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第3章 勢力増強

第86話 その後

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 「おろろろろろ」

 「お疲れ様です」

 ゴドウィン殺害事件から一週間。
 俺は何度も何度も縄張りと岩山を往復した。
 もうベロンベロンよ。転移酔いでベロンベロン。
 そりゃ嘔吐もするってもんよ。

 「あー、当分したくねぇ」

 「先程ので最後です。本当にお疲れ様でした」

 岩山は現在急ピッチでくり抜いてる真っ最中。
 中の構造がしっかりするまでは、みんなにテント生活を強いる事になるけど、少しの間我慢してほしい。土魔法持ちの奴らでみんな一生懸命やってるんです。それでもかなり時間は掛かる。
 本当ならもっとじっくりやる予定だったしね。

 ペテス領は現在大混乱だ。
 騎士団長が行方不明になってるせいで、領主館はてんやわんや。
 騎士団長の副官だった男が必死に代わりになって差配してるけど、情報部が最後の仕事とばかりに行方不明の噂を街中に流したので、騒ぎは大きくなるばかり。

 俺達はその間にクトゥルフレーヴァンの人員と物資を全て回収。
 ベロンベロンになりながらも頑張って岩山まで転移してたって訳よ。
 スラムが急に空っぽになって、住民達はかなり驚いている。なんたって建材やらもなるべくバラして持って行ってるからね。
 急にポッカリ更地になったようなもんだ。それでもこちらに対応出来ないのは、それだけペテス領が混乱してるから。

 「よし。俺達も行くか」

 「はい。蓄え直しですね」

 ですなぁ。
 秘密基地で力を蓄え直して、別の国で再起しよう。そしていつかこの国を滅茶苦茶にしてやる。
 俺を逃走させた罪は重いぞ。
 まぁ、自業自得なんだけどさ。


 ☆★☆★☆★

 「兄さんが!?」

 「そんな…伯父上が…」

 その知らせを聞いたのは、レーヴァン討伐に向かった日の夜。
 レーヴァンの女ボスを追い詰める事は出来たが、途中で何故か魔物が大挙して押し寄せてきた。

 深層の魔物も襲ってきたらしく、領主の騎士や衛兵で対応する事は困難。
 騎士団長に出張ってもらうしかなかった。

 「魔物は全て倒されていましたが…。騎士団長の姿はどこにもありませんでした。念の為、急いで魔物を解体し、体内も調べましたが騎士団長の痕跡はどこにもありません」

 「そんな…参ったわね…」

 ジェシカはこれからの事を勘案して、かなり険しい顔をする。
 自分の領地で帝国の守護神が行方不明、もしくは死亡。弾劾されるのは間違いないし、良くて爵位没収。最悪は死刑までありえる。
 今代の皇帝は歴代の皇帝と比べて比較的温厚だ。
 だが比較的であり、これまでの皇族の苛烈な所業は平民でも知っている。
 その事を考えると目の前が真っ暗になった。

 (どうしてこんな事に…。たかだかスラムで威張ってる猿山の大将の討伐をお願いしただけじゃない。兄さんがやられるなんて…)

 スカリーもその優秀な頭でこれから起こるであろう事を理解して、顔が真っ青を通り越して真っ白になっている。

 「そして、申し訳ありませんが…。帝都から調査員が派遣されるまでお二方を軟禁させて頂きます」

 現在、実質的に兵を差配している帝都からやって来たゴドウィンの副官だった男がそう告げると、部屋に数名の騎士が入ってくる。
 ここで逃げられたりすると、責任の所在がこの二人から自分達に降り掛かる。
 それを防ぐ為の処置だ。

 ジェシカとスカリーは無抵抗で別部屋に連れて行かれた。
 それを見送った副官は一人になった部屋でため息を吐く。

 「これから忙しくなりますね…。団長が居ないと他国に知れ渡れば戦争もあり得る…。一体何処に行ったのですか、団長…」



 それから一週間。
 副官は騒動の後始末に追われていた。
 なるべく団長が行方不明だった事を隠そうと思っていたのに、次の日には平民までもが騎士団長が行方不明になった事が知れ渡っていて大混乱。
 民はかなり不安がっており、領地から逃げ出そうとする富裕層が大量発生していた。

 さらに。

 「スラムが消滅?」

 自分達が攻め入ったレーヴァン。
 そして、スラムとは思えんばかりに整地されていた場所の建物がどんどんと無くなって行ってるという報告を受けた副官は目眩がしそうになった。

 「意味が分からない…。なんで建物が無くなるんだ…」

 「分かりません…」

 報告に来た帝都から一緒にやって来た騎士も首を傾げて不思議そうにしていた。

 「原因究明は後です。今はそれどころじゃありませんので」

 しかし。
 後程調べて分かったのは、レーヴァンやその他闇組織の人間もこぞって消えている事だけだった。
 どうしてどうやって。その謎は永遠に闇の中である。

 ☆★☆★☆★

 ペテス領から徒歩五日程の村にて。

 「どうしたのアーサー?」

 「俺が…アーサー…?」

 そして物語は歪な形で動きだす。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 はい。という事で今章は終了になります。
 お疲れ様でした。

 いやぁ。短くまとめる予定だったのに思ったよりも長引いてしまいましたね。
 途中で章分けした方が良かったかと、終わってから思いましたね、はい。

 そしてまさかのペテス領からの逃走。
 これは最初から決めてたんですよね。
 ちょっと理由が無理矢理になった感はありますが、次は別国からのレイモンド君の活躍にご期待ください。

 次章はとうとう現代知識チートをぶちかましますよ。まぁ、レイモンド君は知ってる知識をふわっと生産部に伝えて、商業部の人達が頑張って捌くんですがw

 ではではまた次章で~


 あ、作者は他にも作品を更新してますので、良かったらそちらもご覧くださーい。
 

 
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