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第四章 大学受験
第46話 茶番
しおりを挟む「やっほー! 曽川君!」
「あ…た、谷君…」
とりあえず元気にご挨拶。
そして近付いてみて確信した。
どうやら本当に面倒事になってるみたいである。
「待ち合わせ場所に来ないからどうしたのかと思ったよ」
「え? あ、うん。ごめんね」
曽川君は一瞬キョトンとしていたが、すぐに話を合わせてくれた。
「なんだおめぇ!」
「こっちの人は? 知り合い?」
「いや、その女の人に道を聞かれて…」
不良みたいな輩が放送禁止用語を連発してるけど、とりあえず無視して曽川君をそっとその場から離す。
「だよねー。こんなトドみたいな二人とお友達なのかと思って焦っちゃったよ。俺、動物の言葉は分かんないから」
「ぶふっ!」
ほう。俺の小粋なジョークで笑うとは。
曽川君も案外肝が据わってらっしゃる。
「いつまで無視してんだよ! あぁ!? 好き放題言いやがって!!」
ずっと不良さんを無視してたら、かなり怒ってしまった。女の方は静かだなと思って見てみると、俺の顔を見てポッとしてやがる。気持ち悪いからやめてください。
「じゃ、帰ろうか」
「う、うん」
徹頭徹尾無視。
こういうのは相手しないに限る。
粘着してくる面倒なタイプだったら話は別だけど、こういうのは自分より弱そうな相手を適当に見つけてお金を脅し取るタイプの輩だろう。
そう思いながら駅に向かって歩き始めたんだけど、オスのトドは思ったよりも頭が悪かったらしい。無視され続けた事に激昂して殴りかかってきたのだ。
「取ってて良かった護身術、よいしょ」
大振りのテレフォンパンチをいなして、足を引っ掛けて地面に転がす。
そのまま手を後ろ手に拘束して終わりである。
「くっ! 離せ!!」
俺は片手で拘束しつつ、胸ポケットのiPhon○を確認する。バッチリ撮れてるようでなにより。
では後は仕上げである。
「もしもしポリスメン?」
5分後。自転車をシャコシャコさせて二人組の警察官がやってきたので、状況説明。
大袈裟かもしれないけど、後々の面倒事になる前に国家権力様にお願いするに限る。
俺は撮影していた動画を見せつつ、曽川君に補足してもらいつつ30分程の説明で終了。
ここでも話術やらカリスマが大活躍だ。
不良と女は遅れてきたパトカーに連れて行かれて、俺と曽川君も近くの署へ。
一応被害届を出す出さないにしても、暴行未遂があったので、親のお迎えが必要らしい。
「谷君ありがとうね。それとごめん。巻き込んじゃって…」
「気にしなくていいよ。俺が自分から首を突っ込んだんだし」
「普通に道を聞かれただけと思ったんだけどね」
「曽川君は純情すぎるよね。もう少し人を疑わないと」
そんな事を話しながら一時間ぐらい経った頃。
曽川君の両親がやってきた。
なんかお父さんはやたら強面の顔なんだけど、お母さんはめっちゃ可愛い顔をしている。
絶対曽川君は母親似だよね。お父さんの遺伝子が仕事をしていない。
「君が谷君だね? 息子を助けてくれてありがとう」
「ありがとうございます」
二人に頭を下げられて恐縮しつつ、頭を上げてもらう。本当に俺が首を突っ込んだだけだしさ。
なんか菓子折りまで頂いちゃって。後で母さんと美味しく頂きますね。
「何かあったらいつでも頼ってくれ」
そう言いながら名刺を俺に渡して帰っていった。
名刺を見てみるとどうやら建設業の社長をしてるらしい。生憎名前は知らなかったけど。
これは良いものを貰ったね。将来家を建てる時に相談するかも。
ぽちぽちと梓と連絡しつつ、母さんを待ってるとそれから更に30分後にやって来た。
母さんは既に仕事を辞めているので、家に居ると思ってたからもっと早く来ると思ってたんだけど、今日は出掛けてたらしい。
「ありがと」
「全く。しょうがない事とはいえ、びっくりしたわよ。煙草で補導でもされたのかと思ったわ」
「外では吸ってませんー」
俺はしっかり母親の言い付けを守る子なのである。競馬場でだって、必死に我慢してるんだ。
まぁ、競馬場に行ってる時点でアウトなんだが。
「どこ行ってたの?」
「中村さんと映画を見に行ってたのよ。ほんとジョニー・デッ○って良い男よねぇ」
パイレーツオブカリビア○か。
そういえば四月に公開してたな。
ほんと母さんは顔が良い男が好きだな。
面食いなんだから。
「俺は10月公開予定のワイスピが楽しみ」
あれは何回見ても面白い。
ありえない事ばっかりだし、死んだと思ってた人間が当たり前の様に生きてたりするけどさ。
それでも面白いから良いんだ。勢いって大事だと思います。
「ポール・ウォーカーも良い男よね」
二年後に死ぬんだけどね。
リアルでワイスピしちゃったみたいで。
あの時はショックだったなぁ。
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