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第二章 名も無き吸血鬼

閑話 魔王捜索

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 シュルペニア神聖王国は周辺諸国と協力し、約1年前から神託にあった新たな魔王を捜索していた。

 「ミュラー団長。この街や近辺も特に異常無しみたいです」

 「そう…か。ままならぬものだな」

 神聖騎士団の第二団長ミュラーは若くして騎士団長まで上り詰めた才媛で今回の魔王捜索でも期待されていた。
 しかし、捜索を始めて1年が経過してもなんの手がかりも得る事が出来ていなかった。

 「しかし、この近辺に何かある筈なんだ。私の勘がそう言っている」

 ミュラーにはシックスセンスというユニークスキルがある。
 所謂第六感みたいなものだが、ミュラーはこれまでこの勘の様なものに助けられて昇進してきた。
 部下も団長の勘が鋭い事は知っているので、特に意見をする事もなく調査をしている。

 「国からは新しい情報は無いのですか?」

 「無いね。寧ろ本国から新しい情報は無いのかとせっつかれてるよ」

 「ここ、リブラは商業都市という事もありかなりの情報が集まっています。もう少し念入りに調査してみます」

 「ああ。よろしく頼む。私も冒険者ギルドを当たってみよう」

 「了解しました」

 返事をした副団長は、そのまま街中で更に聴き込みを開始し、ミュラーは冒険者ギルドへ向かった。






 「魔物が減っている?」

 「そうですな。魔物どころか最近では、盗賊被害も聞いておりません」

 ミュラーは冒険者ギルドでギルド長から話を聞いていた。
 すると、異常がある事もなく寧ろ最近は平和だと言う。

 「それはいつ頃から? この近辺は魔物はともかく、盗賊は多いと聞いていますが」

 「ここ1.2ヶ月程ですな。護衛帰りの冒険者から話を聞いておりますが、拍子抜けするほどだったそうです」

 「そうですか…。わかりました。お忙しい中時間を頂きありがとうございました」

 「なんのなんの! 魔王誕生は世界の一大事ですからな。何か協力出来る事があれば、なんでも仰ってくだされ」

 「ご協力感謝します」

 そう言ってミュラーは、冒険者ギルドを後にした。
 そして、ゆっくりと歩きながら先程の話について考える。

 (なぜ最近になって魔物や盗賊が減った? 森の中の生態系に異変があったんじゃないか? 知らずに魔王に手を出して不興を買ったとか…。これは一度街道や森を調査する必要があるな)

 ミュラーはかなり没頭して考え事をし、道を歩いていたのか通行人とぶつかってしまう。

 「いたっ」

 「おっと、すまない。考え事をしていた。大丈夫か?」

 ミュラーは真っ赤な髪をした全身黒尽くめの服を来た男に謝りながら声をかける。

 (ん? なんだこの感覚は? 勘がなにかおかしいぞ? 何かを見られている? この男からか?)

 「あー大丈夫ですー。お気遣いなくー」

 男は何故か棒読みでミュラーを適当にあしらい、そのまま歩いて去って行く。

 「ふむ。なんだったんだ? もう勘も鳴りを潜めているし」

 ミュラーは心に引っ掛かりを覚えながらも、副団長や他の団員と合流し、森の探索の準備を進める。
 翌日、森に入って騎士団が見つけたのは、体中から水分が抜けミイラの様になっている盗賊の死体だった。

 「団長、これは…」

 「うむ。魔王の仕業かもしれんな。この近辺を調べるぞ!」

 「はっ!」

 1週間ほど森の探索を行い、同じ様な死体が100を超えるほど発見され、事態は騒然とする。

 「一体どうやったらこんな死体に…」

 「殺し方も色々ですね。単純に首を刎ねられてるのもありますし、焼けてる死体もあります。更には拷問された様な痕も」

 「これは一度本国に連絡を入れるべきだな。どんな魔物かの想像もつかんが、ここで何かあったのは事実だろう。戦利品がない事や拷問痕からは結構な知性も窺える。慎重に調査するぞ」

 「了解です!」

 そして、神聖騎士団は調査を開始するも、魔王と思わしき魔物の足取りが掴めず捜索は難航する事になった。


 ☆★☆★☆★

 「バレてなさげ? バレるかと思ってヒヤヒヤしたな。シックスセンスはそこまで有用じゃないのかな? 丁度良いし、あれを眷属にしようかな~」


 実はぶつかった赤髪の男が魔王だとも知らずに。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 二章終了でーす。
 ここまでお付き合い頂きありがとうございました。


 作者は他にも作品を更新してますので良ければそちらもご覧くださーい。

 ではではまた次章で~。
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