上 下
54 / 60

54.想起

しおりを挟む
総監がソファに腰掛ける。
ローテーブルを挟んだ対面には、副総監と、十四番隊の隊長が、並んで座った。
「さて、現状だが…。」
「報告にあった、千葉、神奈川、新潟、石川、この四県の“H.H.S.O”に連絡して、三上みかみの行方を調べさせているところだ。」
「各地元の警察に協力を依頼してな。」
「あと、“千里眼せんりがんの能力者”には、とりあえず千葉に赴いてもらった。」
こう伝えた総監を、
「最近まで、そのようなスキル持ちが所属しているなんて、知りませんでしたが?」
副総監が窺う。
「ま、アイツは、能力を二つ・・扱えるからな。」
当たり前のように告げた総監に、
「そんな人間が存在しているのですか?!」
「妖魔ですら一つしか使えない筈ですけど??」
驚きを隠せない様子の副総監であった。
〝うむ〟と頷いた総監は、
「彼女は半妖・・でな……。」
「研究施設でのクーデターに加わらなかった者らの生き残りの1人だ。」
「そういった連中は、あの頃の首相が、政府の一部に暫く保護させた後に、全国各地の里親に託した。」
「できるだけ秘密裏にな。」
「あと…、半妖のなかには、稀にスキルを二つ取得している者がおるらしい。」
「ちなみに、千里眼の能力者は、〝自分が受けたダメージを倍にして返す〟といったスキルを持ち合わせている。」
「普段はそっち・・・を発動して、千里眼の件は隠し続けてきたからな、初耳であっても無理はなかろう。」
そのように説明したのである。
「成程、そうでしたか。」
理解を示した副総監が、
つかさんは、ご存知で?」
[十四番隊の隊長]に確認したら、
「ええ、まぁ。」
静に肯定したのだった。
「もともと、塚は、俺とかと同じ“H.H.S.O”の前身である“日本妖魔対策特殊隊”の初期メンバーだったからな。」
「何かと把握しておる。」
こう教えた総監が〝はぁ――〟と息を吐き、
「“H.H.S.O”に変わる際、〝副総監に就任するよう〟要請したのに、断りおって。」
「〝ならば関東司令官に〟と頼んでも、最後まで首を縦には振らんかった。」
「いろいろと説得を試みた結果、ようやく“十四番隊の隊長”を引き受けたという経緯いきさつがある。」
「……、ったく!!」
「思い出しただけで腹が立ってきた。」
塚を軽く睨んだ。
「何度も言ったじゃないですか。」
「〝責任のある立場は自分には重荷でしかありません〟〝平隊員のままで結構です〟って。」
“困り顔”になった塚ではあったものの、
「しかし…、自分が、せめて関東司令官になっておけば、このような事態には繋がらなかったかもしれませんね。」
「三上君を牽制できて……。」
すぐに真剣な表情となったのである。
「ふぅ~む。」
左手で顎髭あごひげを撫でた総監は、
「そうとも限るまい。」
「ま、確かに、関東司令官のポジションに就いたことで、アイツは内部での発言権や影響力を増していった。」
「それによって動きやすくなったのは間違いなかろう。」
「だが…。」
「そうならなかったとしても、〝新世界を創る〟とかいう企ては推し進めただろうよ。」
塚に話しかけた流れで、
「……、その“新世界”とやらが何を意味しているのかまでは知らんが、早いとこ三上を見つけ出して、食い止めねばなるまい。」
「大惨事を引き起こしそうな嫌な予感がしてならん。」
忌々しそうにした。
「…………。」
「それが〝今後について〟の話しでしょうか??」
副総監に質問され、
「あ、いや…。」
「ちと悪いんだが、十四番隊から誰か1人だけ十三番隊に回してもらいたい。」
「抜けた架浦みつうらの穴を埋める為に。」
「どちらの隊も歌舞伎町がテリトリーだからな、無難だろう。」
塚隊長へと視線を送った総監である……。
 
一方その頃。
十三番隊&十四番隊は…、割と盛り上がっていた。
 
 

あれから五日が経っている。
AM07:55あたり、[東京組第十三番隊]の“事務室”にて……。
「本日付けでこちらに配属されました小津間翔こづましょうです!」
「よろしくお願いします!!」
〝ビシッ!〟と敬礼したのは、背丈155㎝くらいの青年であった。
髪は〝金色ショートパーマ〟である。
「こちらこそ、よろしくお願いしますね。」
優しく微笑む沖奈朔任おきなさくと隊長に、
「はい!!」
小津間が元気よく頭を下げた。
この場には、十三番隊の全員が集まっている。
沖奈が、急遽、そういうシフトに組み直したらしい。
「コッズー、おひさぁ~。」
宮瑚留梨花みやこるりかに声をかけられ、
「お久しぶりです!」
小津間が挨拶した。
彼は、先日の“飲み会”に参加していた人物である。
「ようこそ、十三番隊へ。」
歓迎した鐶倖々徠かなわささら副隊長に、
「ありがとうございます!!」
「まだ新人ではありますが、全身全霊で働く所存です!」
小津間が会釈した。
大袈裟おおげさですねぇ。」
「もっと気楽で構いませんよ。」
穏やかに沖奈が伝えたところ、
「いえ、その…。」
「十三番隊への移動を報らされたとき、十四番隊の原城はらき副隊長が〝私と替わりなさい!!〟と騒ぎだしまして……。」
「塚隊長に〝もう決まったことだから〟と却下された途端、暴れようとしたので、数人がかりでなだめた次第です。」
「原城副隊長は、どうにかこうにか落ち着いたんですが、納得はいかなったみたいで…、〝沖奈隊長を煩わせないよう命懸けで尽くせ〟〝さもなければ私が殺す〟と脅されました。」
ふと遠くを見た小津間である。
それに対して、
「あぁー、……、なんか想像つくわ。」
宮瑚もまた目を細めた。
「そんなに十三番隊が好きなのかな?」
こうした意川敏矢いかわとしやの疑問に、
「きっと、そうなんだろう。」
筺健かごまさるが〝うん うん〟と頷く。
更には、
「多くの人から愛される組織というのは良いものですね。」
〝ニコニコ〟しだす沖奈である。
いずれにしろ。
おもいっきり勘違いしている男性陣を余所よそに、原城が配属されなかった事を秘かに安堵する隈本一帆くまもとかずほだった―。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

INNER NAUTS(インナーノーツ) 〜精神と異界の航海者〜

SunYoh
SF
ーー22世紀半ばーー 魂の源とされる精神世界「インナースペース」……その次元から無尽蔵のエネルギーを得ることを可能にした代償に、さまざまな災害や心身への未知の脅威が発生していた。 「インナーノーツ」は、時空を超越する船<アマテラス>を駆り、脅威の解消に「インナースペース」へ挑む。 <第一章 「誘い」> 粗筋 余剰次元活動艇<アマテラス>の最終試験となった有人起動試験は、原因不明のトラブルに見舞われ、中断を余儀なくされたが、同じ頃、「インナーノーツ」が所属する研究機関で保護していた少女「亜夢」にもまた異変が起こっていた……5年もの間、眠り続けていた彼女の深層無意識の中で何かが目覚めようとしている。 「インナースペース」のエネルギーを解放する特異な能力を秘めた亜夢の目覚めは、即ち、「インナースペース」のみならず、物質世界である「現象界(この世)」にも甚大な被害をもたらす可能性がある。 ーー亜夢が目覚める前に、この脅威を解消するーー 「インナーノーツ」は、この使命を胸に<アマテラス>を駆り、未知なる世界「インナースペース」へと旅立つ! そこで彼らを待ち受けていたものとは…… ※この物語はフィクションです。実際の国や団体などとは関係ありません。 ※SFジャンルですが殆ど空想科学です。 ※セルフレイティングに関して、若干抵触する可能性がある表現が含まれます。 ※「小説家になろう」、「ノベルアップ+」でも連載中 ※スピリチュアル系の内容を含みますが、特定の宗教団体等とは一切関係無く、布教、勧誘等を目的とした作品ではありません。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...