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二章 贖罪を求める少女と十二の担い手たち~霊魔大祭編~
過ぎ去る日々
しおりを挟む「――――それで?とりあえずあの人たちを、この場所にまで連れてきた、その理由については理解することが出来ましたけど・・・・・・。
まさかこの短期間で【魔法使い見習い】を、家で迎え入れることになるだなんて。クロエ、あなたという経験豊富な魔法使いが一緒についていながら、一体何故こんなことになってしまったのですか?」
今の俺たちがいる場所。それは先ほどまでいた閉鎖世界の中ではなく、異世界の狭間に隠された魔道具専門骨董屋――――夜香の城の建物内だった。
閉鎖世界から魔法世界にまで、無事帰還してきた俺とクロエ。そしてシエラとロコの合計四人は、買い物を終えて待っていたリセたちと合流し、全員で揃ってここまでやって来た次第である。
魔法使いになるための見習い――――という名目で、この魔法世界へと一緒に連れてきた、異世界人のシエラとその相棒のロコ。
二人の身元を保証する者として表面上はクロエが、その名前を俺に対して貸し出してくれる約束となっている。
「――――とはいえ他のことに関しては、基本的にお前の方で、面倒を見るようにしろ。
一応、そいつらを家で受け入れる話について、リセの奴は反対だけはしないだろうが・・・・・・多少の説教を受けることぐらいは、覚悟しておいた方が良いだろうな」
間違いなく怒られるぞ――――と呟きながら、クロエは俺に対して、そのように釘を刺してきた。
今のシエラたちに最も必要となるものは、安全と信頼性の両方を兼ね備えた、こちら側の世界での、新たな居住先である。
それらの条件に該当する場所を見つけ出すには、それなりの知識や交遊関係などが、必要となってくるのだが・・・・・・。当然のことながら、今の俺にそんなものが、用意できるはずもない。
なので二人のための居住先として、ただ一つ候補に挙がっていた場所・・・・・・このリセが所有者といて店を開いている、夜香の城を当てにするしかなかったのだ。
突然、見知らぬ女の子を連れて来て、“家に置いて欲しい”などとお願いすれば、誰であろうと驚いてしまうに決まっている。
事情が把握できずに混乱していた、リセとナイラさんの両方を落ち着かせ、夜香の城にまで帰ってきた所まではよかったのだが・・・・・・。
「いくらなんでも非常識過ぎます!・・・・・・ユウ君もユウ君で、その辺にいる野生の動物じゃないんですから。もう少し新米魔法使いとしての自覚を持って、節度ある慎重な行動と判断をですね――――」
リセは“私怒っていますよ”といった様子で、一階の部屋にある食卓の床上へと正座していた、俺とクロエの双方に対して、先ほどから長々とお説教を続けていた。
シエラとロコの二人は共に、俺たちの話し合いが終わるまでの間、隣の店先がある部屋の方で、待っていて貰っているためここにはいない。
ナイラさんは呆れたような表情で、地面に座っている俺の傍にまで歩み寄ると、耳元に自身の顔を近づけてから、ボソボソと小さな声で話し掛けてくる。
(ちょっと、ちょっと!・・・・・・私、リセの機嫌を直すための、プレゼントを探しに行きなさいって、そう事前にあなたに対して言っておいたわよね。
――――なのにその結果がこれなの?)
(すみません・・・・・・)
(別に私は怒ってなんていないわよ。ただ呆れているだけ。
――――いいわね、若いって。だって全てのことにおいて、好奇心の感情の方が勝っちゃうんだもの。私もずっと昔の、今よりも若かった頃はね・・・・・・)
ナイラさんとの会話の内容が、本来の内容のものから脱線し始めたと思った矢先に、堂々と内緒話をしていた俺たち二人に向けて、正面に立っているリセがニッコリと、温度の感じられない笑みを向けてくる。
「ナイラさん・・・・・・ユウ君と関係のない話をするなら、後にして貰えませんか?
でないと先ほどの都市の案内に対する、私からの報酬金については必要ないものだと見なしても・・・・・・」
「私、あなたたちの邪魔にならないように、隣の部屋に行って待ってるからっ!
――――ということで、あなたたち。これに懲りて少しは反省ぐらいしなさいよ!」
慌てた様子でそのように告げながら、すぐ隣の部屋へと、あっという間に走り去って行くナイラさん。あれは逃げたな・・・・・・。
その背中を黙って眺めていたクロエは、やれやれといった風に肩を竦めながら立ち上がり「もうこれくらいで良いだろ」と、リセに対して意見をするように声を掛けた。
「――――悪かったなリセ。小僧共々、今回の件について反省はしているさ。
それにこの小僧の元からの性格を考えれば、魔法使いとして生きていく内に、遅かれ早かれ今と似たような状況に、陥ってしまっていた筈だとは思わないか?」
「うっ、それは・・・・・・」
「ないとは言い切れないだろう。だから今回限りは小僧の願い通りに、隣の部屋にいる奴等を、暫くは家に置いといてやってくれないか。
二人とも・・・・・・まあ片方は全身を機械で作られたロボットだが。それなりに見所のある優秀な奴等ではあるからな。まあ前向きに検討をしてやってくれ」
クロエの話を聞いたリセは、かなり驚いた様子で自分より低い位置に頭がある、黒髪の少女の姿を見つめ直す。
あのクロエにしては意外にも、他人に対する自己評価がかなり高かった。
内心では何を考えているのか分からないが・・・・・・。とにかく俺としても今回の件を、クロエから後押しして貰えるのは有難い。
「悪いリセ。どうしてもあの二人を、あそこに見捨てていく事なんて出来なかったんだ。相談もなしに連れてきた事については、本当に悪かったと思ってる」
「・・・・・・いつまでも膨れてないで、そろそろ許してやったらどうだ?
――――いい女なら想い人の起こした面倒事の一つや二つぐらい、寛大な心を持ってどうにかしてやるべきだと・・・・・・そうは思わないか?」
俺とクロエがそのように、目の前で仁王立ちをしているリセに対して、お願いを続けていると・・・・・・リセが疲れた様子でため息を吐きながら、ジットッとした暗い目線を、俺たちの方に向けてきた。
「・・・・・・いいです。もういいですよ!これ以上私が、この件に関して二人のことを一方的に責めていると、なんだか自分が悪者みたいになっちゃうじゃないですか!
――――だからシエラさんたちがこの場所に住むことを、家主として正式に許可します。
・・・・・・でもこういったことに関しては、本当に今回限りですからね!二人とも分かりましたか?」
「分かった、分かった。・・・・・・では話が上手く纏まったところで、私はさっさとこの場から退散させてもらおうか。
――――実はこのあと、ルーの奴と一緒に、オンラインゲームをする約束をしていてな。後は若い者たちだけで、互いに仲良くやっていてくれ」
「おいクロエ。まさか・・・・・・それがあるから、シエラたちがここに住むことに対して、肯定的な意見ばかりを言っていたのか?」
「知らーん」――――クロエは俺からの質問には答えずに、子供のように素足のまま駆け足で、ドタドタと足音を立てながら、食卓がある部屋の外側へと出ていってしまった。
後に残された俺とリセの二人は“仕方がない”と、そういった表情で顔を見合わせながら、自然と可笑しくなってきて、お互いに口元を緩めて笑みを向け合う。
「ああっ!もうクロエってば!・・・・・・あの子は本当に、何を考えているのか分からないですね」
「面倒になって逃げただけなのかもしれないぞ?――――それにしてもリセ、本当にありがとう。シエラたちがこの場所に住むことを許してくれて」
「ど、どうしたんですか急に?――――もう私はこの件に関して、怒ってなんていませんから・・・・・・って、ええっ!?」
なんとなく俺はリセの頭上に、自らの腕を伸ばして掌を置いてみる。その突然の行動に対して驚いたリセが、声を上げながら恥ずかしそうにして、こちら側を下から見上げてきた。
「えっと・・・・・・あのユウ君。これは一体どういう・・・・・・」
「悪い。これはその・・・・・・なんとなく無意識に手が出てしまったというか――――。もしかして嫌だったか?」
「いえっ!別に嫌だとかそういう・・・・・・むしろ全然嬉しくて、大歓迎なんですけれども・・・・・・。ただ、いきなりの事で驚いてしまっただけで――――」
サラサラとしたリセの長くて白い髪。俺はその心地よい感触を楽しみながら、目の前で頬を染めて視線を逸らしている、リセに向かって話を続ける。
「なら良かった。今回はリセにも色々と、迷惑を掛けてしまったわけだしな。この埋め合わせについては、また今度時間がある時にでも改めて・・・・・・」
「だったら次は私と二人きりで、一緒に何処かへお出掛けしましょう!
――――勿論、デートですからね?ユウ君がどんな所に連れていってくれるのか、わたし今から楽しみにしておきます!」
「それはガッカリさせないように、事前にしっかりと計画を立てとかないとな。
――――それはそうと。そろそろリセに隣の部屋で待っている、シエラたちのことを紹介したいんだが・・・・・・大丈夫か?」
「ええ。是非お願いします。――――なんといってもこれからこの場所で、一緒に住むことになる人たちですからね。
だから少々緊張しているといいますか・・・・・・でも私、その人たちとお話しするのを、とっても楽しみにしていたんですよ?」
「さあ、行きましょう!」――――そう言いながら俺の腕を引いて、隣の部屋へと歩いて向かうリセ。
俺自身もこれからは以前よりも賑やかになるであろう、夜香の城での生活について期待感を膨らませながら、リセの後に続いて部屋の入口にある扉を潜るのだった。
******
そして――――。
あれから月日は流れ、季節が巡り・・・・・・あっという間に一年という長い時間が過ぎ去ってしまった。
俺が夜香の城にやって来てから体験する、冷たさと静けさに彩られた二度目の冬。魔法世界では四年に一度の間隔で開催される一大行事。霊魔大祭の月が、もうすぐ訪れようとしていた――――。
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