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― 第一章・旅立ち ―
第4話 鮮紅の豹
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実家に花を供えた紫蓮が、両手を合わせて冥福を祈り終えると、長老が、
「やはり、考えは変わらんか?」
と、聞いてきた。
「ああ…。」
と頷く彼に、
「紫蓮ちゃん、私たちと行きましょ、安全な町へ。ね。」
と、陽香の母が何度目かの説得に当たったが、紫蓮は首を左右に振った。
最早、無理だと理解した長老が、静かに、
「達者での。」
と別れを惜しむ。
「皆も。」
と、答えた紫蓮は、形をとどめていない故郷を後にした。
彼らの国の南側に隣接している他国は、神々に支配されていない。
百年ほど前に独立したそうだ。
紫蓮は、取り敢えず、そこを目指した。
のだが…。
路銀を使い果たして4日が経ち、空腹のあまり道端に倒れたうえ、意識を失ってしまった。
幼少の頃から無鉄砲なところがあった彼らしい有様だ。
〝フ〟と目を覚ましたところ、夜空が視界に入ってきた。
それと共に、賑やかな声と、食べ物の匂いが、体内を駆け巡る。
上体を起こした彼に、
「お! 目覚めたか?!」
「だったら、こっちに来なよ!」
と一人の女性が声を掛けた。
どうやら、10人1組で焚火を囲んでいる、合計40名の団体のようだ。
状況を理解できないまま、彼女の輪に入ると、
「ボクは“ラーザ”。」
「この一味の団長を務めている。」
と、自己紹介してきた。
背中あたりまでの長さがある髪の毛はボサボサした感じだが、綺麗な赤色をしている。
肌は褐色で、体付きは筋肉質だ。
20代前半だろうか?
いずれにせよ、体育会系美女と言って差し支えないだろう。
どことなく少年っぽい顔つきでもあるが。
そのラーザが、右手の親指で隣の男性を指しながら、
「で、こっちが副団長の、弥太郎左衛門。」
と教えた。
腰あたりまでの長さの黒髪を後頭部で束ねており、黒色の着物に羽織と、灰色と白の縦縞袴に、足袋に雪駄という姿である、30代後半ぐらいで痩せ型の男性が、
「いや、弥太郎だ。」
「“左衛門”は、こいつが面白がって勝手に付け足しているだけだ。」
と、説明する。
紫蓮の左隣にいる40歳前後の太った男性が、串に刺して焼いた肉を、
「ほら、食べな。」
と手渡してくれた。
髪の毛と、鼻の下の髭は、どちらも茶色で、目は細く、優しそうな雰囲気だ。
とにかく腹が減りまくっていたのでガッツいてしまい、喉に詰まらせた紫蓮が、咽ぶ。
すると、彼の右隣にいる白髭が長い老体が、
「ほれ、若いの、これで一気に流し込め。」
と、樽型のコップを渡してきたので、〝ゴクゴク〟と飲む。
「ん?! これって…。」
〝ピタッ〟と止まった紫蓮に、その老人が、
「酒じゃ。」
ニカッと笑った。
この世界は、多くの国で15歳以上への飲酒喫煙を認めている。
それを知ってか知らずにか、酒を勧めてきたのだ。
人生で何回も味わった事のないアルコールに、紫蓮は一気に酔っ払った。
左隣の男性が、慌てて水を差し出してくれた。
「ところで、名前は? なんで路上でブッ倒れてたんだ?」
と矢継ぎ早に質問してきたラーザに、これまでの経緯を語る…。
「…、成程ね。そんなことが…。」
と、一同が居た堪れない気持ちになった。
重苦しい沈黙を破るかのように、紫蓮が、
「あんたらは何者なんだ? さっき“団体”って…。」
と窺ってみたら、
「んー、…まぁ、その…、“パーティー”なんだけど、さ…。」
と、ラーザが口を濁す。
それを弥太郎が〝ニヤニヤ〟しながら、
「俺たちは“鮮紅の豹一団”だ。」
と発言した。
「あー、もう! やっぱり嫌だ、それ!!」
と、ラーザが両手で自身の頭を掻きむしる。
〝キョトン〟とする紫蓮に、弥太郎が、
「パーティーを組む前から、ラーザは“鮮紅の豹”と呼ばれていた。」
「で、それをそっくりそのまま、俺たちのパーティー名にしたって訳だ。」
「多数決の結果な。」
と詳細を述べ終えたところ、
「ボクは、そもそも、その“せんこうのナンチャラ”とかいう二つ名に抵抗があって、つまりは…、恥ずかしいんだ!」
と、ラーザがむくれた。
それに対して「ヒッヒッヒッヒッ」とほくそ笑む弥太郎に、太っている男性が、
「弥太だって、昔、“漆黒の狼”って呼ばれてたじゃんか。」
とツッコんだ。
「うッ!」と言葉を詰まらせる弥太郎に、ラーザが〝ニヤァ~〟と口元を緩めた―。
「やはり、考えは変わらんか?」
と、聞いてきた。
「ああ…。」
と頷く彼に、
「紫蓮ちゃん、私たちと行きましょ、安全な町へ。ね。」
と、陽香の母が何度目かの説得に当たったが、紫蓮は首を左右に振った。
最早、無理だと理解した長老が、静かに、
「達者での。」
と別れを惜しむ。
「皆も。」
と、答えた紫蓮は、形をとどめていない故郷を後にした。
彼らの国の南側に隣接している他国は、神々に支配されていない。
百年ほど前に独立したそうだ。
紫蓮は、取り敢えず、そこを目指した。
のだが…。
路銀を使い果たして4日が経ち、空腹のあまり道端に倒れたうえ、意識を失ってしまった。
幼少の頃から無鉄砲なところがあった彼らしい有様だ。
〝フ〟と目を覚ましたところ、夜空が視界に入ってきた。
それと共に、賑やかな声と、食べ物の匂いが、体内を駆け巡る。
上体を起こした彼に、
「お! 目覚めたか?!」
「だったら、こっちに来なよ!」
と一人の女性が声を掛けた。
どうやら、10人1組で焚火を囲んでいる、合計40名の団体のようだ。
状況を理解できないまま、彼女の輪に入ると、
「ボクは“ラーザ”。」
「この一味の団長を務めている。」
と、自己紹介してきた。
背中あたりまでの長さがある髪の毛はボサボサした感じだが、綺麗な赤色をしている。
肌は褐色で、体付きは筋肉質だ。
20代前半だろうか?
いずれにせよ、体育会系美女と言って差し支えないだろう。
どことなく少年っぽい顔つきでもあるが。
そのラーザが、右手の親指で隣の男性を指しながら、
「で、こっちが副団長の、弥太郎左衛門。」
と教えた。
腰あたりまでの長さの黒髪を後頭部で束ねており、黒色の着物に羽織と、灰色と白の縦縞袴に、足袋に雪駄という姿である、30代後半ぐらいで痩せ型の男性が、
「いや、弥太郎だ。」
「“左衛門”は、こいつが面白がって勝手に付け足しているだけだ。」
と、説明する。
紫蓮の左隣にいる40歳前後の太った男性が、串に刺して焼いた肉を、
「ほら、食べな。」
と手渡してくれた。
髪の毛と、鼻の下の髭は、どちらも茶色で、目は細く、優しそうな雰囲気だ。
とにかく腹が減りまくっていたのでガッツいてしまい、喉に詰まらせた紫蓮が、咽ぶ。
すると、彼の右隣にいる白髭が長い老体が、
「ほれ、若いの、これで一気に流し込め。」
と、樽型のコップを渡してきたので、〝ゴクゴク〟と飲む。
「ん?! これって…。」
〝ピタッ〟と止まった紫蓮に、その老人が、
「酒じゃ。」
ニカッと笑った。
この世界は、多くの国で15歳以上への飲酒喫煙を認めている。
それを知ってか知らずにか、酒を勧めてきたのだ。
人生で何回も味わった事のないアルコールに、紫蓮は一気に酔っ払った。
左隣の男性が、慌てて水を差し出してくれた。
「ところで、名前は? なんで路上でブッ倒れてたんだ?」
と矢継ぎ早に質問してきたラーザに、これまでの経緯を語る…。
「…、成程ね。そんなことが…。」
と、一同が居た堪れない気持ちになった。
重苦しい沈黙を破るかのように、紫蓮が、
「あんたらは何者なんだ? さっき“団体”って…。」
と窺ってみたら、
「んー、…まぁ、その…、“パーティー”なんだけど、さ…。」
と、ラーザが口を濁す。
それを弥太郎が〝ニヤニヤ〟しながら、
「俺たちは“鮮紅の豹一団”だ。」
と発言した。
「あー、もう! やっぱり嫌だ、それ!!」
と、ラーザが両手で自身の頭を掻きむしる。
〝キョトン〟とする紫蓮に、弥太郎が、
「パーティーを組む前から、ラーザは“鮮紅の豹”と呼ばれていた。」
「で、それをそっくりそのまま、俺たちのパーティー名にしたって訳だ。」
「多数決の結果な。」
と詳細を述べ終えたところ、
「ボクは、そもそも、その“せんこうのナンチャラ”とかいう二つ名に抵抗があって、つまりは…、恥ずかしいんだ!」
と、ラーザがむくれた。
それに対して「ヒッヒッヒッヒッ」とほくそ笑む弥太郎に、太っている男性が、
「弥太だって、昔、“漆黒の狼”って呼ばれてたじゃんか。」
とツッコんだ。
「うッ!」と言葉を詰まらせる弥太郎に、ラーザが〝ニヤァ~〟と口元を緩めた―。
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