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第二章 高校受験
閑話 まさる
しおりを挟む「~~♪ ~~~♪ ~~♪」
卒業式後の打ち上げ。
クラスのみんなでカラオケに来てる中、俺まさるはチラリと一組のカップルを見る。
クラスメイトが楽しそうに歌ってるのを仲睦まじく眺めてるその姿は、流石学校で噂になるだけあってかなり画になってるなという印象だ。
男の方の圭太とは仲良くさせてもらってると思う。中学一年からずっと同じクラスだったし、今もこちらに気付いたのか、笑顔で手を振ってくる。
「ほんと、憎たらしいぐらいイケメンだ~ね」
そんな圭太がなんか変わったなと思ったのは三年になってしばらくして。
今までは、言い方は悪いけど顔がイケメンなだけで運動も勉強も並の奴なんだなと思っていた。
それが急に体育の授業で活躍し始めたり、テストで高得点を取ったり。
彼女の中村も同じだ。急に人が変わったように、優秀な人間に変わった。
性格も今までは馬鹿騒ぎしてた様な事でも、どこか一線を引いて、それを後ろから微笑ましそうに見守ったり。かと思えば、突然馬鹿な事を言い出して周りを笑わせたり。
「GWで何かあったのかね」
ドリンクをストローでズズッと吸いながら考える。学力は一緒ぐらいだし、一緒の高校に行こうかなんて考えていた。
急に千葉高校なんて、県内最高峰の学校を目指すなんて言っちゃってさ。
あの時は少しショックだったなぁ。高校でも変わらず仲良くやれると思ってたから。
でも並々ならぬ決意らしく、真剣な顔をして語ってる圭太を見ると何も言えなくなった。
素直に応援するのが良い友達って奴だろう。
「圭太に一体何があったんだろうね~」
前とは何かが違うと思う。
それがなんなのかが分からないが。
なんか遠くにいってしまった。
そんな感じである。
「おお! 谷が歌うのか!」
「鼻歌事件から気になってたんだよ!」
そんな事を考えてると、圭太がマイクを持って立ち上がった。
圭太は歌が上手い。これは中学一年の頃から知っていた。でも三年になってからのある日の授業中。
本人は周りに聞こえてないつもりで、適当に鼻歌を垂れ流していたんだが、それが凄すぎた。
静かな授業中に響き渡り、先生ですら授業の手を止めて聞き入ってたぐらいだ。
「あ、あー。よし。俺と梓で二曲続けて入れてて申し訳ないけれども。とりあえず一曲目は俺達のラブラブっぷりを味わってくれ」
その声と共に中村も立ち上がり曲が流れ始める。
去年に滅茶苦茶流行った清水翔○と加藤ミリ○がデュエットした歌だな。
「「~~~♪ ~~♪ ~~~♪」」
歌い出しのサビのハモリから。
それまで騒がしかったクラスのみんなが一気に静まり返る。
(鳥肌が……)
歌を聞いて鳥肌が立ったなんて初めてだ。
これが素人なんて冗談だろ。
まだ高校生にもなってないんだぞ。
二人が向かい合って楽しそうに歌ってるのを眺める。美男美女で画になってて、ミュージカルを見てるみたいだ。
ラストサビなんて凄かった。
周りを見ると、チラホラ涙を流してる奴もいる。
素人が出来る所業じゃないだろう。
「ふぃー。人前で歌うの久々だから緊張したな」
「そうね」
歌い終わった圭太と中村はかなり満足気にしている。これでもう一曲あるとか嘘だろ。
俺たちの体は持つんだろうか。
そして次は圭太一人で。
ロードオブメジャ○の大切なも○。
さっきとは声までのうっとりした歌声じゃなくて、もっも心の芯に響くような。
中学生の語彙力じゃちょっと表せないな。
「~~~♪ ~~♪ ~~~♪」
心無しか俺の方を見て歌ってるように見える。
この歌の様な青春を過ごした訳ではないけれど。
「なんかグッとくるなぁ」
気付けば涙が流れていた。
歌で泣くなんて本当にあるんだな。
さっきまで泣いてたクラスメイトを事を揶揄えないや。
「ご清聴ありがとうございましたー」
ニコニコと。
相変わらずのイケメンスマイルで。
それでいて不思議と嫌味っぽさがない。
拍手喝采で嬉しそうにしてる二人を見て、これで本当に中学生活が終わったんだなと理解する。
仲の良かった奴ら共離れ離れになって、上手くやっていけるか不安だな。
その後、代わる代わるクラスメイト達が歌っていきお開きに。
カラオケ店の前で、当分会う事はないだろうクラスメイトメイト達と話し合う。
「まさる! またな!」
「またね」
谷中村カップルも沢山の人達に見送られて帰るところだったらしい。
最後に俺の所にやって来た。
「ああ! またな!!」
色々言いたい事を飲み込み、笑顔で別れる。
俺の言葉に満足したのか、二人は笑い合いながら帰路につく。
「またな…か」
そうだな。
これで今生の別れでもない。
会おうと思えば会える距離に居る訳だし。
「いつか教えてくれるのかな」
急にあいつら二人が変わった事を。
結局最後まで聞けず仕舞いだったけれど。
それでもいつか。
「卒業だからかセンチメンタルになってるな」
やめやめ。
これからすぐに新しい高校生活が始まるんだ。
高校の友達を紹介し合ったり。
そういう事もあるんじゃないだろうか。
「またな。圭太」
一人でぼそっと呟き、俺も帰路につく。
また会う日まで。
その時は俺ももう少し面白い人間になってるよ。
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