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第4章 雌伏の時

 アナザープロローグ

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 とある帝国内の村。
 そこは圧政が敷かれがちな帝国では珍しく、平和でのどかな生活をしていた。

 村の住人も100人未満。
 村のすぐ近くには森があるが危険な魔物も存在せず、冒険者も常駐していない。
 数人の狩人で野生動物を仕留めたり、農業で野菜を作り、慎ましく生活していた。

 「あ、いて」

 その村の中にて。
 少年少女が駆けっこをしていると、少年が足を躓かせて転ぶ。
 少女は笑いながら、揶揄うように声を掛ける。

 「もう! アーサーったら鈍臭いんだから!」 

 「………」

 しかし、少年は俯いたまま無言である。
 様子がおかしいと思ったのか、少女は少年、アーサーに駆け寄り少し心配したように声を掛ける。
 するとアーサーはピクリと体を動かして、ゆっくりと起き上がった。

 「どうしたのアーサー?」

 「俺が…アーサー…?」

 起き上がった少年の顔は呆然としていた。
 目線をキョロキョロと彷徨わせ、目の前の少女の顔を見て驚いてる様にも見える。

 「ちょっと大丈夫なの?」

 「君は…サラ…だよね?」

 生まれた時からの幼馴染の名前を今更確認するアーサー。サラと呼ばれた少女は怪訝そうな顔をきつつも肯定する。

 「何よ今更。私はずっとサラだよ」

 「そ、そんな…。俺がアーサーで君がサラ。そんなのまるで……」

 アーサー何かを言いかけて止まる。唐突にかなりの頭痛が襲ってきたからだ。
 そしてフラフラと頭を抱えてまたその場に倒れ込んだ。

 「アーサー!? ちょっとアーサー!!」

 サラが焦った様に声を掛けるが、アーサーは起き上がらない。
 そしてそのまま三日三晩、目が覚める事はなかった。



 「うっ…。ここは」

 「アーサー!」

 「あ、サラ」

 「良かった…。目が覚めたのね…」

 サラはアーサーに抱きついてわんわんと泣き喚く。アーサーはというと、倒れる前に狼狽えた姿を見せる事なく、サラを優しく撫でて暖かい目でそれを見つめていた。

 「心配かけたね」

 「急に倒れて起きなくなっちゃったから…」

 その後約30分経ち、ようやくサラが落ち着いた所で、アーサーはもう一度眠ると言ってサラにまた明日来てもらうようにお願いする。

 「また目を覚まさないって事にならない…?」

 「大丈夫だよ」

 最後の最後まで心配していたが、結局サラは渋々と部屋を出て行った。
 因みにアーサーに両親は居ない。数年前に流行り病で両方とも他界していて、サラの家に居候している。

 「さてと」

 アーサーはサラが部屋から出て行ったのを確認すると、頭から布団を被る。そして。

 (異世界転生きたこれっ!!)

 どうやらアーサーが眠っていた三日三晩の間に、前世の記憶とこれまで生きてきた記憶の統合が行われていたようで、今では全てがしっかりと思い出せる。

 (しかも俺がアーサー!! 幼馴染にサラが居るって事はアサクエで間違いない!!)

 アサクエ。正式名称はアーサー・クエスト。
 某ゲームのパクりと言われており、単純に言えばアーサーが魔王を討伐する普通のRPGである
 いや、普通ではない。これはR-18指定ゲーム。
 所謂エロゲーというやつなのである。

 純愛、百合、BLなどなど、とにかく色々な性癖を詰め込んだ開発陣の暴走作。
 ストーリーも平凡で見るべき所もなく、前評判通り全く売れなかったのだが、コアなファンは存在した。そしてこのアーサーに転生した男は。

 (決してやり込んでた訳じゃないけど、大体の進め方は分かるぞ!!)

 適当にエロゲーを物色していた時に、たまたま見つけた作品。
 とりあえずストーリーは粗方クリアした程度で決して細部まで覚えている訳ではないが、それでもある程度知っているというのは大きなアドバンテージだ。

 (こういうのは悪役やモブに転生するものだと思ってたけど、まさか主人公とは! むふっ。むふふ。これはしっかり考えてハーレムルートに進まないと!)

 アーサー・クエストの名前の通り、主人公はアーサーである。
 冒険者として各地を旅して、強い仲間ハーレム要員を集めつつ、最終的に魔王を討伐して国を興してみんなと結婚してハッピーエンドというのが、おおまかな流れだ。

 (アーサーはまだ成人してないみたいだし、物語は始まってないな。……あ! そうだ!)

 アーサーは寝ていたベッドから勢い良く起き上がり、周りをキョロキョロとする。
 そして一つ咳払いをしてから。

 「ステータス」

 ボソッと異世界転生定番の言葉を呟く。
 しかし。

 「ダメかぁ」

 ステータス以外にもそれらしい言葉を連呼するが、目の前に定番のウインドウ等が現れる事なく、少しガッカリする。
 そして改めて布団を被り直して考える。

 (いや、大丈夫だ。ステータスが分からなくてもメインメンバーの職業や恩恵、魔法適性ぐらいは覚えてる。能力値はうろ覚えだけど)

 ガッカリしたものの、知ってるのだから問題ないと思い直す。
 ゲーム知識があるだけ万々歳なのだ。
 決して我儘は言えない。

 (ストーリーが始まる前に色々準備しないとな。まずはサラを冒険者に誘って…)

 サラはこれまた定番の幼馴染キャラよろしく、中々良い職業、恩恵を持っている。
 是非最初の仲間として迎え入れたい。

 (それに物語のチュートリアルイベントで、更に優秀で美人なキャラが仲間になるはず。くふふふっ。俺の未来は明るいぞ!)

 布団の中でアーサーはにやにやする。
 自分のゲーム知識を使えば、ハーレムキャラ全制覇する事も夢ではない。
 アーサーはこれから送るであろう、薔薇色の人生を妄想しながら眠りについた。
 
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