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第一部 一章 始まりの物語~噴壊包輝世界編~
プレゼント
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【夜香の城】を出た俺とリセの二人は、転移の機能が備わった魔道具である【指定の腕輪】を使用して、普段通っている学院から四駅ほど離れた街まで遊びに来ていた。
それにしても――――以前リセから受け取ったこの腕輪を、俺は当然のように扱っているのだが・・・・・・慣れとは恐ろしいものである。
魔法に関する知識が一切ない俺にでも、簡単に扱うことの出来る特別な道具。
リセから聞いた話では、それらの魔道具を使用するに辺り、本来は使用者の魔力を動力として要求されるのだとか。俺は魔法使いではない為、元から魔力なんてものは持っていない。なので代用として魔鉱石と呼ばれる、魔力の塊のような結晶から動力を抽出して、その機能を働かせているのだそうだ。
【指定の腕輪】には紫色の魔鉱石が一つだけ嵌め込まれている。見た目は地面に落ちている石ころに薄く色が付いた程度の違いしかない為、落としてしまった場合は探し出すのが大変そうだ。
何はともあれ、出かけるにしても一切のプランが無かった為、急遽俺が思いついた場所がここである。
観光地として知られるその場所は、海外の異文化交流と居住区としての人気を両立した街で知られている。
比較的安価な値段の、食べ歩きの出来る店が立ち並ぶ中華街。
海外製の雑貨類――――北欧から輸入された手鏡や小物入れなどの女性向けの商品を取り扱う、数多くの個人店。
それらの店が立ち並ぶエリアから更に奥に向かって移動すれば、観光客向けのボートを貸し出す店や豪華客船が寄港する港へと出る。
整備された海沿いに並ぶのは、いくつもの高層ビル。先進的な街らしく整備された区域には、多くの商業施設が集まっている。自然と異国の情緒が残る、若者には人気の街だ。
「悠人さん、これ凄く美味しいです!」
「そうだろ?やっぱり本格的なものは、コンビニのやつとは全然違うな」
俺達はまずはじめに駅前にある中華街へと向かい、そこの店先で店員が売っていた大きなサイズの肉まんを頬張りながら、並んで歩いていたのだが――――、
先程から周囲からの視線をものすごく感じる。正確には俺の隣へと。
それはそうだろう。リセほどの物凄い美少女が、こんな街中で堂々と歩いていたら嫌でも目立つ。
いつもならリセと一緒にいる時は周囲を流れる時間が空間ごと止まっている為、これほどの注目を浴びる事は無い。
「なんだか回りから見られていますね。私たち」
「みんなリセがとても美人だから見ているんだろう」
俺が本心からそう答えると、リセは嬉しそうな表情を浮かべて、
「なら・・・・・・悠人さんも私のことを、そう思ってくれてるんですか?」
と、実に答えにくい質問をしてきた。
恥ずかしながら、俺は年頃の女性に対しての免疫がまるでない。
これまで誰かと付き合った経験もなく、こうしてリセのような異性と肩を並べて歩くのも初めての体験だ。
過去に戻る前の記憶――――社会に出て人並みに苦労し、培ってきた自信や経験が辛うじて俺のプライドを支えてくれてはいた。――――しかし、
そんな俺の様子を見たリセが意地の悪そうな笑みを浮かべて、からかってくる。
「ふふっ、悠人さん。・・・・・・もしかして恥ずかしがっているんですか?可愛いですね♪」
「うっ・・・・・・!」
ああ、何も反論できない。
明らかにこの状況を面白がっているリセによって、俺は完全に弄ばれていた。
*****
そんなやり取りをしながら歩き続けた俺たちは、現在、港付近の公園にまでやって来た。
公園の敷地内を二人で歩きながら、水平線まで広がる海の方向へと視線を向ける。
海上には幾つもの小型船と、ここからでも見て分かる程に大きい――――縦幅が優に二百メートル以上はありそうな、大型のクルーズ船が停泊していた。
その頃には徐々に空が薄暗くなってきており、船から出ている小さな明りが点々と瞬きながら海上に浮かぶ星明かりのように瞬いていた。
「綺麗ですね」
俺の隣でリセが静かにそう呟く。潮風で揺らめく白い髪を掌で押さえながら、海上へと視線を向けるリセの姿はとても綺麗で――――まるで今にもその場から消えて、何処かに消えて行ってしまいそうだ。
「一つ聞いてもいいかな。今日はどうして俺と出かけたいなんて言いだしたんだ?」
「何となくですよ。ただ悠人さんとこうして一緒に何処かに遊びに出かけたかった。・・・・・・それではダメですか?」
俺に対して曖昧な返事を返すリセの表情は、こちら側からは見えなかった。
相変わらず何を考えているのかよく分からない。思えば初めて会った時から、リセには振り回されてばかりだ。
リセに向かって年齢を聞いた事はないが、確実に俺より上だろう。
魔法使いであるリセはあまり自分のことを話さない。いや、話したがらない。
まぁ、まだ俺とリセは出会って間もない為、そこまで根掘り葉掘り聞こうとするのもどうかとは思う。
俺は気まずい雰囲気を振り払うように、頭を軽く左右に振り払いながらリセに提案した。
「そろそろ暗くなってきたし、帰ろうか」
「そうですね。・・・・・・あっ!そういえばクロエから頼まれていたお使いは大丈夫なんですか?」
「・・・・・・」
ヤバい。完全に忘れていた。
リセに教えられてクロエから頼まれた用事を思い出した俺は、慌ててポケットから取り出した携帯電話の画面を確認する。
時刻はつい五分ほど前に十八時になったばかりであり、今からすぐに買いに行けば間に合いそうだ。
「悪いけど、リセは先に店に戻っていてくれないか?」
「分かりました。クロエには適当に私の方から誤魔化しておくので、早く戻ってきてくださいね」
そう言って快く了承してくれたリセに、俺はポケットから小さなペンダントを取り出して手渡した。
青と琥珀が混ざり合った色をしており、開閉式のそのペンダントの蓋を開けると、中には小さな鏡が埋め込まれている。
「・・・・・・これは?」
「プレゼント。まあそんなに高い物じゃないけどね。リセさえよければだけど、今日の記念に受け取って貰えるかな?」
俺からペンダントを受け取ったリセが、驚いた様子で声を上げる。それは北欧系の雑貨屋を訪れた時に、リセの隙をついて密かに購入しておいた物だ。ペンダントの材料として使用されているのは一種のパワーストーンと呼ばれる代物で、購入した店に置いてあった説明書きによれば、【厄除けと幸福を呼び込む効果がある】と書かれてあった。
サプライズで用意した物だったが、リセの反応を見た限り、どうやらそれは成功したようである。
「もう・・・・・・いきなりすぎですよ、こんなこと。私はまだ貴方に対して何も返せていないのに・・・・・・。凄く嬉しいです!大切にさせて頂きますね!」
渡したペンダントを両手でぎゅっと握りしめながら、お礼を口にするリセの表情はとても嬉しそうなものだった。
俺はその場でリセに別れを告げると、人気のない場所まで移動する。
クロエから渡されたメモに書かれていたのは、どうやら今日発売する新作ゲームのタイトルだったようだ。
結局あの店で働かせてもゲームばかりやっているのだから、更生としての意味が無いんじゃないのか?――――なんて言えばクロエがどんな顔をするのか大体想像がつく。
【議会】とかなんとか・・・・・・リセが言っていた気がするが――――それに参加するのもしないのも、結局のところはその本人次第だろう。
そんな事を考えながら、俺はクロエからの頼みごとをキッチリと遂行する為、腕に通した【指定の腕輪】を使用して目的地へ向かったのだった。
**********
それにしても――――以前リセから受け取ったこの腕輪を、俺は当然のように扱っているのだが・・・・・・慣れとは恐ろしいものである。
魔法に関する知識が一切ない俺にでも、簡単に扱うことの出来る特別な道具。
リセから聞いた話では、それらの魔道具を使用するに辺り、本来は使用者の魔力を動力として要求されるのだとか。俺は魔法使いではない為、元から魔力なんてものは持っていない。なので代用として魔鉱石と呼ばれる、魔力の塊のような結晶から動力を抽出して、その機能を働かせているのだそうだ。
【指定の腕輪】には紫色の魔鉱石が一つだけ嵌め込まれている。見た目は地面に落ちている石ころに薄く色が付いた程度の違いしかない為、落としてしまった場合は探し出すのが大変そうだ。
何はともあれ、出かけるにしても一切のプランが無かった為、急遽俺が思いついた場所がここである。
観光地として知られるその場所は、海外の異文化交流と居住区としての人気を両立した街で知られている。
比較的安価な値段の、食べ歩きの出来る店が立ち並ぶ中華街。
海外製の雑貨類――――北欧から輸入された手鏡や小物入れなどの女性向けの商品を取り扱う、数多くの個人店。
それらの店が立ち並ぶエリアから更に奥に向かって移動すれば、観光客向けのボートを貸し出す店や豪華客船が寄港する港へと出る。
整備された海沿いに並ぶのは、いくつもの高層ビル。先進的な街らしく整備された区域には、多くの商業施設が集まっている。自然と異国の情緒が残る、若者には人気の街だ。
「悠人さん、これ凄く美味しいです!」
「そうだろ?やっぱり本格的なものは、コンビニのやつとは全然違うな」
俺達はまずはじめに駅前にある中華街へと向かい、そこの店先で店員が売っていた大きなサイズの肉まんを頬張りながら、並んで歩いていたのだが――――、
先程から周囲からの視線をものすごく感じる。正確には俺の隣へと。
それはそうだろう。リセほどの物凄い美少女が、こんな街中で堂々と歩いていたら嫌でも目立つ。
いつもならリセと一緒にいる時は周囲を流れる時間が空間ごと止まっている為、これほどの注目を浴びる事は無い。
「なんだか回りから見られていますね。私たち」
「みんなリセがとても美人だから見ているんだろう」
俺が本心からそう答えると、リセは嬉しそうな表情を浮かべて、
「なら・・・・・・悠人さんも私のことを、そう思ってくれてるんですか?」
と、実に答えにくい質問をしてきた。
恥ずかしながら、俺は年頃の女性に対しての免疫がまるでない。
これまで誰かと付き合った経験もなく、こうしてリセのような異性と肩を並べて歩くのも初めての体験だ。
過去に戻る前の記憶――――社会に出て人並みに苦労し、培ってきた自信や経験が辛うじて俺のプライドを支えてくれてはいた。――――しかし、
そんな俺の様子を見たリセが意地の悪そうな笑みを浮かべて、からかってくる。
「ふふっ、悠人さん。・・・・・・もしかして恥ずかしがっているんですか?可愛いですね♪」
「うっ・・・・・・!」
ああ、何も反論できない。
明らかにこの状況を面白がっているリセによって、俺は完全に弄ばれていた。
*****
そんなやり取りをしながら歩き続けた俺たちは、現在、港付近の公園にまでやって来た。
公園の敷地内を二人で歩きながら、水平線まで広がる海の方向へと視線を向ける。
海上には幾つもの小型船と、ここからでも見て分かる程に大きい――――縦幅が優に二百メートル以上はありそうな、大型のクルーズ船が停泊していた。
その頃には徐々に空が薄暗くなってきており、船から出ている小さな明りが点々と瞬きながら海上に浮かぶ星明かりのように瞬いていた。
「綺麗ですね」
俺の隣でリセが静かにそう呟く。潮風で揺らめく白い髪を掌で押さえながら、海上へと視線を向けるリセの姿はとても綺麗で――――まるで今にもその場から消えて、何処かに消えて行ってしまいそうだ。
「一つ聞いてもいいかな。今日はどうして俺と出かけたいなんて言いだしたんだ?」
「何となくですよ。ただ悠人さんとこうして一緒に何処かに遊びに出かけたかった。・・・・・・それではダメですか?」
俺に対して曖昧な返事を返すリセの表情は、こちら側からは見えなかった。
相変わらず何を考えているのかよく分からない。思えば初めて会った時から、リセには振り回されてばかりだ。
リセに向かって年齢を聞いた事はないが、確実に俺より上だろう。
魔法使いであるリセはあまり自分のことを話さない。いや、話したがらない。
まぁ、まだ俺とリセは出会って間もない為、そこまで根掘り葉掘り聞こうとするのもどうかとは思う。
俺は気まずい雰囲気を振り払うように、頭を軽く左右に振り払いながらリセに提案した。
「そろそろ暗くなってきたし、帰ろうか」
「そうですね。・・・・・・あっ!そういえばクロエから頼まれていたお使いは大丈夫なんですか?」
「・・・・・・」
ヤバい。完全に忘れていた。
リセに教えられてクロエから頼まれた用事を思い出した俺は、慌ててポケットから取り出した携帯電話の画面を確認する。
時刻はつい五分ほど前に十八時になったばかりであり、今からすぐに買いに行けば間に合いそうだ。
「悪いけど、リセは先に店に戻っていてくれないか?」
「分かりました。クロエには適当に私の方から誤魔化しておくので、早く戻ってきてくださいね」
そう言って快く了承してくれたリセに、俺はポケットから小さなペンダントを取り出して手渡した。
青と琥珀が混ざり合った色をしており、開閉式のそのペンダントの蓋を開けると、中には小さな鏡が埋め込まれている。
「・・・・・・これは?」
「プレゼント。まあそんなに高い物じゃないけどね。リセさえよければだけど、今日の記念に受け取って貰えるかな?」
俺からペンダントを受け取ったリセが、驚いた様子で声を上げる。それは北欧系の雑貨屋を訪れた時に、リセの隙をついて密かに購入しておいた物だ。ペンダントの材料として使用されているのは一種のパワーストーンと呼ばれる代物で、購入した店に置いてあった説明書きによれば、【厄除けと幸福を呼び込む効果がある】と書かれてあった。
サプライズで用意した物だったが、リセの反応を見た限り、どうやらそれは成功したようである。
「もう・・・・・・いきなりすぎですよ、こんなこと。私はまだ貴方に対して何も返せていないのに・・・・・・。凄く嬉しいです!大切にさせて頂きますね!」
渡したペンダントを両手でぎゅっと握りしめながら、お礼を口にするリセの表情はとても嬉しそうなものだった。
俺はその場でリセに別れを告げると、人気のない場所まで移動する。
クロエから渡されたメモに書かれていたのは、どうやら今日発売する新作ゲームのタイトルだったようだ。
結局あの店で働かせてもゲームばかりやっているのだから、更生としての意味が無いんじゃないのか?――――なんて言えばクロエがどんな顔をするのか大体想像がつく。
【議会】とかなんとか・・・・・・リセが言っていた気がするが――――それに参加するのもしないのも、結局のところはその本人次第だろう。
そんな事を考えながら、俺はクロエからの頼みごとをキッチリと遂行する為、腕に通した【指定の腕輪】を使用して目的地へ向かったのだった。
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