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― 第二章・それぞれの成長 ―
第69話 紫蓮の決断
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あれから五日後――。
城の敷地内に在る総帥の屋敷に、紫蓮が訪れていた。
彼は、板張り床で十五畳ぐらいの部屋に通されたようだ。
中央には赤い絨毯が敷かれており、この上に長方形の木製テーブルが設置されている。
テーブル席には紫蓮だけが座っていた。
彼の右側は2M幅の廊下となっており、その向こうは庭園になっている。
なんでも“枯山水”というらしい。
来夢と権蔵は、玄関で待っているようだ。
来夢はホワイトの、権蔵はライトブラウンの、ロングコートを、それぞれに着用している。
部屋にいる紫蓮は、黒のワイシャツと銀のネクタイの上から、黒色の着物を纏っていた。
腰に着けている黒革&銀のバックルで作られたベルトの縦幅は25㎝程ありそうだ。
羽織も全体的に黒いが、所々に白糸と金糸で刺繍が施されている。
そんな彼が、出されていた珈琲を口に運んだタイミングで、廊下から〝ズカズカ〟という足音が聞こえてきた。
朱色の着物に、黒い袴と、虎の毛皮による羽織を纏い、青紫色の足袋といった姿で、入室してきた侍王が、
「待たせたの!」
〝ニカッ〟と笑みを浮かべる。
「いえ。」
紫蓮が軽く会釈した。
彼の対面に座った清虎が、
「何を飲んでおる?」
と、聞き、
「コーヒー…、です。」
紫蓮が返す。
「なんじゃ、酒にすればよかろうに。」
「遠慮せずとも。」
そう勧める総帥に、
「いや、これから旅立つ予定なので。」
と紫蓮が断る。
「ふむ。」
「千代らから小耳に挟んではおったが…。」
「やはり、気は変わらんかったか。」
確認する侍王に、紫蓮が無言で頷く。
清虎が腕を組んで両方の瞳を閉じた。
「まぁ、ここから先の“ヒーゴン”と“チークゥゴン”は、当分、守りを固めながら、内政に力を入れていく方針じゃからのぉう。」
「そうなると、今までのように、神との直接対決は殆ど無いじゃろうし…。」
「“神殺し”を目標にしているお主にとっては、物足りんじゃろうな。」
瞼を開いた総帥が、
「うむ。」
「我が元を離れること、許可しよう!」
と、承諾して、
「ところで、行くあては、あるのか?」
との疑問を投げかける。
「別にこれといって…。」
紫蓮が静かに首を横に振り、
「暫くは、旅をしながら、腕を磨こうかと。」
そう告げたところ、
「……では、ここより南東方面の“トゥーサー国”へと赴くが良い。」
「あそこには、儂の旧知の者がおるからの、何かしら助力してくれるじゃろう。」
侍王が廊下に向かって、
「おい、誰ぞ、筆と硯を持ていッ。」
と命令した。
部屋に背を向けて正座していた4名の従者のうち、鼬の獣人(メス)が、
「はッ!」
立ち上がって、その場を〝トタトタ〟と去っていく。
1~2分後、薄桃色を基調とした着物姿の彼女が、書状をしたためる道具一式を運んできたようだ。
〝スラスラ〟と筆を走らせた清虎が、
「この手紙を、トゥーサーの首都に居る“大巫女”に見せるがよい。」
「儂からの紹介であることを言い忘れぬようにの。」
と、渡してきたのである。
更に、左袖に右手を入れた総帥が、
「金貨100枚、餞別じゃ。」
「あのサーヴァントたちも含めて、有効活用せよ。」
黄色い巾着を取り出した。
〝スッ〟と席を立ち、
「ありがとう、ございます。」
頭を下げた紫蓮に、
「達者での。」
侍王が目を細める。
まるで孫との別れを惜しむかのように…。
黒のブーツを履いた紫蓮が、玄関から外に出る。
そこには、千代・金時・フーリィ・セルグ・ラル・ヴォニー・永虎・凛琥・幸永歌・永美香が、集まっていた。
「本当に出て行くのね。」
永美香が呟く。
「なんだ、来てたのか。」
少し驚いた紫蓮に、
「俺が呼んでおいた。」
永虎が伝える。
これを聞いて、
「そっか。」
紫蓮が控えめに微笑む。
「いつでも帰って来いよ!」
「この城は、もう、お前の家でもあるんだからな!」
凛琥に続いて、
「どこかで野垂死んだりしたら、皆が絶対に許さないんだからね!!」
幸永歌も熱くなる。
「ああ、分かった。」
「じゃあ、また…、な。」
約束を交わした紫蓮は、来夢と権蔵を伴って、久しぶりの冒険へと出発した。
ラルやヴォニーなどの、
「元気でねー!」
「必ず戻って来なよ!」
といった幾つもの言葉を、背中で受け止めながら―。
城の敷地内に在る総帥の屋敷に、紫蓮が訪れていた。
彼は、板張り床で十五畳ぐらいの部屋に通されたようだ。
中央には赤い絨毯が敷かれており、この上に長方形の木製テーブルが設置されている。
テーブル席には紫蓮だけが座っていた。
彼の右側は2M幅の廊下となっており、その向こうは庭園になっている。
なんでも“枯山水”というらしい。
来夢と権蔵は、玄関で待っているようだ。
来夢はホワイトの、権蔵はライトブラウンの、ロングコートを、それぞれに着用している。
部屋にいる紫蓮は、黒のワイシャツと銀のネクタイの上から、黒色の着物を纏っていた。
腰に着けている黒革&銀のバックルで作られたベルトの縦幅は25㎝程ありそうだ。
羽織も全体的に黒いが、所々に白糸と金糸で刺繍が施されている。
そんな彼が、出されていた珈琲を口に運んだタイミングで、廊下から〝ズカズカ〟という足音が聞こえてきた。
朱色の着物に、黒い袴と、虎の毛皮による羽織を纏い、青紫色の足袋といった姿で、入室してきた侍王が、
「待たせたの!」
〝ニカッ〟と笑みを浮かべる。
「いえ。」
紫蓮が軽く会釈した。
彼の対面に座った清虎が、
「何を飲んでおる?」
と、聞き、
「コーヒー…、です。」
紫蓮が返す。
「なんじゃ、酒にすればよかろうに。」
「遠慮せずとも。」
そう勧める総帥に、
「いや、これから旅立つ予定なので。」
と紫蓮が断る。
「ふむ。」
「千代らから小耳に挟んではおったが…。」
「やはり、気は変わらんかったか。」
確認する侍王に、紫蓮が無言で頷く。
清虎が腕を組んで両方の瞳を閉じた。
「まぁ、ここから先の“ヒーゴン”と“チークゥゴン”は、当分、守りを固めながら、内政に力を入れていく方針じゃからのぉう。」
「そうなると、今までのように、神との直接対決は殆ど無いじゃろうし…。」
「“神殺し”を目標にしているお主にとっては、物足りんじゃろうな。」
瞼を開いた総帥が、
「うむ。」
「我が元を離れること、許可しよう!」
と、承諾して、
「ところで、行くあては、あるのか?」
との疑問を投げかける。
「別にこれといって…。」
紫蓮が静かに首を横に振り、
「暫くは、旅をしながら、腕を磨こうかと。」
そう告げたところ、
「……では、ここより南東方面の“トゥーサー国”へと赴くが良い。」
「あそこには、儂の旧知の者がおるからの、何かしら助力してくれるじゃろう。」
侍王が廊下に向かって、
「おい、誰ぞ、筆と硯を持ていッ。」
と命令した。
部屋に背を向けて正座していた4名の従者のうち、鼬の獣人(メス)が、
「はッ!」
立ち上がって、その場を〝トタトタ〟と去っていく。
1~2分後、薄桃色を基調とした着物姿の彼女が、書状をしたためる道具一式を運んできたようだ。
〝スラスラ〟と筆を走らせた清虎が、
「この手紙を、トゥーサーの首都に居る“大巫女”に見せるがよい。」
「儂からの紹介であることを言い忘れぬようにの。」
と、渡してきたのである。
更に、左袖に右手を入れた総帥が、
「金貨100枚、餞別じゃ。」
「あのサーヴァントたちも含めて、有効活用せよ。」
黄色い巾着を取り出した。
〝スッ〟と席を立ち、
「ありがとう、ございます。」
頭を下げた紫蓮に、
「達者での。」
侍王が目を細める。
まるで孫との別れを惜しむかのように…。
黒のブーツを履いた紫蓮が、玄関から外に出る。
そこには、千代・金時・フーリィ・セルグ・ラル・ヴォニー・永虎・凛琥・幸永歌・永美香が、集まっていた。
「本当に出て行くのね。」
永美香が呟く。
「なんだ、来てたのか。」
少し驚いた紫蓮に、
「俺が呼んでおいた。」
永虎が伝える。
これを聞いて、
「そっか。」
紫蓮が控えめに微笑む。
「いつでも帰って来いよ!」
「この城は、もう、お前の家でもあるんだからな!」
凛琥に続いて、
「どこかで野垂死んだりしたら、皆が絶対に許さないんだからね!!」
幸永歌も熱くなる。
「ああ、分かった。」
「じゃあ、また…、な。」
約束を交わした紫蓮は、来夢と権蔵を伴って、久しぶりの冒険へと出発した。
ラルやヴォニーなどの、
「元気でねー!」
「必ず戻って来なよ!」
といった幾つもの言葉を、背中で受け止めながら―。
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