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第1章 恋は迎え火とともに
二人きりの帰り道
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時計の針が10時を指した時、やっと作業が終わった。
健太郎は、あくびをしながら、奈緒の所へと駆け寄った。
「ふぁ~やっと終わったよ、奈緒さん。さ、遅い時間だし、そろそろ帰ろうか。近くまで送っていくよ……あれ?」
奈緒は、木陰でしゃがみこみ、目を閉じてしばらく居眠りをしていたようだった。
「奈緒さん、寝てたの?」
健太郎の言葉で、奈緒はやっと目を覚ました。
「あ。私、寝ちゃったのかな?」
「そういうことかな」
「あはは……ごめんね。私だけ寝ちゃって」
「いいんだよ。作業が予定より時間がかかっちゃったのが悪い。さ、今日はもう帰ろう」
健太郎の言葉に、奈緒はニコッと笑って頷いた。
わずか目先の建物でさえ見えなくなるほどの暗い闇の中、古い街灯が照らす細い道を、集落へ向かって歩く二人。
響き渡るのは、奈緒の下駄の音と、二人の笑い声。
健太郎の手が触れそうな場所に、奈緒の手があった。
そして、奈緒の手は、いつの間にか、健太郎の手に触れ、指をそっと握りしめていた。
「奈緒さん?」
健太郎は、奈緒の手のぬくもりが自分の手に伝わると、胸が段々高鳴り始めた。
健太郎の胸の高鳴りが、つないだ手を伝わって奈緒にも伝わったのか、奈緒はクスクスと笑って
「健太郎さんって、ウブよね。私の手を握って、ドキドキしてるなんて」
「ドキドキしちゃ、ダメなのか?」
健太郎は、照れ隠しに、奈緒から目を逸らし、夜空を見上げながらつぶやいた。
「ううん。ダメじゃないよ。というか、素直でいいと思うよ」
奈緒は、にこやかに答えた。
「俺、恥ずかしい話だけどさ。今年で32歳になるんだけど、まだ結婚してないし、それどころか、彼女らしい彼女も出来たことないんだ」
健太郎のつぶやきに、奈緒は驚きの表情を見せた。
「や‥やっぱり、おかしいよ、な。奈緒さんも、そう思うよな」
「ううん。そんなことないよ」
奈緒は、健太郎の言葉に驚きつつも、にこやかな表情で答えた。
「じゃあさ。私で、良かったら、お付き合い、してくれる?」
奈緒の言葉に、健太郎の全身に電撃が走った。
「い、いいのか?イケメンでもない、ブツブツ顔の、モジャモジャ頭の、しがないサラリーマンでも」
「私は全然、気にならないよ。私は今の健太郎さんが、好きだもん」
奈緒は、さらりと答えた。
「ありがとう。何というか、嬉しいというか」
健太郎は、奈緒の言葉を信じ、32年生きてきて、ついに、彼女と呼べる存在に出会えたことに、ただ感動していた。
「ただ」
「え?」
奈緒から発せられた、突然の思い留まるような言葉に、健太郎は一瞬耳を疑った。
「明日までのお付き合いに、なっちゃうけどね」
奈緒は、そういうとニコッと笑って、健太郎の額を指さした。
「はあ?あ、あした?」
健太郎は、「明日」という一言に、それまでの高揚感が一気にそぎ落とされた。
「あ、今日はもう遅い時間だし、帰るね。明日の朝、昨日私たちが出会ったコンビニに、来てくれる?」
「うん、いいけど。明日までって、どういうこと?」
健太郎には、『明日まで』という言葉が、どうしても引っかかってしょうがなかった。
「それは聞かないで。あまり聞かない方がいいと思うし……その理由は話したくないから」
奈緒は、それだけ言うと、黙りこくってしまったが、しばらくして、健太郎の方を振り向き、何事も無かったかのように語りかけた。
「とりあえず、明日までなんだ。だからさ、明日は2人で一緒にお出かけしようよ。私、ドライブに行きたいな。海とか行きたいかも」
「海?ドライブ?」
奈緒は、健太郎の疑問には答えず、明日のお出かけをどうするか?位のことしか語らなかった。
「じゃあね。バイバイ!」
奈緒は下駄のカラコロ音を響かせながら、昨日二人が最後に別れた、石垣に囲まれた暗い小径へと走り去っていった
健太郎は、下駄の音を聞きながら、あまりにも急な展開に何をすることもできず、ただその場でボーっと立ち尽くしていた。
しかし、しばらくすると、徐々に現実に引き戻されてきたようで、明日、奈緒とドライブデートするにあたって、色々な物が無いことに気づいた。
健太郎は慌ててスマートフォンをポケットから取り出し、幸次郎に電話した。
「もしもし幸次郎?俺だよ、健太郎だよ。明日、お前の車、貸してくれ。それから、デートに着ていくカッコいい服が無いから、それも貸してくれ。あ、それから、水着もだ!大至急だぞ、頼むよ~!」
健太郎は、あくびをしながら、奈緒の所へと駆け寄った。
「ふぁ~やっと終わったよ、奈緒さん。さ、遅い時間だし、そろそろ帰ろうか。近くまで送っていくよ……あれ?」
奈緒は、木陰でしゃがみこみ、目を閉じてしばらく居眠りをしていたようだった。
「奈緒さん、寝てたの?」
健太郎の言葉で、奈緒はやっと目を覚ました。
「あ。私、寝ちゃったのかな?」
「そういうことかな」
「あはは……ごめんね。私だけ寝ちゃって」
「いいんだよ。作業が予定より時間がかかっちゃったのが悪い。さ、今日はもう帰ろう」
健太郎の言葉に、奈緒はニコッと笑って頷いた。
わずか目先の建物でさえ見えなくなるほどの暗い闇の中、古い街灯が照らす細い道を、集落へ向かって歩く二人。
響き渡るのは、奈緒の下駄の音と、二人の笑い声。
健太郎の手が触れそうな場所に、奈緒の手があった。
そして、奈緒の手は、いつの間にか、健太郎の手に触れ、指をそっと握りしめていた。
「奈緒さん?」
健太郎は、奈緒の手のぬくもりが自分の手に伝わると、胸が段々高鳴り始めた。
健太郎の胸の高鳴りが、つないだ手を伝わって奈緒にも伝わったのか、奈緒はクスクスと笑って
「健太郎さんって、ウブよね。私の手を握って、ドキドキしてるなんて」
「ドキドキしちゃ、ダメなのか?」
健太郎は、照れ隠しに、奈緒から目を逸らし、夜空を見上げながらつぶやいた。
「ううん。ダメじゃないよ。というか、素直でいいと思うよ」
奈緒は、にこやかに答えた。
「俺、恥ずかしい話だけどさ。今年で32歳になるんだけど、まだ結婚してないし、それどころか、彼女らしい彼女も出来たことないんだ」
健太郎のつぶやきに、奈緒は驚きの表情を見せた。
「や‥やっぱり、おかしいよ、な。奈緒さんも、そう思うよな」
「ううん。そんなことないよ」
奈緒は、健太郎の言葉に驚きつつも、にこやかな表情で答えた。
「じゃあさ。私で、良かったら、お付き合い、してくれる?」
奈緒の言葉に、健太郎の全身に電撃が走った。
「い、いいのか?イケメンでもない、ブツブツ顔の、モジャモジャ頭の、しがないサラリーマンでも」
「私は全然、気にならないよ。私は今の健太郎さんが、好きだもん」
奈緒は、さらりと答えた。
「ありがとう。何というか、嬉しいというか」
健太郎は、奈緒の言葉を信じ、32年生きてきて、ついに、彼女と呼べる存在に出会えたことに、ただ感動していた。
「ただ」
「え?」
奈緒から発せられた、突然の思い留まるような言葉に、健太郎は一瞬耳を疑った。
「明日までのお付き合いに、なっちゃうけどね」
奈緒は、そういうとニコッと笑って、健太郎の額を指さした。
「はあ?あ、あした?」
健太郎は、「明日」という一言に、それまでの高揚感が一気にそぎ落とされた。
「あ、今日はもう遅い時間だし、帰るね。明日の朝、昨日私たちが出会ったコンビニに、来てくれる?」
「うん、いいけど。明日までって、どういうこと?」
健太郎には、『明日まで』という言葉が、どうしても引っかかってしょうがなかった。
「それは聞かないで。あまり聞かない方がいいと思うし……その理由は話したくないから」
奈緒は、それだけ言うと、黙りこくってしまったが、しばらくして、健太郎の方を振り向き、何事も無かったかのように語りかけた。
「とりあえず、明日までなんだ。だからさ、明日は2人で一緒にお出かけしようよ。私、ドライブに行きたいな。海とか行きたいかも」
「海?ドライブ?」
奈緒は、健太郎の疑問には答えず、明日のお出かけをどうするか?位のことしか語らなかった。
「じゃあね。バイバイ!」
奈緒は下駄のカラコロ音を響かせながら、昨日二人が最後に別れた、石垣に囲まれた暗い小径へと走り去っていった
健太郎は、下駄の音を聞きながら、あまりにも急な展開に何をすることもできず、ただその場でボーっと立ち尽くしていた。
しかし、しばらくすると、徐々に現実に引き戻されてきたようで、明日、奈緒とドライブデートするにあたって、色々な物が無いことに気づいた。
健太郎は慌ててスマートフォンをポケットから取り出し、幸次郎に電話した。
「もしもし幸次郎?俺だよ、健太郎だよ。明日、お前の車、貸してくれ。それから、デートに着ていくカッコいい服が無いから、それも貸してくれ。あ、それから、水着もだ!大至急だぞ、頼むよ~!」
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