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第二章 高校受験
閑話 母親
しおりを挟む圭太が何か違うなと思ったのは、五月のGWが終わってすぐだった。
「え? 休んでるんですか?」
仕事の休憩中。
圭太が通ってる中学校から電話があり、折り返してかけ直してみると、圭太が学校を休んでるという連絡だった。
少なくとも昨日の時点では体調を崩してるという事はなかった。
今までも真面目という訳ではなかったけど、理由もなく学校を休んだりする子ではなかった。
朝に体調でも崩したのかと、早めに仕事を終わらせて家に帰ってみると、こちらをぼーっとみてる圭太が居た。
特に具合が悪そうとかではなく、普通にサボったみたいだ。心配して損した。
「あんた、今日学校サボったんですって? 一体何やってるのよ」
ここは母親として叱っておかねばならない。
少し強めに怒ってますアピールをして、圭太に言葉をかけたのだけれど。
「な、なによ。どうしたの? どこか体調が悪いの?」
少し強く言い過ぎたのか、それとも本当に体調が悪かったのか、圭太は涙をポロポロと流してしまった。
「な、なんでもない」
「もう。明日はちゃんと行きなさいね」
「うん」
何故か満面の笑みで笑っている圭太を見て、怒る気が失せてしまった。
とりあえず言う事は言ったので、ご飯を作ろうかと台所に向かうと、既に用意されてあった。
「あら? ご飯作ってくれたの?」
「梓が来てたから」
「よく出来た子ね~。あんた、あの子は手放しちゃだめよ?」
「分かってる」
梓ちゃんは圭太と小さい頃からの幼馴染で中学生になってからすぐに付き合い始めた圭太の彼女だ。
親御さんとも仲良くしており、『早く孫の顔が見たいわね』なんて言いながら見守っている。
随分気の早い話だけどね。
その時はGWが終わってすぐだから単にだらけてるだけで、圭太の事をそんなに変に思わなかった。
何かがおかしいと思ったのはそれからの日々だ。
何故か毎日最低限の家事はやってくれるようになり、明らかに私の気を使ってるのが分かった。
今までも偶にお風呂掃除や晩御飯を作ってくれたりしてたけど、ほぼ毎日である。
仕事で疲れてるのもあってありがたい事だったけど、何か違和感がある。
そして決定的だったのが喫煙だ。
ある日いつもの様に仕事から帰ると、台所の換気扇の下で普通に煙草を吸ってる圭太が居た。
私が帰ってきても焦る様子もなく、普通におかえりと声をかけてくる始末。
煙草を吸ってて当然みたいなスタンスだったのだ。
その日はきちんと叱って外では吸わない様に厳命して話は終わりにした。
その後に嬉しそうな顔して、テストの結果を見せてきて絆されたというのもある。
「やっぱりおかしいわよね」
お風呂に入りながら独り言を呟く。
急に煙草を吸い始めたのもそう。
テストで高得点を取ったのもそう。
「何かあったのかしら」
最近の圭太はどうも大人びて見える。
母子家庭のせいで苦労をかけてる分、精神の成長が早いのかとも思ったが。
なにかモヤモヤしたような違和感が拭えない。
「考えても無駄かしらね。息子には変わりないんだし。静かに見守るとしましょう。あの子なら、何かあっても、どうしようもなくなる前に相談しにくるでしょう」
それからというもの。
当たり前の様に家事をしてくれるようになり、私の負担は少し減って。
テストでは毎回高得点を取ってくる。
公立最難関校を目指してるらしい。とても私の子とは思えない優秀さだ。
家では勉強してるように見えるが、休日は決まってどこかに遊びに行っている。
恐らく梓ちゃんと一緒に居るんだろうが、最低限の勉強だけでここまで点を取れるものなのか。
三者面談で久々に梓ちゃんのお母さんにも会い、それとなく話を聞いてみたりもしたけど、あちらの家も急に優秀になってびっくりしてるらしい。
それでも何も言わないでいるのは私と同じ気持ちだからだろうか。
そして大晦日。
圭太が驚く様なモノを見せてきた。
なんと宝くじで3等を当てたらしい。
更に梓ちゃんも。その額500万円。
いくら馬鹿な私でも偶然なんて思わない。
それでも何も言わずに、圭太が必死にやりたい事をプレゼンしてるのを眺める。
(別人になった訳じゃないと思うのだけれど。まさか過去から戻ってきたとか? それで宝くじの当選番号を記憶してたとか)
それなら煙草を吸ったり、テストで高得点を取れるのも納得出来る。
いや、勉強だけはどうしようもないかしら?
(やりたいのは株? 私は良く分からないのだけれど。未来の知識があれば容易なのかしらね)
自分でもかなり馬鹿な事を考えてるというのは分かっている。
過去から戻ってくるなんて普通ではありえない。
もしかしたら未来でそんな技術が発明されたりしたのかもしれないが。
(それならもっと世界は荒れてるかしらね。私の学がない頭で考えても分からないか)
とりあえず宝くじの当選額だけでやってみたいというので許可を出してあげる。
もし失敗しても元々無かったお金だ。いい勉強になるだろう。
話が終わり、年を越して寝室で一人。
ぼーっと天井を見ながら考える。
「いつか秘密を打ち明けてくれるのかしら? それまでは知らないフリをしといてあげましょう」
息子は息子。
それは間違いないのだから。
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