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43.布石

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千代田区に在る[H.H.S.O]の“本部”は、二階建てながらも割と広い施設になっている。
ここは、総監・副総監・関東司令官・東京組第一番隊の拠点なのだそうだ。
また、妖魔とひずみや異能力に関する研究調査も行なわれており、専門の学者たちも勤めているらしい。
その一室で、
「総監、沖奈朔任おきなさくと隊長から、お電話です。」
“業務用のスマホ”を、女性秘書が差し出した。
アンティークなテーブル席にて、
「うむ。」
軽く反応を示した男性が、左手で受け取る。
年齢は60代前半だろうか?
パーマがかったセミロングの“白い髪”を、オールバックにしていた。
口の周りに蓄えている髭や、眉も、ホワイトである。
丸メガネは、どうやら老眼鏡のようだ。
ちなみに、結構いいガタイをしている。
こうした容姿の総監が、
「私だ。」
渋めの声を発したのであった。
 
電話の向こう側…。
[東京組第十三番隊]の“事務室”にて。
「ご無沙汰しております。」
沖奈が穏やかに喋る。
『ああ、久しいな……。』
『で??』
『どうなった?』
総監に問われ、
「すみません。」
「相手はスキルの制限時間を偽っていたようでして…、結果、逃げられてしまいました。」
苦笑いする沖奈に、
『そうか。』
『……、残念ながら、こっちも失敗だ。』
『勘づかれてしまっていたのか、関東司令官は出勤しておらず、取り押さえられなかった。』
『本人の住居へと、一番隊の数名を向かわせたが、消息不明になっている。』
『現在は、“千里眼”で見つけてもらおうとしている最中だ。』
『ただ…、〝宮瑚留梨花みやこるりかは地元の警察署に赴いている〟と、八十八番隊が先ほど連絡してきた。』
そのように教える総監だった。
「抵抗しなかったんですか??」
『ああ、すんなりと応じたらしい。』
「と、なると……、宮瑚さんはシロ・・かもしれませんね。」
「まだ断言は出来ませんが。」
『ふむ…。』
『まぁ、そこら辺は、追々、判明するだろう。』
『それよりも。』
『他の隊にも潜んでいるはずのどもにいまだ動きがないのが気掛かりだ。』
「……。」
「関東司令官が黒幕なのか、或いは、更に上の存在がいるのかは、知りませんが…、どっちにしても指示を待っているのでしょう。」
『つまり……、そのうち騒ぎを起こす、と?』
「そうかもしれませんし、別の企てがあるのかもしれません。」
「どちらにせよ、何かしら狙っているのだろうと考えられます。」
『うぅ~む。』
『連中の目論見もくろみが分からんとなると、正直、厄介だな。』
「ええ、仰る通りです。」
『…、ふぅー。』
『それで??』
『お前は、これから、どうするつもりだ?』
架浦みつうらさんを捕まえようと思っています。」
「それが、隊長としてのケジメですし。」
『居場所は推測できているのか??』
「はい。」
「十中八九あそこに逃げ込んだかと……。」
「いえ、寧ろ、待ち構えているかもしれませんね。」
『それなりの数の敵どもが合流していた場合は、返り討ちにされてしまうかもな。』
「ええ、確かに。」
「そこで、お願いがあるのですが…。」
『なんだ?』
『遠慮なく言ってみろ。』
総監に促されて、沖奈が語っていく……。
 
改めての“総監室”で、
「――、成程。」
「良かろう、手配してやる。」
[H.H.S.O]の“最高責任者”が、沖奈の頼みを承諾する。
「だが。」
「一時間半から二時間は要するぞ。」
こう告げられ、
『了解です。』
『こちらとしては、パトロール中である副総監派にも状況を説明したいところでして…、あと一時間は戻って来な、あ!』
『副総監と関東司令官が繋がっていると想定したならば、うちの二人とは戦闘になりかねませんね。』
喋っていた沖奈が、途中で、ふと危惧した。
「それなら問題ない。」
「副総監とは既に話したが、彼女は、十三番隊の初代隊長と友人関係だったらしい。」
「互いに忙しくなり、もう何年も会えていなかったときに、あの事件が起きたのだそうだ。」
「そのため、かたきを取りたい副総監は、こちらの味方である。」
「我々を騙してさえいなければだがな。」
『そうですか。』
『では、念の為に警戒しておきます。』
「ああ、それに越したことはあるまい。」
『情報を提供していただき、ありがとうございました。』
『それでは、これにて失礼します。』
「うむ。」
「そっちは任せたぞ、沖奈。」
と、やり取りを終えて、ほぼ同時に電話を切ったのである……。
 
筺健かごまさる緋島早梨衣ひしまさりい隈本一帆くまもとかずほに、
「お聞きになっていたとおりです。」
沖奈が声をかけた。
重苦しい空気に包まれるなか、
「副隊長たちは敵じゃないんすよね??」
眉をひそめながら緋島が尋ねる。
それに対して、
「お二人が帰って来ない事には、なんとも。」
首を横に振った沖奈が、
「なので、とりあえず、普段の仕事に専念…、いえ、やっぱり、下の喫茶店に行きましょうか、30分ぐらい。」
「皆さん、一度、落ち着きたいでしょうからね。」
「僕がおごりますよ。」
優しく微笑んだ。
 
 

PM15:00過ぎ。
第十三番隊の“事務所”に、鐶倖々徠かなわささら副隊長&意川敏矢いかわとしやが入室してきた。
沖奈と目が合うなり、
「巡回していた時に、副総監から一報がありました。」
「架浦さんと宮瑚さんは、どちらに?」
真剣な顔つきで鐶が伺う。
これを受けて、
「その件と、今後の方針について、お伝えしていきます。」
穏やかに述べる沖奈隊長であった―。
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