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第一部 一章 始まりの物語~噴壊包輝世界編~
出立準備2
しおりを挟む少女の身長はクロエとほぼ同じであり、外見から予測出来る年齢もかなり近いものだろう。さして気温も低くないのに厚めのロングコートを着込んでおり、その口元付近は襟によって隠れていた。白銀色の長い髪が歩く度にフワフワと上下に揺れ動いている。感情を読み取れない、無機質な灰色の少女の瞳が店内にいたクロエの姿にだけ向けられていた。
その少女は奥にいた俺たち三人の目の前まで歩いて来ると、やけにのんびりとした様子で口を開く。
「・・・・・・同士クロエ、久しぶり」
「ルーじゃないか!どうした、わざわざこんな所にまで」
「わざわざこんな所にまで」――――クロエのその言葉を聞いたナイラさんが顔をしかめる。しかしそんなナイラさんの様子とはお構いなしに、クロエは白銀色の髪を持つ少女の肩に片腕を回しながら親しげに話をし始めた。
「用事があったから近くに来ていた。そうしたら急にクロエの魔力をこの付近から感じ取ったから、気になって訪ねただけ」
「そうか・・・・・・それにしても久しぶりだな。こうして互いに顔を合わせて直接会うのは!」
「そう、だから驚いている。クロエがあの場所から外に出ているのは珍しいから」
「ふむ・・・・・・それに関しては色々と事情あってだな。そうだ紹介しておこう。こいつの名前はルカワ・ユウト。訳あって私の新しい弟子にした奴だ」
クロエは空いている反対側の手で、俺のことを指し示しながらそう紹介する。
「・・・・・・弟子?」
「ああ、つい先程そうしたばかりだ。・・・・・・小僧、こいつはルー。ルー・カリドネア。私と同じ、マスターの称号を持つ魔法使いだ」
白銀色の髪の少女――――ルーは俺に向けて視線を移すと不思議そうに首を傾げる。
「・・・・・・???。でもそれにしては・・・・・・この子は少し普通過ぎる。特別な力も何も感じられない。何故この子を弟子にしたのか、クロエに詳しい説明を求む」
「どうしてわざわざお前に対して、そこまで説明せねばならんのだ・・・・・・。――――リセに関わることで少しな。今のところはこれで勘弁してくれ」
クロエのその言葉に納得したのかしていないのか。分からないが、ルーはそのまま口を閉ざして自身の肩に回されたクロエの腕を振りほどくと、俺のすぐ目の前にまで歩み寄って来る。そして――――、
ペチペチ、ペチペチ。
と、いきなり俺の頬を広げた掌で叩きだし始めた。
さして威力も無い為、その行為によって痛みを感じることは無いのだが――――あまりにも唐突すぎるルーの行動に虚を突かれて、俺は混乱してしまう。
「な、なにか?」
「・・・・・・・・・・・・」
只ひたすらに無言で。そして暫くの間、そのままの状態が続いたかと思うと・・・・・・今度は両手を使って、ルーは俺の顔中の至るところを遠慮の欠片もなく触りだし始める。俺との身長差がかなりある為、ルーは真上に向かって直立で両手を伸ばしている状態だ。さわさわと小さな手が俺の顔へと触れる度に、皮膚の上から擽られているような感触が伝わってくる。
「・・・・・・柔らかい」
「ちょっと待ってくれ!ええっと・・・・・・ルーさん。でしたよね?俺に何か用でも?」
「ルーでいい。同士であるクロエの弟子なら、私に対する敬称も敬語も不要」
「・・・・・・分かった。だったらルー。その・・・・・・さっきから俺の顔を触り続けている、その理由を教えて貰ってもいいかな?」
「クロエの弟子というから気になって調べていただけ。でも・・・・・・私が想像していたような情報は何も得られなかった」
情報を得るも何も、そんな事をして分かることなんてあるのだろうか?と、俺は疑問には思ったが口には出さなかった。
つい先程、魔法使いという存在になったばかりの俺には、ルーに限らず他の魔法使いの考えを伺い知ることなど出来ない。一つだけ分かっているのは、彼女がマスターと呼ばれる、クロエと同じ優れた魔法使いであるという事。それだけである。
「おい、ルー。その辺にしておけ。悪いが今は急いでいてな。この続きはまた今度にしてくれ」
「そうなの?・・・・・・分かった。でも、クロエ。私この子、気に入った」
「はあ?――――まったくリセといいお前といい、こんな小僧の何処が良いんだか。私には理解できんな」
心底理解出来ないと、そういった様子で首を左右に降りながら両手を挙げるクロエ。悪かったな。
俺は目の前に立っているルーに対して、先程から疑問に思っていた事を聞いてみる。
「なあルー。ルーがこの店に最初に入って来た時、クロエに向かって言っていた同士っていうのは、どういう意味なんだ?」
「・・・・・・共通の趣味を持っている、同士という意味。戦友とも呼べる。私の背中を任せられる唯一の相棒」
「ルーは私のネトゲ仲間なんだ。数多くのオンラインゲームの戦場を一緒に戦い抜いてきた。私の唯一の友人だよ」
クロエとルーはその場で二人、掌を合わせてハイタッチをする。聞かなきゃよかった・・・・・・。
それを呆れた様子で眺めていたナイラさんは、クロエに向かって抗議するかのように声を上げる。
「ねえクロエ。あなた、ルーが唯一の友人って・・・・・・私のことはどう思っているのよ?」
「ふむ・・・・・・神経質で口うるさい、そのくせ散らかし癖のある元同僚のおばさん。なんてのはどうだ?」
「なっ―――――――――!!!」
これは酷い。よくも面と向かって、その本人に対して悪口が言えるものだと、ある意味で感心してしまった。ナイラさんは怒りのあまりに口をパクパクと開いたり閉じたりしているだけで、言葉が出てこないようだった。
「さてと・・・・・・では小僧。私は先に外に出て待っている。じゃあなルー。近いうちにまた会おう」
クロエはまるでその場から逃げるようにして、一目散に扉を開けて店の外へと出ていってしまう。
一人残された俺は、部屋の中に漂っている気まずい雰囲気から逃れようと、クロエの後を追いかけようとしたのだが、
「・・・・・・ちょっと待ちなさい」
「――――っ!!・・・・・・・何ですか?」
ガシッと――――背後から伸びてきたナイラさんの手によって肩を掴まれてしまい、それを未然に防がれてしまった。完全にクロエからのとばっちりである。
反射的に思わず身構えてしまった俺に対してナイラさんは「別にお弟子さんであるあなたに、八つ当たりなんてしないわよ」と、呆れた様子で言いながら言葉を続ける。
「ほんとしょうがないわね・・・・・・ねえ、あなた。確かユウトって名前だったわよね。――――いい?あなたたちがこれから向かおうとしている場所は、魔法世界の情報管理部によって指定されている・・・・・・って、最初から全部説明しなくちゃ分からないのよね。まったく面倒な・・・・・・とにかく危険指定されている場所だから気をつけなさい。
何があっても決してお師匠さんの――――あの意地の悪い、歳はいっていても精神年齢は見た目通り子供のままの、クロエの傍を離れないように。でないとあなた、あっとゆう間に命を落とすわよ」
「ええ、分かりました。ご忠告感謝します」
親切にも俺のことを呼び止めて、そう忠告をしてくれたナイラさんに対して礼を言う。しかしクロエの事に関してわざわざ言い直す辺り、この人も少し子供っぽい所があるようだ。確か元同僚とかクロエが言っていたはずだけど・・・・・・まあいい。とにかく先を急ぐとしよう。
「またねユート」
「ああ、また今度」
ポツリと――――小さな声で別れの挨拶を俺に告げてきたルーに対しても、簡単に一言だけ返しながら、俺は今度こそ店の扉を開けて建物の外へと出る。扉からすぐ近くの場所に一人で立って待っていたクロエは、再度マントのフードを深く被り直して自身の素顔を隠していた。
「ごめん遅くなった。それで次は何処に・・・・・・機嫌悪そうだけど何かあったのか?」
「はあ?何 が だ?いいからさっさと出発するぞ。遅れずについてこい」
俺にそう告げるクロエの声色は、明らかに苛立ちを含んだものだった。もしかしたら先ほどのナイラさんとの話の内容を聞いていたのかもしれない。とんでもない地獄耳・・・・・・いや、魔法によるものなのだろうが。ともかくこれ以上何かこの件に関して追及すれば、更にクロエが不機嫌になるであろう事が予測できた為、俺は黙っていることにした。
それから俺とクロエの二人は、店が建っていた通りの更に奥にある、迷路のような路地裏の中にへと入る。
次の目的地へと向かう道中で、俺はクロエからリセが今いる別の世界――――アブネクトと呼ばれる異世界へと向かった理由についての説明を受けた。
世界と世界を隔てる境界。今回のリセの旅の目的と、地球に発生した境界の裂け目についての情報。
そもそも地球という惑星は、俺のいた世界を構成するパーツの一部でしかないそうだ。地球を含めたあの世界の正式な名称はアースクレフと呼ぶらしい。
アースクレフに隣接している世界――――アブネクトとの間に発生した境界の裂け目。それを修復し、リセと共に帰ってくるのが今回の旅の主な目的であるそうだが・・・・・・。
クロエの話を聞きながら、道順も覚えられない程に細く入り組んだ道を歩いていき――――俺たちは洋館のような外観の大きな建物の前で立ち止まると、入口の扉を開けてその建物の中へと足を踏み入れた。
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