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第3章 ふたたび、一瞬の夏
気になるふたり
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「うっせーな、誰なんだよ、あんたは」
突然背中を叩かれ、ムッとした幸次郎は、唸り声をあげながら後ろを振り向いた。
そこにいたのは、黒のノースリーブのシャツに花柄のロングスカートをまとった、ショートカットの小柄な女性だった。
「藤田健太郎先輩と同じ高校の合唱部にいた、岡田みゆきといいます」
「せ、先輩?俺の兄貴が?」
「へえ、あなた、藤田先輩の弟さん?弟さんが、何で後を付いていってるの?」
「まあな、俺は藤田健太郎の弟の幸次郎っていうんだ。兄貴が今日、奈緒さんっていう女の人と会う約束したって言ってたから。どんな子なんだろうって興味がわいて、そっと後を付けていたんだよ」
「趣味悪いわね。そっとしておいたらいいのに。先輩は、奈緒ちゃんとは年に1回、この時期にしか会えないって言ってたでしょ?」
「だって、気になるだろ?兄貴って、生まれてこの方彼女なんて出来たことないし、そんな兄貴を好きになるなんて、どんな子なんだろうと興味深々でさ」
幸次郎が口をとがらせて理由を伝えると、みゆきはちょっと考えるようなしぐさを見せながら、なぜここにいるのか理由を語り始めた。
「私も、ちょっと興味深々でね。先輩は、奈緒ちゃんがお盆になると霊として蘇るって言ってたから、本当なのかなあ?と思って、実家に帰省がてら見に来ちゃったの」
「本当、みたいだよ」
幸次郎が後ろから指さすと、奈緒と健太郎は、ペットボトルのお茶を飲みながら、二人で並ぶように夜道を歩いていた。
そして奈緒は、時折、いたずらっぽく健太郎の腕を掴んだり、健太郎の肩にもたれかかるように身体を寄せたりしていた。
「ホントだ。間違いなく、奈緒ちゃんだ」
「そうだろ?すごいよな。死んだ人が霊として蘇っただけじゃなく、モテない兄貴とあんなにラブラブだなんてさ。すべて俺たちの想像の域を超えてるよ」
「あれ?確か、奈緒ちゃんが好きだった人って……先輩だったかも?」
二人の姿を見つめながら、みゆきはそっとつぶやいた。
「え?」
「合唱部で3年生がパート練習してる時、1年だった私たちはその練習風景をずっと見学してたんだけど、奈緒ちゃんは、1人の先輩の顔ばかりずっと見てたの。奈緒ちゃんの顔の向きからすると、藤田先輩なのかなあ?それとも、当時の3年生で一番モテた青山先輩なのかなあ?って。でも、今思うと、あれは藤田先輩だったのかなあって」
「そういえば、兄貴が成人式の日、俺んちに来たんだよ。奈緒さん」
「そ、そうなの?藤田先輩が成人式っていうと、私たちが高校3年の時?」
「まあ、そうかな。でも、兄貴は大学の後期試験で帰ってこれなくて、奈緒さん、がっかりして帰っていったな」
「あ、ちょうど、奈緒ちゃんが東京に引っ越すことが決まったのも、その頃だったかもね。お父さんが亡くなって、お母さんと奈緒ちゃんだけになったから、身寄りがないって言って」
「そうかあ。じゃあ、あの女の人は奈緒さんなのかもね。成人式に合わせて兄貴もこっちに帰ってきてると思って、俺んちを訪ねてきたのかな?」
「そうなのかもね。しかし、奈緒ちゃんも何で藤田先輩が好きだったんだろう?私にはさっぱり理解ができないわ」
その時、コツコツとヒールが地面を踏み鳴らすの音が、少しずつ後ろから近づいてきた。
その音は、幸次郎とみゆきのすぐ後ろまで迫ってきた。
「な、なによ?怖いわね。こんな真っ暗な夜道で」
みゆきが後ろを振り向いた時、みゆきは目を大きく見開き、両手で口を押えた。
「どうしたの?奈緒さん以外にも、霊が出てきたのか?」
「お母さん……?奈緒ちゃんの、お母さん?」
真後ろにいたのは、奈緒の母親である坪倉美江であった。
美江は、ターコイズのサマーセーターに黒のパンツ姿で、高めのヒールを履き、無表情のまま腕組みし、二人の後ろに立っていた。
「こんばんは」
どことなく人を寄せ付けない強烈なオーラを放つ美江を前に、やんちゃ坊主の幸次郎もただならぬ雰囲気を感じ取ったのか、思わずその場で直立不動となった。
「は、初めまして。藤田健太郎の弟、幸次郎です」
「奈緒の母親、美江です。よろしくね」
美江は微動だにしない幸次郎を見て、クスっと笑った。
「お母さん、来てくれたんですね!先輩の言葉、信じていたんですね!?」
去年健太郎が、美江に対し、奈緒の姿をこの町に来て確かめてほしい、と伝えていたものの、おそらく十中八九来ないと思っていただけに、みゆきは美江がこの場に来てくれたことに感動した。
「というか、本当なのかどうか、この目で確かめたくてね。ウソだったら、この場で知り合いの精神科医に、あのお兄さんを診察するよう電話してやろうと思ったから」
美江は相変わらず奈緒の存在を信じようとしない様子であったが、一息おいて、夜空を見上げながら、つぶやいた。
「でも、もし本当なら…奈緒にもう一度会って、話がしたいと思ったから」
「お母さん……」
美江の言葉を聞くと、みゆきはハンカチをポケットから取り出し、両目を拭った。
「お母さん、見て下さい!奈緒さんは兄貴とちゃんと一緒にいますよ。気づかれないように、そっと後を付いていきましょう」
幸次郎がそういうと、みゆきと美江と一緒に、息をひそめながら、夜の闇に包まれた田舎道に歩みを進めていく健太郎と奈緒の後を、そっと付いていった。
突然背中を叩かれ、ムッとした幸次郎は、唸り声をあげながら後ろを振り向いた。
そこにいたのは、黒のノースリーブのシャツに花柄のロングスカートをまとった、ショートカットの小柄な女性だった。
「藤田健太郎先輩と同じ高校の合唱部にいた、岡田みゆきといいます」
「せ、先輩?俺の兄貴が?」
「へえ、あなた、藤田先輩の弟さん?弟さんが、何で後を付いていってるの?」
「まあな、俺は藤田健太郎の弟の幸次郎っていうんだ。兄貴が今日、奈緒さんっていう女の人と会う約束したって言ってたから。どんな子なんだろうって興味がわいて、そっと後を付けていたんだよ」
「趣味悪いわね。そっとしておいたらいいのに。先輩は、奈緒ちゃんとは年に1回、この時期にしか会えないって言ってたでしょ?」
「だって、気になるだろ?兄貴って、生まれてこの方彼女なんて出来たことないし、そんな兄貴を好きになるなんて、どんな子なんだろうと興味深々でさ」
幸次郎が口をとがらせて理由を伝えると、みゆきはちょっと考えるようなしぐさを見せながら、なぜここにいるのか理由を語り始めた。
「私も、ちょっと興味深々でね。先輩は、奈緒ちゃんがお盆になると霊として蘇るって言ってたから、本当なのかなあ?と思って、実家に帰省がてら見に来ちゃったの」
「本当、みたいだよ」
幸次郎が後ろから指さすと、奈緒と健太郎は、ペットボトルのお茶を飲みながら、二人で並ぶように夜道を歩いていた。
そして奈緒は、時折、いたずらっぽく健太郎の腕を掴んだり、健太郎の肩にもたれかかるように身体を寄せたりしていた。
「ホントだ。間違いなく、奈緒ちゃんだ」
「そうだろ?すごいよな。死んだ人が霊として蘇っただけじゃなく、モテない兄貴とあんなにラブラブだなんてさ。すべて俺たちの想像の域を超えてるよ」
「あれ?確か、奈緒ちゃんが好きだった人って……先輩だったかも?」
二人の姿を見つめながら、みゆきはそっとつぶやいた。
「え?」
「合唱部で3年生がパート練習してる時、1年だった私たちはその練習風景をずっと見学してたんだけど、奈緒ちゃんは、1人の先輩の顔ばかりずっと見てたの。奈緒ちゃんの顔の向きからすると、藤田先輩なのかなあ?それとも、当時の3年生で一番モテた青山先輩なのかなあ?って。でも、今思うと、あれは藤田先輩だったのかなあって」
「そういえば、兄貴が成人式の日、俺んちに来たんだよ。奈緒さん」
「そ、そうなの?藤田先輩が成人式っていうと、私たちが高校3年の時?」
「まあ、そうかな。でも、兄貴は大学の後期試験で帰ってこれなくて、奈緒さん、がっかりして帰っていったな」
「あ、ちょうど、奈緒ちゃんが東京に引っ越すことが決まったのも、その頃だったかもね。お父さんが亡くなって、お母さんと奈緒ちゃんだけになったから、身寄りがないって言って」
「そうかあ。じゃあ、あの女の人は奈緒さんなのかもね。成人式に合わせて兄貴もこっちに帰ってきてると思って、俺んちを訪ねてきたのかな?」
「そうなのかもね。しかし、奈緒ちゃんも何で藤田先輩が好きだったんだろう?私にはさっぱり理解ができないわ」
その時、コツコツとヒールが地面を踏み鳴らすの音が、少しずつ後ろから近づいてきた。
その音は、幸次郎とみゆきのすぐ後ろまで迫ってきた。
「な、なによ?怖いわね。こんな真っ暗な夜道で」
みゆきが後ろを振り向いた時、みゆきは目を大きく見開き、両手で口を押えた。
「どうしたの?奈緒さん以外にも、霊が出てきたのか?」
「お母さん……?奈緒ちゃんの、お母さん?」
真後ろにいたのは、奈緒の母親である坪倉美江であった。
美江は、ターコイズのサマーセーターに黒のパンツ姿で、高めのヒールを履き、無表情のまま腕組みし、二人の後ろに立っていた。
「こんばんは」
どことなく人を寄せ付けない強烈なオーラを放つ美江を前に、やんちゃ坊主の幸次郎もただならぬ雰囲気を感じ取ったのか、思わずその場で直立不動となった。
「は、初めまして。藤田健太郎の弟、幸次郎です」
「奈緒の母親、美江です。よろしくね」
美江は微動だにしない幸次郎を見て、クスっと笑った。
「お母さん、来てくれたんですね!先輩の言葉、信じていたんですね!?」
去年健太郎が、美江に対し、奈緒の姿をこの町に来て確かめてほしい、と伝えていたものの、おそらく十中八九来ないと思っていただけに、みゆきは美江がこの場に来てくれたことに感動した。
「というか、本当なのかどうか、この目で確かめたくてね。ウソだったら、この場で知り合いの精神科医に、あのお兄さんを診察するよう電話してやろうと思ったから」
美江は相変わらず奈緒の存在を信じようとしない様子であったが、一息おいて、夜空を見上げながら、つぶやいた。
「でも、もし本当なら…奈緒にもう一度会って、話がしたいと思ったから」
「お母さん……」
美江の言葉を聞くと、みゆきはハンカチをポケットから取り出し、両目を拭った。
「お母さん、見て下さい!奈緒さんは兄貴とちゃんと一緒にいますよ。気づかれないように、そっと後を付いていきましょう」
幸次郎がそういうと、みゆきと美江と一緒に、息をひそめながら、夜の闇に包まれた田舎道に歩みを進めていく健太郎と奈緒の後を、そっと付いていった。
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