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― 第一章・旅立ち ―
第8話 新装
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あれから2週間が経った。
時折、モンスター達と出くわして、戦闘になったがために、紫蓮の刀は〝刃こぼれ〟して、ボロボロになっている。
ラーザが、
「都で報酬を貰ったら分配するよぉ。」
「ここ迄で得た“魔鉱石”を売り払った金額も合わせて。」
「そしたら、職人に研いでもらうか、新たに購入しなよ。」
と、口元を緩めた。
「いや、“届け物”の件は俺には関係ないし…。」
と断ろうとする紫蓮の肩に、ラーザが自身の左腕を回してきて、
「固いこと言うなって! もう何日も一緒に同じ釜の飯を食った仲なんだからさ!」
「な! 皆?!」
と、パーティーメンバーに窺ったところ、誰もが、
「そうだよ。遠慮はダメだぞ、紫蓮☆」
「うん、うん。その通り!」
などと同意する。
[鮮紅の豹一団]は、気立ての良い者たちの集まりで、紫蓮は何かと助けになってもらっていた。
世の中には陰険陰湿な連中もいる。
最初に出会ったのが、そういう奴らだったら、身ぐるみを剝がされていたかもしれない。
或いは、褒美欲しさに[神]に差し出されていた可能性もある。
“異端者”として…。
何だかんだと会話を弾ませる一行が、サーヌの首都に到着した。
紫蓮は、都会の広さと、大小様々な建物や、人口密度の高さに、目を丸くしたが、なかでも驚かされたのは[魔道機関車]だ。
これは、[火の魔鉱石]と[風の魔鉱石]を動力とした機関車である。
車窓に流れる景色を眺める紫蓮が、得も言われぬ高揚感に包まれていく。
彼が“来夢”と名付けた、あのスライムは、興奮しているのか? 楽しいのか? 座席で〝ぴょーん ぴょーん〟と飛び跳ねていた。
都の中心地に程近い場所に、商人の邸宅が在った。
石造りの屋敷は3階建てで、外壁は白く、屋根は緑色だ。
40部屋ほどあるとの事なので、かなりの富豪らしい。
団長のラーザと、副団長の弥太郎のみが、家主である[リワッド]の職務室に通され、それ以外の者たちは広めの客間で待機している。
親子三代で財を成したという、40代前半の現当主は、身長が180㎝ぐらいで、スラッとしており、眉あたりまでの長さがある金色の髪や、青色の瞳が、特徴的だ。
紺色の貴族風の恰好をしているが、この国に王族や貴族はいない。
そもそも、王族は[神の血筋]であり、人間・獣人・妖精のなかで[神次]という地位に就けた者たちだけが貴族である。との事だ。
なので、彼の服装は、単にオシャレの一環である。
黙って受領証に目を通していたリワッドが、
「確かに。」
と、木製アンティークのディスクにて、金で出来た豪華な認印を、その証明書に押した。
金貨50枚が入っている革袋を手渡されたラーザが、
「毎度あり!」
と満面の笑顔になる。
「息災か? 弥太郎。」
と、リワッドに声を掛けられ、
「ま、ぼちぼち。な。」
と弥太郎が返した。
この二人は旧知の仲で、若かりし頃はよく一緒に飲み歩いたのだという。
「次はどこに向かうんだ? 暫く都に滞在するのか?」
と、質問するリワッドに、ラーザが、
「いや、明日には経つよ。」
「将来有望そうな若者を、侍王の国に連れて行ってやんなくちゃ。だからね。」
と答える。
「ふ…む?」
と、首を傾げるリワッドに、今度は弥太郎が、
「そいつのジョブは侍でな…。」
「なんでも、神を殺す為に強くなりたいんだと。」
と述べたら、
「ほぉう。それは、かなり楽しみだな。」
と、嬉しそうにした。
搾取が厳しい[神之国]で、他国の者が商売するのは何かと難しいため、特例が認められている冒険者に依頼する者は割と多い。
つまりは、[神之国]が減っていけばいくほど自由度が高まり、誰もが今まで以上に潤うので、リワッドのような商売人たちにとっても、喜ばしい限りだという事である。
「またいつか、酒を酌み交わそう。」
と名残を惜しむ弥太郎に、
「ああ。」
と、リワッドが頷いた…。
取引所で換金した幾つもの魔鉱石は、金貨32枚と銀貨8枚になった。
サーヴァント以外の人族や獣人族の16名で、82枚の金貨を4枚ずつ分け合う。
残りの金銭は、全員分の食料を調達したり、飲み代や、宿賃に、消えるそうだ。
ちなみに、サーヴァントに装備品を購入してあげる際には、各マスターが支払わないといけない。
これは冒険者たちの間における〝暗黙の了解〟のようだ。
さて、紫蓮は〝刃を研ぐ〟か〝新たに買うか〟迷っていた。
そこに【侍】の先輩たる弥太郎が、
「当分は“鉄刀”が良いだろう。」
と助言する。
理由としては、「そっちの方が費用を抑えられるから」との事だ。
木刀ならぬ[鉄刀]は黒く、持ち手には厚手の布が包帯のように巻かれていた。
この、長さ1m20㎝の“鉄製の刀”は、銀貨8枚の料金だった。
続いて、
「服もだいぶ汚れているから、買い替えたらどうだ?」
と、弥太郎に促され、着物一式を新調する。
こちらは、“花浅葱”という色の羽織袴に、紺色の足袋と、雪駄の合計で、金貨2枚と銀貨5枚だった。
ラーザたちとギルドの表通りで合流する。
建物に設置されている銅製の玄関をラーザが開けたところ、四人分の幅がある廊下が見えた。
10Mくらい先には2階へ上る階段があり、その途中の左側には木製で観音開きの扉が確認できる。
そちらは酒場になっており、冒険者への仕事の斡旋所は上の階との事だ。
後ろを振り向いたラーザが、
「まずは、ボクたちにとって適度なクエストを探そう。」
「そして、今夜は…、飲み明かそう!」
〝ニカッ〟と白い歯を露わにした―。
時折、モンスター達と出くわして、戦闘になったがために、紫蓮の刀は〝刃こぼれ〟して、ボロボロになっている。
ラーザが、
「都で報酬を貰ったら分配するよぉ。」
「ここ迄で得た“魔鉱石”を売り払った金額も合わせて。」
「そしたら、職人に研いでもらうか、新たに購入しなよ。」
と、口元を緩めた。
「いや、“届け物”の件は俺には関係ないし…。」
と断ろうとする紫蓮の肩に、ラーザが自身の左腕を回してきて、
「固いこと言うなって! もう何日も一緒に同じ釜の飯を食った仲なんだからさ!」
「な! 皆?!」
と、パーティーメンバーに窺ったところ、誰もが、
「そうだよ。遠慮はダメだぞ、紫蓮☆」
「うん、うん。その通り!」
などと同意する。
[鮮紅の豹一団]は、気立ての良い者たちの集まりで、紫蓮は何かと助けになってもらっていた。
世の中には陰険陰湿な連中もいる。
最初に出会ったのが、そういう奴らだったら、身ぐるみを剝がされていたかもしれない。
或いは、褒美欲しさに[神]に差し出されていた可能性もある。
“異端者”として…。
何だかんだと会話を弾ませる一行が、サーヌの首都に到着した。
紫蓮は、都会の広さと、大小様々な建物や、人口密度の高さに、目を丸くしたが、なかでも驚かされたのは[魔道機関車]だ。
これは、[火の魔鉱石]と[風の魔鉱石]を動力とした機関車である。
車窓に流れる景色を眺める紫蓮が、得も言われぬ高揚感に包まれていく。
彼が“来夢”と名付けた、あのスライムは、興奮しているのか? 楽しいのか? 座席で〝ぴょーん ぴょーん〟と飛び跳ねていた。
都の中心地に程近い場所に、商人の邸宅が在った。
石造りの屋敷は3階建てで、外壁は白く、屋根は緑色だ。
40部屋ほどあるとの事なので、かなりの富豪らしい。
団長のラーザと、副団長の弥太郎のみが、家主である[リワッド]の職務室に通され、それ以外の者たちは広めの客間で待機している。
親子三代で財を成したという、40代前半の現当主は、身長が180㎝ぐらいで、スラッとしており、眉あたりまでの長さがある金色の髪や、青色の瞳が、特徴的だ。
紺色の貴族風の恰好をしているが、この国に王族や貴族はいない。
そもそも、王族は[神の血筋]であり、人間・獣人・妖精のなかで[神次]という地位に就けた者たちだけが貴族である。との事だ。
なので、彼の服装は、単にオシャレの一環である。
黙って受領証に目を通していたリワッドが、
「確かに。」
と、木製アンティークのディスクにて、金で出来た豪華な認印を、その証明書に押した。
金貨50枚が入っている革袋を手渡されたラーザが、
「毎度あり!」
と満面の笑顔になる。
「息災か? 弥太郎。」
と、リワッドに声を掛けられ、
「ま、ぼちぼち。な。」
と弥太郎が返した。
この二人は旧知の仲で、若かりし頃はよく一緒に飲み歩いたのだという。
「次はどこに向かうんだ? 暫く都に滞在するのか?」
と、質問するリワッドに、ラーザが、
「いや、明日には経つよ。」
「将来有望そうな若者を、侍王の国に連れて行ってやんなくちゃ。だからね。」
と答える。
「ふ…む?」
と、首を傾げるリワッドに、今度は弥太郎が、
「そいつのジョブは侍でな…。」
「なんでも、神を殺す為に強くなりたいんだと。」
と述べたら、
「ほぉう。それは、かなり楽しみだな。」
と、嬉しそうにした。
搾取が厳しい[神之国]で、他国の者が商売するのは何かと難しいため、特例が認められている冒険者に依頼する者は割と多い。
つまりは、[神之国]が減っていけばいくほど自由度が高まり、誰もが今まで以上に潤うので、リワッドのような商売人たちにとっても、喜ばしい限りだという事である。
「またいつか、酒を酌み交わそう。」
と名残を惜しむ弥太郎に、
「ああ。」
と、リワッドが頷いた…。
取引所で換金した幾つもの魔鉱石は、金貨32枚と銀貨8枚になった。
サーヴァント以外の人族や獣人族の16名で、82枚の金貨を4枚ずつ分け合う。
残りの金銭は、全員分の食料を調達したり、飲み代や、宿賃に、消えるそうだ。
ちなみに、サーヴァントに装備品を購入してあげる際には、各マスターが支払わないといけない。
これは冒険者たちの間における〝暗黙の了解〟のようだ。
さて、紫蓮は〝刃を研ぐ〟か〝新たに買うか〟迷っていた。
そこに【侍】の先輩たる弥太郎が、
「当分は“鉄刀”が良いだろう。」
と助言する。
理由としては、「そっちの方が費用を抑えられるから」との事だ。
木刀ならぬ[鉄刀]は黒く、持ち手には厚手の布が包帯のように巻かれていた。
この、長さ1m20㎝の“鉄製の刀”は、銀貨8枚の料金だった。
続いて、
「服もだいぶ汚れているから、買い替えたらどうだ?」
と、弥太郎に促され、着物一式を新調する。
こちらは、“花浅葱”という色の羽織袴に、紺色の足袋と、雪駄の合計で、金貨2枚と銀貨5枚だった。
ラーザたちとギルドの表通りで合流する。
建物に設置されている銅製の玄関をラーザが開けたところ、四人分の幅がある廊下が見えた。
10Mくらい先には2階へ上る階段があり、その途中の左側には木製で観音開きの扉が確認できる。
そちらは酒場になっており、冒険者への仕事の斡旋所は上の階との事だ。
後ろを振り向いたラーザが、
「まずは、ボクたちにとって適度なクエストを探そう。」
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