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第四章 迷宮都市ラビリントス

第53話 超越者

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 「ギャ、ギャ、ギャフシュ!」

 「キュンキュン!」

 アシュラはお腹いっぱいになって満足したのか、影の中に入るとすぐに眠りについた。
 妲己に詰められながら寝るとは中々図太い奴である。
 しかし、相手にされないのが気に入らないのか、妲己は寝てるアシュラの鼻に自分の尻尾でこしょこしょやり、くしゃみをさせていた。
 それでもまだ寝続けているが、くしゃみが面白かったのか、それで満足したようだ。

 「よし。じゃあ、頼むよ、グレース」

 「お任せ下さい。まずは基礎からいきましょう」

 俺は、本格的に武術を習う事にした。
 武器を持つ事は今の所考えてないので、体術を習いつつステゴロを極めようと思っている。
 カッコいいロマン武器でも手に入れたらまた考えるけど。

 「人型だし、アシュラにも習わせたかったな。寝てる所を起こす程でもないけど」

 「魔物が武術を習うなんて考えたくないですね。ただでさえ、肉体性能は魔物の方が断然良いのですから。超越者達はまた別ですが」

 「超越者? 初めて聞くな」

 「人類の枠組みを超越してる人間種の事ですね。レト様にステータスについて教えてもらったので、今なら分かりますが、多分ある一定のレベルを超えると肉体性能がかなり上がるんですよ。今までとは比にならないレベルで」

 ほほー。
 そんな人間が居るのか。
 グレースが大分上澄みの人間だと思ってたけど、更に上はいるもんなんだな。

 「グレースは違うのか? 大国の騎士団長だろ?」

 「私も超越者になる事を期待されてはいましたが違いますね。一度手合わせをしてもらった事はありますが、相手にならなかったです」

 「うへぇ。どんだけ強いんだよ。グレースでも魔法使わないときつかったのに」

 「聞いた所によると、種族そのものが進化するみたいですね。寿命も大幅に伸びるとか」

 あー、ヒューマンがハイ・ヒューマンになる的な?
 勘弁しておくれよ。
 俺は強者を求める戦鬪狂じゃないんだよ。
 出来るだけ楽して勝ちたいんだから。

 「グレースは眷属になって、種族が変わったけど変化はないの?」

 「肉体性能が若干上がったくらいですかね? あ、後、偶に血が飲みたくなります」

 「やっぱりレベルか。とりあえず100を目安に上げてみようか。ダンジョンに篭ってたら上がるだろ」

 「そうですね。レト様の眷属に恥じないように精進します」

 一瞬、グレースの目がドロッとしたのを見ないフリをして血を渡す。
 偶にヤンデレの波動を感じるんだよね。
 俺絡みになると圧を感じる事がある。

 「それで、その超越者は何人ぐらい居るのかな?」

 「私が知る限りでは、シュルペニアには5人はいましたね。1人は第一騎士団の団長で、残りは教皇直属の人でした。大国であれば何人か囲ってると思われます。後、S級冒険者ですね。多分S級になるのは超越者じゃないといけないのかと。数では、冒険者に超越者が一番多いと思いますよ。せっかく強くなったのに、国に縛られるのは嫌なんでしょうね。冒険者は自己責任ですが、自由ですから」

 それって、結構数が居るって事じゃないですかね。
 人類は弱いと思ってたけど、上澄みはやっぱり別格か。

 「それで魔王に勝てないって、やばくない? 本で読んだけど、昔、フェニックスに挑んで惨敗した国があるんだよね?」

 「はい。かなり昔ですが。シュルペニアにあった文献では、50人以上の超越者が戦いに参加したそうですが、生き残りは皆無だったそうです」

 化け物じゃん。
 俺がその立場なら瞬殺される自信があるぞ?
 グレースよりも倍以上強い人間が50人以上だぞ?
 ちょっと考えたくないね。

 「ちょっと人間に対する考えを改めないといけないかな。もっと強くならないと、調子に乗れないじゃんね」

 「そうですね。今のレト様なら、超越者以外に負けるとは思えませんが、油断はするべきではないかと。今向かってるラビリントスにもS級冒険者が何人か居た筈ですので」

 ちょっと。
 そういうのはもっと早めに言ってくれる?
 途端に行きたくなくなってきちゃったよ。
 どっかに隠れてこそこそ強くならない?
 人間相手に消極的になるのは業腹だけど、負けるのはもっと嫌だし。

 「迷宮都市には、もう少しゆっくり向かおうか。ちょっとでも自力を上げていきたい。それか、もっと小さい街にダンジョンはないのかね?」

 図書館で見た限り、ダンジョンがあるのは大国ばっかりだったけど。
 地図は無かったんだよね。
 周辺国ぐらいの知識しかないんだよ。
 やっぱりこの時代ぐらいだと地図は戦略物資になるのかね。

 「ないですね。もし小国にダンジョンが発生したりすると、すぐに大国が戦争を吹っかけます。ダンジョンは資源の宝庫なので。どれだけ国にダンジョンがあるかも重要なのですよ」

 野蛮な世界だな、くそったれ。
 小国はたまったもんじゃないだろうな。
 自国にいつ爆弾が生えてくるかわからないんだし。
 大国は嬉しいだろうけど小国はダンジョン発生イコール死だもんね。
 さすが人間欲深い。
 欲深さなら俺も負けてないけど。

 例によって、ダンジョンは何故発生するのかはわかっていないらしい。
 神の試練とか言われてるらしい。
 ラノベあるあるじゃんね。
 世界の魔力の循環装置とかさ。
 あながち間違ってないんじゃないかと思うけど。

 「ギャギャ」

 「キュン」

 おお。
 アシュラが妲己の腹を枕にして寝てる。
 こいつ図太すぎるだろ。
 今日が初日だぜ?
 妲己も仕方ないなぁみたいな感じで尻尾を布団代わりにしてあげてる。
 優しすぎるだろ。可愛すぎるだろ。ママかよ。
 聖母妲己。
 ちょっと付ける名前間違いましたかね。
 名前のせいで脳が解釈違いになる。
 
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