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第一部 一章 始まりの物語~噴壊包輝世界編~
合流3
しおりを挟む「私が地球に発生した境界の裂け目を通過してアブネクトに侵入した際、その状態を間近で確認することが出来たのですが、何かおかしな・・・・・・違和感のようなものを感じました。そこで少し離れた場所に隠れて辺りの様子を伺っていましたら、問題である境界の目の前に、この世界の管理者である魔法使いの方がいらっしゃいまして・・・・・・」
「のこのこ姿を現したのか。それで・・・・・・そいつは今一体どこにいる?」
「この洞窟の奥にいらっしゃいますよ。ちょうど私も一度、これまで得た情報を整理しようと思い、彼が言うには安全であるこの洞窟へと移動してきた次第です」
リセの視線の先にある壁には、灰色の知性のある植物がびっしりと、隙間なく覆い尽くすようにして生えている。それはまるで外からの侵入者を阻むかのように。或いはこの洞窟内にいる俺たちを閉じ込めようとしているのだろうか・・・・・・?。
俺たち三人のいる場所から、視線の先に向かって歩いて行ったリセは、その植物で形造られた壁の表層に、自身の手を伸ばしてそっと撫でるように触れる。
するとそれに呼応するかのように、壁一面を覆っていた灰色の植物の群れが一斉に、小刻みに震え出した。プルプルと人肌のような質感を感じさせながら動いている様子からは、喜びや親しみといった友好的な感情――――少なくとも敵意のような、危機的なものは感じない。
それが水面に落とす雫のように、波動となって全体に伝わり、リセの目の前に俺とクロエが入ってきた時と同じサイズの、小さなトンネルが造られた。
「どうやらこの子たちが私たちを匿ってくれていたみたいですね。この植物たちはアブネクトにのみ存在している流体エネルギーを、活動力として吸収しながら生息しているようでして。
それが魔法使いの持っている魔力と性質が似ていたので、試しに私のものを少しだけ分け与えてみたら、お互いに仲良くなっちゃいました」
リセは弛緩しながら揺れ動いている、大量の灰色の植物を指し示しながら、俺たちに対してそのように説明をする。見れば、その先端から舞い上がった小さな白い光が、洞窟内部の至るところに付着しては、吸い込まれるようにして消えていた。
(この洞窟にある鉱石が、光を吸収しているのか?)
俺がそう考えていると――――横に立つクロエが興味深そうに壁に向かって歩いていき、片方の手に拳を作ってその表面を叩く。
するとその叩いた場所から初めはコツコツと・・・・・・やがて金属製の楽器を奏でるかのような、高らかな音が洞窟内に反響して響き渡った。
「吸収と伝導・・・・・・いや、増幅か。なるほど、面白い性質をしているな。さながらこの場所は天然の資源貯蔵庫といったところか。ここの鉱石の欠片ひとつ一つに、膨大なエネルギーが蓄えられている。これはよい魔道具の素材として利用できそうだ」
地面に落ちている透き通った鉱石の欠片の、その一つを手に取ったクロエがそう呟く。カットされた宝石のように煌めくそれは、ある種の神秘性すら感じさせるものだった。
断面にこびりついた粉塵が、星砂のようにキラキラと輝きながら地面に向かって零れ落ちている。
「小僧、収納用の魔道具の指輪を今すぐ起動させろ。ここにある鉱石を持てるだけ全て持っていく」
「そんなのダメですよ!他所の管理者の世界にあるものを、無断で持っていくなんて。管理局の決めた不干渉条約に違反します!」
「――――って、リセは言っているけど。・・・・・・どうするんだ?」
「今回の件に関しての迷惑料として貰っていく。――――そんな顔をしても無駄だぞリセ。現にこうして面倒ごとに巻き込まれている以上は、ここの世界の管理者が誰であろうと文句を言う権利は無い。
自らの犯した不始末を、この程度で済ましてやろうと言っているんだ。この私にしてはむしろ、これは寛大な処置だろうよ」
全く取り合わずに俺に指示を出し続けるクロエを見て諦めたのか、リセはそれ以上は何も言ってはこなかった。
かなりの量の鉱石を、俺が魔道具の指輪に収納し終えたのを確認したクロエは、未だに不服そうな表情をして立っているリセに対して告げる。
「ではとっとと今回の不祥事を起こしたその原因を、当事者である本人から詳しく説明してもらうとしようか。リセ、案内しろ」
リセを先頭にして俺たち三人は洞窟の更に奥へと向かって移動を開始した。途中、俺たちの後に付き従うようにして灰色の植物が数体、ズルズルと床を滑るように這ってきたが、やがてその姿も見えなくなり・・・・・・。
洞窟内の奥の奥。最深部と思われる壁の前にたどり着いた俺たちは、輝く鉱石でできた壁の真下にある小さな金属製の扉を開けてその内側に入り込んだ。
「この場所は・・・・・・もしかしてここに住んでいるのか?」
「どうやら個人で所有している研究所のようですよ。この世界の管理者である魔法使い――――オグナーさんは、アーカイス研究所という、魔法世界でも有名な研究機関に所属されていた方らしいです。確かご本人は“魔力の変換効率とその代用化”を専門としているとおっしゃていましたが・・・・・・」
そこは広々とした洞窟内の空間を贅沢に利用した、巨大な図書館のような場所だった。
五メータほどの高さがある天井にまで届く大きな本棚。
そこにぎっしりと詰め込まれた数多くの蔵書。
不規則に立てかけられている木製の梯子の下にある通路には、用途の分からない何かの部品のような物や、生活感を感じさせる食器棚やテーブルなどが並べられていた。
上を見上げると通路を跨ぐようにして、長い竿が二本取り付けられており、それにシャツや上着などの衣類が乱雑に巻き付けられて干してある。
何故かピアノやギターといった楽器類がいくつも壁際に並べられており、そのどれもが数センチ程の埃を被っていた。
「これはこれは皆様方、ようこそ我が城へ!」
声と共に奥の方から眼鏡をかけた一人の男がこちらに向かって歩いてくる。禿げた頭に温厚そうな見た目の顔つきをしたその男は、俺たち三人のすぐ近くにまでやって来ると、大げさに勢いよくその場で頭を下げてお辞儀をした。
その拍子に脇に置かれていた設置型の照明に身体がぶつかって倒れてしまうが、男にそれを気にする様子はない。俺とクロエが思わず互いの顔を見合わせていると、リセがこちら側に振り返りながら俺たちに対してその男を紹介してくる。
「彼がこのアブネクトの管理者である魔法使い、キリス・オグナーさんです」
「そちらのお方がマスター・クロベールですかな?お初にお目にかかります。ただ今ご紹介に預かりました、私アブネクトの担当管理者であるキリス・オグナーと申します。わざわざこんな何もない辺境の世界にまで、こうして足をお運び頂き誠に申し訳なく・・・・・・。
――――いやっ、しかしあの円卓の守護者の十二の担い手であるお方に、こうして直接お目にかかれることになろうとは!」
ひどく興奮した面持ちで話をし始めたその男――――オグナーは目の前に立っているクロエに対して、幾度も小さく頭を下げながらやけに低い物腰で挨拶をしてくる。
緊張しているのか全体的に落ち着きがなく挙動不審であり、そんなオグナーの様子を面倒くさそうな様子で観察していたクロエが、ややあってから話を遮るようにして口を開いた。
「それ以上はもういい。私が聞きたいことは一つだけだ。この世界の管理者であるからには現在、ここで起きている事態は把握しているはずだな。正直に答えろ。何があった?」
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