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第4章 雌伏の時

A-1話 転生後の日々

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 記憶が戻ってからのアーサーは精力的に活動していた。まもなくあるであろうチュートリアルイベントを無難にこなす為に、村の自警団をしているおっちゃんに剣の振り方を習う。

 「そうそう。アーサーは中々筋が良いな」

 「ありがとうございます!」

 ぽちぽちとコントローラーで操作するのとは訳が違う。しかし職業補正のお陰で、ある程度体の動かし方が分かるのが良かったのか、それともアーサーの体のスペックが良いのか。
 アーサーは教えられた事を乾いたスポンジが水を吸うように吸収して成長していった。

 「ちょっとー! なんでアーサーが剣で私は斧なのよー! 可愛くなーい!」

 アーサーが木剣で素振りをしていると、ついてきていたサラが不満ありありな顔で文句を言っていた。そのサラの手には大きな斧。
 女の子が持つにはかなり不釣り合いである。

 「でもしっくり来てるんでしょ?」

 「うっ…そうなんだけどぉ…」

 「僕は自分に合った武器を使うのが一番だと思うな」

 アーサーが主人公スマイルをサラにぶちかます。
 するとサラは顔を真っ赤にして…。

 「わ、わかったわよ」

 アーサーの隣に並んで素振りを始めた。
 ちょろい。やはり幼馴染キャラはちょろい。
 アーサーはそんな事を内心で思いながら、日々を過ごしていた。


 もうすぐで成人。
 チュートリアルイベントもまもなくという時に、村に数人の騎士がやって来た。
 突然の来訪に村の者はたじろいでいる。
 そしてアーサーも首を傾げていた。物語の開始は成人直前のチュートリアルイベントから。
 なので、それ以前の事は知らなくても仕方ないのだが、

 「ゴドウィンだよね? BLキャラの」

 数人の騎士の中にゴドウィンが混じってるなら、何か自分が知らないイベントでもあったかと、疑ってしまう。

 帝国騎士団騎士団長ゴドウィン。
 帝国最強として、BLルートに進まなくても、たまにパーティメンバーにもなってくれるお助けの強キャラである。

 (うわぁ。本当にゴドウィンだよ。滅茶苦茶強そうだなぁ。BLルートに進む気なんてサラサラないから、あんまり関わりたくないんだけど…。でも後半の魔王四天王戦ではかなり役に立つし…)

 そんな事を考えてると、ゴドウィンは村長と軽く言葉を交わした後はさっさと出立してしまった。
 特に主人公と一戦交えるようなイベントもなく、呆気ないものであった。

 「騎士さんなんて初めて見たよ! カッコよかったね!」

 「そうだね」

 アーサーは興奮気味のサラを宥めつつ、ゴドウィン達が進んで行った方向を見る。

 (でも、ほんとにどこ行くんだろ? 確かゴドウィンって戦争がないと、ほとんど帝都から動かなくて、助っ人を頼むにはかなり苦労した筈なんだけど)

 ゴドウィンが向かったのはアーサーが成人してから最初に向かおうと思っているペテス辺境伯領。
 ほんとはチュートリアルが終わった後は、帝都方面に向かうのが普通だ。

 ペテス辺境伯領は魔物のレベルが高く、深層の更に奥にある霊山には隠しキャラの裏ボスがいる。
 とても初心者が向かう場所ではないし、現にゲームでもエンドコンテンツとして扱われている場所だった。アーサーの前世の男は、そこまで到達出来なかったが、裏ボスもハーレム要員である。

 せっかくこの世界の主人公になったのなら、女の子キャラは制覇したい。それがアーサーの秘めたる野望なのだが、今回向かう理由は裏ボスじゃない。
 あそこは魔王を倒してから、しっかりとした準備をしてから挑む。

 今回の目的。
 それは必須キャラ三人の確保。
 某ゲームに例えて御三家キャラなんて言われたりしているが、それはさておき。

 (戦闘力のローザ、金策のホルト、魔道具のエリザベス。この三人は何が何でも確保しないとね。ローザとエリザベスはハーレムキャラだし)

 この三人を序盤に確保するしないで、物語の難易度はかなり変わる。
 ゲームでも攻略サイトに載ってなかったら、無視して帝都方面に向かってただろう。

 (エリザベスに魔道具を作ってもらって、ホルトにそれを売ってもらう。最初の素材集めは苦労するけど、そこさえ乗り切れば何もしなくてもお金は入ってくる)

 自分の現代知識なんてのも教えるとさらに一儲け出来るかもしれない。
 アーサーは頭の中で様々な妄想を繰り広げて、鼻をぷっくりと膨らませる。

 「アーサー、また鼻が膨らんでるよ。普段はカッコいいのに時折気持ち悪い顔するよね」

 「おっと」

 幼馴染の容赦ない一言に軽く心を抉られつつも、元の優しげな顔に戻る。
 アーサー自体はかなりのイケメンなのだが、性格が顔に表れるのだろうか。
 時折前世の顔が出てきて、幼馴染に口撃される。

 家に帰って、訓練での汗を水浴びで流す。
 田舎の村にお風呂なんて高級品はないのだ。
 そして自分の部屋に入ると布団に潜り込み、ここ最近の日課になっている、これからの事を考える妄想を始める。

 (チュートリアルを無難にこなした後にカタリーナと遭遇。アーサーの光属性の精霊に惹かれて旅に着いてきてくれるようになるんだよな。魔法はそこで教えてもらうとして…)

 異世界に転生したなら魔法でしょと、色々と試してみたのだが、使い方を知らないせいか行使出来なかった。村の大人に話を聞いてみると、貴族や特定の人が使い方を独占してるせいらしい。
 ゲームではチュートリアル後にカタリーナが教えてくれたから知らなかった。

 (問題は御三家キャラを確保した後だよなぁ。敵キャラとして出てくるアンジェリカまで確保したいところだけど、あいつは強すぎるからなぁ)

 賭場で特定イベントをこなして、チンチロで一定額勝つと出てくる裏組織のボス、アンジェリカ。
 かなり強いし、妖艶なお姉さんキャラはなんとしても確保したいが、戦闘イベントを挟むので流石に時期尚早かと諦める。

 本来なら御三家キャラも物語中盤まで確保するようなキャラではないのだ。
 まだ成人もしてないから、街から連れ出すのも難しい。裏技を発見した先人達にアーサーは心から感謝した。

 (とりあえずはチュートリアルをこなしてからだな。あー待ち遠しい。アーサーによる俺つえーハーレムの始まりだぜー)

 アーサーはいつもの様にぐふぐふと妄想しながら眠りについた。

 
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