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第4章 雌伏の時

第88話 日々成長

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 「え? これ石灰石じゃん」

 岩山を拠点にしてから一ヶ月が経った。
 一度顔が割れていない人員をペテスに送って様子を見て貰いに行ったが、かなり物々しい雰囲気を漂わせていたらしい。
 稼げるって事で冒険者は相変わらず活動しているが、かなりの数の騎士が領地を見回っていて平民は戦々恐々としているらしい。

 レーヴァンの縄張りは相変わらず荒れたままだったが、俺達の縄張りには既に誰かしらがほとんど使っていた。なんかムカつくよね。
 俺達が頑張って整えたのに…。それもこれも俺がやらかしたせいなんだが。ごめんちゃい。

 岩山の鉱石抽出は順調だ。マジで多種多様な鉱石が埋もれていて、ここは宝の山である。
 大量の鉄に金銀銅。ミスリルも少量だが見つかっている。更なるファンタジー金属が出てくるのを待ってます。

 そして俺はカタリーナが抽出した鉱石の鑑定。
 ある程度なら生産職のやつが見分けられるんだが、暇がある時は俺も手伝っている。
 そして俺が見つけたのは石灰石。

 「コンクリート作れるじゃん。確かセメントがあればいいんだもんね。他の材料は知らないんだけど」

 これとファンタジー的な要素を組み合わせて、岩山を囲うめちゃ硬な壁を作れないかな。
 やっぱり周りに深層の魔物がウヨウヨしてるのは、精神的に休まらないと思うんだ。
 壁があるだけでだいぶ違うと思う。

 「早速生産部に話を持っていこう。あそこは岩山弄りが頓挫して、意気消沈してたからな」

 それでも仕事はいっぱいあるんだけど。
 子供達の仮住まいや、仮の生産工房は出来てるけど。必要なモノはまだまだある。


 「なんだ。お前は天才だったのか」

 「んむ」

 わしゃわしゃとエリザベスの頭を撫でる。
 石灰石を持って、なんか上手い事をしてこういう事が出来るんだけどって言ったら、僅か三日でコンクリートっぽいのを発明してくれた。

 何故っぽいものなのかと言うと。

 「かったーい!!」

 「強度半端ないな」

 「それなりにコストは掛かってる。でも深層魔物対策ならこれくらいは必要」

 目の前では1mぐらいの黒みを帯びた壁。
 とりあえず強度実験の為に小さく作った壁をローザが斬り掛かってるんだが、ガギンと鈍い音を響かせて弾かれている。
 ついこの前レベル200を超えたローザがだ。

 「ボスが言っていた、コンクリート? を基本に色々な鉱石を混ぜたりして試してみた。結局深層の魔物の骨を砕いて混ぜると、何故か強度が上がった。もう少し時間が欲しい。これは試験的に作ったもので、まだ配合が完璧ではない」

 エリザベスの優秀さが止まらない。
 これでもまだ完璧じゃないとは。
 更に強度が上がるならぜひやって欲しいね。

 「でも岩山を囲う壁にするなら素材が足りない。戦闘部に素材を取って来てもらうのを頼んでもよき?」

 「よきよき」

 ここの魔物マジで減らないから。
 浅層中層深層。縄張りにいる頃から毎日しこたま倒してたのに、全く減った雰囲気がない。
 ダンジョンなのかと思っちゃうよね。
 深層の魔物はまだ狩れる人は限定されてるが、アンジーが戦闘部門を率いてるお陰で着実にレベルアップしている。

 「じゃあ引き続き実験よろしく」

 「うん」

 まぁ、エリザベスは放置してても勝手に何かしらの実験してるから大丈夫か。
 じゃあ次はホルトのところに行こうかね。


 木材で雑に作られた家の中では、ホルトを中心に商業部門の人員が紙を広げてあーだこーだと意見を交わしていた。
 ここの今の仕事は要塞の内部をどうするかだ。
 果たして商業部門の仕事なのかと思ってしまうが、今の所商会を経営してる訳でもないし、こういうことしかやる事がないんだ。
 まぁ、楽しそうにやってくれてるからいいんだけど。

 「やはり、いずれは大半の人間が外に出ていくのです。そんなに広くしなくてもいいのでは? ある程度食料や薬草を栽培出来る農地を確保すれば、後は岩山の内部で全て解決しそうですが」

 「いや、しかしだね。余った食料や素材は外に出た時に売れば良いんだし、多少余裕を見て農地と栽培スペースを確保しておいた方が良いと思うんだがね」

 「農地を広げ過ぎると、その分囲う範囲が広くなってしまいます。エリザベスに聞きましたが、壁を作るのは中々コストが掛かるそうです。費用対効果が合わないように思えるのですが」

 「先行投資というやつだよ。最初はかなりのコストがかかるだろうが、外で売れればいずれはコスト回収が出来るじゃないか」

 「「ふぬぬぬぬ」」

 ここはずっと賢そうな話をしてるんだよね。
 俺がなんちゃって現代知識やら、経営理論的なのを知ったかぶって教えたら、いつの間にか独自解釈も含めて毎日のように議論してるんだ。
 偶に意見が衝突したりもするけど、そこはホルトが上手く纏めてくれてるらしい。
 とても年下とは思えない優秀さだ。

 今も何人かの商人が意見を交わしてるのを椅子に座って黙って意見を聞いている。
 その姿は既に大企業のCEOと見間違うほど。
 威厳たっぷりで俺なんかより、よっぽど立派にボスをやってるように見える。

 「下手に口を挟まない方が良さそう」

 俺が口出すと方針がそれになっちゃうから。
 現時点で良い感じに意見を交わせてると思うし、とりあえずあそこが事業書を提出してくるのを待つとしよう。
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