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第三章 人間の街

第47話 スタンピード終結

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 「全然目を覚まさねぇな、こいつ」

 女騎士との戦いが終わって30分程経ったが、一向に目を覚ます気配がない。
 さっさと、眷属化したいんだが。

 「これって、意識が無い相手に血を飲ませても成立するのかな?」

 これも実験だしやってみても良いんだけど、その前に一つこいつには大役を務めてもらわないと。

 「くっ殺がまだ聞けてないんだよ」

 眷属化して言わすのはなんか違うしさ。
 素の状態の生くっ殺が聞きたい。

 「うーん。どうするか。目を覚ますまで、妖狐と遊んでおこうかな」

 「キュン?」

 あ、リブラの街の事忘れてた。
 女騎士が居なくなって、戦線は保ててるのかな?
 【魔眼】で確認してみると、ギリギリアウトな展開をしている。

 「待ってる間は暇だし、あの魔物達と残ってる人間は妖狐の経験値にしちゃおうか」

 これでリブラの街を守った英雄である。
 これぞ、マッチポンプ!
 ……まあ、目撃者は消すつもりだから無理なんだけど。

 「よーし! 行くぞ、妖狐! 狩りの時間だ!」

 「キュンキューン!」

 俺は女騎士を影で縛ってから影の中に放りこみ、意気揚々と魔物の元へと向かった。



 ☆★☆★☆★

 「耐えろ! 団長が戻って来るまで、なんとか持ち堪えるんだ!」

 「し、しかし、このままでは…」

 第二神聖騎士団の副団長キースは、減らしても減らしても迫り来る魔物の対応に追われていた。
 ミュラー団長が、突然元凶を見つけたと言ってから1時間程が経ったが未だに戻って来ない。
 冒険者と連携を取り、なんとかギリギリ持ち堪えているが、それもそろそろ限界だった。

 「よーし、妖狐! 好きなだけ暴れろ!」

 そんな時に現れたのは、真っ赤な髪をした高貴なオーラ満載にした美丈夫と体長が2m以上もある狐の魔物だった。

 男と狐の魔物は、進行して来ていた魔物達を瞬く間に仕留めていき戦況は好転。
 騎士と冒険者はなんとか息を吹き返した。

 「副団長!」

 「ああ! このチャンスを逃すな! 全員気合いを入れろぉ!」

 騎士と冒険者は男が救援だと思い、便乗して戦線を押し返していく。
 極限状態であった為、ミュラー団長が言っていた赤髪の男を探せという言葉をすっかり忘れていた。

 ☆★☆★☆★


 よしよし。
 オーガもクイーンもまだ残ってるな。
 冒険者のランク的にも結構強そうだったし、妖狐の良い経験値になりそうだ。

 「よし! 雑魚狩りはこの辺でいいだろ。後はモブ共に任せておいて、俺達は美味しい所を狙うぞ! サポートしてやるから、オーガとクイーンを狩ってみろ!」

 「キュンキュン!」

 はい、可愛い。
 やったりますよ! って顔してるけど、普通に可愛い。
 もう、存在が可愛いって罪だよね。

 「よしいけ!」

 「キュン!」

 「は?」

 いけって言った瞬間にオーガの首が飛んだ。
 いやいや、おかしいだろ。

 「え? 【超念力】?」

 「キュ、キュン」

 妖狐もびっくりしてるじゃないか。
 強そうだから、気合いを入れて使ったんだろうけどこの結果は予想外すぎる。
 【魔眼】の魔力視のお陰で、魔力運用が効率的になったとはいえ、これはバグだろ。
 下手したら俺も普通にやられるぞ?

 「よ、よし! 気を取り直して、クイーンの方に行こう! 【超念力】は禁止ね!」

 「キュン!」

 こんなの練習にならんからな。
 妖狐にも強い相手との実戦経験を積んで欲しいしさ。

 「キュンキューン!」

 うむ。今回は良い感じに拮抗してるな。
 身体強化と【火魔法】を上手く使って立ち回ってる。
 クイーンも、【蟻酸】や【土魔法】、【岩土操作】を使って、相手をしてるけど戦い方が中々嫌らしい。
 魔法を派手に使うんじゃなく、分からない程度に地面を陥没させたり、隆起させたりして搦手を使ってくるタイプみたいだな。

 引きこもりの蟻なんて大した事ないと思ったけど、これが中々どうして。
 妖狐には簡単な敵しか今まで相手をさせた事が無かったから良い経験だな。

 「キュンキュンキューン!」

 おお! かっこいい!
 ファイヤーボールを極小に何個も作って、ガトリングみたいにして射出してる。
 クイーンも土壁を出して対抗したけど、妖狐から視線を切ったのが良くなかった。
 土壁で妖狐の姿が見えなくなった瞬間に、妖狐は飛び上がり、尻尾に身体強化を集中してクイーンの頭に叩きつけた。

 ベコッと音が鳴り、半分ぐらい頭が陥没する。
 妖狐はそれを見ても油断する事なく、潰れた頭を目掛けて、ファイヤーボールを打ち込む。
 フラフラしていたクイーンは何も出来ず魔法に当たり、そのまま力尽きた。

 「キュンキューン!」

 燃え盛るクイーンをバックに勝利の雄叫びを上げる妖狐。
 控えめに言って可愛い。
 戦い方とか全然教えてないのに、あんなに工夫して戦えるなんて。
 特にあのガトリングよ。
 俺も今度試してみよう。

 「お疲れ、妖狐。どうだった?」

 「キュンキュン!」

 大層楽しかったご様子。
 まだ体力は有り余ってるみたいなので、再び雑魚狩りをしてもらう。

 「さーて、俺は人間共の処理だな」

 なんか俺達が来てから、希望を見出してたみたいだけど、残念ながらみんな死んでもらう。
 恨むなら俺をこの世界に転生させた神を恨んでくれ。
 俺は滅茶苦茶感謝してるがな。
 こんなやりたい放題させてもらってるんだもの。
 今、神様に何々してって言われたら、余程の事じゃない限り了承してしまいそうなくらい。

 「じゃあ、早速……ブラッドガトリング」

 血はここにいっぱい捨ててあるからね。
 有効活用させてもらって、早速ガトリングをパクる。
 魔物と戦っていた騎士やら冒険者やらをまとめて撃ち抜いていく。

 「わははははは! シューティングゲームみたいだ! やった事ないけど」

 ノリノリに指を銃の形にして、ごっこ遊びを楽しむ。

 「ひゃっはー! 俺のツーハンドが火を吹くぜ!」

 いつか、ソードカトラスを作りたいね。
 正義なんてもんはなくても、地球は回るんだぜ!
 ………言いたかっただけです、すみません。


 「よっし、終わり!」

 「ま、まって…」

 とりあえず門の外に出てた人間は全部仕留め終わったな。
 後はこの戦いを見てる奴だけど。

 「え? 誰も見てなさげ? それはそれでどうなのよ」

 【音魔法】で確認してみたけど、誰も戦いを監視したりしてなかった。
 街の人間とか、領主の関係者とかが見てると思ってたんだけどな。

 「まあ、処理する手間が省けて良かったか。妖狐の方ももう終わりそうだし」

 元気一杯に駆け回りながら、【火魔法】のガトリングを辺りに撒き散らしてる。
 さっき使ったのが余程しっくり来たのかもね。

 「キュンキュン!」

 「はい、お疲れさん。終わって早々で悪いけど、魔石だけ回収して消えるぞ」

 戦いの音が消えたし、いつ様子を見に来るかわからんからな。

 「おおー。器用な事するな」

 「キュン!」

 ドヤ顔ご馳走様です。
 【超念力】を使って、魔石だけを抉り抜いて回収してる。
 妖狐の成長が著しい。
 あ、オークはそのまま回収しとこう。
 妖狐が大好きだからな。
 
 
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