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第一部 一章 始まりの物語~噴壊包輝世界編~
ファストラの獣 討伐戦4
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黄金の激流に呑まれた空間の中心に、仁王立ちの状態で佇む【金色の獣】。その頭上では拡散したファストラの光が吸い上げられるようにして集まっていき、竜巻の目のような螺旋状の大渦を造り出していた。
「奴め・・・・・・この辺りの地下空間に滞留している流体エネルギーを、全て喰い尽くすつもりか」
クロエの脳裏に浮かんだその考えを肯定するようにして、真下に広がる大地全体が強い振動に見舞われる。
ファストラという地下からの支えを失った地盤は、全て例外なく崩壊していくのが鉄則だ。【金色の獣】が足元にあけた大穴の淵から破壊の胎動が鳴り響き、それが広範囲に渡って一気に伝わり、連動する。
あらゆる箇所で地崩れが発生し、ひび割れ、空洞となった地下空間へと落ちていく――――この世の終わりのような光景を、クロエは焦るでもなくだだひたすらに冷静な様子で見つめていた。
やがて全ての流体エネルギーを吸収し終えたのか、宙に浮かんだ状態でその場に静止していた【金色の獣】の頭が北側に――――アブネクトの境界が存在する方向へと向けられる。
そしてその動作に呼応するかのようにして、上空を雲のように覆い隠していた漆黒色の魔力の全てが消え去った。
それらの魔力の持ち主であるクロエの手元では、最初に出した時と同様の黒い炎が揺らめきながら燃えている。
その開ききった小さな掌を、クロエが炎を掴み取るようにして力強く握り込むと、魔力の炎は消え失せて後には何も残らなかった。暗い黄金色に染まっていたクロエの左右の瞳は、いつの間にか普段通りのものに戻っている。
(取り合えずは・・・・・・一度やらせてみるとするか)
自らが造り出した広大な餌場を、クロエは意図的に閉ざした。
その理由とは――――後方で今も待機しているであろう悠人に対して、実戦経験を積ませるためである。
現在、悠人の身体を覆っているクロエの魔力。それに干渉することは、たとえ【金色の獣】のような超規格外の存在だとしても不可能だ。絶対的な魔力という力が生み出す防御力の前には、いかなる攻撃も通る事はなく、内にいる人物に対する肉体的な影響も皆無である。
であるなら多少の無茶をさせようとも、まず死ぬことは無いだろう――――それが最終的にクロエが【金色の獣】の姿を間近で見て、考え出した結論だった。
(まさにゲーム序盤のステージにいる、操作訓練中の雑魚ボスのような気持ちで気楽に戦えるというものだ)
サディスティックな笑みを浮かべながら、クロエは遠方に未だ知覚できている自身の魔力――――その活動を活性化させて増幅させる。
離れた地点に突如現れた高濃度のエネルギー反応。その魔力の動きを察知した【金色の獣】の巨体が、空中で反転して移動を開始した。
「さて小僧。これから本当の魔法使いになるための・・・・・・そのチュートリアルを始めようか」
討伐など出来なくても良い。ただこれから先の人生を魔法世界最強の一角である、クロエ・クロベール自身の弟子として生きていくのであれば、この程度のことなどは修行の内にも入らないだろう。
これは過酷な世界に身を投じることを選択した悠人に対する、ある意味ではクロエからの試練でもあった。“お前の内に眠る才能の欠片を見せてみろ”と・・・・・・そういった想いを込めて、クロエは視界から遠ざかっていく【金色の獣】の後ろ姿を、遥か上空の地点から鋭い視線で見送った。
******
つい先ほどクロエと別れてからすぐに、遠方から大きな爆発音と共に強風が吹き、足元にある地面にまで小刻みな振動が継続して伝わってくる。
その原因はおそらくクロエと【金色の獣】の双方により行われている、戦闘行為の余波からくるものなのだろう。
これまで聞いたことも無いような、言葉で表現することすらも難しい破壊音が鳴り響き、顔や手などのむき出しの皮膚の部分に感覚のみで、まるでその戦場に実際にいるかのような臨場感を感じさせる。
間抜けにも“そういえばこれからはリセやクロエと一緒に夜香の城で暮らすことになるのか?”などという実にどうでも良い、場違いな考えが頭に思い浮かび、俺はそういった余計な思考を振り払うようにして、自身の顔に両手を押し当てた状態で深くため息を吐いた。
(落ち着かないな・・・・・・)
今日という日を迎えてから体験した、とても現実のものとは思えない様々な出来事を通して、俺の思考は強い高揚感に支配されていた。
心の内にある危機管理意識でも麻痺しているのだろうか。とはいえここは俺がよく知る地球とは、まったく別の場所にある初めて訪れた未知の世界。安易な行動は慎めと――――それに近い忠告をクロエから受けていたこともあり、俺はただひたすらその場で余計なことをせずに待機することに努めた。
(そういや俺ってなんで一緒に、この場所へ連れて来られたんだ?)
よくよく考えてみれば、あのまま境界付近でリセと共にクロエの帰りを待っていた方がよかったのではないか――――そのような率直な疑問が頭の中に浮かび上がる。
今回、俺が二人と同行することになったその理由を、クロエは現場研修などという言葉で言い表していたが・・・・・・。境界の補修という魔法使いならではの仕事を間近で見学できたこと以外には、特にこれといった収穫は得られていないように思えた。
「にしても・・・・・・さっきからどんだけ暴れ回っているんだよ」
一向に止む様子がない連続した破壊音が、未だに離れた場所で戦闘行為が行われていることを教えてくれる。距離が離れている為、ここからではその現状を把握することが不可能であり、必然的にクロエの帰りを待つほかないのだが・・・・・・。
ふと――――足元の地面から伝わる振動が、僅かではあるが大きなものに変わったような気がした。
続けて遠方の空の下に現れたものは、金色に輝くファストラの光を織り混ぜながら回転する巨大な竜巻。
それが徐々に巨大化していくに連れて、普段は静寂で包まれているであろうアブネクトの大地の底から、甲高い悲鳴のような音が鳴り響く。まるで限界を迎えた何かが、自らの悲痛な最後を訴えるかのように・・・・・・。
そしてひび割れた岩盤が幾つもの高低差を生み出し、気づいた時には俺の足元にあった大地の全てが崩れ、そのまま真下に続く奈落に引かれるようにして落下し始めた。
咄嗟に伸ばした腕で何かに掴まろうとするが、ただ虚しく空を切るだけだった。視界から得られる情報が目まぐるしく変化する。高速で落下を続けている自分の身体は、想像以上に笑えるほど自由が利かない。
まるで深い水中へと沈んでいくようにして、俺はただ仰向けの状態で頭上に広がる漆黒の空を見上げるしかなかった。
もしも死の世界というものが存在するのであれば、きっとこのような場所なのだろう。そう思えるほどに周囲に広がる地下世界の空間は、虚無という言葉の色で塗りつぶされていた。
ぐんぐんと遠ざかっていく地上のあった場所は今や完全に崩れ去り、落石となった大岩が隕石の雨の如く大量に降り注ぐ。
よくあるのは高所から飛び降りている最中、人はどういった感情により思考を支配されているのか?――――という話だ。
夢や妄想などで実際にそういった事態に陥った時の事を、考える人も少なからずはいるだろう。生還の見込みが限りなく薄い、片道切符の絶望的な状況。現実にそれを体験した場合にパニックや怖さ、そういった感想が真っ先に頭の中へ浮かんでくるものだと勝手に決めつけていた。だが――――、
(・・・・・・・・・・・・)
意外にも俺の思考は冷静だった。というよりは何も考えが起きなかったと、そう説明した方が正しいだろう。
人は予想だにしない非日常の事態へと直面した場合、それに対応する間もなく状況をありのまま受け入れるしかないのだ。考えが追いつかない・・・・・・もしくは考えることすらも放棄してしまっている。
真っ逆さまに加速しながら落下を続けている俺の頭の中にふと、途切れ途切れの映像のような、記憶に無い断片的な情景が浮かび上がった。
******
――――見晴らしのよい丘の上に立つ一人の人物。
顔の部分がぼやけており、性別すらも分からない。その人物の視線の先にいたのは、海のように青々とした空の上を、浮かびながら泳いでいる巨大な鯨。
近場にある湖の表面には森林が写し出されており、自然の色と透明度を帯びた水中のクリアな色とが混じり合って、蒼い絵画のような光景をその場所に造り出していた。
湖のほとりを駆け抜けている、四足歩行の動物の群れ。
緩やかに流れる雲の隙間から射す光が大地を照らし、世界全体を暖かな温度で包み込む。
それらの光景を丘の上から静かに眺めていた人物の隣に小さな影が一つ、歩きながら近寄って来た。
背格好から想像するに、影の正体は幼い子供か少女だろう。後からやって来たその小さな影に対して、丘の上にいた人物は正面の方向を指し示しながら言葉を投げかける。
「何が見える?」
小さな影の話す言葉は聞こえない。丘の上にいた人物は何やら頷きながら「なら、今度は目を閉じてみなさい」――――と、そのように小さな影に対して指示を出した。
「何が見える?」
先ほどと同様の問いが、小さな影に向かって投げかけられる。おそらく黙り込んでいるのだろう。特に反応が無い様子を見るや否や、丘の上にいた人物は間を置かずに続けて言葉を紡ぐ。
「見えないのなら頭の中で想像して造り出せばいいんだ。難しく考える必要はないよ・・・・・・簡単なことだ。感覚を伸ばして持てるもの全てで世界を感じようとすれば、たとえ暗い闇の中へ放り込まれたとしても、新たな発見はいくらでも得ることが出来る。
――――流れてくる風の匂い、空から射す暖かな光の熱、地についた足元から感じ取れる大地の胎動。更にその意識を自分自身の内側へと向けることで、自らも知覚できていない潜在的な力の存在に気付くことも出来る。
そうして得た幾つものパズルのピースを、頭の中で素早く組み上げる能力。それを鍛えることこそが、身体に流れる魔力の存在を知覚することが出来る、一番の近道なんだ」
その人物は小さな影の背中がある辺りに片手を置くと、頭上に広がる海のように青々とした空を見上げながら――――、
「***、いつかきっと・・・・・・君にも分かる時が来るはずさ」
そう・・・・・・最後に短く、一言だけ呟いた。
******
「奴め・・・・・・この辺りの地下空間に滞留している流体エネルギーを、全て喰い尽くすつもりか」
クロエの脳裏に浮かんだその考えを肯定するようにして、真下に広がる大地全体が強い振動に見舞われる。
ファストラという地下からの支えを失った地盤は、全て例外なく崩壊していくのが鉄則だ。【金色の獣】が足元にあけた大穴の淵から破壊の胎動が鳴り響き、それが広範囲に渡って一気に伝わり、連動する。
あらゆる箇所で地崩れが発生し、ひび割れ、空洞となった地下空間へと落ちていく――――この世の終わりのような光景を、クロエは焦るでもなくだだひたすらに冷静な様子で見つめていた。
やがて全ての流体エネルギーを吸収し終えたのか、宙に浮かんだ状態でその場に静止していた【金色の獣】の頭が北側に――――アブネクトの境界が存在する方向へと向けられる。
そしてその動作に呼応するかのようにして、上空を雲のように覆い隠していた漆黒色の魔力の全てが消え去った。
それらの魔力の持ち主であるクロエの手元では、最初に出した時と同様の黒い炎が揺らめきながら燃えている。
その開ききった小さな掌を、クロエが炎を掴み取るようにして力強く握り込むと、魔力の炎は消え失せて後には何も残らなかった。暗い黄金色に染まっていたクロエの左右の瞳は、いつの間にか普段通りのものに戻っている。
(取り合えずは・・・・・・一度やらせてみるとするか)
自らが造り出した広大な餌場を、クロエは意図的に閉ざした。
その理由とは――――後方で今も待機しているであろう悠人に対して、実戦経験を積ませるためである。
現在、悠人の身体を覆っているクロエの魔力。それに干渉することは、たとえ【金色の獣】のような超規格外の存在だとしても不可能だ。絶対的な魔力という力が生み出す防御力の前には、いかなる攻撃も通る事はなく、内にいる人物に対する肉体的な影響も皆無である。
であるなら多少の無茶をさせようとも、まず死ぬことは無いだろう――――それが最終的にクロエが【金色の獣】の姿を間近で見て、考え出した結論だった。
(まさにゲーム序盤のステージにいる、操作訓練中の雑魚ボスのような気持ちで気楽に戦えるというものだ)
サディスティックな笑みを浮かべながら、クロエは遠方に未だ知覚できている自身の魔力――――その活動を活性化させて増幅させる。
離れた地点に突如現れた高濃度のエネルギー反応。その魔力の動きを察知した【金色の獣】の巨体が、空中で反転して移動を開始した。
「さて小僧。これから本当の魔法使いになるための・・・・・・そのチュートリアルを始めようか」
討伐など出来なくても良い。ただこれから先の人生を魔法世界最強の一角である、クロエ・クロベール自身の弟子として生きていくのであれば、この程度のことなどは修行の内にも入らないだろう。
これは過酷な世界に身を投じることを選択した悠人に対する、ある意味ではクロエからの試練でもあった。“お前の内に眠る才能の欠片を見せてみろ”と・・・・・・そういった想いを込めて、クロエは視界から遠ざかっていく【金色の獣】の後ろ姿を、遥か上空の地点から鋭い視線で見送った。
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つい先ほどクロエと別れてからすぐに、遠方から大きな爆発音と共に強風が吹き、足元にある地面にまで小刻みな振動が継続して伝わってくる。
その原因はおそらくクロエと【金色の獣】の双方により行われている、戦闘行為の余波からくるものなのだろう。
これまで聞いたことも無いような、言葉で表現することすらも難しい破壊音が鳴り響き、顔や手などのむき出しの皮膚の部分に感覚のみで、まるでその戦場に実際にいるかのような臨場感を感じさせる。
間抜けにも“そういえばこれからはリセやクロエと一緒に夜香の城で暮らすことになるのか?”などという実にどうでも良い、場違いな考えが頭に思い浮かび、俺はそういった余計な思考を振り払うようにして、自身の顔に両手を押し当てた状態で深くため息を吐いた。
(落ち着かないな・・・・・・)
今日という日を迎えてから体験した、とても現実のものとは思えない様々な出来事を通して、俺の思考は強い高揚感に支配されていた。
心の内にある危機管理意識でも麻痺しているのだろうか。とはいえここは俺がよく知る地球とは、まったく別の場所にある初めて訪れた未知の世界。安易な行動は慎めと――――それに近い忠告をクロエから受けていたこともあり、俺はただひたすらその場で余計なことをせずに待機することに努めた。
(そういや俺ってなんで一緒に、この場所へ連れて来られたんだ?)
よくよく考えてみれば、あのまま境界付近でリセと共にクロエの帰りを待っていた方がよかったのではないか――――そのような率直な疑問が頭の中に浮かび上がる。
今回、俺が二人と同行することになったその理由を、クロエは現場研修などという言葉で言い表していたが・・・・・・。境界の補修という魔法使いならではの仕事を間近で見学できたこと以外には、特にこれといった収穫は得られていないように思えた。
「にしても・・・・・・さっきからどんだけ暴れ回っているんだよ」
一向に止む様子がない連続した破壊音が、未だに離れた場所で戦闘行為が行われていることを教えてくれる。距離が離れている為、ここからではその現状を把握することが不可能であり、必然的にクロエの帰りを待つほかないのだが・・・・・・。
ふと――――足元の地面から伝わる振動が、僅かではあるが大きなものに変わったような気がした。
続けて遠方の空の下に現れたものは、金色に輝くファストラの光を織り混ぜながら回転する巨大な竜巻。
それが徐々に巨大化していくに連れて、普段は静寂で包まれているであろうアブネクトの大地の底から、甲高い悲鳴のような音が鳴り響く。まるで限界を迎えた何かが、自らの悲痛な最後を訴えるかのように・・・・・・。
そしてひび割れた岩盤が幾つもの高低差を生み出し、気づいた時には俺の足元にあった大地の全てが崩れ、そのまま真下に続く奈落に引かれるようにして落下し始めた。
咄嗟に伸ばした腕で何かに掴まろうとするが、ただ虚しく空を切るだけだった。視界から得られる情報が目まぐるしく変化する。高速で落下を続けている自分の身体は、想像以上に笑えるほど自由が利かない。
まるで深い水中へと沈んでいくようにして、俺はただ仰向けの状態で頭上に広がる漆黒の空を見上げるしかなかった。
もしも死の世界というものが存在するのであれば、きっとこのような場所なのだろう。そう思えるほどに周囲に広がる地下世界の空間は、虚無という言葉の色で塗りつぶされていた。
ぐんぐんと遠ざかっていく地上のあった場所は今や完全に崩れ去り、落石となった大岩が隕石の雨の如く大量に降り注ぐ。
よくあるのは高所から飛び降りている最中、人はどういった感情により思考を支配されているのか?――――という話だ。
夢や妄想などで実際にそういった事態に陥った時の事を、考える人も少なからずはいるだろう。生還の見込みが限りなく薄い、片道切符の絶望的な状況。現実にそれを体験した場合にパニックや怖さ、そういった感想が真っ先に頭の中へ浮かんでくるものだと勝手に決めつけていた。だが――――、
(・・・・・・・・・・・・)
意外にも俺の思考は冷静だった。というよりは何も考えが起きなかったと、そう説明した方が正しいだろう。
人は予想だにしない非日常の事態へと直面した場合、それに対応する間もなく状況をありのまま受け入れるしかないのだ。考えが追いつかない・・・・・・もしくは考えることすらも放棄してしまっている。
真っ逆さまに加速しながら落下を続けている俺の頭の中にふと、途切れ途切れの映像のような、記憶に無い断片的な情景が浮かび上がった。
******
――――見晴らしのよい丘の上に立つ一人の人物。
顔の部分がぼやけており、性別すらも分からない。その人物の視線の先にいたのは、海のように青々とした空の上を、浮かびながら泳いでいる巨大な鯨。
近場にある湖の表面には森林が写し出されており、自然の色と透明度を帯びた水中のクリアな色とが混じり合って、蒼い絵画のような光景をその場所に造り出していた。
湖のほとりを駆け抜けている、四足歩行の動物の群れ。
緩やかに流れる雲の隙間から射す光が大地を照らし、世界全体を暖かな温度で包み込む。
それらの光景を丘の上から静かに眺めていた人物の隣に小さな影が一つ、歩きながら近寄って来た。
背格好から想像するに、影の正体は幼い子供か少女だろう。後からやって来たその小さな影に対して、丘の上にいた人物は正面の方向を指し示しながら言葉を投げかける。
「何が見える?」
小さな影の話す言葉は聞こえない。丘の上にいた人物は何やら頷きながら「なら、今度は目を閉じてみなさい」――――と、そのように小さな影に対して指示を出した。
「何が見える?」
先ほどと同様の問いが、小さな影に向かって投げかけられる。おそらく黙り込んでいるのだろう。特に反応が無い様子を見るや否や、丘の上にいた人物は間を置かずに続けて言葉を紡ぐ。
「見えないのなら頭の中で想像して造り出せばいいんだ。難しく考える必要はないよ・・・・・・簡単なことだ。感覚を伸ばして持てるもの全てで世界を感じようとすれば、たとえ暗い闇の中へ放り込まれたとしても、新たな発見はいくらでも得ることが出来る。
――――流れてくる風の匂い、空から射す暖かな光の熱、地についた足元から感じ取れる大地の胎動。更にその意識を自分自身の内側へと向けることで、自らも知覚できていない潜在的な力の存在に気付くことも出来る。
そうして得た幾つものパズルのピースを、頭の中で素早く組み上げる能力。それを鍛えることこそが、身体に流れる魔力の存在を知覚することが出来る、一番の近道なんだ」
その人物は小さな影の背中がある辺りに片手を置くと、頭上に広がる海のように青々とした空を見上げながら――――、
「***、いつかきっと・・・・・・君にも分かる時が来るはずさ」
そう・・・・・・最後に短く、一言だけ呟いた。
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