91 / 172
第四章 迷宮都市ラビリントス
閑話 ラビリントスの事後
しおりを挟む「ここが禁忌の実験生物が出たラビリントスですか」
レトが黒蝶のボス、スネイルをクリーチャーに変異させ、街に解き放ってから3ヶ月後。
シュルペニア神聖王国の枢機卿の一人が、ラビリントスにやって来ていた。
枢機卿がラビリントスに来た理由は、禁忌の実験生物が発生したと、この都市の教会から連絡があったからだ。
「お待ちしておりました。枢機卿様」
「うむ。手紙でも概要は理解したが、今一度説明してくれるか?」
「では、事の発端から--」
ラビリントスの司祭から聞いた話は悍ましいものだった。
表向き商会を運営していた闇組織が、ある日を境に拉致され拷問。
そして商会の前に晒されるという、目を覆うような惨状で、予め手紙で理解していた枢機卿も身震いする程だった。
「恐ろしいな。そして最後に出て来たのが、商会主のスネイルか…。間違いなく禁忌だったのか?」
「はい。理性もなく、ただ暴れるだけの魔物よりも悍ましい存在でした。S級冒険者が来てくれなければ、被害はもっと出ていたでしょう」
禁忌とは、教会が正式に禁止してるタブーの事である。
危険な魔法の実験。死者蘇生。不老不死の研究。
色々あるが、今回は魔物の血を人間に飲ませたらどうなるかという、約150年前に禁忌扱いされている実験だった。
教会側も昔、罪人で実験をして、今回と同じ様な生物を生み出してしまったのだ。
教会は、実験結果を重く受け止めて禁忌扱いにし、国の上層部には結果までを報告した。
理由も分からず、禁忌扱いにすると反発や試しにやってみるという事例も多いからだ。
禁忌を破ると、シュルペニア神聖王国はその事件があった国を徹底調査する。
なので、まず枢機卿が先駆けとしてやってきたのだ。
「犯人は未だ分からずか?」
「はい。スネイルと親交があった人間はほとんど殺されておりまして…。目撃者も全く。闇組織同士の抗争かと思い、そちらも洗ってみたのですが、芳しくありません」
「参ったな。犯人を見つけないと、また同じ事を繰り返されるかもしれぬ。そしてそれは教会の沽券に関わる。突き止めねば、禁忌を犯す者が他にも出て来るぞ」
「一応、有力かどうかは分かりませんが、僅かながら情報があります」
「ほう。聞かせよ」
「冒険者ギルドのギルド長が、件の闇組織に賄賂を貰っていたらしく。こちらで詮議して、現在は謹慎処分にしておりますが、どうやら報復の為に人を探していたらしいのです」
「なるほど。そいつが怪しいと?」
「はい。しかし、目撃情報がほとんどなく、得た情報は髪色が赤く、見慣れない貴族の様な格好をしていると」
「むぅ。それだけか?」
「後は、冒険者ギルドには登録せず、迷宮に入ってるらしいです。供の者もおらず、迷宮の30階層での目撃証言がありました。その半年後に街中で商会を回って煙草を買い漁ってたぐらいですね。しかし、その男が街中で目撃されてから、直ぐに騒動がありましたので、関わってる可能性もあるのではないかと」
枢機卿は僅かしかない目撃情報を残念に思いながらもこれからの事を考える。
騒動が終わってからは、また姿を消したらしく、もしかしたら既に街を出てる可能性もあると。
「どうすれば良いか迷うな。この都市を徹底的に調べるのは確定として、どの騎士団を派遣するか。第二騎士団がまだ再建中なのが悔やまれる」
「ミュラー団長のご遺体は見つからずですか?」
「うむ。魔王の足跡も全く分かっておらんしな。どこぞで引きこもってくれてると、とりあえず助かるんだが」
「魔王は縄張りから出てきませんからね」
「大人しくしてくれるならばそれで良いのだ。知らずにちょっかいをかけてしまった場合が怖いが」
枢機卿は司祭と雑談しつつ、逸れた話を元に戻す。
「迷宮にも調査隊を入れるべきか。いや、流石に国が許さんだろうな。いくら禁忌の調査とはいえ、騎士団を他国の迷宮に入れるのは色々問題か」
「冒険者に調査を依頼しますか? S級クラスはかなりお金が掛かりますが」
「それも検討すべきだな」
(犯人の居場所さえ分かっていれば、超越者の派遣も出来るんだがな。流石に調査の段階では無駄遣いか)
「とりあえず、禁忌を討伐したS級冒険者にも話を聞こう。繋ぎは取れるか?」
「はっ。もしかしたらまた話を聞かせてもらうかもしれぬと言ってあります。宿の場所も押さえてありますれば」
「うむ。では使いを送って都合の良い日を聞いてきてくれ。冒険者とはいえS級だ。いきなり押し掛けて機嫌を損ねたらかなわん」
「かしこまりました」
翌日。
すぐに連絡が取れたS級冒険者デスターと、教会の一室で会談する。
「神聖教会枢機卿のネルフィムだ。いつもの通りの言葉で構わぬ。討伐した時に何か変わった事が無かったか教えてくれぬか」
「S級冒険者のデスターだ。お言葉に甘えて言葉を崩させてもらうぜ。丁寧な喋り方は性に合わんからな。あれは、俺が娼館から帰ってる時だった--」
そこから、討伐までの流れを一通り説明してもらい、気になった事もあったという。
「戦闘中、ずっと誰かに見られてるような気がした。気になって、周辺を探りながら戦ってたんだが、それらしいのは見つけられなかったな。だが、他の冒険者や騎士が突然狂ったようにおかしくなったのは知ってるだろ? 簡単に抵抗は出来たが、恐らく見てた奴が何かしたんだろうよ」
報告にも、突然同士討ちを始めたりと不可解な事はあったが、誰かが介入した可能性が高いらしい。
S級冒険者が見つけられなかったという事はかなりの手練れでもあるだろう。
「貴重な意見だ。助かった。これは少ないが礼だ。また何かあったら話を聞かせてほしい」
「迷宮に行ってたら無理だがな。地上にいたら話ぐらいはしてやらぁ」
そう言って帰って行ったデスターを見送り、これからの方針を決める。
「やはり、誰かが意図的に禁忌を街に解き放ったんだろうな。それを観察していた可能性があると。うむ。目撃者を集めて似顔絵を作らせよ。もういないかもしれんが、この都市を徹底調査するぞ」
「かしこまりました」
0
お気に入りに追加
254
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?
みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。
なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。
身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。
一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。
……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ?
※他サイトでも掲載しています。
※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
未冠の大器のやり直し
Jaja
青春
中学2年の時に受けた死球のせいで、左手の繊細な感覚がなくなってしまった、主人公。
三振を奪った時のゾクゾクする様な征服感が好きで野球をやっていただけに、未練を残しつつも野球を辞めてダラダラと過ごし30代も後半になった頃に交通事故で死んでしまう。
そして死後の世界で出会ったのは…
これは将来を期待されながらも、怪我で選手生命を絶たれてしまった男のやり直し野球道。
※この作品はカクヨム様にも更新しています。
死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?
わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。
ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。
しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。
他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。
本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。
贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。
そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。
家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる