ事を、秘かに誓っていたらしい。
大巫女は、娘婿を始めとして命を落とした者らに胸を痛め、他国のいざこざには関わらぬよう決めたとのことである。
御宮の関係者を守る為に。
懐かしき戦友である“忍者マスター”の頼みに、当初は首を縦に振らなかったのは、そのような内情があったからだ。
だが、自分の娘を促し、旅立ちを許可させてくれた祖母に、涼音は感謝している。
ちなみに、涼音は、紫蓮と撫子の一つ年上であった。
紫蓮も、神々を倒したい理由や、これまでの出来事を、語っていったのである―。
それぞれの生い立ちや現状などを……。
例えば、紫蓮と同じ年齢の撫子は、孤児なのだという。
七年ほど前に天涯孤独の身となったものの、イーガーの現国主夫妻に養女として引き取られたのだそうだ。
その頃は未だ、[忍者マスター]こと“成蔵”が国主だったらしいが…。
イーガーは“忍びの国”であるが故、任務で命を落とす者たちもいる。
彼ら彼女らの忘れ形見であり、親戚などの身寄りがない子供を引き取ってくれたのが、現国主の奥方なのだそうだ。
この国主夫婦には、実子が一人いて、それ以外に九人の養子が存在している。
撫子はそのなかの一人との事だ。
今から約一年前、“忍者マスター”が現役を退き、息子に国主の座を譲った際に、城から少し離れた別邸で暮らすようになり、二十人の忍が警備に選ばれた。
そのメンバーには、撫子であったり、現国主夫妻に育てられた子らの半数くらいが含まれている。
他の子どもは、まだ10歳前後なので、城で生活しているらしい。
二人の実の息子は18歳だが、跡継ぎなので、親元にいるそうだ。
しかし、此度の侵入事件を重く見て、逃走した犯人どもを捜すべく、彼もまた国を発ったとのことである。
[サッツゥー国]には、この子息が赴く予定だったが、〝次代の跡取りを危険にさらす訳にはいかない〟と撫子が主張して、再三に亘って説得し、役目を変わったらしい。
もし、あの侵入者らが、本当に“サッツゥーの忍”であった場合、これを放った棟梁に面会するなり殺されかねないので。
そこで、実子であれ、養子や養女であれ、我が孫として分け隔てなく接してくれていた成蔵が、撫子を案じて書状をしたため、かつての冒険仲間である[トゥーサーの大巫女]に協力を仰いだとの事だ。
まさか、断られるとは思いもよらなかったが……。
彼女としても、自分の身内を危ない目に遭わせたくなかったのだろう。
それでも、孫の一人である涼音を伴わせてくれたのだから、撫子にとっても文句はない。
更には、[ヒーゴンの侍王]に仕えていたという紫蓮にも出会えて、パーティーを組めたのは、嬉しい誤算である。
戦力が増えたのだから。
一方の涼音はというと…。
本人が12歳の頃に、[ヒューガー国]の要請を受けたトゥーサーの国主が、援軍を送ったことがある。
ヒューガー国を制圧すべく南下して来た[南陸第十二神国]を撃退すべく。
この時に、御宮からも、それなりの数を送り出した。
その部隊を率いたのが、涼音たち姉妹の母親の婿養子、すなわち、父親である。
だが、彼は、帰らぬ人になってしまったのだそうだ。
神に殺された事によって。
これ以来、涼音は、神々を討つ事を、秘かに誓っていたらしい。
大巫女は、娘婿を始めとして命を落とした者らに胸を痛め、他国のいざこざには関わらぬよう決めたとのことである。
御宮の関係者を守る為に。
懐かしき戦友である“忍者マスター”の頼みに、当初は首を縦に振らなかったのは、そのような内情があったからだ。
だが、自分の娘を促し、旅立ちを許可させてくれた祖母に、涼音は感謝している。
ちなみに、涼音は、紫蓮と撫子の一つ年上であった。
紫蓮も、神々を倒したい理由や、これまでの出来事を、語っていったのである―。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
1001部隊 ~幻の最強部隊、異世界にて~
鮪鱚鰈
ファンタジー
昭和22年 ロサンゼルス沖合
戦艦大和の艦上にて日本とアメリカの講和がなる
事実上勝利した日本はハワイ自治権・グアム・ミッドウエー統治権・ラバウル直轄権利を得て事実上太平洋の覇者となる
その戦争を日本の勝利に導いた男と男が率いる小隊は1001部隊
中国戦線で無類の活躍を見せ、1001小隊の参戦が噂されるだけで敵が逃げ出すほどであった。
終戦時1001小隊に参加して最後まで生き残った兵は11人
小隊長である男『瀬能勝則』含めると12人の男達である
劣戦の戦場でその男達が現れると瞬く間に戦局が逆転し気が付けば日本軍が勝っていた。
しかし日本陸軍上層部はその男達を快くは思っていなかった。
上官の命令には従わず自由気ままに戦場を行き来する男達。
ゆえに彼らは最前線に配備された
しかし、彼等は死なず、最前線においても無類の戦火を上げていった。
しかし、彼らがもたらした日本の勝利は彼らが望んだ日本を作り上げたわけではなかった。
瀬能が死を迎えるとき
とある世界の神が彼と彼の部下を新天地へと導くのであった
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
双子の姉妹は無双仕様
satomi
ファンタジー
双子の姉妹であるルカ=フォレストとルリ=フォレストは文武両道というか他の人の2~3倍なんでもできる。周りはその事実を知らずに彼女たちを貶めようと画策するが……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる
ケイちゃん
ファンタジー
ゲームに熱中していた彼は、シナリオで現れたラスボスを好きになってしまう。
彼はその好意にラスボスを倒さず何度もリトライを重ねて会いに行くという狂気の推し活をしていた。
だがある日、ストーリーのエンディングが気になりラスボスを倒してしまう。
結果、ラスボスのいない平和な世界というエンドで幕を閉じ、推しのいない世界の悲しみから倒れて死んでしまう。
そんな彼が次に目を開けるとゲームの中の主人公に転生していた!
主人公となれば必ず最後にはラスボスに辿り着く、ラスボスを倒すという未来を変えて救いだす事を目的に彼は冒険者達と旅に出る。
ラスボスを倒し世界を救うという定められたストーリーをねじ曲げ、彼はラスボスを救う事が出来るのか…?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる