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二章 贖罪を求める少女と十二の担い手たち~霊魔大祭編~
紫のマギステリア
しおりを挟むクロエの場合は以前から、議会と呼ばれている組織に関与していたと記憶していたので、その所持しているマギステリアの色は、おそらく金であるかと思われた。
しかし・・・・・・目の前にいる受付の女性に対して、クロエが提示したマギステリアのカードの色は――――、
(・・・・・・金じゃない・・・・・のか?)
そこには想像していたものとは違う――――一枚の紫色のカードが机の上に置かれていた。金ではなく紫。しかも枠の部分に加工された魔鉱石の装飾が施されている、非常に高価な造りのものだ。
カードは持ち主であるクロエの魔力に反応しているらしく、その表面に薄っすらと黒いオーラを纏いながら発光を続けている。
頭上にある“色別階級表”のどこにも記載されてない、異質な雰囲気を漂わせる紫のマギステリア。
そのカードを一目見た瞬間、受付にいた女性の顔に驚愕と緊張の色が浮かぶ。同時に近くにいた者たちから周囲の人々に伝染するようにして、情報が建物の一階全体へとあっという間に拡散していった。
「おい・・・・・・どうやら担い手のお方が一人、この場所に来られているみたいだぞっ」
「本当かっ!――――それで来られているのは・・・・・・十二人の内のどのお方なんだ?」
「貴様ら、失礼だろう!身の程をわきまえろ。――――たとえ十二人の内のどのお方だとしても、我々が常に最大限の敬意を払って接するべき方々なのだ!」
ざわめきが各所に拡がり、周囲が喧騒に包まれる。その様子からただ事ではない事態が起きているのだと理解出来たが、どうやら一連の騒ぎの主な原因は、クロエが取り出した紫色のマギステリアによるものらしい。
「なあリセ。よく分からないけど、俺たち滅茶苦茶注目されてないか?」
「私たちというよりはクロエが・・・・・・ですけどね。これは急いで担当者の方に取り次いで貰った方が良さそうです」
苦笑いを浮かべながらそう話すリセは、受付にいた女性に向かって「マギステリアの確認をお願いします」と、一言だけ声に出して伝えた。
それによって我に返ったその女性は、緊張した面持ちで目の前に置かれた紫色のカードを手に取ると、脇にあったボードのような物の上へとそれを通過させる。
ヴゥオオン――――という機械音が鳴り響き、何もない空中に小さな文字が浮かび上がった。そこには――――、
“円卓の守護者第二席、【常闇の天眼】、クロエ・クロベール”
と記されており、それを見た受付の女性は慌てて座っていた椅子から立ち上がると、冷や汗のようなものを額に浮かべながら、その場で深々と頭を下げて一礼をする。
明らかに他の者たちとは異なる対応。女性の反応を見た周りの人々が一斉に口を閉ざして膝をつき、その場に屈んで頭を垂れる。まるでどこかの国の王様にでも屈するかのように・・・・・・その光景はひどく異様なものだった。
「確認致しました・・・・・・マスター・クロベール様。此度は当マギステリア発行所にまでわざわざ足をお運び頂くことになってしまい、誠に申し訳ございません。――――只今より、今回の手続きの担当者であるグレモン氏の個室にまで案内させて頂きます」
「ああ頼む。小僧、リセ・・・・・・お前たち二人もついてこい」
返却された紫のマギステリアをマントの内側に仕舞いながら、クロエは背後にいた俺とリセの二人にそう声を掛ける。そしてそのまま開閉式のドアのように、横方向へとスライドした机の前を通り抜けながら、背中を見せて歩き去っていく女性の後を追いかけていった。
奥にあった扉の向こう側は建物の玄関口と同じ、広い空間がある造りの部屋になっており、壁際には五つの大きなエレベーターが立ち並んでいる。
「こちらのエレベーターが直接所長室にまで繋がっております。・・・・・・私の案内はここまでで良いと、事前に最高責任者であるグレモン氏より命令を受けておりますので、誠に勝手ながらこの場所にて失礼させて頂きます」
お辞儀をした状態で俺たちを見送る案内の女性をその場に残して、俺たち三人は指示された真ん中にあるエレベーターの中へと並んで乗り込んだ。
中に入り込むと同時に閉じた入口にある扉の部分から魔力反応が起こり、何らかの術式が自動で作動しているかのように感じられる。
地球にある電波塔に設置されていた業務用エレベーター――――あれと同様の空間ごと高速で移動する感覚が、身体全体に足元からじわじわと広がっていく。
揺れなどは全くもって皆無だが・・・・・・とにかくかなりの距離を昇っているのは確かなようで、入り口にある計測器のような装置のカウンターの数値が“90・・95・・100”といったようにカチカチと音を立てながら、時間が経過するにつれ変化していっている。
その数値が“135”の時点で停止したと同時にベルの音が鳴り響き、正面にある入口の扉が左右に開いて整理の行き届いた、応接間のような空間の部屋が目の前に現れた。赤い布時のカーペットとソファー。艶のある磨かれた机が中心に置かれてあり、その前には一人のスーツ姿の男が立っている。
「どうもマスター・クロベールと、その弟子のお二方。私はマギステリア関連の全ての施設を束ねている最高責任者であり、ここの所長をしているリスカ―・ドル・グレモンだ。――――以後、お見知りおきを」
そう言って挨拶をしてくる男の瞳からは、分かりやすい程に強い好奇心の感情がにじみ出ていた。それを微塵も隠そうとせずにこちら側へと近づいて来る男の視線は、クロエの真後ろに立っている俺の顔のみに向けられている。
リスカ―・ドル・グレモン――――彼の持つ魔法使いとしての実力が、その佇まいからだけでもありありと伝わってくる。
痩せ型の部類に入る体つきをしているが、その身に纏う独自の雰囲気は、この場所に来る前に見た他の魔法使いの誰よりも洗練されているものだった。
言葉で上手く言い表せないが、あえてその印象を述べるとするなら、隙というものが全く見当たらないといった所だろうか。にこやかに笑みを浮かべて友好的な態度をとってはいるが、腹の中では何を考えているのか想像もつかない。
油断できず、心を許せない危険な相手――――それが初対面で俺がグレモン氏に抱いた率直な感想だった。
「――――おい、それ以上近寄るな。我々がこの場所を訪れた理由は他でもない。この小僧のマギステリア登録手続きを済ませる・・・・・・そのためだけだ。
相変わらず好奇心が人一倍強いのは結構だが、それも相手次第では自重するべきだとは思うぞ。なあ・・・・・・グレモン」
「おお怖い怖い!そんなに敵意をむき出しにして、睨め付けなくてもいいじゃないか。私もね、こんな面倒な地位に無理やり就かされてしまって、精神的に参っているんだよ。
だから少々失礼な態度を取って君たちの冷静さを失わせた後で、色々と根掘り葉掘り彼に関する情報を聞かせて貰おうと思っただけじゃないか。相変わらず短気な性格をしているな~~~。――――クロベールは」
本心からそう言っているのかは分からないが、とにかく俺が最初に抱いた印象通りの厄介な相手のようだ。
グレモン氏は俺たち三人に対して奥のソファーに座るように促し、自分も軽い足取りで鼻歌を歌いながらその場所にまで向かっていく。
グレモン氏は部屋にいる全員が赤いソファーに腰かけたのを確認すると、片手を机の上に置いて何事か小さな声で短く呟いた。
すると机の内部から浮かび上がるようにして一枚の紙と、透明な十センチほどの細いガラス管が現れる。紙の方はびっしりと魔法言語による文字が記載されており、右下の一か所が空欄であることから何かの誓約書であると推測できた。
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