11 / 116
第1章 転生と出会い
閑話 エルフ捜索
しおりを挟む「旦那様。冒険者が失敗したようです」
「ちっ。下民が。人一人攫う事も出来んのか」
街で一番大きな建物。
領主の屋敷にて、執事からの報告に苛立ちを隠せない20代後半の青年、領主のベルリン・ペテス辺境伯がいた。
「食堂で戦闘があったようで、エルフは逃走。目撃証言からスラム街に逃げ込んだものと思われます」
「面倒な所に」
スラム街と聞いて思わず顔を顰めるベルリン。
自領ながらもスラム街は扱いの面倒な場所だった。いくつもの闇組織や暗殺組織が幅を利かせており、領主の命令も平気で無視をする。
領主を父から受け継いだ後、一度鎮圧に動いた事があるが両者共にかなりの死傷者を出した。
一時的に組織の動きは静かになったものの、いつの間にか後釜が躍進してきて、以前より勢力が増してるくらいだ。
今では、放っておけばスラム内で縄張り争いをしている為、静観して一種の治外法権地域になっている。
「追っ手を放ちますか?」
「スラム街で事を起こすなら、それなりの組織に話を通さねばならない。くそっ。下民の分際で領主に逆らいおって!」
ベルリンは生粋の貴族至上主義。平民と貴族では種族すら違うと考えている。
平民は貴族の為に税を運んでくる虫のように考えて、普段からもしっかり差別している。
だからこそ、平民のせいで自分の思い通りにいかない現状に苛立ちが募っていた。
「いっその事闇組織に依頼を出しますか? 調べたところ様々な組織はありますが、お金さえ払えばなんでもする組織もあります」
「冒険者に頼んだ事ですら屈辱だというのに、つぎは闇組織だと!?」
「では、エルフは諦めるという事でよろしいですか?」
「くっ…!」
執事の言葉に苦悶の表情を浮かべるベルリン。
ベルリンは、貴族至上主義で平民を差別しているというのに、視察で商会に出向いていた帰りに見かけたエルフの冒険者に心を奪われてしまったのだ。
平民を差別してるくせに平民に懸想する。
話を聞いた先代から仕えている執事はほとほと呆れていた。
(全く。旦那様は言ってる事が滅茶苦茶すぎる。先代様がご存命の頃は大人しかったというのに。領主を継いだ途端傲慢になってしまって。普段から平民を差別しているのだから、諦めて放っておけばいいものを)
「くそっ! 爺! お前の言っていた組織に依頼を出せ! 金は出すからエルフを連れてこいとな!」
「かしこまりました」
結局ベルリンはエルフを諦める事が出来ず、闇組織に依頼を出す事にした。
執事も呆れながらこれを了承。了承するあたり、執事もしっかり貴族至上主義に染まっている。
平民一人の命や尊厳がどうなろうと、貴族には関係ないのだ。
そして執事は幾人もの人を介して、一つの組織に誘拐依頼を出す。
この依頼が後の一大組織誕生の引き鉄になる事を、今はまだ誰も知らない。
「ボス。依頼です。かなり金払いが良いですね。受けますか?」
スラム街の中にあるにしては、不釣り合いな大きな屋敷の一室。
そこにいた熊のような大男は、部下からの報告に詳細も聞かずに受諾する。
「あたりめぇだ。金を払うならなんだってしてやるよ」
「じゃあ、前金を貰ってきやすね」
そして部下が部屋を出て行った後に、置いていった依頼書を見る。
「エルフの女の誘拐ねぇ。って事は依頼は貴族か大商会ってところか。まっ、大金を払ってるし間違いねぇだろ」
エルフというのは、国から滅多に出てこないという事で街にいるとかなり目立つ。
国を出てほぼ他種族とつるまずに一人で行動する事から実力者が多い。
現に、世界に存在する10人のSランク冒険者の4人はエルフだ。
ヒューマンや他の種族に比べると、寿命が長い事もあって、古くから名の知れた強者が多いのだ。
(そんなエルフを誘拐、まぁ、見目が良いから性奴隷にでもするんだろうが、囲うにはそれなりの権力、財力が必要になる。これは攫ってから更に値を上げる事も出来そうだなぁ)
エルフは闇の奴隷オークションでは、かなりの金になる。こんな依頼料よりも更にだ。
値の釣り上げを拒否してきたら、そのままオークションに出すと脅せば良いだろう。
「くくっ。良い依頼が回ってきたもんだな。これで俺の勢力を更に大きく出来る」
熊のような大きな体を震わせて一人で笑う、ボスと呼ばれた男。
(そういえば、一昨日だったか。ボロボロのエルフがスラム街に逃げ込んで来たと報告があったな。一応動向を確認しておけと言っておいたが、あれからどうなったか)
「おい!」
「失礼します」
男の呼び声に、部屋の外に控えていたメイドが入ってくる。
「アハムを呼んでこい」
「かしこまりました」
それから数分でアハムと呼ばれた男が部屋に入ってくる。
アハムは体が細くボスとは対極的な風貌だが、この組織のNo.2である。
「どうしたんで?」
「この前、エルフがスラム街に入ってきただろ。その後どうなっている?」
「あーいましたね、そんなの。地下水道に入った所までは確認しましたけど」
「ちっ! 地下水道か」
ボスはアハムからの報告に思わず舌打ちしてしまう。地下水道は街全体に張り巡らされてるのもあって、この組織ですら全容を把握してなかった。
噂では街の外にまで続いてると言われており、もし逃げられていたら面倒になる。
「集まれる奴らは全員集めておけ。大きなヤマになりそうだ。かなり金になるからな。失敗は出来ねぇ」
「うへぇ。地下水道に入るんで? あそこに入ると匂いが中々落ちねぇのなんのって。俺はパスしてもいいっすか?」
「ダメに決まってるだろ。お前が全体の指揮を取るんだよ」
ヘラヘラと笑いながら、命令拒否しようとするアハム。こんなんだが、いざ戦闘になると一番頼りになるのがなんとも言えない。
無理矢理アハムに命令して、スラム街でエルフの大捜査が始まった。
この動きがスラム街にある様々の組織の動きを活発化させていく事になる。
10
お気に入りに追加
725
あなたにおすすめの小説
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
異世界でチート能力貰えるそうなので、のんびり牧場生活(+α)でも楽しみます
ユーリ
ファンタジー
仕事帰り。毎日のように続く多忙ぶりにフラフラしていたら突然訪れる衝撃。
何が起こったのか分からないうちに意識を失くし、聞き覚えのない声に起こされた。
生命を司るという女神に、自分が死んだことを聞かされ、別の世界での過ごし方を聞かれ、それに答える
そして気がつけば、広大な牧場を経営していた
※不定期更新。1話ずつ完成したら更新して行きます。
7/5誤字脱字確認中。気づいた箇所あればお知らせください。
5/11 お気に入り登録100人!ありがとうございます!
8/1 お気に入り登録200人!ありがとうございます!
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
天職が『盗賊』という理由で追放されました。盗みを極めし男はやがて魔王と呼ばれる
こたろう文庫
ファンタジー
王国の勇者召喚により異世界に連れてこられた中学生30人。
その中の1人である石川真央の天職は『盗賊』だった。
盗賊は処刑だという理不尽な王国の法により、真央は追放という名目で凶悪な魔物が棲まう樹海へと転移させられてしまう。
そこで出会った真っ黒なスライム。
真央が使える唯一のスキルである『盗む』を使って盗んだのはまさかの・・・
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる