果ての世界の魔双録 ~語り手の少女が紡ぐは、最終末世界へと至る物語~

ニシヒデ

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第一部 一章 始まりの物語~噴壊包輝世界編~

金色の獣1

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 「そ、それは・・・・・・」

 クロエから問いを投げかけられた、オグナーの表情が瞬時に固まる。話す言葉を選んでいるのか、何度も口許をパクパクと動かし続けているオグナーの様子を見た俺とクロエは“何かあるな”――――と、そういう意思を込めて互いに無言で視線を交わした。

 やがてクロエの表情を伺うようにして、オグナーが恐る恐るといった風にゆっくりとその口を開く。

 「・・・・・・ま、まず最初に申し上げます。今回の件、責任は全て現アブネクトの管理者であるわたくしにあります。――――ですがこれだけは言わせて頂きたい!あの境界に発生した裂け目については、決して私自身が悪意を持って造り出したものではないのです!むしろ私はあれ・・を何とかして押さえ込もうと、出来る限りの対応策を迅速に行使致しました。
 しかし・・・・・・しかしあれは、私の予想を遥かに上回る、強力な魔力への耐性能力を既に身に付けておりまして・・・・・・」
 「お前の話は実に分かりづらいな。――――誰を相手に会話をしているのか、考えながらものを言った方がいいぞ」
 「もう、クロエってば!何もそんなに高圧的な態度をとらなくても良いじゃありませんか。――――すみませんオグナーさん。申し訳ないのですが先ほど私にして下さった説明を、もう一度こちらの二人に対して行って頂けませんでしょうか?」

 「リセ、なぜお前が謝るんだ・・・・・・」――――クロエはそのように呟きながら、ムスッとした表情で腕を組みながら黙り込む。
 
 相変わらず全くといっていいほど不機嫌な様子を微塵も隠そうとしないが、他者を威圧するような鋭い視線は心なしか少し和らいだように思えた。

 「は、はいっ!リセ殿、申し訳ありません!――――では気を取り直してもう一度、最初から説明させて頂きます。今回、リセ殿の管理されている世界とこのアブネクトとの間に発生した境界の裂け目についてなのですが・・・・・・端的に申し上げますと、それはこの世界にのみ存在している流体エネルギーから産み出された、超進化型生物が原因なのです」
 「流体エネルギー?確かファストラとかいう・・・・・・あの金色こんじきの光のことか」
 「はい・・・・・・あれらは魔力に近い特別な性質を持っておりまして。適正のある者――――まあ我々、魔法使いたちがそれに触れることで、ある程度の意思を記憶・伝達させることが可能なのです。
 わたくしは以前から“ありとあらゆるエネルギー物質を魔力に変換して代用することが出来ないか”という研究を行っておりまして。たまたま偶然、このアブネクトに存在していた流体エネルギー――――ファストラの性質に目をつけ、その研究を長年の間行ってきたのですが・・・・・・」

 そこまで話をしたオグナーは一旦、一息つくかのようにして額に浮かんだ汗を、自身の身に着けていた服の袖で拭う。
 それから近くの作業机の上に置いてあった一冊のノートを広げると、その中にあったページの一枚を勢いよく破り取り、クロエに向かって丁寧に差し出した。

 「何だこれは?」
 「アブネクトの広大な大地――――その真下に存在している、地下トンネルのデータの一部でございます。ここに記載されている数字は、地下に滞留しているファストラの濃度の数値を示しているのですが・・・・・・見て頂きたい。
 基本的な濃度率は30パーセントから80パーセント後半。20パーセント以下になりますと、その真上に存在する地盤に影響を及ぼして、徐々に崩壊へと至ってしまうわけなのですが。このページに記されているエリアに存在しているファストラの濃度率は、三週間前から常に100パーセントを下回ることはない。これはわたくしがこのアブネクトの管理者となってから、一度も起きたことが無かった事態でありまして。 ともかく一度状況を調査しようと思い、現地へと向かったわたくしの目の前に現れたのは・・・・・・自然環境から生み出された特異存在。自ら意思を持ち、エネルギーを捕食しながら進化する究極の生物だったのです」

 オグナーが追加で渡してきた資料の表紙には【金色ファストラの獣】と書かれており、その中には短期間で調べ上げたその生物についてのデータが事細かく記載されていた。

 クロエは渡された資料を目にも止まらぬスピードで捲りながら、真剣な表情で中身を確認しているようであり・・・・・・やがてその全てに目を通し終えたのか、資料を閉じて近くにいた俺に向かってそれを手渡すと、こちらの反応を伺うようにして立っていたオグナーに視線を移して口を開く。

 「今の資料にはこの【金色ファストラの獣】とやらに対して、【範囲指定爆撃魔法】を使用したと書かれてあったが・・・・・・それをお前なんかが?」

 胡散臭そうな表情で質問をしてきたクロエに対して、オグナーは見ていて気の毒なほどに疲弊した様子で答えを返す。

 「はい。とはいっても所詮は【中級魔法】――――しかも魔鉱石を媒体に装置を使って使用したまがい物の魔法ではありますが。お察しの通りわたくしの魔法使いとしての実力は大したことはありません。しかし使用した魔法には中級魔法程度の威力があった。
 ですが結果はその資料にもある通り、目標に対しての効果はゼロ。手段の尽きたわたくしは、ひとまず応急的な処置として境界の修復を試みようとしていたのですが・・・・・・その時、私の目の前に境界の裂け目を通ってやって来られた、リセ殿が現れまして」
 「なるほど事情は分かった。この突如現れた謎の生物――――【金色ファストラの獣】が自身の身に纏っているファストラの性質に酷似した世界の境界を、活動力として食い破り捕食していると・・・・・・そういうことか。
 しかし色々と分からない点もある。まずは奴自身の存在だ。こんな生物がこれまで姿を現さずに隠れられていたとは正直想像できない。しかしだからといって突如、何らかの進化や変異を遂げた生物が現れたとも考えられない。ならば・・・・・・」
 「おそらく長期の休眠状態にあったのではないかと。それも十数年単位ではなく、百年以上の長い年月の期間をです。
 以前、わたくしがこの世界の管理責任権を引き継いだ時には、管理局からそんな情報は聞かされておりませんでした。つまり最低でも最初に申し上げた年数以上の期間、地下深くの誰にも見つからない場所で眠り続けていたと。そういうことになると思われます」

 話をまとめると――――今回アブネクトと地球との間に発生した境界の裂け目の原因は、その【金色ファストラの獣】という、突如現れた謎の生物が原因らしい。

 最初にオグナーが発した言葉――――超進化型生物とは【金色ファストラの獣】が元来持っていると思われる、優れた情報処理能力のことを示している。
 
 渡された資料によればその生物の体表は、隙間なく高密度のファストラの光で覆われていたらしい。それによって【金色ファストラの獣】は高い魔力への耐性能力と、膨大なエネルギーを応用した肉体強化能力を身につけていた。
 
 ファストラの光は魔法使いの操る魔力に限りなく近い性質を持っている。触れることで自らの意思を織り交ぜ、自在に操作することが可能なのだ。つまりそれは【金色ファストラの獣】がある程度のレベルの知性を宿していることを示している。
 
 オグナーが初めてその生物を目撃したのが三週間前。それから僅か二週間ほどで全長は三メートルから五メートルはどにまで成長を遂げ、今も周囲のファストラの光を取り込みながら進化を続けているらしい。
 境界を捕食する――――そのことについては、どうやらその境界自体も魔力に近いもので出来ており、それを活動力として吸収しているのは生物学的に実に理に適っているのだそうだ。

 「私もその【金色ファストラの獣】の姿を実際に見たわけではないのですが・・・・・・。私が通ってきた境界の裂け目の部分は、確かに何かに食い千切られたかのような跡になっていましたよ」

 リセがオグナーの説明を補足するようにしてクロエに告げる。
 クロエは「ふむ・・・・・・」――――と何かを考え込むようにして何故か俺の顔を見つめながら、ややあってから黙ってクロエの言葉を今か今かと待ち続けていたオグナーに向かって宣言するかのように口を開く。

 「・・・・・・決めたぞ。その例の境界の裂け目の原因。【金色ファストラの獣】の討伐は我々で行うとしよう」





















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