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第6章 春到来
第124話 VS龍山3
しおりを挟む試合は進んで六回表。現在は阪神園芸さんによるグラウンド整備中。相変わらず神のような手際で素晴らしい仕事振りである。
スコアは変わらず3ー0のままである。
「迷うなぁ。この裏から金子にいかすか? もうちょっと楽な所の方がええか?」
監督がぼやいておる。監督って選手に迷いを見せずにドシっと構えてるのが普通なんだけど、うちのビール腹監督はそんな事はない。
なんだったら、普通にバンバンと意見を聞いてくる。
「もうちょっと打てるかと思っててんけどなぁ。流石全国ってか?」
確かに。あれからヒットやら長打は出るけど、ギリギリの所で踏ん張られてる。
やっぱり下位打線がなぁ。守備の選手って感じでバッティングはそこまでなんだよね。
1番~6番までが凶悪過ぎるんだけど、それが目立つ分物足りなく感じてしまう。
勿論、俺なんかより100倍は頼りになるが。
俺は自動アウト生成マシーンとして、龍宮高校では密かに有名なのだ。
密かにだよ? 稀に芯に当たればホームランが出る。三振かホームランか。ロマンバッターだよね。
三振が9割9分残りの1分がホームラン。
控えめにいってクソだな。
「だってさ、レオン君。そろそろもう一本打って金子を楽に投げさせてあげろよ」
「ふむん。正直、狙ってホームランも打てなくは無いと思うんだがな」
じゃあ打ちたまえよ。金子の甲子園デビューなんだぞ? 俺もだけど。
でも、俺は正直緊張とは無縁ですし。おすし。
あ、なんかお寿司食べたくなってきた。
「いや、生意気な事を言うのは百も承知なんだが、打ち過ぎるとここぞという時に、勝負してくれないだろ? 一打席目に対戦した感じと、二打席目も打席に立ってみて感じたんだが、正直いつでも打てそうな気はするんだよな」
「うわぁ。強者の余裕じゃん」
羨ましすぎるメンタル。だから、二打席目は一度も振らなかったのか。
どうしても、成績を出したいってがっつくのが普通なのち、こいつは既に先を見据えているらしい。
俺も見習わないと。
「まっ、それなら話は早いよな。金子ー。レオンが点を取られたら、いつでも取り返してくれるらしいぞー」
「え? あ、うん。頼りにしてるよ」
丁度、ブルペンから戻ってきた金子に声を掛ける。なんの話か分かってなさそうだけど。
「甲子園初勝利の権利は既に得た訳だしね。俺はここで交代でも大丈夫だよ」
監督とキャプテンを交えつつ、話を進める。
ここまで無失点で来てるんだし、完封も視野に入ってるんだけどね。楽な所で金子にこの空気感を味わってもらっておくのも大事だろう。
「せやな。ほな、そうしよか。打線も打てるんなら、後2.3点取ってきてくれや」
「豹馬の言葉に甘えさせてもらおうかな。まだ余裕はあるしね」
監督の打線への投げやりな指示よ。
取って来てくれや、それで取れたら野球はもっと簡単なんだよなぁ。
うちの打線なら「はーい」とか言って取ってきそうなのが笑えないんだけど。
「ほな、金子は六回からいくからそのつもりでな。豹馬もぼちぼち準備始めといてくれや」
「了解でーす」
うーん。俺のデビュー戦はあるのかなぁ?
金子の出来次第だろうけど、調子が良ければそのまま試合終了までいくだろうし。
正直、どうせなら先発で投げたいって気持ちもあるしなぁ。
一回をパーフェクトに抑えたからって、新聞に載るレベルの人気者にはなれないし?
なんだったら、レオンのかませ相手に選ばれる可能性も?
「よし! 金子! 頑張ってくれよ!」
「え? うん、勿論だよ」
ここはカーブマスターさんにこの試合お願いして、俺のデビューを引き延ばしてもらおう。
俺はどうしてもチヤホヤされたいのだ。
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