8 / 300
― 第一章・旅立ち ―
第8話 新装
しおりを挟む
あれから2週間が経った。
時折、モンスター達と出くわして、戦闘になったがために、紫蓮の刀は〝刃こぼれ〟して、ボロボロになっている。
ラーザが、
「都で報酬を貰ったら分配するよぉ。」
「ここ迄で得た“魔鉱石”を売り払った金額も合わせて。」
「そしたら、職人に研いでもらうか、新たに購入しなよ。」
と、口元を緩めた。
「いや、“届け物”の件は俺には関係ないし…。」
と断ろうとする紫蓮の肩に、ラーザが自身の左腕を回してきて、
「固いこと言うなって! もう何日も一緒に同じ釜の飯を食った仲なんだからさ!」
「な! 皆?!」
と、パーティーメンバーに窺ったところ、誰もが、
「そうだよ。遠慮はダメだぞ、紫蓮☆」
「うん、うん。その通り!」
などと同意する。
[鮮紅の豹一団]は、気立ての良い者たちの集まりで、紫蓮は何かと助けになってもらっていた。
世の中には陰険陰湿な連中もいる。
最初に出会ったのが、そういう奴らだったら、身ぐるみを剝がされていたかもしれない。
或いは、褒美欲しさに[神]に差し出されていた可能性もある。
“異端者”として…。
何だかんだと会話を弾ませる一行が、サーヌの首都に到着した。
紫蓮は、都会の広さと、大小様々な建物や、人口密度の高さに、目を丸くしたが、なかでも驚かされたのは[魔道機関車]だ。
これは、[火の魔鉱石]と[風の魔鉱石]を動力とした機関車である。
車窓に流れる景色を眺める紫蓮が、得も言われぬ高揚感に包まれていく。
彼が“来夢”と名付けた、あのスライムは、興奮しているのか? 楽しいのか? 座席で〝ぴょーん ぴょーん〟と飛び跳ねていた。
都の中心地に程近い場所に、商人の邸宅が在った。
石造りの屋敷は3階建てで、外壁は白く、屋根は緑色だ。
40部屋ほどあるとの事なので、かなりの富豪らしい。
団長のラーザと、副団長の弥太郎のみが、家主である[リワッド]の職務室に通され、それ以外の者たちは広めの客間で待機している。
親子三代で財を成したという、40代前半の現当主は、身長が180㎝ぐらいで、スラッとしており、眉あたりまでの長さがある金色の髪や、青色の瞳が、特徴的だ。
紺色の貴族風の恰好をしているが、この国に王族や貴族はいない。
そもそも、王族は[神の血筋]であり、人間・獣人・妖精のなかで[神次]という地位に就けた者たちだけが貴族である。との事だ。
なので、彼の服装は、単にオシャレの一環である。
黙って受領証に目を通していたリワッドが、
「確かに。」
と、木製アンティークのディスクにて、金で出来た豪華な認印を、その証明書に押した。
金貨50枚が入っている革袋を手渡されたラーザが、
「毎度あり!」
と満面の笑顔になる。
「息災か? 弥太郎。」
と、リワッドに声を掛けられ、
「ま、ぼちぼち。な。」
と弥太郎が返した。
この二人は旧知の仲で、若かりし頃はよく一緒に飲み歩いたのだという。
「次はどこに向かうんだ? 暫く都に滞在するのか?」
と、質問するリワッドに、ラーザが、
「いや、明日には経つよ。」
「将来有望そうな若者を、侍王の国に連れて行ってやんなくちゃ。だからね。」
と答える。
「ふ…む?」
と、首を傾げるリワッドに、今度は弥太郎が、
「そいつのジョブは侍でな…。」
「なんでも、神を殺す為に強くなりたいんだと。」
と述べたら、
「ほぉう。それは、かなり楽しみだな。」
と、嬉しそうにした。
搾取が厳しい[神之国]で、他国の者が商売するのは何かと難しいため、特例が認められている冒険者に依頼する者は割と多い。
つまりは、[神之国]が減っていけばいくほど自由度が高まり、誰もが今まで以上に潤うので、リワッドのような商売人たちにとっても、喜ばしい限りだという事である。
「またいつか、酒を酌み交わそう。」
と名残を惜しむ弥太郎に、
「ああ。」
と、リワッドが頷いた…。
取引所で換金した幾つもの魔鉱石は、金貨32枚と銀貨8枚になった。
サーヴァント以外の人族や獣人族の16名で、82枚の金貨を4枚ずつ分け合う。
残りの金銭は、全員分の食料を調達したり、飲み代や、宿賃に、消えるそうだ。
ちなみに、サーヴァントに装備品を購入してあげる際には、各マスターが支払わないといけない。
これは冒険者たちの間における〝暗黙の了解〟のようだ。
さて、紫蓮は〝刃を研ぐ〟か〝新たに買うか〟迷っていた。
そこに【侍】の先輩たる弥太郎が、
「当分は“鉄刀”が良いだろう。」
と助言する。
理由としては、「そっちの方が費用を抑えられるから」との事だ。
木刀ならぬ[鉄刀]は黒く、持ち手には厚手の布が包帯のように巻かれていた。
この、長さ1m20㎝の“鉄製の刀”は、銀貨8枚の料金だった。
続いて、
「服もだいぶ汚れているから、買い替えたらどうだ?」
と、弥太郎に促され、着物一式を新調する。
こちらは、“花浅葱”という色の羽織袴に、紺色の足袋と、雪駄の合計で、金貨2枚と銀貨5枚だった。
ラーザたちとギルドの表通りで合流する。
建物に設置されている銅製の玄関をラーザが開けたところ、四人分の幅がある廊下が見えた。
10Mくらい先には2階へ上る階段があり、その途中の左側には木製で観音開きの扉が確認できる。
そちらは酒場になっており、冒険者への仕事の斡旋所は上の階との事だ。
後ろを振り向いたラーザが、
「まずは、ボクたちにとって適度なクエストを探そう。」
「そして、今夜は…、飲み明かそう!」
〝ニカッ〟と白い歯を露わにした―。
時折、モンスター達と出くわして、戦闘になったがために、紫蓮の刀は〝刃こぼれ〟して、ボロボロになっている。
ラーザが、
「都で報酬を貰ったら分配するよぉ。」
「ここ迄で得た“魔鉱石”を売り払った金額も合わせて。」
「そしたら、職人に研いでもらうか、新たに購入しなよ。」
と、口元を緩めた。
「いや、“届け物”の件は俺には関係ないし…。」
と断ろうとする紫蓮の肩に、ラーザが自身の左腕を回してきて、
「固いこと言うなって! もう何日も一緒に同じ釜の飯を食った仲なんだからさ!」
「な! 皆?!」
と、パーティーメンバーに窺ったところ、誰もが、
「そうだよ。遠慮はダメだぞ、紫蓮☆」
「うん、うん。その通り!」
などと同意する。
[鮮紅の豹一団]は、気立ての良い者たちの集まりで、紫蓮は何かと助けになってもらっていた。
世の中には陰険陰湿な連中もいる。
最初に出会ったのが、そういう奴らだったら、身ぐるみを剝がされていたかもしれない。
或いは、褒美欲しさに[神]に差し出されていた可能性もある。
“異端者”として…。
何だかんだと会話を弾ませる一行が、サーヌの首都に到着した。
紫蓮は、都会の広さと、大小様々な建物や、人口密度の高さに、目を丸くしたが、なかでも驚かされたのは[魔道機関車]だ。
これは、[火の魔鉱石]と[風の魔鉱石]を動力とした機関車である。
車窓に流れる景色を眺める紫蓮が、得も言われぬ高揚感に包まれていく。
彼が“来夢”と名付けた、あのスライムは、興奮しているのか? 楽しいのか? 座席で〝ぴょーん ぴょーん〟と飛び跳ねていた。
都の中心地に程近い場所に、商人の邸宅が在った。
石造りの屋敷は3階建てで、外壁は白く、屋根は緑色だ。
40部屋ほどあるとの事なので、かなりの富豪らしい。
団長のラーザと、副団長の弥太郎のみが、家主である[リワッド]の職務室に通され、それ以外の者たちは広めの客間で待機している。
親子三代で財を成したという、40代前半の現当主は、身長が180㎝ぐらいで、スラッとしており、眉あたりまでの長さがある金色の髪や、青色の瞳が、特徴的だ。
紺色の貴族風の恰好をしているが、この国に王族や貴族はいない。
そもそも、王族は[神の血筋]であり、人間・獣人・妖精のなかで[神次]という地位に就けた者たちだけが貴族である。との事だ。
なので、彼の服装は、単にオシャレの一環である。
黙って受領証に目を通していたリワッドが、
「確かに。」
と、木製アンティークのディスクにて、金で出来た豪華な認印を、その証明書に押した。
金貨50枚が入っている革袋を手渡されたラーザが、
「毎度あり!」
と満面の笑顔になる。
「息災か? 弥太郎。」
と、リワッドに声を掛けられ、
「ま、ぼちぼち。な。」
と弥太郎が返した。
この二人は旧知の仲で、若かりし頃はよく一緒に飲み歩いたのだという。
「次はどこに向かうんだ? 暫く都に滞在するのか?」
と、質問するリワッドに、ラーザが、
「いや、明日には経つよ。」
「将来有望そうな若者を、侍王の国に連れて行ってやんなくちゃ。だからね。」
と答える。
「ふ…む?」
と、首を傾げるリワッドに、今度は弥太郎が、
「そいつのジョブは侍でな…。」
「なんでも、神を殺す為に強くなりたいんだと。」
と述べたら、
「ほぉう。それは、かなり楽しみだな。」
と、嬉しそうにした。
搾取が厳しい[神之国]で、他国の者が商売するのは何かと難しいため、特例が認められている冒険者に依頼する者は割と多い。
つまりは、[神之国]が減っていけばいくほど自由度が高まり、誰もが今まで以上に潤うので、リワッドのような商売人たちにとっても、喜ばしい限りだという事である。
「またいつか、酒を酌み交わそう。」
と名残を惜しむ弥太郎に、
「ああ。」
と、リワッドが頷いた…。
取引所で換金した幾つもの魔鉱石は、金貨32枚と銀貨8枚になった。
サーヴァント以外の人族や獣人族の16名で、82枚の金貨を4枚ずつ分け合う。
残りの金銭は、全員分の食料を調達したり、飲み代や、宿賃に、消えるそうだ。
ちなみに、サーヴァントに装備品を購入してあげる際には、各マスターが支払わないといけない。
これは冒険者たちの間における〝暗黙の了解〟のようだ。
さて、紫蓮は〝刃を研ぐ〟か〝新たに買うか〟迷っていた。
そこに【侍】の先輩たる弥太郎が、
「当分は“鉄刀”が良いだろう。」
と助言する。
理由としては、「そっちの方が費用を抑えられるから」との事だ。
木刀ならぬ[鉄刀]は黒く、持ち手には厚手の布が包帯のように巻かれていた。
この、長さ1m20㎝の“鉄製の刀”は、銀貨8枚の料金だった。
続いて、
「服もだいぶ汚れているから、買い替えたらどうだ?」
と、弥太郎に促され、着物一式を新調する。
こちらは、“花浅葱”という色の羽織袴に、紺色の足袋と、雪駄の合計で、金貨2枚と銀貨5枚だった。
ラーザたちとギルドの表通りで合流する。
建物に設置されている銅製の玄関をラーザが開けたところ、四人分の幅がある廊下が見えた。
10Mくらい先には2階へ上る階段があり、その途中の左側には木製で観音開きの扉が確認できる。
そちらは酒場になっており、冒険者への仕事の斡旋所は上の階との事だ。
後ろを振り向いたラーザが、
「まずは、ボクたちにとって適度なクエストを探そう。」
「そして、今夜は…、飲み明かそう!」
〝ニカッ〟と白い歯を露わにした―。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
最後に言い残した事は
白羽鳥(扇つくも)
ファンタジー
どうして、こんな事になったんだろう……
断頭台の上で、元王妃リテラシーは呆然と己を罵倒する民衆を見下ろしていた。世界中から尊敬を集めていた宰相である父の暗殺。全てが狂い出したのはそこから……いや、もっと前だったかもしれない。
本日、リテラシーは公開処刑される。家族ぐるみで悪魔崇拝を行っていたという謂れなき罪のために王妃の位を剥奪され、邪悪な魔女として。
「最後に、言い残した事はあるか?」
かつての夫だった若き国王の言葉に、リテラシーは父から教えられていた『呪文』を発する。
※ファンタジーです。ややグロ表現注意。
※「小説家になろう」にも掲載。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草
ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)
10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。
親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。
同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……──
※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました!
※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる