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25.錯綜

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「――、成程。」
秘書が配っていた“Black Tea紅茶”を口に運んだ副総監が、
「鐶君から、定期的にメッセージで報告を受けてはいたが、こうして、直接、話しを聞いたほうが、より理解しやすいな。」
そのように述べた。
鐶倖々徠かなわささら副隊長と、意川敏矢いかわとしやは、紅茶を飲みながら、相槌あいづちを打つ。
「しかし…、“俟團組きせんぐみ”の件に関しては、総監派も関東司令官派も、どちらも怪しいな。」
軽く握った左拳を顎に添えた副総監が、
「…………。」
暫し考えた後に、
「その、関東司令官が送り込んでいる二人は、足並みが揃っていないようだが、もともと険悪な間柄なのか?」
こう尋ねたのである。
「そうでもない、わよね??」
鐶に確認された意川が、
「んー。」
「まぁ、そうっすね。」
「……、なんて言うんだろう?」
架浦みつうらさんは、お調子者というか、チャラいというか…、皆のイジラレ役みたいな??」
宮瑚みやこは、割と“仲間想い”みたいなとこがあります。」
「ボクとかと一緒で、前の隊ではボッチだったらしいので、おそらく、ムードメーカーを自ら買って出ているんじゃないっすか?」
「無理にでも毎日を楽しくしようとして。」
「それに……、二人でよく密談してるみたいだから、いがみ合っている訳ではないかと。」
「性格の違いによって、互いにズレが生じているだけでしょうね。」
そう伝えた。
これに、副総監が〝ふむ〟と頷く一方で、
「へぇー。」
「普段、ゲームにしか興味なさそうなのに、ちゃんと観察していたのね。」
鐶が感心する。
「そりゃ、ゲーム好きなのは否定しませんけど…、ボクだって周りを見ていますって。」
いささか不服そうな意川に、副総監が〝フ〟と笑みを零し、
「意川君を選んだのは、その分析力の高さから、だからな。」
「今後も期待しているよ。」
そのように告げたら、
「どうも、です。」
意川が照れくさそうに俯いた。
「無論、鐶君の冷静な判断力にも信頼を寄せている。」
こう続けた副総監に、
「ありがとうございます。」
鐶が会釈する。
「ところで……。」
「二人からしてみて、最も厄介になるのは、誰だと思う??」
副総監が新たに質問したところ、
「それは、沖奈隊長じゃないでしょうか。」
鐶が即答し、
「あぁー、やっぱり、そうっすよねぇ。」
意川が納得した。
「理由は?」
副総監に促され、
「頭の回転が速いですし、精神面も強く、落ち着いて物事を進める印象があります。」
「要は、〝そつが無い〟タイプです。」
「また、同じ総監派の人達から一目置かれ、敬愛されているみたいですので、もしも戦うことになった際には、私たちが不利になるでしょう。」
鐶が、そう説明したのである。
「うむ。」
「おおよそ把握できた。」
「私は仕事に戻らないといけないから、この辺にしておこう。」
「二人とも、お疲れさま。」
このように締め括る副総監であった。
 
鐶&意川は、駐車場へと向かっている。
歩きながら、
「ねぇ、鐶副隊長。」
声をかけた意川に、
「何かしら??」
鐶が返す。
「鐶副隊長は、本当に、俟團組に情報を売ったりしていないんですよね?」
意川に訊かれ、
「どういうこと?」
鐶が眉をひそめた。
「これは、あくまで、ボク個人の仮説なんだけど…、同派閥内にがいて、いろいろと上手く隠されていた場合、気付きようがないな、て。」
意川は、そう推測しているらしい。
自身の車の側で足を止めた鐶が、
「だとしたら、証拠が残らないように、副総監が裏で手を回していないと、なにもかも不可能よ。」
「貴方は、副総監をも疑っているの??」
このように指摘する。
「念の為に、警戒するに越したことはないですからね。」
「信用して背中を預けた結果、後ろから〝ズドンッ!〟なんて事に繋がらないようにしときたいっすから。」
「なにせ、ボク達は、初見から未だ半年ぐらいしか経っていませんし……、副総監と会うようになったのも、この任務に抜擢されてからなんで。」
「安心できる材料が少ないんすよ。」
本音を吐露とろした意川に、
「一理あるわね…。」
「ま、どのような考えを持つかは自由だし、いくら私が弁明したところで簡単には腑に落ちないでしょうから、無理に説得はしないわ。」
「ただ、何度も釘を刺してきたように、いざという時に躊躇ためらってはダメよ。」
「必要とあれば、例え相手が誰で」と言いかけた鐶は、脳裏に筺健かごまさるの顔が浮かんでしまい、途中で黙ってしまった。
「鐶副隊長?」
意川に窺われ、
「なんでもないわ。」
「……、とにかく!」
「これからも細心の注意を払いなさい!!」
強引に終わらせた鐶である…。
 
 

PM13:00過ぎ。
沖奈朔任おきなさくと隊長&隈本一帆くまもとかずほは、パトロールに赴いていた。
会話の糸口を掴むべく、
「あの…、良かったですね。」
「十三番隊に犯人がいなくて。」
それとなく一帆が述べる。
「……、あー、“俟團組”ですか。」
「確かに、そうですねぇ。」
微笑む沖奈に〝キュンッ♡〟としつつ、
「それにしても、架浦さんは、何故、皆さんとの和を乱すような行ないをしたのでしょう??」
一帆が不思議がった。
「きっと、あぶり出そうとしたんでしょうね。」
「自分が全員から嫌われたとしても。」
沖奈の答えを、
「はい?」
一帆は理解できないみたいだ。
「そういえば、隈本さんには、まだ教えていませんでしたね。」
「現在の十三番隊の実態を。」
こう伝えた沖奈に、
「はぁ??」
一帆が首を傾げる。
「あまり困惑させたくないので、時期を見計らってはいたのですが…。」
「いい機会ですから、これ以上は延ばさないでおきましょう。」
「……、隈本さん、覚悟して聞いてください。」
「僕たちは、それぞれに、スパイ・・・なんですよ。」
「そして…、いつかは殺し合うことになってしまうかもしれません。」
少なからず悲しげに語りだす沖奈隊長であった―。
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