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二章 贖罪を求める少女と十二の担い手たち~霊魔大祭編~

ローツキルト商業エリア4

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 (相変わらず、自分の事しか頭にないんだな)

 そういった清々しいまでの、自分本位な性格が、実にクロエらしくて逆に安心する。

 反論することも許されず、頭を伏せながら、胸の内で沸き上がる感情を押し殺そうと努めるクロエ。

 その姿を目にしたナイラさんが、にんまりと顔に笑みを浮かべながら、クロエに対して「これに懲りたら、ちょっとは反省しなさいよ!」などと、声を掛けていると――――、

 「何を言っているんですか。反省しなければならないのは、ナイラさんの方も――――ですよ?」
 「――――えっ?」

 不思議そうな表情をして告げるリセに対し、驚きながらも、そう反応を返すナイラさん。今のリセは先程のクロエの時とは違い、分かりやすく感情を表に出してはいないが・・・・・・目がマジである。

 「だってナイラさん、クロエと一緒になって、騒いでいたじゃありませんか。あそこでもう少しナイラさんが、大人の対応を取っていてくれさえすれば、周りの方々に対して迷惑を掛けずに済みましたのに・・・・・・」
 「そ、それは・・・・・・いきなりクロエが頬を抓ってくるから!」
 「でもその後でナイラさん、同じようにやり返しましたよね?」
 「そ、それはそうだけれど・・・・・・」
 「やり返しましたよね?」
 「グッ!――――悪かったわね。その・・・・・・ごめん、迷惑掛けて」

 自分たちより遥かに年下であるリセから説教される形で、クロエとナイラさんの二人が項垂れながら、同じようにして頭を下げる。

 その情けない大人二人のショボくれた様子を見て、流石に可哀想に思えてきた俺は、気まずい雰囲気を振り払うかのようにして話題を変える。

 「リセ、この記事に書かれている霊魔大祭っていうのは――――どういったものなんだ?」
 「それはですね・・・・・・新たな生を目指して旅立つ、故人の方々を見送るための、弔いの行事です。
この魔法世界では、四年に一度の頻度で開催されている、大規模なお祭りなんですよ。
 ――――任務などの様々な要因によって、命を落としてしまった方々。または魔法使いとしての、永き自身の生に終わりを求めて、新たな人生へと向けて歩み出す人たち。
 来世へと渡っていく彼らの魂を大勢で見送り、そして永遠の別れを告げる・・・・・・それが霊魔大祭と呼ばれる祭典の、主な概要といった所でしょうか」
 「まるで精霊流しだな・・・・・・って、ん?そういや魔法使いって、不老の存在なんだろう?“永き自身の生に終わりを求めて”ってことは、要するに――――」
 「“自殺”や“安楽死”とは、またちょっと違うんですよ。確かに“自らの意思で選択し、その命を捨て去る”といった行為自体には変わりありませんけどね」
 「つまり・・・・・・どういうこと?」
 「悠久の時を生き続ける魔法使い。その人生の中ではそれはもう・・・・・・様々な出来事が起こり得ます。
 寿命という肉体の枷に囚われない私たちには、そういった“旅立ち”という名の名目の、救済措置が必要になるということですよ」

 何億年も生きてきた魔法使いが、自分の永き人生に区切りを求め、次の来世へと渡るために必要な、旅立ちの準備をする。
 そのために家族や親しい友人たちへと、事前に自らの選んだ答えを伝え、双方が納得した状態でその日を迎えるのだそうだ。

 皆がその旅立ちを心から祝福し、笑顔で見送りながら別れを告げる。

 寿命というものに縛られない、魔法使いという存在には、きっとそういった選択も選べる場が、必要になってくるのだろう。

 百年や二百年ならともかく、億単位の永い年月を生きていれば、その人自体が持つ価値観も、色々と変わってくるはず。
 
 四年に一度は開催されている霊魔大祭。その【旅立ちの儀】の儀式の場では、毎回魔法世界全体の希望者のみを募り、絶対に苦痛を与えない方法で、魔法使いの不老の体から魂を解き放つのだ。

 「私の大叔母様も、旦那様である人が不慮の事故で亡くなった二年後の年に、霊魔大祭の【旅立ちの儀】へ参加されたと聞かされています。
 二人とも一千万歳以上は生きていらしたので、周りの身内の方々は別れを惜しみつつも、その選択を心から祝福しながら見送ったそうですよ」
 「だいたい毎年、千人から二千人の数の魔法使いたちが、その【旅立ちの儀】によって見送られているそうよ。で、その機会に便乗して大規模なお祭りが、このローツキルトも含めた魔法世界の各中枢都市で開催されるってわけ」

 ナイラさんの説明によると、その霊魔大祭が開催されている期間の間は、魔法世界全体が大規模のお祭り騒ぎとなるらしい。
 当然、その行事に関するパレードなどのイベントが各地で開かれ、魔法世界にある全ての街や都市が、大勢の人々や出店で賑わう。

 この“商業の都市”として世間に知られているローツキルトにも、普段より数倍は多い買い物客が訪れるのだそうだ。

 そして霊魔大祭が開催されている二週間の期間――――その最終日に開かれる事になっているのが、魔法世界連盟議会と呼ばれる、この世界での最高決定権を持つ組織の会合だ。

 魔法使いの中でも、限られた上位の者たちだけが得られる称号――――【マスター】。
 それを保有している者たちの中から、およそ半数にあたる五千人程が、議会の会合へと参加をする。

 各重要施設の最高責任者や、組織のトップらが一堂に会して、魔法世界の今後の行く末について議論をおこなうのだ。

 「そしてその議会の場で、他の誰よりも強い影響力を持つ方々たち・・・・・・それこそが円卓の守護者オルトルスと呼ばれる、十二人の魔法使いたちで構成された集団のことなんですよ」
 「クロエが所属している所・・・・・・なんだよな。
 ――――ん?でもこの記事には、クロエをその円卓の守護者オルトルスから追放するって、書いてあるようだけど・・・・・・?」
 「それについては完全に、クロエの自業自得といいますか・・・・・・。クロエはここ数十年の間、ただの一度も議会の会合に出席したことがないんです。
 昨今さっこんの魔法世界全体に広がる、平和的な情勢を鑑みるに、クロエのような突出した戦力の力は、今更必要ない――――というのが、現在の議会に所属している、一部の魔法使いたちが出した結論・・・・・・なんでしょうね」

 そう話をするリセの表情は、どこか暗く、とても悲しそうなものだった。

 身内であるクロエが置かれた立場を考えて、情けなくて落ち込んでいるのか・・・・・・または純粋にその先行きの心配をしているのか。おそらくはきっと、後者の方なのだろう。

 リセの心根は少々、根っからが優しすぎるのだ。

 人それぞれの心の在り方は、そう簡単には変わることなど無い。目も眩むような美しい心の持ち主であるリセにとっては、その考え方は別に特別でもなんでもなく、ごく自然の当たり前の事なのだ。

 リセの顔にふと浮かんだ、陰りのある表情を目にしたクロエも、さすがに思うところがあったのか、そわそわと両手を組みながら、居心地悪そうに視線を横へそらす。

 俺とクロエの目と目が合った瞬間に「リセを慰めてやれ!」と視線で訴えられた気がした為、どうしたものかと一人悩みながら考えていると――――、

 「・・・・・・あれ?この記事に書かれているクレイ・モルドーという方って、確かナイラさんの――――」

 リセが新聞の記事に書かれていた名前の一つを指さしながら、正面に座っているナイラさんの顔色を伺うようにして口を開く。
 クロエもその人物の事を知っているようで、思い出したように目を見開きながら、僅かに反応を示した。

 「執行部アルバの第四部隊隊長といえば、私の知っている奴しかいないな。――――おいナイラ。クレイとはまだ最近も、顔を合わせて会ったりはしているのか?」
 「・・・・・・まあね。今も二か月に一度ぐらいは、一人で私の店を訪ねて来るわよ。仕事が忙しいなら無理して来なくてもいいって言っているのに・・・・・・。
 まったく、昔からそういう所だけは頑固というか、律儀というか・・・・・・」

 答えを返すナイラさんの声色は心なしか、どこか嬉しそうなものだった。
 するとクロエがニヤリと笑みを浮かべながら、片手を突き出して俺の目の前にまで持ってくる。それから掌を内側に軽く握り込み、その中の一つを立てた状態で逆さに向けた。

 「小僧、良いことを教えといてやる。この記事に書かれているクレイ・モルドーっていう男はな、ナイラのコレ・・だ」
 「――――なっ!べ、別にそんなんじゃないわよ!あいつはただの昔からの腐れ縁っていうか、知り合いっていうか・・・・・・とにかく!そういうのじゃないんだからね!?」
 「分っかりやすいツンデレの反応だな。いっそのこと奴と二人で、付き合ってみたらどうだ?こうしてお互い関係が無くなった今も、わざわざお前の店にまで足を運びに来ているとなると・・・・・・確実に向こうには、その気があると思うぞ?」
 「うっ!・・・・・・ほ、ほんとにそうなのかしら?でもあいつ、ここ最近はかなり忙しいみたいだし。この記事に書かれているように円卓の守護者オルトルスの席に推薦・・・・・・なんてでもされたりしたら、私なんか相手にされなくなっちゃうかも・・・・・・」
 「いやいや、まずそれは無いだろう。私には分かる。奴はなナイラ・・・・・・きっとお前に惚れているんだ!
 ――――まあお前も知っての通り、奴は昔からそういう事に関しては奥手だからな。ここはもうただ待っているだけでなく、こちら側からも奴に対して何らかのアプローチを――――」

 と、クロエとナイラさんの二人が、新聞に載っていた人物のことに関して、何やら盛り上がっていたその時。リセが凍り付くような低い声色で、二人の楽し気な会話の中へと強引に入り込む。

 「二人とも・・・・・・それ以上騒ぐようなら、本当にお仕置きしちゃいますよ?」
 「「ヒッ!!」」

 クロエとナイラさんは子供のように抱き合いながら、怯えた様子で互いに視線を合わせて顔を見合わせる。
 
 またもやリセの怒りに触れた、大人たちの縮こまった姿を見て、俺とリセは揃って呆れながら“仕方がない”といった様子で、苦笑いをするしかなかった。




























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