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第5章 クトゥルフ再始動

第105話 伯爵

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 はいはい、すみません通りますよーつって。
 敢えてテンプレを無視したらどうなるのか。
 気になるので、やばそうな横を通過してみようとしてみました。

 「私達も襲われるに決まってるじゃない」

 無理に決まってるわな。
 オーク達の何体がこっちにやって来た。
 横を通ろうとした時の、こいつら何やってんだって騎士の顔が忘れられない。

 「アンジーさん、ひとつ懲らしめてやりなさい」

 ここは俺がでしゃばる訳にはいかない。
 商人ムーブしないといけないからな。襲われてる馬車ごと始末したら目撃者も居ないから楽なんだけど。もしかしたら貴族のツテが出来るかも。
 転送箱を押し売りするチャンスだぜぇ。

 って事でまずはこっちに来たオークをアンジーを筆頭に戦闘員が始末する。
 で、問題は向こうのオークなんだけど。

 「手助けは必要かしら?」

 「た、頼むっ!」

 アンジーさんがやってくれました。
 オークなんて普段深層の魔物を高笑いしながら殺してるアンジーからすれば、相手すらならない。
 向こうに手を貸して五分もしないうちに、戦闘終了。自分達が倒した分は早速解体である。

 さてさて。俺は商売開始かね。

 「ポーションありますよー。怪我した人は居ますかー?」

 警戒されないようにゆっくりとポーションが入った箱を持って、騎士さんに近付く。
 うーん。弱いな。ゴドウィンに着いてきていた帝国の騎士の方が全然強い。

 「すまん、一つもらえるか? 勿論代金は払う」

 「どうぞー」

 テンプレ通りならお偉いさんが馬車から出て来て、是非お礼をーなんて流れになる筈なんだけど。
 くそみたいな奴ならならないだろうが、この騎士さん達を見てる感じはまともそうなんだよね。
 真面目な騎士ばっかりっぽいし、クソみたいな奴に従うとは思えん。

 「だ、旦那様!」

 ほら来た。馬車からいかにもな人が顔を出した。
 残念ながら貴族のお嬢様とかじゃなかったけど、普通に貴族っぽいのが出て来た。
 髭を生やしたダンディなおじ様って感じだ。

 「その方が助けてくれた商人の長か? 随分若く見えるが」

 「護衛が優秀なもので。その護衛も父から与えられたものですが」

 俺は役者の職業を全開にして商人ムーブを開始。
 俺の設定は商人の息子で独立しようと、今は行商で頑張ってる最中とかそんな感じだ。
 あんまり設定を凝りすぎるとボロが出るしね。

 「危ないところを助けてくれて感謝する。私はスミゴス。この先の街の領主を任されておるフレリア王国の伯爵だ」

 「私はレイモンド。今は行商をしております。そろそろお金も貯まってきたので、店を構えようかと思っておりますが」

 貴族と丁寧に喋るのってくそ面倒だな。
 今度からこういうのも誰かに任せたい。

 「随分精強な護衛を抱えておるな?」

 「なにぶん父が心配性なもので」

 「ふむ」

 よこせとか言うなよ。その瞬間戦争が始まるぞ。
 アンジーをゲットするのにどれだけ苦労したと思ってるんだ。しかも今では得難いパートナー。
 例え娘と交換とか言われても渡さんぞ。

 「まぁ、良い。何か礼をしたいところだが…」

 「伯爵様とお知り合いになれただけで充分でございます」

 まずは断る。それよりも俺が最初横を素通りしようとしたのは無かった事にしてくれてるのかな?
 まぁ、あそこに突っ込んで来ると思ってなかっただろうし、素通りしようと思われてなかったのかも。

 「それはいかん。助けられたのに礼をしないとあっては貴族の沽券に関わる」

 よしきた。その言葉を待っていたぜ。
 一回断っても食い下がってくれると思ってた。

 「それでしたら伯爵様のご領地で店を構えようかと思っております。その時に便宜を図って頂ければと」

 「ふむ。良かろう。店を構えたら一度我が屋敷に来るが良い」

 「ありがたき幸せ」

 まぁ、こんなもんだろ。
 これで転送箱を売っちまえばこっちのもんよ。
 あれは一回お偉いさんに売ったら、間違いなく勝手に広まっていく。
 便利なモノは手放せないからねぇ。

 その後も軽く話をした後、伯爵一行は先に街に向かって行った。
 目的地は一緒だから、そのままご一緒になんて言われなくて良かった。気を使うのは疲れる。

 「これで転送箱はなんとかなるな。最初にどう売り込むか迷ってたけど、やっぱり異世界のテンプレは偉大だよ」

 「私はまさか本当に横を素通りしようとするとは思わなかったけどねぇ」

 いや、どうなるか気になっちゃって。
 普通に無理だったけどさ。いつかまたああいうテンプレに巡り合ったら是非試してみよう。

 「さて。街はもうすぐっぽいぞ。長かった馬車旅ももう少しで終わりだ」

 街に着いたら適当に店舗を買って。
 転移装置を設置したら人員を呼んで、開店準備しつつ裏社会の調査だな。
 裏を握ってれば、商会経営も潤滑に進むだろう。

 「抗争とか面倒だなぁ。マリク呼んで拷問契約を繰り返すのが手っ取り早いか?」

 「拷問した後のメンタルケアに時間がかかるじゃない。あの子、中々やりすぎよ? 見せしめにする程度で後は私に任せておきなさい。適当にいくつかを傘下にしてからまとめて契約したら良いわ」

 おお。アンジーさん。優秀。
 流石長い間ボスをやってただけありますな。
 全面的にお任せします。
 だって、俺はお飾りのボスだから。
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