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41.正体

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翌日――。
沖奈朔任おきなさくと隊長と宮瑚留梨花みやこるりかは休みである。
が。
PM14:00頃に、隊服・マント・帽子といった格好の沖奈が[事務所]に現れた。
ディスク席に座っている緋島早梨衣ひしまさりいが気づいて、
「どうしたんすか??」
何気に尋ねる。
これによって、筺健かごまさる隈本一帆くまもとかずほも顔を上げた。
なお、鐶倖々徠かなわささら副隊長&意川敏矢いかわとしやはパトロール中である。
「架浦さんは、どちらに?」
沖奈が質問したところ、
「タバコを吸いに行ってるみたいですが…。」
筺が答えた。
そこに、ドアを〝ガチャッ〟と開けた架浦聖徒みつうらせいんとが、
「ん?? 隊長。」
「……、なんか急用か?」
軽く首を傾げる。
「いえ、まぁ、…、本当は昨日のうちに動くつもりだったのですが、総監と相談した結果、このタイミングになってしまいました。」
こう伝えた沖奈に、
「何がだ??」
架浦が眉をひそめた。
「……。」
「まわりくどいことは無しにして、単刀直入にお伺いします。」
「架浦さん。」
「あなたは、関東司令官によって十三番隊に送り込まれた“スパイ”ですよね?」
そのように沖奈が指摘したら、
「なにッ?!」
筺と、
「マジか!?」
緋島が、ほぼ同時に立ち上がったのである。
一帆は椅子に腰かけたままビックリしている。
「は??!」
「なぁ~に言ってんだよ、隊長。」
「オレには意味が分かんねぇんだけど。」
おどける架浦に、
とぼけても無駄ですよ。」
〝ニッコリ〟した沖奈が、
「これから根拠を述べさせていただきますが、その前に……。」
銃口を向けて、
「能力を扱えないよう、後頭部で手を組んでください。」
「さもなければ、ちますよ。」
こう促したのであった。
「…、目が笑ってねぇな。」
「つー事は、本気って訳か。」
〝はぁー〟と溜息をいた架浦が、沖奈に従う。
歩いて来た筺/緋島/一帆が、ソファの近くで止まったところで、
「では、説明しましょう。」
沖奈が告げる。
「まず、〝元研究所あたりを漠皁組まくそうぐみ若頭かしらがうろついているみたいだ〟といった情報を〝警察が連絡してくれた〟と話しましたが、あれは嘘です。」
「実際は、数日前に、僕が総監に頼んで、東京組第二番隊に所属している“千里眼のスキル持ち”の方に捜索してもらいました。」
「ご自身は通常の職務と並行しながらだったので、いささか時間を要しましたが……、漠皁組の組長や幹部の証言をもとに、その特徴に一致した人物を見つけ出してくださったんですよ。」
そう教えた沖奈に、
「千里眼??」
「そんな能力者が“H.H.S.O”に居るなんて、初耳だが?」
架浦が不思議そうにした。
「まぁ、そうでしょう。」
おおやけには〝別のスキル〟ということにされていますからね。」
「まだ関東司令官は入隊していなかったみたいなので、架浦さん達も把握できていないのは当然です。」
このように沖奈が返したところ、
「成程、ねぇ。」
「それで…。」
「その千里眼を使って、オレが元研究所に向かっているのも掴んだって事か??」
架浦が訊ねたのである。
しかし、
「いえ、違います。」
そう否定して、
「あれは、僕の考えによるものです。」
「“H.H.S.O”に潜伏しているであろうたちと反社に、なんらかの関係性があるのならば、〝誰かしらが若頭を案じて接触を試みるだろう〟と睨みましてね。」
「朝早くから敷地の近くで見張っていたところ、あなたの車が視界に入ったので、すぐに追い掛けたという次第ですよ。」
穏やかに語る沖奈だった。
これに対し、
「いやいや。」
「あんとき、〝親族の供養だ〟つっただろ。」
「たまたま、偶然にも、オレが訪れたってだけで、“スパイ”と決めつけんのは強引すぎやしねぇか?」
架浦が眉間にシワを寄せる。
「そうですね。」
〝ふむ〟と頷いた沖奈が、
「“慰霊”というのは、ある程度は本当なのでしょう。」
「ただ……。」
「あなたには不審な点があるのですよ。」
「あの施設内に入るとき〝妖魔対策課の許可を得た〟みたいなやり取りをした際に、あなたは釈然としていませんでしたね。」
「何故です??」
そのように問われ、
「そりゃあ…。」
架浦が返答に詰まった。
「僕の憶測にすぎませんが、あの組織にも、あなた達のお仲間・・・が潜んでいるのでしょう?」
「なので、あなたは、〝許可などもらえる筈がない〟と思って、驚いたのです。」
沖奈の分析によって、架浦がきゅうする。
「まぁ、こちらが潰されかねないので、実際のところは無断でしたけどね。」
いたずらっ子のように微笑む沖奈に、
「なッ?!」
架浦が唖然とした。
これを余所よそに、
「それと、もう一つ。」
「階段の左横に“デッドスペース”がありましたが……。」
「そこへ足を運ぼうとした僕を、あなたは止めましたよね。」
「あの“正面の壁”は開閉するんじゃないですか??」
「そして、“隠し通路”なりが現れるのでしょう。」
沖奈が推理を続けたら、
「さぁ??」
「オレは、なんにも知らねぇけど?」
少なからず視線を逸らす架浦であった。
「僕は事前に、あそこの設計図を、脳内にインプットしておいたので、間違いありませんよ。」
沖奈が伝えたところ、
「バカな!?」
「そういうたぐいの物は、既に関東司令官が消去して」と喋りかけた架浦が、〝ハッ!〟としたのである。
「尻尾を出しましたね。」
〝ニコッ〟とした沖奈は、
「確かに、図面などは存在していません。」
そのように述べたのだった。
「まんまと騙されちまったぜ。」
「さすがに頭が良いな、隊長は。」
半ば感心する架浦を、
「いや。」
「オメェの知能が低いだけだろ。」
緋島がツッコんだ。
これに、
「うっせぇ!!」
ムキになった架浦である。
とかく。
「さ。」
「架浦さん。」
「刑事さんが二人、外で待っていらっしゃいますので、僕と一緒に降りましょう。」
そう促す沖奈であった―。
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