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5.初勤務・急

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「発動。」
両手を突き出して唱えたのは、意川敏矢いかわとしやである。
これによって、緋島早梨衣ひしまさりいを攻撃しようとしていた一体の“屍武士しかばねぶし”が宙に浮いていく。
「でかした、イカワ!!」
そう伝えた緋島が、
「発動!」
右足で地面を〝ドン!!〟と踏んだら、彼女の眼前に今度は[日本刀]が出現した。
緋島が、掴んだ新たな武器を、鞘から抜いたタイミングで、妖魔が上空5Mから落ちてくる。
うつ伏せで叩き付けられた敵が、体を起こしたところ、
「ふんッ!!」
刀を左から右へと払った緋島によって、首を刎ねられ、灰と化したのだった。
 
なんでも、ゾンビ系や骸骨類は、首を切断するか折らない限り、消滅しないのだそうだ。
これら以外の妖魔であれば脳や心臓を破壊しても亡くなるらしい。
 
隈本一帆くまもとかずほに〝フ〟と視線を送った緋島が、
「殆ど一人で倒していっちまってるな。」
呟きながら苦笑いする。
確かに、20体いた屍武士の過半数を、一帆だけで灰燼かいじんに変えていた。
「イカワ。」
「アタシは、カズホと一緒に、立ってる敵どもを優先的にやっつけていくから、そっちは転がっている連中を感電・・させておいてくれ。」
「あとで、止め刺すからよ。」
そう告げて、残りの妖魔へと向かっていく緋島に、
「へーい。」
だるそうに返した意川が、腰に装着している[折り畳み式の警棒]を、右手で引っ張り出して、〝ブン!〟と振るい、〝シャキーン〟と伸ばす。
これ・・を、屍武士の、顔など、甲冑から露わになっている部位に当て、〝ビリビリビリビリィ~ッ!!〟と電気を流した。
そう。
この警棒は、“スタンガンタイプ”である。
かくして、5体ほどの敵を次々と痺れさせていく意川であった…。
 
 

一帆による“右の掌底”が、顎にクリーンヒットして、首が真後ろに〝グギッ!〟と折れた妖魔が灰になっていく。
意川が痺れさせて動きを封じておいた屍武士の、最後の一体を絶命させた緋島が、
「ふぅ――ッ。」
「終わったな。」
「……、つーか、ほぼほぼカズホの手柄だけどな。」
そのように述べるのと共に、鞘に納めたところで、刀が実態を失ったのである。
おそらく、丁度30秒が経ったのだろう。
「凄いねー、隈本さん。」
意川と、
「ああ、即戦力だな。」
緋島に、褒められた一帆が、
「恐縮です。」
お辞儀していたら、
『妖魔は殲滅されました。』
『もう安全です。』
『妖魔は殲滅されました。』
『もう安全です。』
女性の声によるアナウンスが繰り返されるのと同時に、北側より〝ガシャガシャガシャガシャ〟といった音が聞こえてきた。
三人が、この方角を見たところ、男性用の警官服を着た二体のアンドロイド・・・・・・が走って来ていたのである。
 
 

身長170㎝ぐらいの“人型ロボット”は、銀色のボディだ。
顔の部分は、フルフェイスヘルメットの“バイザー”みたいになっており、ここだけは黒い。
そんなアンドロイドの一体に、
「スミマセン、ヒナンシャヲ、ユウドウシテイタノデ、オソクナリマシタ。」
「アナタガタハ、エイチ、エイチ、エス、オー、ノ、ダイジュウサンバンタイ、デスネ?」
機械的なボイスで尋ねられ、
「ああ、そうだ。」
「出現していた敵どもは、うちの新人クマモトカズホの活躍で、一匹残らずブッ倒したからよ。」
「コイツのこと、覚えておいてくれよな。」
緋島が右手で、一帆の左肩に〝ポン〟と触れつつ、紹介した。
これによって、
「ゴクロウサマデス、クマモトサン。」
ロボット達が揃って敬礼し、
「あ、いえ、どうも、ありがとうございます。」
一帆が敬礼で返したのである。
「それじゃあ、ボクたちは、まだパトロールしないといけないから、後処理よろしく~。」
意川の頼みに、
「ギョウシャヲヨンデ、アトカタヅケシテモライマスノデ、ゴアンシンクダサイ。」
そう応えるアンドロイドだった。
 
三人は、南側へと歩を進めていく。
「もうちょっと早く到着していてくれたなら、少しはらくできたのになぁ。」
このようにボヤいた意川に、
「ん??」
「アイツらって、妖魔を攻撃できないように設定されてんじゃなかったけ?」
緋島が訊ねる。
「いや、それは、人間が相手だった場合ですよ。」
「〝ロボットは人に危害を加えてはならない〟っていう世界的な取り決めに基づいて、いろいろとプログラミングされていますからね。」
「……、新人の頃、本部での研修で習ったでしょ??」
意川が伝えたら、
「あー、…、だったけか?」
空を仰いで思い出そうとした緋島が、
「そういや、いつの間にかドローンを見なくなったよな。」
別の質問を投げ掛けた。
それに対して、
「“時空のひずみ”を探知するためのドローンは、飛行可能な妖魔が現れる度に壊されまくったから、〝予算が勿体ない〟という理由で中止になりましたよ、とっくに。」
「これも研修中に教わった筈ですけど??」
意川が半ば呆れる。
自身の腕を組んで、
「そうだっけ?」
首を傾げた緋島に、
「ええ。」
「間違いありません。」
一帆が述べる。
「そっかー。」
「じゃあ、確かな情報だな。」
「カズホは、つい最近、研修を受けたばっかだし。」
納得した緋島が、
「ま、んなこたぁ置いといて!!」
「カズホの能力って、なんなんだ?!」
「すっげぇー破壊力だったけど!」
興奮を表す。
「私のスキルは、“細胞の活性化”です。」
「これによって、スピードやパワーなどが通常の十倍になります。」
「と言っても、一分しか持たないので、タイムリミットを迎えたなら発動し直さないといけませんが。」
一帆の説明に、
「んん~?」
「〝10倍になる〟って……、それで殴ったり蹴ったりしても、骨は大丈夫なのかよ??」
「ヒビが入ったり、折れたり、しねぇのか?」
緋島が疑問を抱く。
しかし、
「骨にも細胞があるから、そっちも強化されるって事でしょ。」
意川の解釈を、
「はい。」
「その通りです。」
「なので、心配はいりません。」
一帆が認めたことによって、
「へぇー、なるほど。」
と、納得する緋島であった―。
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