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29.急転
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少し遡って。
沖奈朔任隊長に隈本一帆が[歌舞伎町]を廻っていたPM14:45ごろ――。
宇山刑事と、後輩の男性は、[俟團組]が“危険薬物”を製造していた建物の、半径100M以内に設置されている幾つかの〝防犯カメラの映像〟を調べるため、管理会社に赴いていた。
あそこの室内で殺害された“岩田デカ”や、その犯人の、足どりを追うべくして。
動画を確認しつつ、
「あの倉庫みたいな工場付近には、防犯カメラが設置されてないみたいだな…。」
「これじゃ詳細が分からねぇ。」
宇山が下唇を〝キュッ〟と噛み締める。
彼の右隣で、画面をジッと見ている後輩が、
「あ。」
「この車、岩田さんのじゃないですか?」
夜道の赤信号で停まった自動車に〝ピン!〟ときみたいだ。
「……、間違いなさそうだな。」
そう答えた宇山が、
「ということは、イワさんを殺して成り済ましたやつは、その後、何食わぬ顔で、本人の車を乗り回していたって訳か…。」
「虫酸が走るぜ。」
怒りを堪えるかのような表情となっていた……。
運転席にて、
「結局、有力な手がかりは掴めませんでしたね。」
後輩刑事が話しかけた。
助手席の宇山は、
「取り敢えず、次はイワさんの自宅だ。」
「すぐに向かってくれ。」
目を合わさずに発車を促したのである。
走行中の車内で、
「そういえば、岩田さんて、独身でしたよね??」
後輩が尋ねた。
これに、
「あー、いや、もともとは既婚者だったが…、稲村が刑事に採用される以前に、離婚している。」
「“すれ違い”が原因でな。」
「もう、10年ぐらい昔のことだ。」
「それ以来、イワさんは、一人で暮らしていたよ。」
「実家は、東北じゃなかったっけ?」
宇山が記憶を辿る。
稲村こと“後輩の男性”が、
「そうでしたか……。」
「なんか、すみません。」
軽く頭を下げたところ、
「いや、俺に謝ったって仕方ないし…、お前が気にすることじゃねぇよ。」
穏やかに述べる宇山だった。
▼
岩田は都内の賃貸マンションで生活していたようだ。
PM15:05あたり、駐車場に到着した宇山と稲村は、そこから三階へと足を運んだのである……。
室内には、既に、別の刑事らや、鑑識たちが、訪れていた。
〝岩田が何かしらの記録を残していないか〟という可能性や、指紋を、調査するためである。
警察は、〝偽者が本人そっくりに整形して、ここに住んでいたと仮定した場合、異なる指紋が見つかるかもしれない〟と、考えたらしい。
リビングで、
「どうだ? 森川。」
宇山が、先に来ていた“同期の男性デカ”に問い掛けた。
「ん??」
左斜め後ろを向いた森川が、
「おぉ、宇山か…。」
「指紋の照合に関しては暫く時間を要するから、なんとも言えんが……、手帳などは存在していないみたいだ。」
「ま、犯人が既に消し去っているかもしれねぇがな。」
「どこか人目に付かない所で燃やしたりして。」
そのように伝える。
「そうか……。」
「司法解剖は??」
新たに訊ねた宇山に、
「そろそろ終わる頃だと思うんだが、まだ連絡はない。」
「そっちは、どうだったんだ?」
「防犯カメラ。」
森川が逆に質問した。
これに、宇山が無言で首を横に振ったのである。
▼
解剖の結果、整形した痕跡などは無く、岩田自身だと断定された。
また、指紋も本人のものばかりだったようだ。
犯人に繋がる情報が何一つ上がってこないなか、五日が過ぎている。
事件の難易度の高さから、誰もが“迷宮入り”を危惧し始めたときであった。
[俟團組]の下っ端が、一人で、埼玉県の或る警察署に出頭してきたのは…。
20代半ばで、スキンヘッドかつ華奢な男は、長袖の“柄シャツ”を着ていた。
そのチンピラによると、組員の3割ほどが、埼玉の小高い山に築かれた[元ラブホ]に隠れていたらしい。
とっくに廃墟となっている施設内に潜伏しつつ、時折、近辺への買い出しを交替で行なっていたのだそうだ。
今朝がた、飲食物を調達した“スキンヘッドの男”がホテルに帰ってきたところ〝仲間たちが死んでいた〟とのことである。
〝いくつもの銃傷からして、何者かに射殺されたみたいだ〟との証言だった。
こういった状況に、〝自分の命も狙われているかもしれない〟と思って怖くてたまらなくなった“チンピラ”は、〝警察が最も安全だろう〟と考えて、駆け込んだとの経緯である。
そんな男の自供によれば、あの日、宇山刑事らや、東京組第十三番隊の数名が、ビルに踏みこむ一時間半ぐらい前に、組長からの指示で、四つのグループに分かれて逃げたらしい。
現在、他の三チームが何処に居るのかまでは知らないが、ゆくゆくは高飛びした国で落ち合う約束になっていたそうだ。
また、“ドラッグ”の製造販売は〝漠皁組の命令だった〟とも白状している。
報告を受けた宇山たち“新宿警察”は、[漠皁組]を家宅捜索すべく、令状を取り付けることに決めた。
一方、地元の刑事らは、“廃ホテル”の実況検分と並行して、周囲の防犯カメラを何個かチェックしていったのである。
すると、犯行予想時刻の前後に、山に出入りする“一台の自動車”が映っていたのだ。
この持ち主を探したところ、レンタカーだったことが判明したらしい。
警察が、営業所の従業員たちに話しを聞くなどして、車を借りた人物の“似顔絵モンタージュ”を完成させたら、某人物に〝そっくり〟だったのである。
それは……、沖奈朔任であった―。
沖奈朔任隊長に隈本一帆が[歌舞伎町]を廻っていたPM14:45ごろ――。
宇山刑事と、後輩の男性は、[俟團組]が“危険薬物”を製造していた建物の、半径100M以内に設置されている幾つかの〝防犯カメラの映像〟を調べるため、管理会社に赴いていた。
あそこの室内で殺害された“岩田デカ”や、その犯人の、足どりを追うべくして。
動画を確認しつつ、
「あの倉庫みたいな工場付近には、防犯カメラが設置されてないみたいだな…。」
「これじゃ詳細が分からねぇ。」
宇山が下唇を〝キュッ〟と噛み締める。
彼の右隣で、画面をジッと見ている後輩が、
「あ。」
「この車、岩田さんのじゃないですか?」
夜道の赤信号で停まった自動車に〝ピン!〟ときみたいだ。
「……、間違いなさそうだな。」
そう答えた宇山が、
「ということは、イワさんを殺して成り済ましたやつは、その後、何食わぬ顔で、本人の車を乗り回していたって訳か…。」
「虫酸が走るぜ。」
怒りを堪えるかのような表情となっていた……。
運転席にて、
「結局、有力な手がかりは掴めませんでしたね。」
後輩刑事が話しかけた。
助手席の宇山は、
「取り敢えず、次はイワさんの自宅だ。」
「すぐに向かってくれ。」
目を合わさずに発車を促したのである。
走行中の車内で、
「そういえば、岩田さんて、独身でしたよね??」
後輩が尋ねた。
これに、
「あー、いや、もともとは既婚者だったが…、稲村が刑事に採用される以前に、離婚している。」
「“すれ違い”が原因でな。」
「もう、10年ぐらい昔のことだ。」
「それ以来、イワさんは、一人で暮らしていたよ。」
「実家は、東北じゃなかったっけ?」
宇山が記憶を辿る。
稲村こと“後輩の男性”が、
「そうでしたか……。」
「なんか、すみません。」
軽く頭を下げたところ、
「いや、俺に謝ったって仕方ないし…、お前が気にすることじゃねぇよ。」
穏やかに述べる宇山だった。
▼
岩田は都内の賃貸マンションで生活していたようだ。
PM15:05あたり、駐車場に到着した宇山と稲村は、そこから三階へと足を運んだのである……。
室内には、既に、別の刑事らや、鑑識たちが、訪れていた。
〝岩田が何かしらの記録を残していないか〟という可能性や、指紋を、調査するためである。
警察は、〝偽者が本人そっくりに整形して、ここに住んでいたと仮定した場合、異なる指紋が見つかるかもしれない〟と、考えたらしい。
リビングで、
「どうだ? 森川。」
宇山が、先に来ていた“同期の男性デカ”に問い掛けた。
「ん??」
左斜め後ろを向いた森川が、
「おぉ、宇山か…。」
「指紋の照合に関しては暫く時間を要するから、なんとも言えんが……、手帳などは存在していないみたいだ。」
「ま、犯人が既に消し去っているかもしれねぇがな。」
「どこか人目に付かない所で燃やしたりして。」
そのように伝える。
「そうか……。」
「司法解剖は??」
新たに訊ねた宇山に、
「そろそろ終わる頃だと思うんだが、まだ連絡はない。」
「そっちは、どうだったんだ?」
「防犯カメラ。」
森川が逆に質問した。
これに、宇山が無言で首を横に振ったのである。
▼
解剖の結果、整形した痕跡などは無く、岩田自身だと断定された。
また、指紋も本人のものばかりだったようだ。
犯人に繋がる情報が何一つ上がってこないなか、五日が過ぎている。
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[俟團組]の下っ端が、一人で、埼玉県の或る警察署に出頭してきたのは…。
20代半ばで、スキンヘッドかつ華奢な男は、長袖の“柄シャツ”を着ていた。
そのチンピラによると、組員の3割ほどが、埼玉の小高い山に築かれた[元ラブホ]に隠れていたらしい。
とっくに廃墟となっている施設内に潜伏しつつ、時折、近辺への買い出しを交替で行なっていたのだそうだ。
今朝がた、飲食物を調達した“スキンヘッドの男”がホテルに帰ってきたところ〝仲間たちが死んでいた〟とのことである。
〝いくつもの銃傷からして、何者かに射殺されたみたいだ〟との証言だった。
こういった状況に、〝自分の命も狙われているかもしれない〟と思って怖くてたまらなくなった“チンピラ”は、〝警察が最も安全だろう〟と考えて、駆け込んだとの経緯である。
そんな男の自供によれば、あの日、宇山刑事らや、東京組第十三番隊の数名が、ビルに踏みこむ一時間半ぐらい前に、組長からの指示で、四つのグループに分かれて逃げたらしい。
現在、他の三チームが何処に居るのかまでは知らないが、ゆくゆくは高飛びした国で落ち合う約束になっていたそうだ。
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一方、地元の刑事らは、“廃ホテル”の実況検分と並行して、周囲の防犯カメラを何個かチェックしていったのである。
すると、犯行予想時刻の前後に、山に出入りする“一台の自動車”が映っていたのだ。
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警察が、営業所の従業員たちに話しを聞くなどして、車を借りた人物の“似顔絵モンタージュ”を完成させたら、某人物に〝そっくり〟だったのである。
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