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二章 贖罪を求める少女と十二の担い手たち~霊魔大祭編~
楽園に残された少女4
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(・・・・・・?)
何だろう?うるさいな――――まだ辺りが暗い時間帯だというのに、寝起きである私の耳へと、誰かの話し声が聞こえてきました。
「――――新型融合炉内部に備蓄してある冷却剤が、全て蒸発してしまったというのかっ!?
しかしいくらプロトタイプとはいえ、稼働させてから半日も経たずに、それほどの熱量を保持したとなると・・・・・・」
「あなた・・・・・・いったいどうするつもりなの?いくら国連からの緊急要請とはいえ、私たちは既にプロジェクトチームから外された存在なのよ。
今更、こんな書状を送ってこられたりしても、私たちに出来る事なんてもう何も――――」
父と母の二人が、早朝から何事かについて、大きな声で話し合っています。
話している内容については、理解出来ませんでしたが・・・・・・なんとなく良くないことが起きているのだと、子供ながらに幼い私は悟りました。
「・・・・・・あれの基礎設計をおこなったのは私たちだ。なら現地にいる研究員たちでは見つけられなかった致命的な欠陥、もしくは事故の原因を特定出来るかもしれない。
――――その可能性がほんの僅かでもあるのなら・・・・・・気は進まないが、向こうからの要請に答えるべきだろう」
「――――なら私も一緒に同行するわ。今のところ体調は安定しているし、別室でのバックアップ作業だけなら、問題なくこなせるはずだから」
「すまない・・・・・・」――――遠くから聞こえてくる、二人の会話の内容から察するに、どうやら父は母に対して、何かを謝っているようでした。
現状、起きている事態がまったく把握出来ず、不安な気持ちに駆られた私は、自分がいた二階のベッド室から抜け出して、両親のいる一階のリビングにまで降りていきます。
「シエラ!」「起きてしまったの?」
扉を開けてリビングに入ってきた私に対して、父と母の二人が驚いた様子で声をかけてきます。
大好きな両親の姿を一目見た私は、先ほどまで二人が何について話し合っていたのかを、その瞬間に理解することが出来ました。
(あっ・・・・・・お仕事の時の顔だ・・・・・・)
かつて私が幾度となく目にした、研究者としての両親が浮かべるその表情。
ピリピリとした空気が、三人のいる室内に流れており、まだ春の真っ只中だというのに、私の身体全体へ寒さと震えが伝わってきます。
「シエラ、起こしてしまってごめんなさい。その・・・・・・ママとパパはね、これからお仕事に行かなくてはならなくなったの。
ナビには指示を出してあるから――――私たちが帰ってくるまで、いつも通りいい子でお留守番出来るかしら?」
「うん・・・・・・ママたちが帰ってくるまで私、いい子でお留守番しているよ」
「すまないシエラ。どんなに長くてもきっと数日で、帰ってこれるはずだから。
こういうことは絶対に、今回限りにする。だから最後にもう一度だけ許してほしい。――――パパとシエラとの約束だ」
家に備え付けてある、留守番用の防犯セキュリティ――――ナビと一緒に、仕事へ出掛けた両親の帰りを待ち続ける。
それがここ数年の間、私が送っていた毎日の生活であり、知っている世界の全てでした。
家事を含めた家のことは、全て事前に雇われたお手伝いさんたちが、勝手にやりに来てくれます。
私は学校に通ってないので、自分の住んでいる家の中から、外に出掛けることはありません。
両親が不在の期間は、父の書斎にある研究資料を、毎日朝方から夜遅くまで、時間も忘れて読み続けていました。
実のところ父の書斎にある扉には、十四桁の解錠コードが必要となる、入力式の電子鍵が取り付けられていました。
しかし私はそのコードの内容を以前、父の指先の動きから盗み見ていた為、なんの障害もなく部屋の中へと、自由に出入りすることが出来たのです。
悪いことをしている、という認識は当然ありました。
でもそれ以上に強い好奇心の感情が・・・・・・想いが、幼い私の心を突き動かしたのです。
私は両親が保管していた、未発表の論文や数多くの研究資料を、自らの知識の一部として、貪欲に吸収していきました。
一度目にしたものは、半永久的に覚えていられる程の記憶力。
外部から得た情報を脳内で解析、または演算し、最も優れた解答案を導き出すことが出来る、高度な情報処理能力。
そして・・・・・・時間という人類にとって有限である資源を、効果的に消費可能となる、私が生まれながらに持っていた才能――――思考加速能力。
自分は特別な存在であるのだと・・・・・・初めから理解はしていました。
両親をも超える研究者としての才能。その事実が私にもたらす事実と意味。これまでの平穏な日常を消し去る、圧倒的なまでの叡智の力。
それらを解き放つ機会は今ではない・・・・・・私はそのように考えました。
行き過ぎた知識や科学を手に入れた人類。それはきっと、おとぎ話に出てくるどの怪物たちよりも、恐ろしい存在なのでしょう。
あの人たちはそれほどに、傲慢で身勝手な人たちでしたからね。
いつか世界一の研究者である父と母の・・・・・・二人の役に立ちたい。その一心で磨き上げてきた私の内なる才能を、最愛の両親たちへ見せる機会は、結局のところ訪れませんでした。
――――私がその情報を知ったのは、事故が発生してから二十時間後の夜の日でした。
深夜に私の家までやって来た、大勢のサングラスをかけた黒服の大人たち。
彼等は父の書斎に取り付けられていた、電子鍵を物理的な手段で破壊し、中に保管されていた研究資料の全てを、ひとつ残らず持っていってしまいました。
本来であれば・・・・・・家に備わっているはずの防犯セキュリティが、侵入者に対する妨害措置として、自動で作動するはずでした。
しかし現実は動かない。父がいつも持ち歩いている通信機器には、この家のシステムを制御している、ナビのシステムメモリが埋め込まれていたはずです。
幼い私がいくら必死に呼び掛けても、ナビからの反応は返ってきません。
父の身に何かがあった――――目の前で起きている事態が示す答えを、私は自分の頭の中で、必死に否定し続けました。
ですが現実とは常に冷酷で、無慈悲であり、そして容赦なくその牙を、私たちに向けて正面から振りかざすのです。
――――大きな事故があったと聞かされました。
両親が考案して設計した資料を元に、国連が制作した実験機器。その詳細に関しては一切、教えて貰えることはありませんでした。
結論としては、実験場を中心とした周囲数百キロが、跡形もなく全て吹き飛んでしまったそうです。
上空から撮影したという、事故現場の航空写真を確認しました。まるでスプーンで削り取ったかのような、巨大なクレーターが写っています。
もはや兵器をも軽々と超えるその威力。いったい何がどうなって、こんな事態に陥ってしまったのか・・・・・・黒服の大人たちからの話は続きます。
付近には多数の人口密集区域があったと聞かされました。国や都市、そこに住む人々が、数千万人単位で犠牲になったのだと。
父と母の二人が滞在していた研究所は、今回起きた爆発事故の現場であり中心部。当然、助かる可能性などあり得ませんでした。
やがてやる事を全て終えたのか、国連から派遣されてきた大人たちは、膨大な数の両親が残した資料を持って、私たち家族の住む家から出ていきます。
まるで強盗の襲撃を受けたかのような、視界に映る荒らされた跡と破壊の惨状。普通の子供とは違い、成熟した思考と価値観を持つ私の目元からは、悲しみによる涙は流れてきませんでした。
ある意味その頃の私は、周りにとって都合のいい自分自身を、演じていたのかもしれません。
父と母の二人を安心させるため・・・・・・仕事の障害とならないように。ただひたすらに、両親にとっての“いい子”でいようと。だから――――、
(私は私の役目を果たすんだ。パパとママが心から愛した、この惑星を救済するために)
起きてしまった悲惨な現実から目をそらし、それっぽい理由を嘘の目的として自分を騙す。
もしもその時に起きた事故の原因を、私が自らの手で直ぐに究明していれば、また違った結末の未来へと辿り着けていた・・・・・・かもしれません。
しかし結果的に、私はそれをしなかった。一度狂い始めた運命の歯車は、元に戻ることなどありません。
私は自分の中に眠る知識と才能を、家族との想い出を守るためだけに、後先考えず世に向かって放つことを決めたのです。
何だろう?うるさいな――――まだ辺りが暗い時間帯だというのに、寝起きである私の耳へと、誰かの話し声が聞こえてきました。
「――――新型融合炉内部に備蓄してある冷却剤が、全て蒸発してしまったというのかっ!?
しかしいくらプロトタイプとはいえ、稼働させてから半日も経たずに、それほどの熱量を保持したとなると・・・・・・」
「あなた・・・・・・いったいどうするつもりなの?いくら国連からの緊急要請とはいえ、私たちは既にプロジェクトチームから外された存在なのよ。
今更、こんな書状を送ってこられたりしても、私たちに出来る事なんてもう何も――――」
父と母の二人が、早朝から何事かについて、大きな声で話し合っています。
話している内容については、理解出来ませんでしたが・・・・・・なんとなく良くないことが起きているのだと、子供ながらに幼い私は悟りました。
「・・・・・・あれの基礎設計をおこなったのは私たちだ。なら現地にいる研究員たちでは見つけられなかった致命的な欠陥、もしくは事故の原因を特定出来るかもしれない。
――――その可能性がほんの僅かでもあるのなら・・・・・・気は進まないが、向こうからの要請に答えるべきだろう」
「――――なら私も一緒に同行するわ。今のところ体調は安定しているし、別室でのバックアップ作業だけなら、問題なくこなせるはずだから」
「すまない・・・・・・」――――遠くから聞こえてくる、二人の会話の内容から察するに、どうやら父は母に対して、何かを謝っているようでした。
現状、起きている事態がまったく把握出来ず、不安な気持ちに駆られた私は、自分がいた二階のベッド室から抜け出して、両親のいる一階のリビングにまで降りていきます。
「シエラ!」「起きてしまったの?」
扉を開けてリビングに入ってきた私に対して、父と母の二人が驚いた様子で声をかけてきます。
大好きな両親の姿を一目見た私は、先ほどまで二人が何について話し合っていたのかを、その瞬間に理解することが出来ました。
(あっ・・・・・・お仕事の時の顔だ・・・・・・)
かつて私が幾度となく目にした、研究者としての両親が浮かべるその表情。
ピリピリとした空気が、三人のいる室内に流れており、まだ春の真っ只中だというのに、私の身体全体へ寒さと震えが伝わってきます。
「シエラ、起こしてしまってごめんなさい。その・・・・・・ママとパパはね、これからお仕事に行かなくてはならなくなったの。
ナビには指示を出してあるから――――私たちが帰ってくるまで、いつも通りいい子でお留守番出来るかしら?」
「うん・・・・・・ママたちが帰ってくるまで私、いい子でお留守番しているよ」
「すまないシエラ。どんなに長くてもきっと数日で、帰ってこれるはずだから。
こういうことは絶対に、今回限りにする。だから最後にもう一度だけ許してほしい。――――パパとシエラとの約束だ」
家に備え付けてある、留守番用の防犯セキュリティ――――ナビと一緒に、仕事へ出掛けた両親の帰りを待ち続ける。
それがここ数年の間、私が送っていた毎日の生活であり、知っている世界の全てでした。
家事を含めた家のことは、全て事前に雇われたお手伝いさんたちが、勝手にやりに来てくれます。
私は学校に通ってないので、自分の住んでいる家の中から、外に出掛けることはありません。
両親が不在の期間は、父の書斎にある研究資料を、毎日朝方から夜遅くまで、時間も忘れて読み続けていました。
実のところ父の書斎にある扉には、十四桁の解錠コードが必要となる、入力式の電子鍵が取り付けられていました。
しかし私はそのコードの内容を以前、父の指先の動きから盗み見ていた為、なんの障害もなく部屋の中へと、自由に出入りすることが出来たのです。
悪いことをしている、という認識は当然ありました。
でもそれ以上に強い好奇心の感情が・・・・・・想いが、幼い私の心を突き動かしたのです。
私は両親が保管していた、未発表の論文や数多くの研究資料を、自らの知識の一部として、貪欲に吸収していきました。
一度目にしたものは、半永久的に覚えていられる程の記憶力。
外部から得た情報を脳内で解析、または演算し、最も優れた解答案を導き出すことが出来る、高度な情報処理能力。
そして・・・・・・時間という人類にとって有限である資源を、効果的に消費可能となる、私が生まれながらに持っていた才能――――思考加速能力。
自分は特別な存在であるのだと・・・・・・初めから理解はしていました。
両親をも超える研究者としての才能。その事実が私にもたらす事実と意味。これまでの平穏な日常を消し去る、圧倒的なまでの叡智の力。
それらを解き放つ機会は今ではない・・・・・・私はそのように考えました。
行き過ぎた知識や科学を手に入れた人類。それはきっと、おとぎ話に出てくるどの怪物たちよりも、恐ろしい存在なのでしょう。
あの人たちはそれほどに、傲慢で身勝手な人たちでしたからね。
いつか世界一の研究者である父と母の・・・・・・二人の役に立ちたい。その一心で磨き上げてきた私の内なる才能を、最愛の両親たちへ見せる機会は、結局のところ訪れませんでした。
――――私がその情報を知ったのは、事故が発生してから二十時間後の夜の日でした。
深夜に私の家までやって来た、大勢のサングラスをかけた黒服の大人たち。
彼等は父の書斎に取り付けられていた、電子鍵を物理的な手段で破壊し、中に保管されていた研究資料の全てを、ひとつ残らず持っていってしまいました。
本来であれば・・・・・・家に備わっているはずの防犯セキュリティが、侵入者に対する妨害措置として、自動で作動するはずでした。
しかし現実は動かない。父がいつも持ち歩いている通信機器には、この家のシステムを制御している、ナビのシステムメモリが埋め込まれていたはずです。
幼い私がいくら必死に呼び掛けても、ナビからの反応は返ってきません。
父の身に何かがあった――――目の前で起きている事態が示す答えを、私は自分の頭の中で、必死に否定し続けました。
ですが現実とは常に冷酷で、無慈悲であり、そして容赦なくその牙を、私たちに向けて正面から振りかざすのです。
――――大きな事故があったと聞かされました。
両親が考案して設計した資料を元に、国連が制作した実験機器。その詳細に関しては一切、教えて貰えることはありませんでした。
結論としては、実験場を中心とした周囲数百キロが、跡形もなく全て吹き飛んでしまったそうです。
上空から撮影したという、事故現場の航空写真を確認しました。まるでスプーンで削り取ったかのような、巨大なクレーターが写っています。
もはや兵器をも軽々と超えるその威力。いったい何がどうなって、こんな事態に陥ってしまったのか・・・・・・黒服の大人たちからの話は続きます。
付近には多数の人口密集区域があったと聞かされました。国や都市、そこに住む人々が、数千万人単位で犠牲になったのだと。
父と母の二人が滞在していた研究所は、今回起きた爆発事故の現場であり中心部。当然、助かる可能性などあり得ませんでした。
やがてやる事を全て終えたのか、国連から派遣されてきた大人たちは、膨大な数の両親が残した資料を持って、私たち家族の住む家から出ていきます。
まるで強盗の襲撃を受けたかのような、視界に映る荒らされた跡と破壊の惨状。普通の子供とは違い、成熟した思考と価値観を持つ私の目元からは、悲しみによる涙は流れてきませんでした。
ある意味その頃の私は、周りにとって都合のいい自分自身を、演じていたのかもしれません。
父と母の二人を安心させるため・・・・・・仕事の障害とならないように。ただひたすらに、両親にとっての“いい子”でいようと。だから――――、
(私は私の役目を果たすんだ。パパとママが心から愛した、この惑星を救済するために)
起きてしまった悲惨な現実から目をそらし、それっぽい理由を嘘の目的として自分を騙す。
もしもその時に起きた事故の原因を、私が自らの手で直ぐに究明していれば、また違った結末の未来へと辿り着けていた・・・・・・かもしれません。
しかし結果的に、私はそれをしなかった。一度狂い始めた運命の歯車は、元に戻ることなどありません。
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