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30.暗雲・序
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その日は、宇山と稲村の“刑事コンビ”が、[H.H.S.O 東京組第十三番隊]の事務所に足を運んでいた。
「――、という訳でして、被疑者である貴方に任意同行を求めます。」
岩田デカの殺害や、埼玉県の“元ラブホ”で起きたことに、レンタカーの件を、大まかに伝えた稲村が、沖奈朔任隊長を促したのである。
これを聞いていた隊員たちが動揺するなか、
「分かりました。」
「それでは、赴くとしましょう。」
落ち着きはらって椅子から立ち上がる沖奈だった。
「そういうことで留守にしますので、あとは、鐶副隊長のもと、皆さん、よろしくお願いします。」
「まさか再び警察署で聴取されるとは思いもよりませんでしたが…、今回も無実を証明して返ってきますので、安心してください。」
微笑んで告げた沖奈が、刑事らと、退室していく。
時刻はPM15:45過ぎであった。
なお、本日は、筺健と、隈本一帆が、休みのようだ……。
▼
沖奈は、“覆面パトカー”で、署へと訪れた。
[拳銃]と[スタンガン式警棒]は、使われると危険なので、提出させられている。
取り調べを担当しているのは宇山だ。
マジックミラーの向こうには、稲村や、森川に、数人の刑事が、注視していた。
「犯行があったとされている早朝五時ごろですか…。」
「まだ寝ていましたね、完全に。」
「そういう意味では、僕にアリバイはありません。」
「ですが……、僕が暮らしているマンションと周辺の防犯カメラを調べてもらえれば、前日の夜8時半あたりから当日の朝7時半くらいまで、自宅から出ていないことが証明されるかと思います。」
「それに、僕であれば、車をレンタルするといった、わざわざ人目に付くことはしませんよ。」
「まるで〝自分こそが犯人である〟とアピールしているようなものじゃないですか。」
沖奈の発言によって、
「お前たちは、管理会社に説明して映像を確認してくれ。」
森川が、後輩のデカらに指示したのである。
「はい。」
と応じた二人の刑事が、部屋から去っていくなか、
「仰るとおりですね。」
「ただ…、念の為に“ポリグラフ検査”を行なっても?」
宇山に訊かれ、
「ええ、構いませんよ。」
理解を示す沖奈だった。
ちなみに、この時代の“噓発見器”は、ひと昔前に比べて、98~100%と精度が一層に高くなっている……。
“最新の機械”をセッティングした後に、宇山が質問していく。
沖奈は、全て〝いいえ〟と答えねばならない。
やり方としては…、「犯行に使った凶器は包丁ですか??」「鉄パイプですか?」「金属バット??」「ピストル?」といった具合に尋ねていき、反応をチェックする。
警察がマスコミに公表していない場合、どんな武器なのかは当事者しか知りえない情報なので、そこにだけ反応が集中するという訳だ。
他にも、貸し出された車の種類や、殺害された俟團組の人数も、聞いていく予定らしい。
沖奈は、こういった詳細について、前もって教えてもらっていなかった……。
▼
その頃、PM16:00を回ったので、[H.H.S.O 東京組第十三番隊]から二名がパトロールしている。
町中を歩きつつ、俯き加減で眉間にシワを寄せている緋島早梨衣に、
「きっと大丈夫だよ、サリーちゃん。」
「“さっくんたいちょー”が犯人なわけないって。」
宮瑚留梨花が心配して話しかけた。
顔を上げ、
「ああ、…、だな。」
「アタシも、そう、信じてるよ。」
頷いた緋島ではあったが、どことなく不安そうだ。
「もぉう、らしくないなぁ! !」
「元気だしなよ、サリーちゃん!」
背中を、宮瑚の左手で〝バシンッ!!〟と叩かれ、
「いっ、てぇーなッ!」
イラついて睨んだものの、
「まさか、オメェに励まされる日が来るとは……、我ながら情けないわ。」
〝フッ〟と笑みを零す緋島であった。
「なにそれぇ~!?」
「失礼だぞ、サリーちゃん!」
〝ぷくぅ~ッ〟と“ふくれっ面”になった宮瑚を余所に、自身の腕を組んだ緋島が、
「それにしても、隊長じゃないとしたら、本人そっくりなヤツが存在してるってことか??」
このような疑問を呈する。
それに対して、
「んん~、どーだろう?」
「…、ま、〝世の中には、自分に似たヒトが3人はいる〟って言うから、かのぉうせいは、あるかもね。」
宮瑚が述べたところ、
「あー、……、いや、そういうのは“都市伝説”だろ?」
緋島が眉をひそめたのである。
これをきっかけに、その類で盛り上がっていく二人だった。
▼
PM17:30になろうかとしている。
稲村が入室してきた流れで、宇山に何やら耳打ちした。
「そうか…。」
呟いた宇山が、
「沖奈さん。」
「うちの刑事たちが防犯カメラの映像を確かめたら、あの時間帯、貴方に不審な点はなかったことが認められました。」
「それと、用いられた凶器は拳銃なのですが、ポリグラフ検査での反応はありませんでしたし……。」
「預からせていただいたピストルの弾丸と、現場に落ちていた薬莢とを、秘かに照らし合わせたところ、〝別物である〟との結果になったそうです。」
「よって…、これにて終了といたします。」
このように告げたのである。
署の外にて。
沖奈が[拳銃]と[警棒]を返してもらっていたら、近くの電柱に止まっていたカラスが何処かへと飛び立った。
そんなことには気づかず、
「度々、ご協力いただき、ありがとうございました。」
宇山が頭を下げ、これに稲村が倣う。
「いいえ、ご苦労様です。」
会釈した沖奈が、去っていくなか、
「結局、謎が深まっただけでしたね。」
稲村が渋い表情となる。
右手で後頭部を〝ボリボリ〟と掻いた宇山は、
「まぁ、根気強くやってくしかねぇな。」
軽く〝はぁー〟と溜息を吐いた。
二名のデカが建物内へと戻っていったところで、沖奈のスマホが鳴ったようだ。
沖奈は、[非通知]であることに〝はて??〟と首を傾げるも、
「もしもし?」
とりあえず電話に応じる。
『オキナサクト、二、チガイ、ナイナ??』
男性と女性とが混じったかのような“音声”に、
「どなたです?」
沖奈が訊ねた。
これを無視して、
『クマモトカズホ、ヲ、アズカッテ、イル。』
『カエシテ、ホシケレバ、コチラガ、シテイスルバショ、マデ、イマカラ、ヒトリデ、コイ。』
『サモナイト、クマモトカズホ、ノ、イノチハナイ、ト、オモエ。』
“何者か”が、そう述べたのである。
天候は、今にも雨が降ってきそうな空模様だった―。
「――、という訳でして、被疑者である貴方に任意同行を求めます。」
岩田デカの殺害や、埼玉県の“元ラブホ”で起きたことに、レンタカーの件を、大まかに伝えた稲村が、沖奈朔任隊長を促したのである。
これを聞いていた隊員たちが動揺するなか、
「分かりました。」
「それでは、赴くとしましょう。」
落ち着きはらって椅子から立ち上がる沖奈だった。
「そういうことで留守にしますので、あとは、鐶副隊長のもと、皆さん、よろしくお願いします。」
「まさか再び警察署で聴取されるとは思いもよりませんでしたが…、今回も無実を証明して返ってきますので、安心してください。」
微笑んで告げた沖奈が、刑事らと、退室していく。
時刻はPM15:45過ぎであった。
なお、本日は、筺健と、隈本一帆が、休みのようだ……。
▼
沖奈は、“覆面パトカー”で、署へと訪れた。
[拳銃]と[スタンガン式警棒]は、使われると危険なので、提出させられている。
取り調べを担当しているのは宇山だ。
マジックミラーの向こうには、稲村や、森川に、数人の刑事が、注視していた。
「犯行があったとされている早朝五時ごろですか…。」
「まだ寝ていましたね、完全に。」
「そういう意味では、僕にアリバイはありません。」
「ですが……、僕が暮らしているマンションと周辺の防犯カメラを調べてもらえれば、前日の夜8時半あたりから当日の朝7時半くらいまで、自宅から出ていないことが証明されるかと思います。」
「それに、僕であれば、車をレンタルするといった、わざわざ人目に付くことはしませんよ。」
「まるで〝自分こそが犯人である〟とアピールしているようなものじゃないですか。」
沖奈の発言によって、
「お前たちは、管理会社に説明して映像を確認してくれ。」
森川が、後輩のデカらに指示したのである。
「はい。」
と応じた二人の刑事が、部屋から去っていくなか、
「仰るとおりですね。」
「ただ…、念の為に“ポリグラフ検査”を行なっても?」
宇山に訊かれ、
「ええ、構いませんよ。」
理解を示す沖奈だった。
ちなみに、この時代の“噓発見器”は、ひと昔前に比べて、98~100%と精度が一層に高くなっている……。
“最新の機械”をセッティングした後に、宇山が質問していく。
沖奈は、全て〝いいえ〟と答えねばならない。
やり方としては…、「犯行に使った凶器は包丁ですか??」「鉄パイプですか?」「金属バット??」「ピストル?」といった具合に尋ねていき、反応をチェックする。
警察がマスコミに公表していない場合、どんな武器なのかは当事者しか知りえない情報なので、そこにだけ反応が集中するという訳だ。
他にも、貸し出された車の種類や、殺害された俟團組の人数も、聞いていく予定らしい。
沖奈は、こういった詳細について、前もって教えてもらっていなかった……。
▼
その頃、PM16:00を回ったので、[H.H.S.O 東京組第十三番隊]から二名がパトロールしている。
町中を歩きつつ、俯き加減で眉間にシワを寄せている緋島早梨衣に、
「きっと大丈夫だよ、サリーちゃん。」
「“さっくんたいちょー”が犯人なわけないって。」
宮瑚留梨花が心配して話しかけた。
顔を上げ、
「ああ、…、だな。」
「アタシも、そう、信じてるよ。」
頷いた緋島ではあったが、どことなく不安そうだ。
「もぉう、らしくないなぁ! !」
「元気だしなよ、サリーちゃん!」
背中を、宮瑚の左手で〝バシンッ!!〟と叩かれ、
「いっ、てぇーなッ!」
イラついて睨んだものの、
「まさか、オメェに励まされる日が来るとは……、我ながら情けないわ。」
〝フッ〟と笑みを零す緋島であった。
「なにそれぇ~!?」
「失礼だぞ、サリーちゃん!」
〝ぷくぅ~ッ〟と“ふくれっ面”になった宮瑚を余所に、自身の腕を組んだ緋島が、
「それにしても、隊長じゃないとしたら、本人そっくりなヤツが存在してるってことか??」
このような疑問を呈する。
それに対して、
「んん~、どーだろう?」
「…、ま、〝世の中には、自分に似たヒトが3人はいる〟って言うから、かのぉうせいは、あるかもね。」
宮瑚が述べたところ、
「あー、……、いや、そういうのは“都市伝説”だろ?」
緋島が眉をひそめたのである。
これをきっかけに、その類で盛り上がっていく二人だった。
▼
PM17:30になろうかとしている。
稲村が入室してきた流れで、宇山に何やら耳打ちした。
「そうか…。」
呟いた宇山が、
「沖奈さん。」
「うちの刑事たちが防犯カメラの映像を確かめたら、あの時間帯、貴方に不審な点はなかったことが認められました。」
「それと、用いられた凶器は拳銃なのですが、ポリグラフ検査での反応はありませんでしたし……。」
「預からせていただいたピストルの弾丸と、現場に落ちていた薬莢とを、秘かに照らし合わせたところ、〝別物である〟との結果になったそうです。」
「よって…、これにて終了といたします。」
このように告げたのである。
署の外にて。
沖奈が[拳銃]と[警棒]を返してもらっていたら、近くの電柱に止まっていたカラスが何処かへと飛び立った。
そんなことには気づかず、
「度々、ご協力いただき、ありがとうございました。」
宇山が頭を下げ、これに稲村が倣う。
「いいえ、ご苦労様です。」
会釈した沖奈が、去っていくなか、
「結局、謎が深まっただけでしたね。」
稲村が渋い表情となる。
右手で後頭部を〝ボリボリ〟と掻いた宇山は、
「まぁ、根気強くやってくしかねぇな。」
軽く〝はぁー〟と溜息を吐いた。
二名のデカが建物内へと戻っていったところで、沖奈のスマホが鳴ったようだ。
沖奈は、[非通知]であることに〝はて??〟と首を傾げるも、
「もしもし?」
とりあえず電話に応じる。
『オキナサクト、二、チガイ、ナイナ??』
男性と女性とが混じったかのような“音声”に、
「どなたです?」
沖奈が訊ねた。
これを無視して、
『クマモトカズホ、ヲ、アズカッテ、イル。』
『カエシテ、ホシケレバ、コチラガ、シテイスルバショ、マデ、イマカラ、ヒトリデ、コイ。』
『サモナイト、クマモトカズホ、ノ、イノチハナイ、ト、オモエ。』
“何者か”が、そう述べたのである。
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