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第1章 異世界帰りの男

第26話 憤怒の一撃

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 「おらぁ!!」

 「☆$%*♪€#!」

 接近してキメラに殴りかかる。
 相手も何かを叫んでるが、全然聞き取れない。
 というより、最早声ではない。不快な音だ。
 聞いてるだけでSAN値が削れる。

 「ゴムかよ!」

 キメラの肉質はゴムそのもの。
 憤怒サタンで、フィジカルお化けになってる筈の俺のパンチを、軽く受け流している。
 牽制程度だったが、それでもモブ魔族一体を仕留めれる威力はあった筈なんだけど。

 「なんか、体全体でダメージを流してるのか? 面白い体皮だな」

 とりあえず、威力を上げてどんどん攻勢を強めていく。
 相手の攻撃は、質量に任せた体当たりやら、雑な魔法。
 正直、驚異に値しない。

 「これ、理性0か? 上位魔族はまだマシな理性だったんだけど」

 誰がこんな事をしたのか、それとも突然変異的に合体するタイプの魔族が生まれたのかは知らないけど、これは失敗作じゃないですかね。
 こんな馬鹿みたいな攻撃、目を瞑ってても避けられるぞ。

 「耐久全振りか。ダメージを与えてもすぐ再生しやがる」

 「→〆÷○☆#!」

 「その声を出すのやめろよな。マジで不快」

 戦い始めて15分。戦況は俺が圧倒してるものの、膠着状態。
 威力を上げていって、ダメージを与える事には成功してるが、すぐに回復する。
 キメラで耐久全振りっぽいから、覚悟していたが、これは時間が掛かりそう。
 顔色が悪い桜の為にも、早めに終わらせたかったんだけど。

 「他の悪魔に憑依するか? いや、理性が無さそうだったら、他の悪魔は大して役に立たんか」

 憤怒サタンが能力としては、一番扱い易い。
 身体が慣れさえすれば、癖がないからな。

 「再生出来ない程の一撃をかます必要があるか。チャージに時間が掛かるけど、その間攻撃を捌くのは訳ないし、これが一番手っ取り早いな」

 そうと決まれば時間稼ぎだ。
 時間が経ち過ぎて、どれくらい過ぎたか分からんけど、モツの予約に遅れてしまう。
 もう過ぎてたりしてたら、お店の人にごめんなさいしないとな。
 まさか、禁忌領域がこっちに出張って来るとは思ってもいなかったもんで。
 俺が油断してたせいですね、はい。



 「&#♪○\€!!!」

 「ふはははは! 流石の耐久自慢もこれはやばいと見える!」

 攻撃を避けながら、エネルギーを右腕に溜めていく。溜めすぎて、右腕が発光してるぐらいだ。
 常人がこんな事をすると、体が爆発するだろうからしないように。出来るとも思わないけど。
 憤怒サタンの身体強化と弛まぬ努力のお陰でこれが出来る様になったんだからな。

 キメラも理性はないが、本能でやばいと思ってるんだろう。
 俺の右腕を警戒して、なんとかしようとしているが、攻撃が更に雑になっているだけである。

 「桜ぁ!! しゃがんどけよ! これは余波が凄いぞ! 糸使って防御出来るならしといてくれ!」

 俺が叫ぶと、桜は即座に目の前に糸を展開する。
 果たしてそれが役に立つのかどうか。
 万能糸の万能性に期待しよう。

 「%*♪☆○〒!!」

 「充填完了! もう焦っても手遅れだぜぇ!」

 魔王にも風穴を開けた一撃を篤と味わえ。
 あいつは普通に再生したが、お前は無理だろう。
 跡形も無く消滅させてやる。

 左腕を右腕に添えて、キメラに向ける。

 「憤怒の一撃イラ・ブラスト

 右腕から放たれた破壊光線の様なパンチ。
 ぶつけられたキメラは、最初は耐久力に任せてなんとかしようとしていたが、それも一瞬である。

 地上で使うと一国をも滅ぼせるだろう。
 まぁ、それは魔法でも出来るが。
 力の奔流に飲み込まれて、キメラは消滅した。

 「どぅわ!!」

 そして、力の余波が襲い掛かる。

 「憤怒サタン解除! からの、憑依ポゼッション:忠義ウリエル

 「聖域サンクチュアリ

 俺は急いで桜の元に向かい、結界魔法を行使。
 糸でなんとか、体を固定し耐えていたがギリギリだったのだろう。
 俺が結界を使うと、ホッとした様な表情で辺りを見回した。

 「や、やっばいね~」

 「世紀末みたいだな」

 大雪原にあった廃城は消え去り、所々に吹雪いた雪が降り積もる。
 魔王と戦ってた時はこんなのばっかだったからなぁ。そりゃ、環境もおかしくなって、禁忌領域になるってもんよ。

 この大雪原だって、最初は吹雪いてなかったし、雪が降るような場所でもなかったんだ。
 度重なる俺と魔王の戦いのせいで、こんな環境に変化してしまっただけで。

 「さっきので魔王を倒したの~?」

 「いや? 確かに、あの一撃で風穴を開けてやったけど、普通に再生されたな」

 「魔王やばすぎでしょ~」

 やばいんだよ、あいつは。マジで。
 昨今の物語では、へっぽこ魔王が増えてきたり、割と簡単に討伐出来るレベルに成り下がってしまってるけど、あいつは正真正銘の魔王だった。

 俺も最初は魔王なんて余裕でしょと、舐め腐ってたしな。ボロ負けギャン泣きで考えを改めたが。

 「正直、最後の方の魔王との戦いは技とかそんなんじゃなかった。リソースの奪い合いだよ」

 「異世界面白そ~とか思ってたけど~。あたしそんな所には行きたくな~い」

 慣れれば面白かったさ。自給自足の生活も楽しかったしな。住めば都ってやつだ。しらんけど。
 現代に帰って来たら、便利さをひしひしと感じて、戻りたくないなとは思うけど。

 でも、魔の森のログハウスは性悪女神が維持するって言ってたなぁ。
 向こうでまた問題があったら呼び戻されるのかね? 便利屋天魔君じゃん。

 報酬次第では受けるけどな。だが、次は一晩程度のお付き合いでは満足せんぞ。
 1週間はあんな事や、こんな事させてもらう。

 「よしっ! 宝箱確認してモツだな!」

 「そういえば~魔族のドロップは何も無かったね~?」

 「魔石だけだったな。向こうと一緒だ」

 その分、魔石のサイズと質は段違いなんだが。
 こっちなら、何か落ちるのかなと期待してたがそんな事も無かったな。
 キメラのドロップも魔石のみだし。

 俺は残念に思いながらも、宝箱を開けた。

 
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