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第3章 勢力増強

第72話 マッチポンプ

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 ☆★☆★☆★

 「姉御。領内に不穏な噂が流れてます」

 「噂?」

 賭場の従業員スペースにて。
 マーヴィンが領内の噂をレーヴァンのボス、アンジーに報告していた。
 レイモンドが引っ掛かってくれたらいいな程度に内部に亀裂を入れようとしていたが、どうやらアンジーは引き続き重用しているらしい。

 「騎士団長がこの地にやってくると」

 その瞬間、部屋の中が殺気に包まれる。
 マーヴィンは一瞬硬直してしまったが、なんとか持ち直して報告を続けた。

 「領主夫人に久々に会いに来るってのが専らの噂です。領主夫人は妹ですからあり得ない話ではないかと」

 「嘘ね」

 報告を聞いてアンジーは嘘だと断定した。
 あの脳筋が妹に会うためだけに帝都を離れる訳がない。絶対に他に理由があるはずだと。

 「俺もそう思って引き続き情報収集しています」

 「そう。それなら良いわ。あの脳筋がやって来るなら今度こそ…」

 アンジーは殺気を滲ませながら歯噛みする。
 騎士団長とは戦場で一度相対した事がある。
 その時は負けよりの引き分けで、結局勝負はつかなかったのだ。
 あの時、向こうに撤退の合図が無ければ負けてたのは明らかだった。

 そしてそれを機に傭兵稼業を引退。
 周りには飽きたからという事にしているが、実際は逃げたのである。
 もう一度戦って勝てる気がしなかったのだ。
 しかしそれでも出来る事ならリベンジしたい。
 そして理由は知らないが、向こうからこっちに来るらしい。
 戦いたいような戦いたくないような。
 そんな複雑な気持ちを抱いていた。

 「クトゥルフの方はどうかしら?」

 「以前より情報は集めやすくなりましたね。何やら縄張りを大改装してるらしく、冒険者まで雇ってスラムを綺麗にしてます。最近では表の人間もチラホラ見かけるぐらいです」

 「読めないわねぇ」

 ラブジーを下し、人員と縄張りの広さではペテス領一になったクトゥルフ。
 そのままの勢いで人員が多数負傷していたレーヴァンに攻め込んでくると思いきや、何のアクションもなく、縄張りの改装に着手し始めた。
 
 「縄張りの情報はある程度手に入るようになったとはいえ、幹部の情報は集まりません。それに縄張りの中心部やある一定の区画には入り込む事すら困難です」

 「困るわぁ。クトゥルフが不気味なのよねぇ。下手したら騎士団長のゴドウィンより厄介かも?」

 「少し無理してでも入り込みますか?」

 「それは難しいような気がするのよねぇ」

 勘でしかないのだが。
 絶対の自信を持っていた勘も、最近では働く時と働かない時があり、少し不安に思っている。

 「騎士団長とクトゥルフの二面戦争は勘弁して欲しいわねぇ」

 アンジーはそんな事を呟きながらソファにグテっと横たわり、そして目を閉じた。


 ☆★☆★☆★

 「吉とでるか凶とでるか」

 領主夫人が帝都に向けて手紙を出してから一ヶ月が経って、俺はペテス領に情報部や傘下の商会、果ては領主の騎士や使用人までもを使って、軽く噂を流した。

 騎士団長のゴドウィンが領地にやって来る。
 妹の顔を見に来るみたいだ。

 そんな感じの情報を流してみた。
 程なくしてレーヴァンにも伝わる事だろう。
 これで少しは焦ったりしてくれたら良いなぁと。
 まだ本当に騎士団長が来るのか知らないけど。

 「昔の偉い人は言いました。『敵を味方にするには相手に問題を起こしてそれを助けてやれ』と」

 「誰が言ってたんですか?」

 「知らん。忘れた」

 もしかしたら偉人じゃなくて、アニメかドラマだったかも。ちょっと記憶があやふやで。
 とにかくだ。

 「俺はどうしてもアンジーを手下にしたいんだよね。あれだけ優秀な人材は是非とも確保しておきたい。でも俺達がアンジーと戦うってなると、手加減なんて出来ないし、勝てる可能性はまだ低いときた。それならピンチのアンジーを颯爽と助けて恩を売ろうって話だな」

 ただのマッチポンプ。
 騎士団長が来るとしたら俺のせいだし、レーヴァンに罪を着せるように動いたのも俺だ。
 レーヴァンからしたらクソ迷惑な話だろうけど、許して欲しい。弱者は知恵を振り絞って戦わないといけないんです。

 「ようやくレベルも180を超えた。アンジーとの差が二桁になったぞ」

 「まだまだ喜べませんね」

 レベルの上がり方は鈍化してきたが、それでも中層で安定して狩れるようになってきたお陰で徐々に地力はついてきている。
 騎士団長が到着するまでに200の大台には乗せておきたい。

 アンジー達が戦ってる所に乱入するにも、最低限の実力がないと話にならないからね。
 颯爽と助けに入ったのにやられるなんて勘弁ですよ。

 「アンジーと騎士団長が戦って両者共に重傷を負ってくれたら万々歳だな。そこを俺が掻っ攫っていくと」

 「この前の抗争と同じ様な感じですね。難易度はかなり違いますが」

 それな。
 今回は本物の猛者を相手に立ち回らないといけないんだよね。しかも騎士団長の実力は未知数ときたもんだ。
 アンジーの様子から見るに、最低でもアンジークラス。恐らくはそれより上だと思われる。

 「上手くいくかなぁ」

 「確率を少しでも上げる為にレベル上げを頑張りましょう。そして祈りましょう」

 神様に?
 転生してるし多分居るんじゃないかなとは思ってるけどさ。
 あれ? そういえばこの世界の宗教ってどんな感じなんだろ? 異世界物は大抵宗教組織は面倒に書かれてるから期待は出来ないかなぁ。
 
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