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第一部 一章 始まりの物語~噴壊包輝世界編~
合流1
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まるで生き物の体内に入り込んだかのような――――そんな光景だった。
灰色の全長六十センチ程の植物。人間の胴体よりも太い脈打つ葉が、地表の根本の部分から直接生えており、天に向かって直立するかのように並んでいる。葉の縁を彩るようにして黒ずんだ線が模様を描いており、それらが真上を除いた全ての空間をびっしりと埋め尽くしていた。
状況的に深い穴の底にいるのだろうか。上空の崖の先端が円を描くようにして、俺たちのいる地の底の空間を囲っている。
(あそこを通ってきたのか・・・・・・)
ファストラの光が差す、上空の大穴を見上げた俺はそう確信する。その事実に大した意味など別に無いのだが・・・・・・そうしてそこで初めて自分の足元に視線を移した俺は一つ、おかしな点に気がついた。
俺とクロエの二人の足元――――その部分の灰色の植物が全て綺麗に刈り取られている。しかしよく見てみると、その跡と思われる痕跡がどこにも見当たらない。
普通、植物や木などを根本から刈れば、地表にその根の部分や捲れて浮き上がった土の跡が残るものだと思うのだが・・・・・・。
「なあ、クロエ・・・・・・」――――俺が隣に立つクロエに向かって、目の前の違和感の正体を探ろうと声を掛けたその時。
(・・・・・・何だ?)
俺たち二人のいる空間を、明るく照らしていたファストラの光。何故かその範囲が徐々に狭まっている。少しずつ、少しずつ、暗闇を帯びていく空間とその光景に、堪えきれなくなった俺は自身の真上へと、恐る恐るといった様子で視線をゆっくりと向けた。
「――――っ!!クロエッ!!」
「落ち着け小僧。分かっているさ。だがまあ・・・・・・これは流石に驚いたな」
クロエは口では驚いたと言ってはいるものの、その声色は普段と特に何ら変わり無いものだった。経験から来る余裕というものだろうか。とにかくその間にも俺たちの上空にあった大穴には、現在もある変化が起き続けていた。
端の方から塗り固めるかのようにして、徐々に穴の大きさが狭まっている。より正確に言えば、その崖の先端部分はまるで生き物のように蠢いていたのだ。予想外の事態で流石に焦ったが、隣に立つクロエの様子を見て、俺は何とか自分の平常心を保つことが出来ていた。
そしてとうとう直径数十メートルもあった大穴も、残すところ僅かに光が差す程度の大きさとなり、やがてそれすらも完全に塞がれてしまう。
音や光もなければ、生き物の気配なども感じられない為、それ以上の情報を得ることは出来ない。暗闇の中ではどうすることも敵わないので、せめて何があっても即座に反応することが可能なように、身構えていた俺の目の前の空間で――――唐突に光が弾けた。
その眩しさのあまり、思わず目を細めてしまう。数秒後、急激な視界の変化に慣れてきた俺の瞳に映った光景は・・・・・・とても幻想的なものだった。
ファストラの輝きよりも柔らかな白い光が、天井が塞がれて洞窟となった空間の中を隅々まで照らし出している。つい先ほどまで蠢いていた灰色の植物の先端から、今は胞子を振り飛ばすようにして、小さな光の粒が舞い上がっていた。。
百・・・・・・いや千以上の数はあるであろう、それらの大量に漂う光の粒は、その中心に何らかの核のようなものを宿している。ふわふわと空中を漂ってきたそれに俺の腕が触れるが、固さや重さといった感触を特に感じることはなく、そのまま弾かれて別の方向へと飛ばされていった。
「クロエ、これは・・・・・・」
「どうやらここにある植物は、生物としての知能が僅かながらあるようだ。それがどの程度のものかは分からない――――が。おい、見てみろ」
クロエが指し示した方向に生えている灰色の植物が、地面を這うようにして左右の両脇に移動していく。そこには幅二メートル程の道が造られ、それが奥にある壁の前にまで続いていた。
「通れと・・・・・・そういう事なんだろうな。よし小僧、行ってみるぞ」
「ああ」
ついさっきまで俺の脳内にあった、灰色の植物に対する警戒心は完全に薄れていた。この柔らかな光を放っている、漂う植物の粒・・・・・・いや、種のようなものがそうさせているのだろうか。
印象としてはタンポポのように綿を纏った種――――あれに近い。それがどのような原理で発光しているのか、俺に理解できるはずもなく。とにかくそれはそういうものであると、そう納得するしかないのだろう。
灰色の植物に挟まれた細い道を、クロエと二人でゆっくりと並んで歩く。上を見上げれば星空のように小さな光が瞬いており、人工のものでは決して作り得ない、自然の美しさがそこにはあった。
灰色の全長六十センチ程の植物。人間の胴体よりも太い脈打つ葉が、地表の根本の部分から直接生えており、天に向かって直立するかのように並んでいる。葉の縁を彩るようにして黒ずんだ線が模様を描いており、それらが真上を除いた全ての空間をびっしりと埋め尽くしていた。
状況的に深い穴の底にいるのだろうか。上空の崖の先端が円を描くようにして、俺たちのいる地の底の空間を囲っている。
(あそこを通ってきたのか・・・・・・)
ファストラの光が差す、上空の大穴を見上げた俺はそう確信する。その事実に大した意味など別に無いのだが・・・・・・そうしてそこで初めて自分の足元に視線を移した俺は一つ、おかしな点に気がついた。
俺とクロエの二人の足元――――その部分の灰色の植物が全て綺麗に刈り取られている。しかしよく見てみると、その跡と思われる痕跡がどこにも見当たらない。
普通、植物や木などを根本から刈れば、地表にその根の部分や捲れて浮き上がった土の跡が残るものだと思うのだが・・・・・・。
「なあ、クロエ・・・・・・」――――俺が隣に立つクロエに向かって、目の前の違和感の正体を探ろうと声を掛けたその時。
(・・・・・・何だ?)
俺たち二人のいる空間を、明るく照らしていたファストラの光。何故かその範囲が徐々に狭まっている。少しずつ、少しずつ、暗闇を帯びていく空間とその光景に、堪えきれなくなった俺は自身の真上へと、恐る恐るといった様子で視線をゆっくりと向けた。
「――――っ!!クロエッ!!」
「落ち着け小僧。分かっているさ。だがまあ・・・・・・これは流石に驚いたな」
クロエは口では驚いたと言ってはいるものの、その声色は普段と特に何ら変わり無いものだった。経験から来る余裕というものだろうか。とにかくその間にも俺たちの上空にあった大穴には、現在もある変化が起き続けていた。
端の方から塗り固めるかのようにして、徐々に穴の大きさが狭まっている。より正確に言えば、その崖の先端部分はまるで生き物のように蠢いていたのだ。予想外の事態で流石に焦ったが、隣に立つクロエの様子を見て、俺は何とか自分の平常心を保つことが出来ていた。
そしてとうとう直径数十メートルもあった大穴も、残すところ僅かに光が差す程度の大きさとなり、やがてそれすらも完全に塞がれてしまう。
音や光もなければ、生き物の気配なども感じられない為、それ以上の情報を得ることは出来ない。暗闇の中ではどうすることも敵わないので、せめて何があっても即座に反応することが可能なように、身構えていた俺の目の前の空間で――――唐突に光が弾けた。
その眩しさのあまり、思わず目を細めてしまう。数秒後、急激な視界の変化に慣れてきた俺の瞳に映った光景は・・・・・・とても幻想的なものだった。
ファストラの輝きよりも柔らかな白い光が、天井が塞がれて洞窟となった空間の中を隅々まで照らし出している。つい先ほどまで蠢いていた灰色の植物の先端から、今は胞子を振り飛ばすようにして、小さな光の粒が舞い上がっていた。。
百・・・・・・いや千以上の数はあるであろう、それらの大量に漂う光の粒は、その中心に何らかの核のようなものを宿している。ふわふわと空中を漂ってきたそれに俺の腕が触れるが、固さや重さといった感触を特に感じることはなく、そのまま弾かれて別の方向へと飛ばされていった。
「クロエ、これは・・・・・・」
「どうやらここにある植物は、生物としての知能が僅かながらあるようだ。それがどの程度のものかは分からない――――が。おい、見てみろ」
クロエが指し示した方向に生えている灰色の植物が、地面を這うようにして左右の両脇に移動していく。そこには幅二メートル程の道が造られ、それが奥にある壁の前にまで続いていた。
「通れと・・・・・・そういう事なんだろうな。よし小僧、行ってみるぞ」
「ああ」
ついさっきまで俺の脳内にあった、灰色の植物に対する警戒心は完全に薄れていた。この柔らかな光を放っている、漂う植物の粒・・・・・・いや、種のようなものがそうさせているのだろうか。
印象としてはタンポポのように綿を纏った種――――あれに近い。それがどのような原理で発光しているのか、俺に理解できるはずもなく。とにかくそれはそういうものであると、そう納得するしかないのだろう。
灰色の植物に挟まれた細い道を、クロエと二人でゆっくりと並んで歩く。上を見上げれば星空のように小さな光が瞬いており、人工のものでは決して作り得ない、自然の美しさがそこにはあった。
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