未冠の大器のやり直し

Jaja

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第6章 春到来

第131話 VS神町4

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 「豹馬、いけるな?」

 「もちのろんです」

 試合は今、七回表が終わった所だ。
 本当は六回辺りで交代の予定で、大浦に投げてもらおうかって考えてたんだけどね。

 「ほんまにここまでパーフェクトに抑えるとは思ってなかったなぁ」

 「有言実行する男、三波豹馬です。よろしくどうぞ」

 そう。ここまで、まだランナーを一人も出してないのだ。それどころか、外野まで運ばれたのも一回しかない。
 いくら絶好調とはいえ、ここまで出来過ぎだとなんだか怖くなるね。

 「シニア時代にもやった事はあるけど、七回までだったしなぁ。参考記録程度だから、初めての挑戦って事になるのかね」

 「俺は平然としてるパンが怖いよ。よく緊張せずにいられるね」

 「正直、完全試合は運だしな。偶々内野の間を抜けてないだけだろ。それぐらいの気持ちでいたら、かなり楽なんだよね」

 それにいつか出来るだろうとも思ってたし。
 それが、今日かもしれないってだけで。
 残念なのは、センバツでの完全試合は既にやった事がある人が居るって事なんだよね。
 夏はないらしいんだけど。
 初記録欲しかったです。

 「でも、運を少しでも手繰り寄せる為に、ここからは積極的に三振を奪っていくぞ」

 「既に二桁以上の三振を奪ってるくせに、更にギアを上げるのね。相手方が可哀想になってくるよ」

 二度と俺に敵わないと思って貰わないと。
 これからも甲子園に来たら当たるかもしれないし。手を休める事はしませんぜ。
 心を折りにいってるのに、向こうはパーフェクトだけはさせまいと、やる気が上がってきちゃってるからね。
 もう少しでポッキリいけたはずなのに。

 因みに、点差は10点差と大きく開いている。
 あの後、ホームランは大浦が一本だけなんだけどね。大浦も今大会二本目で、一応レオンに並んでいる。
 そのレオン君は、2.3打席目は勝負を避けられて四球。4打席目はまたもやフェンス直撃のツーベースだった。
 ウルやタイガにも打点がついて、本当にうちの打線は頼もしいなって思う。

 あ、俺の甲子園初ヒットはまだ出てない。
 今日の試合に出てて、ヒットがないのは俺だけだ。っていうか、全部三振。なんで当たらないのやら。わざとじゃなくて、真剣に打ちに行ってるんだけど。

 そんな事を考えながら、1.2番を三振に仕留める。打者二巡目から解禁したスライダー系のお陰で、みんなくるくるとバットを回してくれる。
 特に左打者相手へのスイーパーが効果的すぎて。
 ツーシームを投げる必要も無いくらいだ。

 3番相手には、チェンジアップ2球で追い込む。
 しかし、決めようと思って投げたストレートをカットでなんとか逃げてくる。

 強打のチームがなりふり構わずって感じだな。
 フルスイングしまくってたくせに。

 チェンジアップでタイミングを外そうとしたが、片手一本でなんとかバットに当てる。
 ファールにはなったが、意地でも粘ろうとしてくるな。

 タイガはここでツーシームを要求してきたが、俺は首を振る。
 そして、俺からサインを出す。
 タイガはため息を吐きながらも、俺のサイン通りの所に構える。

 俺は笑顔で投球を開始。
 俺が選んだのは、高めのストレート。
 今まで以上にギアを上げて、初回以来の全力投球。

 3番打者のバットは空を切り、空振り三振。
 球速は154キロと表示されていた。

 「ふははははは! どんなもんでい!」

 俺は腕を大きく振り上げてガッツポーズ。
 甲子園は大歓声に包まれた。
 
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