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第1章 転生と出会い

閑話 エルフ捜索

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 「旦那様。冒険者が失敗したようです」

 「ちっ。下民が。人一人攫う事も出来んのか」

 街で一番大きな建物。
 領主の屋敷にて、執事からの報告に苛立ちを隠せない20代後半の青年、領主のベルリン・ペテス辺境伯がいた。

 「食堂で戦闘があったようで、エルフは逃走。目撃証言からスラム街に逃げ込んだものと思われます」

 「面倒な所に」

 スラム街と聞いて思わず顔を顰めるベルリン。
 自領ながらもスラム街は扱いの面倒な場所だった。いくつもの闇組織や暗殺組織が幅を利かせており、領主の命令も平気で無視をする。
 領主を父から受け継いだ後、一度鎮圧に動いた事があるが両者共にかなりの死傷者を出した。

 一時的に組織の動きは静かになったものの、いつの間にか後釜が躍進してきて、以前より勢力が増してるくらいだ。
 今では、放っておけばスラム内で縄張り争いをしている為、静観して一種の治外法権地域になっている。

 「追っ手を放ちますか?」

 「スラム街で事を起こすなら、それなりの組織に話を通さねばならない。くそっ。下民の分際で領主に逆らいおって!」

 ベルリンは生粋の貴族至上主義。平民と貴族では種族すら違うと考えている。
 平民は貴族の為に税を運んでくる虫のように考えて、普段からもしっかり差別している。
 だからこそ、平民のせいで自分の思い通りにいかない現状に苛立ちが募っていた。

 「いっその事闇組織に依頼を出しますか? 調べたところ様々な組織はありますが、お金さえ払えばなんでもする組織もあります」

 「冒険者に頼んだ事ですら屈辱だというのに、つぎは闇組織だと!?」

 「では、エルフは諦めるという事でよろしいですか?」

 「くっ…!」

 執事の言葉に苦悶の表情を浮かべるベルリン。
 ベルリンは、貴族至上主義で平民を差別しているというのに、視察で商会に出向いていた帰りに見かけたエルフの冒険者に心を奪われてしまったのだ。
 平民を差別してるくせに平民に懸想する。
 話を聞いた先代から仕えている執事はほとほと呆れていた。

 (全く。旦那様は言ってる事が滅茶苦茶すぎる。先代様がご存命の頃は大人しかったというのに。領主を継いだ途端傲慢になってしまって。普段から平民を差別しているのだから、諦めて放っておけばいいものを)

 「くそっ! 爺! お前の言っていた組織に依頼を出せ! 金は出すからエルフを連れてこいとな!」

 「かしこまりました」

 結局ベルリンはエルフを諦める事が出来ず、闇組織に依頼を出す事にした。
 執事も呆れながらこれを了承。了承するあたり、執事もしっかり貴族至上主義に染まっている。
 平民一人の命や尊厳がどうなろうと、貴族には関係ないのだ。

 そして執事は幾人もの人を介して、一つの組織に誘拐依頼を出す。
 この依頼が後の一大組織誕生の引き鉄になる事を、今はまだ誰も知らない。




 「ボス。依頼です。かなり金払いが良いですね。受けますか?」

 スラム街の中にあるにしては、不釣り合いな大きな屋敷の一室。
 そこにいた熊のような大男は、部下からの報告に詳細も聞かずに受諾する。

 「あたりめぇだ。金を払うならなんだってしてやるよ」

 「じゃあ、前金を貰ってきやすね」

 そして部下が部屋を出て行った後に、置いていった依頼書を見る。

 「エルフの女の誘拐ねぇ。って事は依頼は貴族か大商会ってところか。まっ、大金を払ってるし間違いねぇだろ」

 エルフというのは、国から滅多に出てこないという事で街にいるとかなり目立つ。
 国を出てほぼ他種族とつるまずに一人で行動する事から実力者が多い。
 現に、世界に存在する10人のSランク冒険者の4人はエルフだ。
 ヒューマンや他の種族に比べると、寿命が長い事もあって、古くから名の知れた強者が多いのだ。

 (そんなエルフを誘拐、まぁ、見目が良いから性奴隷にでもするんだろうが、囲うにはそれなりの権力、財力が必要になる。これは攫ってから更に値を上げる事も出来そうだなぁ)

 エルフは闇の奴隷オークションでは、かなりの金になる。こんな依頼料よりも更にだ。
 値の釣り上げを拒否してきたら、そのままオークションに出すと脅せば良いだろう。

 「くくっ。良い依頼が回ってきたもんだな。これで俺の勢力を更に大きく出来る」

 熊のような大きな体を震わせて一人で笑う、ボスと呼ばれた男。

 (そういえば、一昨日だったか。ボロボロのエルフがスラム街に逃げ込んで来たと報告があったな。一応動向を確認しておけと言っておいたが、あれからどうなったか)

 「おい!」

 「失礼します」

 男の呼び声に、部屋の外に控えていたメイドが入ってくる。

 「アハムを呼んでこい」

 「かしこまりました」

 それから数分でアハムと呼ばれた男が部屋に入ってくる。
 アハムは体が細くボスとは対極的な風貌だが、この組織のNo.2である。

 「どうしたんで?」

 「この前、エルフがスラム街に入ってきただろ。その後どうなっている?」

 「あーいましたね、そんなの。地下水道に入った所までは確認しましたけど」

 「ちっ! 地下水道か」

 ボスはアハムからの報告に思わず舌打ちしてしまう。地下水道は街全体に張り巡らされてるのもあって、この組織ですら全容を把握してなかった。
 噂では街の外にまで続いてると言われており、もし逃げられていたら面倒になる。

 「集まれる奴らは全員集めておけ。大きなヤマになりそうだ。かなり金になるからな。失敗は出来ねぇ」

 「うへぇ。地下水道に入るんで? あそこに入ると匂いが中々落ちねぇのなんのって。俺はパスしてもいいっすか?」

 「ダメに決まってるだろ。お前が全体の指揮を取るんだよ」

 ヘラヘラと笑いながら、命令拒否しようとするアハム。こんなんだが、いざ戦闘になると一番頼りになるのがなんとも言えない。

 無理矢理アハムに命令して、スラム街でエルフの大捜査が始まった。
 この動きがスラム街にある様々の組織の動きを活発化させていく事になる。

 

 

 
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