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第一部 一章 始まりの物語~噴壊包輝世界編~
プロローグ1
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地球ではない、何処か遠い世界で。
空から降り注ぐ光によって照らし出された、生命息づく豊かな自然の海。
終わりが見えないほどに、地平線の彼方まで続く、見渡す限り広がる黄色の絶景。太陽の輝きに最も近い、鮮やかな色で染まった花畑は、温かみを帯びた緩やかな風が吹き抜ける度に、小川の水面のように揺れ動いている。
祝福されたその地には幸福というものがあっても、それに
対極する負の存在というものは、決して無いだろう。それが断言できるほど、この世界は安寧という言葉で満たされていた。
そんな楽園と見紛うであろう光景の、花畑の中心に建っている、一軒の古い家。
それは全体的に横向きに広い造りになっており、建物全体に使用されている木材は永い時を経て経年変化し、色褪せて変色している。よく見てみると、一部には真新しい木材が使われているようであり、誰かが今でも破損箇所の修繕を行っているようだった。
建物内部へと続く出入口。ここから数十キロほど離れた場所にある、森の木々を削り取って作られたのであろう。ゴツゴツとした、厚みがある割には重量の軽い扉を開けて、すぐに見える幅の狭い廊下。その奥にある部屋の窓際で、一人の少女が黒い羽ペンを手に、目の前の羊皮紙に向かって、何やら文字を書き連ねている。
一切の曇りもない、まっさらで白く長い髪。
それと同化するかのように、透き通った少女の肌は、とても現実のものとは思えない美しさだ。
白い妖精。そのように比喩しても、きっと誰もが同じ感想を抱くだろう。少女の容姿は、美しさという枠組みから外れた別のもの。一切穢れの無い純粋な存在。
少女の両の目に宿る色は、左右それぞれが別の色彩を放っている。
右目には、聡明さと知性の象徴。エメラルドグリーンの輝きが。
もう片方の目には、空の色よりも濃く、曇りの無い真実のみを映し出す光。サファイアブルーの輝きが。
二色の瞳が交わる視線の先には、掌サイズの小さな、黒い球体の形をした置物が置かれている。
少女はふと、それまで忙しなく動かしていた、羽ペンを持つ手の動きを唐突に止めた。
それから作業机の脇に置いてあった、その黒い球体に向かって真正面から、語り掛けるようにして言葉を紡ぎ出し始める。
「翻訳機能は問題なく作動しているようだね。一昨日送られてきた、【師匠】からの手紙によれば、みんなが此処へやって来る時間は明日の夕方頃かな?今から記録を始めれば終わるのは昼過ぎか、もしくは・・・・・・・・ギリギリだね。よし!準備も出来ていることだし、早いところ先に用事を済ませておこうか」
世界には無限の可能性が満ちている。
例えばの話だけれど。自分の他には誰もいない、緑溢れる草原の中心に立って、目を閉じたとしよう。
暗闇の中で分かるのは、風の匂い、空から射す暖かな光の熱、地についた足元から感じるであろう大地の胎動。
感覚を伸ばして――――持てるもの全てで世界を感じようとすれば、新たな発見はいくらでも得られるんだ。
普段から傍にあって。でもそれに気づくことなく、普通の人生を終える者がいれば――――その一方で当たり前のことに対して疑問を持ち続け、それに対する答えを求めて途方もないほどの永い時間を。或いは自分自身の生涯を賭けて、果てなき探求を続ける者もいる。
歴史が築いてきた、人類の長い旅路。その道の先頭を先立って歩んできたのは、それぞれの世界と時代を生きる、優れた探求者たち。
彼等が発見して創りあげ、書き記した知識や功績が後世に語り継がれていくことで、世界は常に進化を続けていける。要するに全ての事象や結末は違って見えても、結局のところ最後に行き着く先は皆同じ、ということなんだ。
今からその終着点。収束した道の先。その果てにある、途方もなく分厚い歴史の――――ある1ページを覗いてみよう。
そこに記されている記憶の中には、きっと素晴らしい物語が眠っているはずだから。
*****
空から降り注ぐ光によって照らし出された、生命息づく豊かな自然の海。
終わりが見えないほどに、地平線の彼方まで続く、見渡す限り広がる黄色の絶景。太陽の輝きに最も近い、鮮やかな色で染まった花畑は、温かみを帯びた緩やかな風が吹き抜ける度に、小川の水面のように揺れ動いている。
祝福されたその地には幸福というものがあっても、それに
対極する負の存在というものは、決して無いだろう。それが断言できるほど、この世界は安寧という言葉で満たされていた。
そんな楽園と見紛うであろう光景の、花畑の中心に建っている、一軒の古い家。
それは全体的に横向きに広い造りになっており、建物全体に使用されている木材は永い時を経て経年変化し、色褪せて変色している。よく見てみると、一部には真新しい木材が使われているようであり、誰かが今でも破損箇所の修繕を行っているようだった。
建物内部へと続く出入口。ここから数十キロほど離れた場所にある、森の木々を削り取って作られたのであろう。ゴツゴツとした、厚みがある割には重量の軽い扉を開けて、すぐに見える幅の狭い廊下。その奥にある部屋の窓際で、一人の少女が黒い羽ペンを手に、目の前の羊皮紙に向かって、何やら文字を書き連ねている。
一切の曇りもない、まっさらで白く長い髪。
それと同化するかのように、透き通った少女の肌は、とても現実のものとは思えない美しさだ。
白い妖精。そのように比喩しても、きっと誰もが同じ感想を抱くだろう。少女の容姿は、美しさという枠組みから外れた別のもの。一切穢れの無い純粋な存在。
少女の両の目に宿る色は、左右それぞれが別の色彩を放っている。
右目には、聡明さと知性の象徴。エメラルドグリーンの輝きが。
もう片方の目には、空の色よりも濃く、曇りの無い真実のみを映し出す光。サファイアブルーの輝きが。
二色の瞳が交わる視線の先には、掌サイズの小さな、黒い球体の形をした置物が置かれている。
少女はふと、それまで忙しなく動かしていた、羽ペンを持つ手の動きを唐突に止めた。
それから作業机の脇に置いてあった、その黒い球体に向かって真正面から、語り掛けるようにして言葉を紡ぎ出し始める。
「翻訳機能は問題なく作動しているようだね。一昨日送られてきた、【師匠】からの手紙によれば、みんなが此処へやって来る時間は明日の夕方頃かな?今から記録を始めれば終わるのは昼過ぎか、もしくは・・・・・・・・ギリギリだね。よし!準備も出来ていることだし、早いところ先に用事を済ませておこうか」
世界には無限の可能性が満ちている。
例えばの話だけれど。自分の他には誰もいない、緑溢れる草原の中心に立って、目を閉じたとしよう。
暗闇の中で分かるのは、風の匂い、空から射す暖かな光の熱、地についた足元から感じるであろう大地の胎動。
感覚を伸ばして――――持てるもの全てで世界を感じようとすれば、新たな発見はいくらでも得られるんだ。
普段から傍にあって。でもそれに気づくことなく、普通の人生を終える者がいれば――――その一方で当たり前のことに対して疑問を持ち続け、それに対する答えを求めて途方もないほどの永い時間を。或いは自分自身の生涯を賭けて、果てなき探求を続ける者もいる。
歴史が築いてきた、人類の長い旅路。その道の先頭を先立って歩んできたのは、それぞれの世界と時代を生きる、優れた探求者たち。
彼等が発見して創りあげ、書き記した知識や功績が後世に語り継がれていくことで、世界は常に進化を続けていける。要するに全ての事象や結末は違って見えても、結局のところ最後に行き着く先は皆同じ、ということなんだ。
今からその終着点。収束した道の先。その果てにある、途方もなく分厚い歴史の――――ある1ページを覗いてみよう。
そこに記されている記憶の中には、きっと素晴らしい物語が眠っているはずだから。
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