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第五章 魔王討伐

第154話 押され気味

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 「フム。二対一 トハナ」

 「勝てばよかろうなのだ!」

 ブラッドチェーンを伸ばして、相手に急接近。
 エンペラー・リッチは恐らく【死王纏鎧】を使った。接近戦が出来るとは思えないが、そのお手並みはいかに。

 「圧が凄いな」

 存在が『死』そのものと言いますか。
 普通の人間とかなら近付く事すら出来ないんじゃなかろうか。魔王の前に立つにはある程度の強さも必要って事かね。

 「クカカカカ。ソンナ 玩具デ 我ヲ 傷付ケ ラレルトデモ?」

 「俺の可愛い眷属ちゃんを舐めるなよ!」

 そうは言ったものの、攻撃は当たるが全く傷すら付けられない。
 なんだよ、あの骨。何で出来てんだ。ブラッド・チェーンの鎌は試してみたけど、アダマンタイトにも傷を付けたんだぞ。

 「コチラモ 攻メサセテ 貰オウ」

 「どっひゃー! 半端ねぇな!」

 展開される色んな種類の魔法。テレサや妲己なんかよりも断然展開速度が早く、更に威力がありそうだ。

 「レト様、使うの?」

 「これならまだなんとかなる! テレサは今は自分の防御に集中しといてくれ!」

 魔法が撃たれた事で、早速テレサが対応しようとするけど、それを使うのはまだ早い。
 長引けば長引くほど戦いは俺に有利になっていくはずだしな。今も絶賛学習中だ。

 「ふはははは! 普段の模擬戦の結果が出てるぜぇ!」

 高速思考を使って、魔法をどんどんと躱していく。時にやばそうな時はブラッド・チェーンを展開して盾にもする。【不壊】って素敵。
 最初は可哀想とか思ってたけど、喜んで盾になってくれるから気にしなくなった。こいつはMかもしれんな。

 「オ遊ビノ 魔法デ 良イ気ニ ナリヨッテ」

 「でけぇよ」

 攻撃範囲が広がった。躱せないぐらい大きな魔法で逃げ場を無くそうとしてるらしい。
 もう既に周囲の環境が滅茶苦茶だ。戦いが終わった頃には焼け野原になってるかもな。

 「テレサ、あの後ろから二番目の魔法だ」

 「分かったの」

 魔法が単純にでかくなっただけで、被弾が増えてしまった。ダメージは気にする程でもないし【再生】ですぐに元通りになるけど、中々近付けない。
 って事で、テレサに手伝ってもらう。

 「ムッ?」

 俺は停止の【魔眼】で魔法を停める。
 そしてその瞬間、テレサが【空間魔法】で邪魔だった魔法を何処かに飛ばしてくれた。
 これが俺達の魔法対策。厄介な魔法は消せば良いんだ。

 「とっても魔力を使うの。何回も使えると思わない方がいいの」

 難点は燃費がクソ悪い事。魔力回復ポーションも用意してあるけど、飲み過ぎたら中毒になるし、とにかく不味い。
 ウェインは改良に途中で飽きちゃったから。そろそろ再開して欲しいけど。

 因みにテレサが【空間魔法】で何処かに飛ばした魔法。これはテレサ自身もどこに飛ばしたか分かってないらしい。
 座標指定をせずに、適当に遠くに飛ばしてるだけだから、今までテレサが通ってきた場所の何処かに魔法が飛んで行ってるはず。
 運が良ければ街中とかに急に魔法が出現してる事だろう。良かったね、人類。ドキドキ花火大会だぜ。

 俺は魔法が消えて一瞬動揺した魔王に、身体強化系の能力を全部使って一気に接近。
 ここからは離れないぜぇ。

 「おっ! 傷付くじゃん! やっぱり振動は素晴らしいな!」

 「小癪ナ!」

 ブラッド・チェーンを相手の体に巻き付け、俺から離れないように固定。無理矢理接近戦に持ち込む。魔法オンリーの奴なんて、接近してしまえばこっちのもんよ!

 「よーし! お前はサンドバックだ!」

 「舐メルデ ナイワ!」

 お、およ? あなた、骨なのに体術を嗜んでらっしゃる? 格闘には結構自信があったんだけど、なんか普通に押されてるんだか?

 「い、いたっ! こんにゃろ! 吸血鬼のハイスペックを舐めるなよ! お前のその体術もすぐに簒奪してやらぁ!」

 「クカカカカ! ヤルデハ ナイカ! コンナニ 楽シイノハ イツブリカ!」

 そうね。楽しい。俺は戦鬪狂ではないと思ってたんだけど、なんか今めっちゃ楽しい。
 なんとか張り合えてるからだろうけどさ。これが圧倒的実力差なら絶対楽しくなかった。

 エンペラー・リッチは格闘戦の中にも魔法を上手に組み込んで戦ってくる。
 その対処に追われてる内に、何発か良いのを貰っちゃうんだよね。これは勉強になるな。
 俺も組み込んでたつもりだけど、練度が違う。
 絶対この戦いでモノにしてやるぜ。


 ☆★☆★☆★

 「小賢シイ技を使いオッテ!」

 「キュンキュンキューン!」

 妲己とドラゴン・ゾンビの戦いは終始妲己が押し気味で進められていた。
 【虚影魔法】で色々な方向から魔法を高威力で放たれて、被弾が増えていく。

 そして時々混ぜられる【超念力】。
 腐肉をどんどんと抉り取られて【超再生】が追いつかない程だ。

 「そんナに魔法ヲ使っテ魔力が持つノカ? 私は耐エルだけで良イノダ!」

 手数の違いに押されていき、持久戦に持ち込もうとするドラゴン・ゾンビ。
 普通の魔物同士の戦いなら、その選択は間違いではなかった。現に、妲己の魔力は最初から全開で攻撃していた為、尽きかけていたのだから。

 だが、残念ながら妲己には味方がいる。

 「キュン」

 妲己が一声あげると、虚空から出てきたのは魔力回復ポーション。
 ウェインの暇潰しの作品。魔法鞄のピアス版を妲己は装備していたのだ。

 「キュウ…」

 あまりの不味さに顔を顰めつつも、魔力回復ポーションを瓶ごと口の中に放り込む。
 飲み干し終わると、瓶を口の中から吐き出して戦闘再開だ。

 「待テ待テ! それはズルだロウ!」

 「キュンキューン!」

 ドラゴン・ゾンビの抗議も虚しく。
 妲己の更なる猛攻が始まった。
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