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第四章 迷宮都市ラビリントス
第59話 ボス
しおりを挟むボス部屋前で自分の芸術センスに満足していると、部屋が開かれ入れるようになった。
「死体遊びはこの辺にしとくか。俺の芸術センスは天才的だな」
これでも自慢じゃないが、美術の成績は5段階評価でずっと1だったんだ。
学校の先生程度では俺のセンスは計れなかったらしいね。
「さーて、何が出てくるのかなっと。あ、この部屋内なら妲己とアシュラ出しても大丈夫か」
「キュン!」
「ギャギャ?」
元気良く飛び出してきた妲己とは対象的に、アシュラは寝てたのか、口からヨダレが垂れてる。
「まったく。アシュラ、こちらに来なさい」
まだ、半分寝てるアシュラをお世話すべく、グレースがハンカチで顔をふく。
こいつは、突然ママ味を出したり人を殺したりと精神面がコロコロ変わる。
まるで、サイコパスみたいだ。怖い怖い。
「ボスは…おおー! いつしかのゴブリンリーダーさんじゃないか!」
俺が生まれた洞窟の入り口辺りで陣取っていた懐かしのゴブリンリーダー。
お供も10体連れて、何もない空間から突然現れた。
「キュン?」
「ん? ああ、いいぞ。アシュラと2人で頑張っておいで」
「キュンキューン!」
妲己がすっかり得意技になった火の玉ガトリングを開幕でぶっ放す。
「アシュラと2人でって言ったのに。秒で終わっちゃったじゃん」
蝙蝠時代は苦労したのに。
ガトリングの前に為す術なくやられていった。
「ギャギャ?」
グレースに未だお世話されてるアシュラは、もう影に戻っていいの? と、やる気が皆無。
一応皆の成長の為にダンジョンに来てるんですがねぇ。
「うーん。どの階層なら妲己達を出して狩りが出来るんだろうか」
「30階以上なら人も減ると思いますよ。そこのボスが上級冒険者への登竜門らしいですから」
「ほーん。じゃあそこまではダッシュで行くか。ごめんだけど、妲己とアシュラはもうちょっと影にいてくれる?」
俺が言い終わる前に、アシュラは影の中に飛び込んでいた。
お前、グレースにお世話されに出て来ただけじゃんね。
「グルォォオオオ!!」
「うるさい」
俺は飛びかかって来た、エアリアル・ハイウルフを【影魔法】で串刺しにする。
空中にいたせいで、方向転換すら出来ず息絶える。
「所詮20階の獣か。【風魔法】で方向転換ぐらいしてくるかと思ったけど」
現在20階のボス部屋。
ウルフ集団が出て来たが、正直10階と変わらん。
「さてさて、宝箱はっと。んー。またポーション。今回は中級だけど」
ボスを倒すと、素材と魔石、そして宝箱がドロップする。
10階では、木箱に下級ポーションが10本。
20階では、中級ポーションが10本。
「この調子なら、30階は上級ポーションか? 魔道具とかの方が嬉しいんだけど」
中級ポーションまでなら、リブラで山程パクってきたからいっぱいあるんだよね。
上級は数える程しかないから嬉しいけど。
「まぁいいか。切り替えて次だ、次」
俺はボス部屋から出て次の階層に向かった。
30階層を超えるまでは、まともに糧になりそうもないのでグレースにも影に入ってもらい、空を飛んで最短で階段まで向かった。
出てくる魔物も、オークやゴブリン、ウルフの上位種。
後は虫系魔物がちらほらと。
ワームを見た時は鳥肌が立ったね。
倒す必要もないのに、反射的に空から魔法をぶっ放していた。
やはりミミズはだめだ。
蛇は平気なんだけどな。
「で、30階到着っと」
ボス部屋前に到着すると、いくつかの冒険者集団がキャンプを張っていた。
セーフティゾーンが無いからボス部屋前で固まって交代で見張りをしたりしてるらしい。
ボスに挑む気はないみたいなので、さっさと入らせてもらう。
とてもダンジョンに入る格好じゃない奴が、1人でボスに挑もうとしてるのでそれなりに注目を集めたが気にしない。
出て来たボスは、オークとゴブリンの上位種の混成集団にそれを統率するオーガ。
スタンピードで見た様な感じ。
「よーし。グレースと妲己とアシュラで頑張ってくれ」
「御意」
「キュイ」
「ギャイ」
影の中で練習して来たのか、それともグレースの真似をしてるだけなのか。
いかにも臣下ですみたいな返事。
妲己はニッコニコでやってるけど、アシュラはとりあえずやっとくかみたいな感じ。
こういう所で性格が出るよな。
なんか偉くなったみたいで、承認欲求が満たされるからいいんだけど。
俺は影から椅子を出して煙草を吸いつつ、戦いを眺める。
グレースは、正統派騎士みたいな戦い方でヘイトを稼ぎつつ、妲己が魔法を撃ち込む。
アシュラは隙をみて、ゴブリンやオークに金棒を叩き込み、不恰好ながらも協力して連携プレイをしている。
「まあ正直、妲己が【超念力】使ったらすぐ終わるんだけど」
ぶっ壊れ能力だからな、あれは。
グレースと妲己なら単体でこのボスにも勝てるだろうけど、アシュラはまだまだ弱い。
不必要な縛りプレイみたいになってるけど、アシュラの為にもここは頑張って欲しい。
「キュンキューン!」
「ギャギャギャ!」
妲己が【雷魔法】を身に纏い、オーガに接近。
雷速で脚を噛み切り、体勢を崩した所にアシュラが金棒で頭を潰す。
【剛力】の能力と金棒の【重量調整】あるからかパワーは大したものである。
魔物ランク的に恐らくアシュラより格上のオーガを手助けありとはいえ、倒せたのは大きいな。
「はい、お疲れさーん」
2人がオーガと戦ってる間に、グレースが周りの取り巻きを片付けて戦闘終了。
30階も危なげなく勝利。
「アシュラはまだ進化無しか。格上を倒したし、するかなと期待してたんだけど。まさか打ち止めって事はないよね?」
ここからどんな進化をするのか、想像つかないけど。
出来ればカッコよく進化して欲しいな。
可愛い枠には妲己がいるし。
「グレースもサポートお疲れさん」
「ありがとうございます」
スキルもあるだろうけど、団長をしてたからか周りが良く見えてらっしゃる。
ヘイトを稼ぎつつ、2人が気持ち良く戦闘出来る様にしてたからね。
「キュンキュン!」
「ギャ? ギャギャ!」
「ん? あーっ! 勝手に宝箱開けてる!!」
お楽しみなのに!
今回俺は戦ってないから仕方ないけど、俺が見てる前で開けてよな!
ワクワクしたかった!
因みに、入っていたのはそこそこ価値がありそうな複数の宝石だった。
魔道具は? 上級ポーションは?
人間には宝石は有り難いだろうけど、俺はそんなにいらないよ?
服を仕立ててもらった時に使ったくらいだし。
妲己とアシュラも開けるだけ開けて興味を失ったのか、影に入れろと懇願してくる。
いや、ここからはフィールドでも戦ってもらうからね?
☆★☆★☆★
「ボス! 大変でさぁ!」
「うるさいですね。それとここでは会長と呼びなさい」
迷宮都市ラビリントスのとある商会。
それを隠れ蓑に、犯罪組織・黒蝶が広く根を張っていた。
ボサボサ頭の下っ端が慌てて会長室に入ってくると、狐目のいかにも狡猾そうな男が見ていた書類から顔を上げ注意する。
「す、すいやせん」
「それで何があったのです?」
「ダンジョンで部下5人が殺されました!」
「ふむ? よくある事じゃないですか」
黒蝶はそれなりに大きい組織であるが、敵がいない訳ではない。
手を出されたのに腹は立つし、報復もするがここまで慌てる事じゃない。
「ただ殺された訳じゃないんです」
そこから聞いたのは、あまりにも無惨な殺され方。
正直自分達でもドン引きする様な殺され方をして晒されていたのだ。
「これは私達に対しての宣戦布告ですかね? あの辺で黒蝶の下っ端が活動してるのは、裏社会では周知の事実ですし」
会長と呼ばれた黒蝶のボスは頭の中で、手を出してきそうな組織を考える。
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「へい!!」
「さてさて、どこの馬鹿が手を出してきたんでしょうねぇ。ラビリントスに来た新参の冒険者といった事も考えられますか。ギルド長にも話を聞きますかね」
黒蝶のボスは書類を仕舞い、ギルド長宛に手紙を書く。
ギルド長には、少なくない賄賂を送ってある事もあり、個人情報も簡単に教えてくれる。
しかし、そこから1週間。
情報は全く集まらなかった。
裏組織の人間が手を出してきた様子もなく、新参の冒険者も同じくない。
それでもやられっぱなしでは、黒蝶のメンツに関わるので諦めず情報を集める。
同じ様な事件が起きたのは、そこから半年も経った頃だった。
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