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21.回顧

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15歳の隈本一帆くまもとかずほは、[南口商店街]で逃げ惑う人々をすり抜けて、下北沢駅の“南西口”へと出た。
すると、一帆の眼前で、20代前半とおぼしき女性がつまずいて転んでしまったのである。
その背後から、[二足歩行のネズミ]が襲い掛かろうとしていた。
 
ネズミの身長は170㎝くらいだろう。
僧侶の“黒い法衣ほうえ”を纏っている。
手に握っている“錫杖しゃくじょう”は割と長い。
ソイツは[鉄鼠てっそ]という妖魔である。
なんでも、“鉄の牙”を有しているとの事だ。
 
妖魔が錫杖を振り上げた。
どうやら女性の頭を殴るつもりらしい。
一帆が、能力を使うべく、拳を合わせようとしたところ、右斜め前から、
「発動!!」
男性の声が聞こえてくるなり、鉄鼠が〝シュン!〟と消えたのである。
このスキルを扱った青年が、
「今のうちに逃げてください!!」
そう声をかけてきた。
 
背丈は155㎝あたりだ。
格好は、ホワイトのインナー/グレーのカーディガン/ブラックのパンツ/ダークブルーのスニーカーであった。
彼こそが、当時18歳の沖奈朔任おきなさくとである。
高校を卒業した沖奈は、[H.H.S.O]の研修生となっていた。
休日を利用してショッピングに訪れていたところ、こういった場面に遭遇したらしい。
 
改札口の近くには、400体の妖魔が存在しており、“人間×4”と“アンドロイド×6”の警察が対応していた。
 
一帆が、
「大丈夫ですか?」
女性に手を差し伸べて、立たせてあげる。
「急いで、ここを離れてください。」
そう告げた一帆に、
「ありがとう。」
会釈した女性が、商店街の方へと急ぎ去っていく。
この最中さなかに、駅周辺の鉄鼠が“三つのグループ”に分かれた。
約120数は沖奈へと、およそ80匹は一帆に、向かい始めたのである。
 
能力を用いた一帆が、妖魔を攻めていく。
しかし、まだ体が出来あがっていない彼女は、今に比べてスピードもパワーも劣っていた。
それでも確実にダメージを与えているみたいだ。
一方、警察たちは、敵の集団へと発砲しているものの、むこうは200体ぐらいの群れであるため、戦況は厳しい。
気づけば、鉄鼠らの錫杖によって、ロボット達が袋叩きにあっている。
人間たちは、腕などを噛まれていた。
ちなみに、どの妖魔も、人肉を喰らう性質がある。
「ぎゃッ!」
「ぐあッ!!」
など、悲鳴を上げる警官を、
「発動!」
「発動!」
「発動!」
「発動!」
沖奈が、自分の後ろに【瞬間移動】させた。
「ここは、一旦、退いて、応援を呼んでください!!」
沖奈の指示にて、警察たちが小走りで遠ざかっていく。
ひと安心した様子の沖奈に、一匹の鉄鼠が、武器を突き出す。
躱しきれない沖奈は、胸元に錫杖が当たり、
「ぐふッ!!」
二歩さがって、道路に両膝を着いてしまったのである。
この間に、妖魔の10数ほどが、警察を追いかけだした。
ネズミでもあるためか、なかなかに素早い。
慌てた沖奈が、
「発動!」
「発動!」
鉄鼠どもを自身の側に“テレポート”させる。
そんな沖奈に、先程の妖魔が、今度は、錫杖を振り下ろす。
左肩を〝ゴンッ!!〟と痛めつけられ、
「ぐぅ~ッ。」
表情を歪めた沖奈ではあったが、
「発動!」
「発動!」
すぐさま、警察に迫る鉄鼠たちを引き戻していく。
えさの捕獲を邪魔された妖魔どもが、沖奈を武器で打ちまくる。
沖奈は、負傷しながらもなお、
「発動!」
「発動!」
「発動!」
「発動!」
警官を襲撃しとうとする残りの鉄鼠らを、自分のもとに“テレポーテーション”させていった。
怒りが頂点に達したらしい一体の妖魔が、沖奈の胸ぐらを掴んで持ち上げるなり、口を大きく開いたのである。
この流れで、沖奈の顔に噛み付こうとしたところ、
ズドンッ!!
右腹部を殴られ、おもわず沖奈から手を放す。
それ・・は、一帆による“右のストレートパンチ”だった。
自身と戦闘になっていた鉄鼠の半数を倒した彼女は、ボロボロになっている男性を助けることを優先したようだ。
改めて、一帆が敵とバトルになっていくなか、アンドロイド達を破壊した連中が、こちらへと集まって来る。
うつ伏せになっている沖奈は、意識が朦朧としていた。
 
妖魔の100匹ぐらいを消滅させた一帆は、肩で息をしながら、六度目のスキルを使おうとする。
だが、それよりも少し早く、鉄鼠の錫杖が、左脇腹に〝バンッ!〟とヒットしてしまい、
「うッ!!」
膝を折りそうになった。
ここへ、別の妖魔が、武器を横に払う。
右側頭部を狙われた一帆は、躱せそうにない。
「発動。」
そう唱えたのは、ふらつきながら立ち上がった沖奈である。
これ・・によって、一帆は、沖奈の15Mほど後方へと瞬時に移動したのであった。
鉄鼠が空振りしたところで、沖奈が安堵する。
その状況に、
「ガァ――ッ!!!!」
ブチギレた妖魔が、沖奈の正面から“ショルダータックル”をかました。
2Mくらい弾かれた沖奈が、仰向けになる。
気絶してしまった沖奈を捕食しようと、鉄鼠たちが近づいて来た。
こういった光景に、
「発動!」
全細胞を活性化させて、おもいっきりダッシュした一帆が、再び戦っていく…。
 
60秒が経ち、能力の効果が切れるなり、一帆の内臓に〝ズキンッ!!〟と激痛が走る。
咄嗟に、右手で左腹部を抑えた一帆は、スキルを扱うためのアクションを取れない。
あれから更に20体が減ったものの、まだまだ数に余裕のある敵集団が、錫杖で一帆を傷つけようとしていた。
目を覚まして、上体のみを起こした沖奈は、
「発」
能力を用いようとしたのだが、
「ゲホッ!」
「ゴホ、ゴホッ!!」
咳き込んでしまい、一帆を救えそうにない。
ピンチに陥り、二人に焦りが生じるなか、
「発動!」
妖魔らの右側から、〝ヒュオォォォ――ッ!!〟と、“吹雪”が放たれたのである。
鉄鼠たちの4割が、
ビキビキビキビキィッ!
といった具合に凍っていく。
見れば、二十歳くらいで、黒髪ロングの女性が、スキルを操っていた。
その後ろから、30人の男女が飛び出して、妖魔に総攻撃を仕掛けていく。
誰の隊服からしても[H.H.S.O]に違いない。
これらを視界に捉え、
「四十四番隊、ですか。」
沖奈が呟いたタイミングで、パトカーのサイレンが幾つも聞こえてきたのだった―。
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